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元プロゲーマー、VRで銃が当たらないので投げナイフだけで無双します。  作者: 那須 儒一
四章 ジャパンリーグ編

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57話 マネージャー

桃先輩――いや、桃園ももぞのさんがルミナスイリアのマネージャーになってはや三ヶ月――最近、ちょくちょく連絡アプリにメッセージが届くようになった。


『泉くん、茜ちゃんって、時間にルーズな子なのかなあ?』

『楓ちゃんのセンシティブな発言、指摘してもなかなかなおらないんだよね』

『舞ちゃんは精神的にどうかな?

落ち着いている?』

『岬ちゃん、初案件で少し緊張しているから、

泉くんも様子見ててくれる?』

『泉くん、この前のNF杯から登録者20万人まで伸びたね。おめでとう。案件がいくつか重なっているから直接、確認していい?』


§


翌日――桃園さんと事務所で打ち合わせを行う。

「――今日、時間取れてよかったあ〜。

さっき、話した内容で擦り合わせさせていただきますね」


新調したスーツは既によれていて、髪も少し乱れている。

「最近、メンバーの登録者が一気に伸びているから、大変ですよね?」


「そうなのよ……なんか、私に務まるか不安になってきたのよね」


「大丈夫ですよ。みんな、桃園さんを頼りにしているんですから」


「ありがと〜。むしろ私がみんなのメンケアしないといけないのに……」


「桃園さん。もうすぐ上がりですよね。

この後、予定が空いてましたら、久しぶりにデートに行きません?」


「で、デート!?

泉くん、マネージャーとの恋愛はダメなんだよ!」 


「なら、俺のメンケアの仕事として付き合ってください」


「泉くん、職務にかこつけて女の子をご飯に誘うのはハラスメントだぞ!」


「そうですね。嫌ならいいんですけど」


「く……嫌なわけないじゃん」

桃園さんが小声で何かつぶやく。


「えっ、なんて言いました?」


「喜んで行くわよっ!」


この人の情緒、どうなっているんだか。


「あっ、私今日、車じゃないんだけど……」


「俺、車できましたんで大丈夫ですよ。

前に回していますので、残りの仕事、ゆっくりしていてください」


車を駐車場に回すと、既に彼女が待っていた。


「おまたせ」

助手席を開け座るように促す。


「泉くん……この車って、Mazda CX-5?」


「楓に選んでもらったから、俺はよく知らないんだよね。俺、車とか興味ないし」


「泉くんがどんどん遠くなっていく気がする」


「何言ってるんですか、ここにいますよ?」


「そういうことを言ってるんじゃありません!」


なんか、今日の桃園さんはいつも以上に情緒不安定だな。


§


しばらく二人で海辺をドライブする。

「この先に海鮮丼が名物の店があるんですよね!」


「ええっ! もしかして、浦松会館?」


「さすが地元民、有名ですからね」


「ちょっと、離れているから行ったことなかったんだよね! やった〜!」


「ふっ」


「ちょっと、なによ……その、子どもを見て微笑む保護者のような顔は……」


「いや、桃園さんはやっぱり、笑ってたほうが可愛いなと思って」


「こ、こいつは……またそんな爆弾発言を……」


「うまく言えないんですけど、桃園さんが笑っていると、落ち着くんですよね。

こっちまで元気になるというか……」


「なに? プロポーズ?」


「なんでそうなるんですか……」


「泉くんはそうやって、いろんな女の子に唾をつけて、キープしているからねぇ」

桃園さんがニヒルな笑みで俺を見る。


「それだけ聞いたら、俺――最低じゃないですか」


「最低で、クズ男でしょ」


「桃園さん――メンケアどころか、俺のメンタル潰しにかかってますよ!」


「余計なトラブルを生まないようにという、私からの教えよ」


「ふっ」

「ふふふ」


車内に、二人の笑い声が重なる。


桃園さんとのやり取りが一番落ち着く。

自然体で過ごせるからなのか……なんでかはわからなかった。


§


海岸線沿いを進むと旅館のような佇まいの日本家屋が見えてきた。


車を駐車場に停め、“松浦会館”と書かれた看板の下をくぐる。


「へぇ~、海が望めるんだぁ〜」


「腹減った。海より海鮮丼だ!」


「もう、泉くんってば、相変わらずロマンの欠片もないわね」


「ロマンなんて、桃園さんから一番遠い言葉じゃないですか」


「あっ、言ったわね。

私だって夜景デートとか、憧れるんだからね!」


「水葉……海よりも……君の方が美しいよ……」


「えっ! ドキッ!」

桃園さんはわざとらしく胸を押さえる。


「はは、ドキッて効果音を自分で入れる女の子は、ちょっと可愛くないなあ」


「別にいいもん。どうせ、可愛くないから」


「桃園さんの魅力は可愛さでは測れないから」


「それ、なんか馬鹿にしてない?」


「ほら、ここ閉店が早いんで、先に頼みましょ!」


「ええ〜! 何にしようかなあ。

海鮮丼も食べたいし……ああ、鉄火丼も食べたい」


「なら、俺が鉄火丼頼むから、互いに半分こしようよ」


「えっ、いいの!」


桃園さんは変に子どもっぽいところがある。

そこがまた可愛いんだけど。


「俺、お茶とってくるよ!」


注文を終え、セルフサービスのお茶を汲む。


海を眺める彼女の横顔が、少しだけ大人っぽく見えた。


テーブルの上に海鮮丼と鉄火丼が並べられる。


「うわぁ、美味しそう! いただきます!」


海老、鯛、マグロ、サーモン、敷き詰められた海の幸の真ん中に山盛りのわさびが乗っていた。


彼女はそれを崩しながら、魚と一緒に頬張る。


「うん! おいしいっ……んっ!?」

桃園さんは突然悶え苦しみだした。


「ああ、わさびね……ここの、わさび辛いから気をつけて……って、もう遅いか……」


「遅いわよ〜」


彼女は泣きながら、お茶を流し込む。


互いに丼を交換しながら食べる。

噛んだ歯が押し返される。身の弾力がすごい。

こういうのを活きが良いっていうんだろうな。


§


あっという間に時間は過ぎ、食後に二人で海岸に座り込む。

――夜空に彼女の横顔が溶けてゆく。


「泉くん……今日はありがとう。

気を遣ってくれて……」


「ん、なんのことです?」


「私のリフレッシュに付き合ってくれて……」


「桃園さん……俺が、コンビニに勤めだした当初覚えてます?」


「はっきり覚えているわよ!

暗い子が入ってきたって」


あの時は、炎上直後だったからな。


「桃園さんは、俺をご飯に連れて行ってくれて、よく声をかけてくれた。

俺が、ここまでやってこれたのも桃園さんのおかげですから」


俺を救ったのは、舞ちゃんだ。

でも、俺が壊れないように繋ぎ止めてくれたのは桃園先輩だった。


「いいんだよ。私は君の生涯のマネージャーだからね!」


「なんですかそれ……

それこそ、プロポーズじゃないんですか?」


「泉くんは私が告白したらどうする?」


「変な質問しないでくださいよ……」


告白――俺は、桃園さんをどう思っている。

舞ちゃんをどう思っている?


一緒にいて楽しいし、そばにもいてほしい。

でも、好きって何なんだろう。

友達の好きと恋人の好き――何が違うんだ?


彼女でも、友達でも――一緒にいられればそれでよかった。


「やっぱり困るよね……」


「VTuberとそのマネージャーだからなあ」


「私が辞めたら大丈夫?」


「うーん……」


そんなこと真剣に考えたことはなかった。


「桃園さんが辞めたら困ります。

ずっとそばにいてください!」


「やっぱり泉くんはずるいね……

私を解放してくれないんだね……」


「ええ、逃がしませんよ!

なんせ、赤い死神ですから」


「妙に説得力があるのがねえ〜」


桃園さんが少しだけ距離を詰める。


肩が触れるほどではない。


でも、彼女の足先がほんの少しだけ俺の膝に触れた。


――いつかは、僕らの関係に答えが出るのだろうか……。

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