表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元プロゲーマー、VRで銃が当たらないので投げナイフだけで無双します。  作者: 那須 儒一
三章 NF杯編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/79

56話 打ち上げ②

「いつぶりだろうか……」

昔、行きつけだった居酒屋で残っていたキープの芋焼酎をグラス注ぐ。


焼酎瓶には白いマジックで“いずみ・ゆり”と汚い字で書かれていた。


今頃、他のメンバーは泉の家で打ち上げか……私も行きたかったな。

でも、知らない人も多いし……。


「なになに、由里ちゃん、失恋したような顔して……」


「おやじさん……それ、今の時代、セクハラになりますよ……」


「ははは、生きづらい時代になったもんだねえ。

これ、お詫びにこれ食べな……」


カウンターの前に、出汁巻き玉子が出された。

半熟の玉子から湯気が立ち上り、大根おろしが添えられていた。


失恋したような顔……か。

どんな顔だと自嘲気味に笑う。


「お嬢さん……隣いいかい?」

背後から男の声がする。


「やめてくれ。今、そんな気分じゃないんだ……」


「なら、どんな気分なんだ?」


なんだ、こいつは……しつこいやつだ……。


「一人になりたいんだ……って泉?」

振り向くと彼がいた。


「お前、打ち上げはどうした?」


「なんか、騒がしくなったから一人で飲み直しに来たんだけど……そしたら、由里ゆりがいたから」


「そうか……」

どうして、運命は今さら私たちを巡り合わせたのだろうか。――もう、何もかもが遅いというのに。


……なんて、柄にもないか。


「NF杯――優勝したのが、今でも信じられないよ」


泉の手は震えていた。

泉も充も、なんだかんだNF(ネオンフラグ)に囚われている……いや、私も同じか。


「……そうだな」

私には何も残っていない――空虚な人生だ。


空になった、グラスの氷が音を立てる。


「てか、その焼酎瓶……二人で入れたキープじゃん! 二、三年前だろ? よく残っていたな」


「懐かしいだろ?

一本キープしようと思ったら、おやじさんが奥からだしてきてくれてな」


「なら、俺もいただいても?」


「ああ、勿論だ……」


氷と水と焼酎を入れ、マドラーでかき混ぜる。


「……」

――沈黙が続く。

あの頃は、話題を考えることなく自然に話せていたのにな……。


共通の話題か……。

私たちを繋いでいるのは、結局NFしかない。


「由里……大丈夫か?

浮かない顔しているな……」


「泉……昔と比べて、丸くなったな。

昔のお前は切羽詰まっていて、余裕がなかった」


「ははは、由里の方こそ昔はよく笑ってたのにな。

お前の笑顔が、好きだったんだぜ」


「相変わらず歯の浮くようなセリフを……そういうところは昔と変わらないな。

私が笑えなくなったのは……泉がいなくなったからだろうな」


「それなら、今はいるだろ? 笑いなさい!」


「ふっ……」

こうして話していると、少しだけ昔に戻ったみたいだ。


「泉……」

彼の手に手を伸ばす。


細くて女みたいな手だ……でも、温かい。


「やっぱり、アストラに戻る気はないのか?

浅場さんだって、今の泉を見たら、また加入させてくれるはず……私も口添えするから!」


彼の横顔を見て、答えはわかった。


「由里……知っているだろうが、俺はVRについていけなくて……一度、時代に取り残された」


「……ああ」

泉は苦しんでいた。

音信不通になり、住む場所も変えた……。


私は彼に置いていかれた。

彼にとって私はそれまでの人間だったのだろう。


「俺……犬柴アカリ……いや、加藤舞ちゃんに救われたんだ」


ズキンっ……。

胸の奥に、鋭いナイフが突き立てられたように痛む。


彼は私のことなんて見ていない。


「だから、俺はルミナスイリアで頑張るよ!

今さら、NF(ネオンフラグ)で世界を獲りたいとも思わないし……ただ、平穏に暮らせれば……」


私はまた置いていかれるのか……。

彼は私の手の届かないところまで……行ってしまったんだな。


「……」

出るな! 止まれ! 止まってくれ!


どれだけ、目元を押さえても、溢れる涙を止められなかった。


「由里……」

彼が私の手を優しく握り返した。


「一人にしてごめんな。

……もう、離さないから」


彼は私の手を強く握りしめた。


――彼はヒドい男だ。

私は選ばれない。いつかは、置いていかれる。

それでも――彼の温もりを突き放すことはできなかった。

三章はこれにて終了です。

哀愁漂うシーンが多いので、好みは分かれるかと思いますが、面白かったらブックマークだけでもしていただければ、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ