61話 百物語 上
「皆さん、こんばんは〜!
今日は、夏にちなんだ企画をしま〜す!」
いつも通り、ボイチェンで霧雨レイを演じる。
ばんわ〜
久々の五人でコラボ!
スイカ割りに一票
今、真夜中だぞ?
さすがにスイカ割りはしないだろ!
ルミナスイリアのみんな可愛くて、みんな好きです!
一呼吸置いて、ムラサキがどんよりとした声で囁く。
「皆さ〜ん、部屋の明かりを消してくださ〜い。
今宵は泣く子も黙る――百物語を行いま〜す」
「なんですか、泣く子も黙るって。怖い話なんてしたら、いっそう泣きません?」
アカリちゃんが正論をムラサキに突きつける。
「ウチ……怖いの本当に苦手なんだけど……」
キララの声が震えている。
「ギャルなのに?」
「ユキノちゃん、ギャルは関係ないっしょ!」
配信の温度が暖かく感じる。
家族感というか……いや、少し違うな。実家みたいな安心感だ。
「寺生まれ、霊感持ちの、わたくしムラサキが、本日の進行を務めさせていただきます……」
ムラサキはそこまで話すと、一呼吸置く。
「今回は、私たち五人で一人一つずつ、怪談話をします。みんなの投票で、最も怖かった人には優勝賞品が――そして、最下位の人には罰ゲームをしてもらいま〜す!
――パチパチパチ〜」
「それでは、まずはムラサキから話すね!」
「――あの日もこんな雨の日だった。
私たちの住んでいたアパートって築六十年ぐらいのボロアパートなの」
「お互いの生活音すら聞こえるほど壁が薄いんだけど……配信終わりに何気なくスマホをいじっていたの……コツン……錆びた金属音が鳴り響いた」
「初めはそんな音、気にしていなかったけど、翌日――コツン、コツン……午前三時……音は毎日決まった時間に鳴り響く」
「コツン、コツン、コツン」
「コツン、コツン、コツン、コツン」
「音が、一つずつ、同じ時間に大きくなっているの……」
「ムラサキは、アパートの一階に住んでいるんだけど……ある日、意を決して外に出たの……すると、午前三時……いつものように、コツン……コツンと音が鳴り響いた。出どころは私の頭上にある……階段だった」
キララの悲鳴を無視して、ムラサキは容赦なく続ける。
「その時、私はようやく気づいたの……誰かが階段を降りてきているんだって……毎日一段ずつ、確実にこちらに近づいている……コツン……そして、音が止まった……階段の隙間から……赤いハイヒールが……」
ひぇっ
ガチ怖じゃん!
もう無理……トイレ行けない!
いきなり本命かよ
「その時――ムラサキ、思ったの……階段の怪談だって……」
「……えっ!?」
思わず声が漏れる。
「おあとがよろしいようで……」
ムラサキがダメ押しで付け加える。
ダジャレかよ……
最悪のオチw
ある意味、背筋が凍った
全部台無しだよ!
コメントが俺の言いたいことを全て代弁してくれていた。
「ムラサキちゃん、怖かったねぇ!
次は私の番だね……」
アカリちゃんが雑に引き継ぐ。
「私、この前、一人で焼肉屋行ったの……」
一人焼肉、すごい!
焼肉屋の怖い話?
友達いないのかよ
レイちゃん、一緒に行ってあげて
あっ? なら、俺が一緒に行くし
リスナーの言う通り、
俺も、一人焼肉屋は無理だな。
「上ハラミ、上ホルモン、特上カルビ、タン――私は欲望の赴くままに肉を貪った……」
ごくっ……今度は違った意味で誰かが生唾を飲み込む……いや、俺の喉だったのかもしれない。
「一通り食べ尽くしたあと……私、お会計に並んだの……すると、あることに気づいたの……」
アカリの声が震えていた。
「お財布……忘れちゃった……」
いや、別の意味で怖い話!
確かにそれは怖いわ
だから、俺と行けばよかったのに
wwww
「ははは……確かに怖いっすね。
次は、ウチの番っすね!」
キララに怖い話は無理だろ。
「ウチ、見た目が派手だったから、高校生だった頃――ガラの悪い先輩に目をつけられててさ。
何度も言い寄られていたんだよね」
もう怖い。
確かに怖い。
ここからどうなる?
キララちゃんは俺が守る!
「……」
えらく溜めるな?
「……」
キララは、まだ続きを話さない。
「キララ? 大丈夫か?」
「えっ……何がっすか?」
「続きは?」
「これで終わりっす!」
「あはは、確かに怖いねぇ〜」
ムラサキの乾いた笑いが響く。
「……次……私」
ここまで一言も発していなかった、ユキノちゃんが口を開く。
「私……こう見えて名家の生まれで……
今住んでいる実家の屋敷……明治時代に建てられた家なの……」
ユキノちゃんが怪談話を喋れている。
それだけで、驚きだった。
「私の大祖父から……聞いた話なんだけど……
この屋敷に……住み込みで働いていた……女中さんが……身寄りのない人で……大祖父の叔父が目をかけていたらしいの……」
「その女中さんは……大祖父が言うには……叔父と不倫していたらしく……恋仲だった……」
「でも……そんなある日、その女中さんは……不治の病に倒れた……叔父は……その女中を屋敷の奥に押しやり……最低限の面倒しか見なかった……ほどなく……その女中さんは……亡くなった……」
「後から発覚したらしいんだけど……その女中さんのお腹の中には……赤ちゃんがいたらしいの……今でも、どこかの部屋から……泣き声が聞こえたり……廊下を何かが這いずる音……襖を引っ掻く音が聞こえてくる……」
「お〜!」
ユキノちゃんがそこまで話し終えると、ムラサキが嬉々として手を叩く。
「なんで、嬉しそうなんだよ!」
「ウチ……もう、トイレに行けないっす……」
確かに、俺たち……今、その屋敷に住んでいるんだよな……怖すぎだろ。
「私も……怖い……レイちゃん……一緒に寝て……」
「やめてくれ、アカリちゃん。俺を炎上させないでくれ!」
さて、トリは俺だな。
――姿勢を正して、口を開く。
「これは……俺がプロゲーマーだった頃の話だ……」




