表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元プロゲーマー、VRで銃が当たらないので投げナイフだけで無双します。  作者: 那須 儒一
四章 ジャパンリーグ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/79

63話 初夏の夜

夏が降る夜――離れの扉がノックされる。


「どうした、岬?」

そこにはパジャマ姿の岬が、もじもじしながら立っていた。


「泉先輩……ウチ……もう、我慢できないっす」


「えっ……岬、そんなこと急に言われても……こ、心の準備が……」


「お願いします……もう……ダメっす……」


岬は半ば強引に押し切るかたちで俺の部屋に入った。


――そして、トイレに駆け込んだ。


「い、泉先輩……少し離れてほしいっす」


「へいへい」

いろいろと、変な方向に想像してしまった自分が恥ずかしい。


「あっ、あんまり遠くに行かないでほしいっす……こ、怖いから……」


「へいへい」


ったく、百物語を企画した俺が悪いとはいえ、

成人した大人が、怖くて廊下の突き当たりのトイレまで行けないとは……。


しばらくすると、岬が恥ずかしそうに出てきた。

「泉先輩……ありがとうっす」


「いえいえ、てか、岬ってトイレするのな……」


「なっ!? ウチのことアイドルか何かと勘違いしてないっすか?」


「冗談だよ。それに、アイドルもトイレするだろ」


「それもそうっすね……」


「少しは、怖くなくなったか?」


「あ、そういうことっすね。

わざと気を紛らわせてくれたんっすね。

……泉先輩、しばらくここにいていいっすか?」


「えっ……まぁ、俺は構わないけど……」


「一人じゃ当分寝れそうにないっす……

また、トイレに行きたくなったらここに来ないといけないし……」


「でも、布団は一枚しかないぞ?

俺が岬の部屋で寝ようか?」


「ダメっす……結局、一人になったら怖いっすよ!

ウチが、女中に呪われたらどうするんすか!」


……さっきの茜ちゃんの怪談話か……確かに怖かったけど……岬は、もしかして信じているのか?


岬は涙目で、体を震わせている。


「はぁ〜わかったよ。俺は、畳の上で寝るから……岬が布団を使いな」


「えっ……」

離れて寝ようとしたところで、ジャージの裾を掴まれる。


「寝るまで……いてほしいっす」


「わかったよ」

岬の頭を軽く撫でる。


古い離れには不釣り合いな最新式のエアコンの温度を少し下げ――同じ布団に入る。

電灯を消すと、一気に闇が襲ってくる。


「泉先輩、けっこう女性慣れしてるっすね」


「……そうか?

不思議と岬だと、何も感じないんだよな」


「ケンカ売ってるんすか?

それ、ウチが女に見えないって?」


岬が狭い布団の中で、俺の足を軽く蹴る。


「冗談だって、五十メートル離れて見たら、

ちゃんと女性に見えるよ」


「……はっ!?

それ、近くじゃ女に見えないってことっすよね!」


岬は少し遅れて、今度は俺の胸を殴り出す。


「はは、悪かったって」

岬の両腕を掴んで、攻撃を阻止する。


「泉先輩……意外と手が大きいんすね……」


「ああ、バスケットボールぐらいなら片手で掴めるぞ!」


「アイアンクローもお手のものっすね!」


「アイアンクロー?」


「片手で顔を掴むプロレス技っす!」


「なるほど……こうか?」


「ふぎゅっ!?」


岬のほっぺたを片手で挟む。

彼女の唇がひよこ口みたいに尖る。


「ははは、この方が可愛いよ」


「むぎゃっ! やめるっすよ!

パワハラっす、セクハラっす!」


「ごめんごめん、岬って可愛いから、ついついからかいたくなるんだよね」


「……えっ」

岬が固まる。


さっきまで騒がしかった彼女が、急に静かになった。


「泉先輩……ありがとうっす……おかげで怖くなくなったっす」


「なら、部屋に戻れるな」


「これ以上は、いじめないでほしいっす……」

――岬は、額を俺の胸に預けた。


彼女の金髪がかすかに濡れていた。


ついつい頭を撫でてしまう。


一瞬、岬の体が震えたが、すぐに俺の手を受け入れた。


「泉先輩……好きっす……」

消え入るように岬の声が落ちる。


「えっ!」

聞き返したが……彼女は既に寝息をたてていた。


「好き……か」


解けない感情とともに、俺も目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ