68話 六人目
「皆さ〜ん!
ルミナスイリアに新しく加わった、
天音ユウカで〜す!よろしくね〜!」
配信画面におっとりとした声が響く。
どこか落ち着く……安心感のある声だ。
動画配信サイトで、新人のユウカさんの様子を見守る。
流れるように長い黒髪に、太腿と胸元が露出した華風の衣装。おっとりした大人のお姉さんといった印象だ。
今度、コラボしましょうね!
配信を眺めながら、せっかくなのでコメントを打ち込む。
「あっ、霧雨レイちゃん〜
よろしくお願いしま〜す。
ぜひぜひコラボしてくださいさ〜い!」
おい、泉! また、新人につばをつけとく気か?
お姉さん属性いいね!
新しいタイプだ
よしよししてほしい
バブみがやばい!
ルミナスイリアもだいぶ有名になったのか、同接が既に1000人を突破した。
当たり障りのない質疑応答で、彼女の配信は終わった。
§
翌朝――屋敷のインターホンが鳴り響く。
「はい、どちらさま?」
みんな、配信中か寝ていたので、やむなく対応する。
「あら〜初めまして〜」
この声……もしかして……。
「……天音ユウカさん?」
長い黒髪でタレ目の綺麗なお姉さん。
30代前半の女性といったところだろうか。
「あ、そうです。あなたは?」
「霧雨レイ……です」
「えっ!? 男の子!」
「そうですよね……初めはそうなりますよね……」
「今日はご挨拶に来ました〜。
固定電話がないとのことだったので、アポ無しでお伺いしてすみません」
「これはこれはご丁寧に……」
彼女に倣い俺も頭を下げる。
「俺は泉海人……よろしくな、後輩!」
「ふふ、私は三ヶ尻結花と申します。頼りにしてますね、先輩!」
独特な大人の女性の魅力を感じる。
§
俺の部屋でお茶とモナカを食べながら、軽く雑談する。
「三ヶ尻さんはどうしてVTuberに?」
「結花でいいですよ。
う〜ん、夫が亡くなって……なんとか、働かなきゃって……」
「これは、立ち入ったことをお聞きしてすみません」
「ふふ、私から話したからいいのよ。
あとあと知られるよりも、先に知っててもらったほうが楽じゃない?」
楽なのか?
「なら、俺もカミングアウトをします……パスタは箸じゃないと……食べれません……」
「……」
一瞬――沈黙が室内を支配する。
「ぷっ、ふふ……泉さんは面白い人ですね。
私があと10歳若かったら、猛アタックしたのに……」
「今からでも、受け付けていますよ!」
「あら〜意外と女性慣れしているのかしら?
確かに、女の子に囲まれて生活しているんでしょ。毎日が楽しくて仕方がないんじゃない?」
「それはもう……っと……今のは冗談で……」
初対面なのに軽い男と思われたくない。
「俺のことも、海人って呼んでください!」
「はい、海人さん。今後ともよろしくね?」
さすが大人の女性……安定感のある会話だな。
ウチには曲者が多いから、どこかほっとする。
ガラッ!
唐突にドアが明け放たれる。
茜ちゃんだ。
彼女は、俺と結花さんの顔を交互に見る。
「あっ……泉がデリヘル呼んでるっ!」
茜ちゃんがそう叫びながら、走っていく。
「こらっ、お前、なんて失礼なことを……」
呼び止めて叱ろうとするが、彼女は走り去ってしまった。
「結花さん、申し訳ございません。
ウチの後輩が……なんという無礼を……」
地面に頭が着くぐらい、深々と土下座する。
「ふふっ、いいんですよ。
海人さんも毎日指名していくださいね!」
結花さんが首を傾げて微笑む。
「ぶっ……」
思わず、吹き出してしまう。
この人、意外とノリがいいんだな。
「はい、毎日この部屋に来てください!」
彼女にそう告げた後――これは、殺気っ!?
慌てて振り向くと――目を見開いた舞ちゃんが立っていた。
「海人くん……大人の女性を指名したんだ。
子どもっぽい、私に対する当てつけ?」
なんか、壮大に勘違いしている。
「海人さん……赤ちゃんプレイが好きみたいですよ〜」
「ちょ……結花さん!」
彼女が悪ノリをし始める。
「ふ〜ん。私だってそれぐらい、やってあげるけど?」
なぜ、舞ちゃんはドヤ顔で、怒りながら張り合っているんだ?
「舞ちゃん、だって充分、大人の魅力があるから」
「年増っていいたいの?」
何を言ってもダメそうだ。
「海人さん。私とするとき、貴方の名前をずっと叫んでましたよ!」
「ちょっと、結花さん、これ以上は掻き回さないでください!
舞ちゃんが一番危険なんですから!」
「私が――一番危険?
海人くん……って実は、いろいろと拗らせているんだ。ふ〜ん」
だめだ、言い訳をすればするほど、墓穴を掘ってしまう。
「舞ちゃんが相手にしてくれなくて……俺……寂しくて……」
こうなったら、最終手段の泣き落としだ。
「海人くん……」
舞ちゃんが俺をそっと抱きしめてくれた。
「あらぁ~」
あらぁ〜じゃないだろ!
まったく、結花さんもとんだ食わせ物だよ。
ガチャ――。
「ガチャ?」
謎の金属音とともに、俺の腕に違和感を感じる。
舞ちゃんが左腕を上げると、俺の右腕も引っ張られるように上がった。
俺と舞ちゃんが手錠で繋がれていた。
「舞ちゃん……?」
「ふふっ、これでいつも一緒だよ……」
やばい、舞ちゃんのことは好きだけど、さすがに手錠生活は無理だ。
てか、なんで手錠なんて持ち歩いているんだよ!
配信にも支障がでるし、トイレやお風呂はどうするんだよ!
「それじゃ〜ごゆっくり〜」
彼女は手を振りながら離れを後にした。
「ゆ、結花さん! 待ってください!」
冷たい手が、俺の首根っこを掴む。
「海人く〜ん。やっぱりあの女がいいの?」
「い、いえ……舞ちゃん一筋です。
舞ちゃん……押し付けないって話はどうなったの?」
彼女の誠実さにつけ込んで、一縷の活路を見出す。
「うっ……お、押し付けてないもん」
「縛り付けているよね?」
「うっ……だって……泉くんが……不安にさせるから……」
舞ちゃんが泣き出してしまった。
「不安にさせて、すまない……」
俺は舞ちゃんを優しく抱きしめた。
「なんすか、この安い昼ドラは……」
離れの渡り廊下に岬が、頭を掻きながら立っていた。
「ははは……岬、助けてくれ!」
「嫌っすよ。舞先輩、怖いですし」
「岬……俺は、岬のことを信じている……お前なら俺を救ってくれるよな?」
「海人くん……私の目の前で……他の人を誘惑しているんですか?」
「ぐっ……」
俺を抱きしめる舞ちゃんの手に力がこもる、
彼女の爪が背中に突き刺さる。
「泉先輩、自業自得っすよ……みんなには離れに近づかないように言っとくっす!」
岬はそれだけ言い残すと、離れの扉が締め切られた。
§
その後、夜遅くまで――屋敷の離れから断末魔が響き渡る。




