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元プロゲーマー、VRで銃が当たらないので投げナイフだけで無双します。  作者: 那須 儒一
四章 ジャパンリーグ編

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67話 ビアガーデン

8月中旬――俺がVTuberに転生して一年と少し……毎日が目まぐるしい速度で過ぎていった。


ルミナスイリアとアストラの事務所の庭で、

浅場さん主催のビアガーデンが開催された。


長机が並べられ、その上には鉄板と肉が用意されていた。


「え〜、皆さんのおかげで我が社の経営も右肩上がりです!

ルミナスイリアにも新たに新人が入ってきますので……今後ともますますの発展を願って乾杯!」


「「乾杯!」」

「「KP(けーぴー)」」


ビールの注がれたプラコップを互いに交わす。


ルミナスイリアに新人か……NF(ネオンフラグ)をするには一人あぶれるけど、まあ、フルパなんて滅多にしないからな。


「泉〜!」


「うおっ!」

背後からいきなり誰かが飛びついてきた。

危うくビールをこぼしそうになる。


「キミは……くるみちゃんだっけ?」


確か……ぶいこれくと所属のVTuber――甘噛あまがみシュガー。他の箱だけど、イベントや大会の実況で何度かお世話になった。


「泉〜! くるみがお酌してあげる!」

黒髪にピンクのメッシュ……Vモデルとまんま見た目をしている。


彼女に煽られ、ビールを飲み干す。


くるみちゃんは、ぎこちない手でビールを注ぐ。


「あれ……くるみちゃんって、いくつだっけ?」


「二十歳……いや、永遠の十四歳だよ!」


「……そういう設定ね」


「そうですね。くるみ先輩はおこちゃまですから」


薄緑の髪を揺らしながら、丸眼鏡の女性が近寄ってきた。


「あっ、春香はるか……今、泉とデート中だから、お前はあっちに行ってろ!」


「あらあら、反抗期ですか?

くるみ先輩は相変わらず可愛いでちゅね。

よちよち」


春香ちゃんはそう言って、くるみちゃんの頭を撫でる。


「むっきー、子ども扱いすんな!」

くるみちゃんは、春香ちゃんの手を払いのける。


この二人……仲が良いんだか、悪いんだか。


「泉さん、お肉焼けているんじゃないですか?」

春香さんが器用に箸で、肉を摘む。


タレにくぐらせた肉を俺の口元へ持ってくる。

「はい、あーん!」


軽薄な行動はダメだ……頭ではそう理解しつつも、肉と美女の誘惑には、逆らえなかった。

「あむっ! ん、うまい!」


「あっー! 春香ちゃんだけ、ずるい!

くるみもやる!」


ぎこちなく、くるみちゃんは箸で肉を挟む。

彼女が俺の口元に箸を持ってきたところで――ドンッ!


くるみちゃんの腕に、春香ちゃんの体がぶつかる。


たまらず、くるみちゃんはお肉をテーブルの上に落とした。


「あっ、ごめんなさ〜い。つまずいちゃった。

私って――ドジ」


わかった。この子はわざとやっているんだ。

しかも、自分が可愛く見えるよう、あざとい演出までつけ足している。


この前、会った時はこんな感じじゃなかったんだけど……。


「うっ……ううっ……うわぁぁぁん」

くるみちゃんが泣き出した。


俺は、軽く頭を撫でてやる。


「ほら、これ食べて元気出せよ」

今度は俺が、くるみちゃんの口元に肉を持って行く。


くるみちゃんは涙を拭い、口を開けた。


――パクっ!


……春香ちゃんが、くるみちゃんの目の前で肉を掻っ攫っていった。


「ん、おいしい〜。泉さんが、焼いたお肉……特においしく感じるわ♡」


……この子、楓と同じ匂いがするな。


「うわぁぁぁん! 春香のバカ〜!」

さらに、くるみちゃんが泣き叫ぶ。


「泉先輩……また女の子を泣かせてるんすか?」


ビールを持ったみさきが近づいてきた。


「またってなんだよ……」

いや、またか?


「泉……くるみを慰めて……」

彼女は甘えるように俺の膝に座った。


「相変わらず、お前の周りは賑やかだな」


今度は、みつるがワイン片手に歩いてきた。


「なんで、お前……ワイングラスなんて、持ってんだよ」


「自前だ。ワインを楽しむにはグラス選びが大事だからな」


どこの貴族だよ……なんか、イメージ通りなのが、逆に腹が立つ。


「あっ、片桐かたぎりさ〜ん。私にもワイン、一口いただけませんか?」

春香が今度は充に擦り寄る。


「向こうのテーブルに、置いてある……」

充は相変わらずの塩対応だ。


「私……ワイングラスでも飲んでみたくって……」

春香は充に体を寄せると、彼の胸を人差し指でなぞる。


この子、なかなか強かだ。


「あら、ごめんなさい!」

充と春香の間に割り込むように、詩音しおんが間に入る。


「あっ、なによ……」

春香が詩音を睨む。


なんか、厄介事に巻き込まれそうだ。


「泉! これ、うまいぞ!」

くるみちゃんが俺の膝の上で、焼いた人参を頬張っている。


周囲がドロドロの愛憎劇を繰り広げているせいか、この子が可愛く見えた。


離れたとこから、茜ちゃんが歩いてきた。


やばい、茜ちゃんとくるみちゃんは、

前回の打ち上げの時、俺の膝の上を争って喧嘩したんだ。


茜ちゃんが、なにやらくるみちゃんに耳打ちする。


「デザート!」

くるみちゃんは、俺の膝の上から降りて、どこかへ走っていった。


「ふっ……チョロいな……」

茜ちゃんが不敵な笑みをこぼす。


「おい、茜ちゃん。なんか、くるみちゃんがいると、キャラが違わないか?」


「うん……あの子は私の宿敵だから……」


たぶん、俺の膝の上を争う、好敵手って意味だろう。


ふと、視線の先でまいちゃんが机に突っ伏していた。

隣で、かえでが背中を擦っている。


「茜ちゃん……ごめんね」

それだけ告げて、彼女を膝の上から降ろした。


「泉……少し、話せるか?」


今度は由里ゆりが声をかけてきた。


「また、の機会でいいかな……ほっとけないから」


俺は、それだけ言い残し、舞ちゃんの元へ歩く。


「あ……待って……」

由里に袖を掴まれた気がした……でも、俺は振り向かなかった。


「楓、舞ちゃん酔っているの?」


「あー、うん。まあ、海人くんのせいだけどね」


「え、俺?」


「また、女の子に囲まれているって、やけ酒してたよ……」


「ははは……はぁ、先に舞ちゃんを連れて帰るよ」


「あらぁ〜お持ち帰り?」


「お持ち帰りもなにも、同じ屋敷に住んでいるだろう」


「送り狼にならないようにね♪」


楓が茶化す中、舞ちゃんをおぶる。


§


しばらく、歩くとようやく屋敷が見えてきた。


ふぅ〜汗だくだ。

こんなことならタクシーで帰ればよかった。


今更ながら、後悔が容赦ない日差しとともに襲ってくる。


――背中に背負う彼女の熱気が、俺の体を濡らした。


舞ちゃんの部屋に帰り着くと、冷房をガンガンに効かせて布団に寝かせる。


舞ちゃんの服が汗で濡れていた。

このままじゃ……さすがに風邪を引くよな。


でも、さすがに異性の俺が脱がすわけにはいかやいよな。


「っん……寒い……」

汗が冷えたのだろう、彼女は寝言のようにつぶやく。


ん……?

まぶたがかすかに震えている。


「おい……舞ちゃん、起きてるだろ……」


舞ちゃんが頬を紅潮させながら、まぶたを開けた。


「ははは、バレちゃったか」


「俺が、あのまま服を脱がせたらどうしてたんだよ」


「……それを期待してたんだけどなぁ……」


「えっ!?」

いや、清楚な彼女がそんなこと言うはずない。

俺の聞き間違いだ。


「もう、着替えるから出ていって!」

舞ちゃんがなぜか怒っていた。


とりあえずシャワーを浴びてきた。


舞ちゃんのことが心配になって、彼女の部屋をノックした。


「……」

返事は返ってこない。


「……入るよ?」


部屋の明かりは消えていた。

締め切られたカーテンから、容赦ない真夏の日差しが漏れている。


「お水……持ってきたよ」


「海人くん……起きれない……飲ませて」


「なんか、くるみちゃんみたいなこと、言ってるな……」


「他の女の子の名前は出さないで……」


酔っているせいか、いつもより情緒が不安定だった。


舞ちゃんの頭を支え、コップの口を当て、水を飲ませる。


「海人くん……寒い……」


「冷房の温度、上げようか?」


俺がエアコンのリモコンを操作していると、舞ちゃんの手が俺を布団の中に引っ張る。


「……察しが悪いんだから」


「……ごめん」

俺は悪くない気もするが、なんとなく謝った。


「私だけを見て……」


彼女はそれだけ言って、寝息を立て始めた。


頼りになるのに、ときどき不安定で、引っ込み思案かと思えば、積極的になる。


そんな彼女に、少しだけ、俺の心が揺さぶられている気がした。


今だけは、舞ちゃんの寝顔だけを見つめて、俺も微睡みの中に落ちる。

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