51話 NF杯③
静かな一室で、キャンディーを口の中でコロコロ転がす音だけが響く。
深夜――一人の女性が真っ暗な部屋で、スマホの画面を眺めていた。
鳴動する画面には“充先輩♡”の文字が光っていた。
「……充先輩……出てくれるかな……」
スマホを持つ手が震える。
「どうした、詩音……」
彼の低音が、私の体を揺らす。
「……充先輩、明日――私のチームとの対戦ですね……」
「あ、ああ……そういえばそうだったな」
彼はさして興味はなさげだった。
「……」
私が無言になっても、彼は構わず続けた。
「決勝――に泉たちが上がったらしいぞ!
それに、グレイシャル使いの白雪ユキノが……どれだけ強くなったか楽しみだ……」
彼は私なんて見ていない。
……見えていないんだ。
「充先輩……私……」
「どうした、詩音?」
「いいえ……なんでもありません」
「そうか……明日は互いに頑張ろうな」
「はい……」
彼は当たり障りのない言葉で通話を切った。
――試合直前、昨日の出来事が、脳裏をよぎる。
……私を見て……充先輩……私を……。
充先輩に勝つ!
そんで、決勝戦で充先輩が気にかけている、
泉先輩と白雪ユキノを叩き潰す!
――試合開始
§
対戦カード
チーム:ミツルLOVE♡ズ
♡二宮詩音(シガー)
♡羽袖キララ(ブレイカー)
♡犬柴アカリ(セラ)
♡コマゾウ(グリント)
♡鳴神リュウガ(ストーカー)
VS
チーム:あんかけ焼きそば
♠片桐充
♠神宮寺ムラサキ
♠ワルキューレ斎藤
♠町娘メルル
♠花咲リルハ
マップ︰セクター9
四階建て――加えて地下一階があるビル内のマップ。一階から三階にA/B/Cサイトが設けられている。
各階自体は見渡せるほど狭いが、階数が多いため、読み合い必須。
南北にエレベーター、一基ずつと東西に幅の階段が一つずつ設けられている。
両チームとも二階スタートとなる。
「防衛側ね。みんな――充先輩なら、開幕、二階を詰めてくる。スナイパーの射線に気をつけて!」
「「了解!」」
チーム全体の返事とともに、全員で走り出す。
アビリティ︰サイドストリーム
私は煙草を二本投げ、正面と敵陣にスモークを張った。
――ドンッ!
重低音とともに閃光が走る。
「うげっ、スナイパーっ! モク抜きかよ!」
コマゾウが青い光となって落ちた。
4VS5
アビリティ︰スキャンボール
「みんな、全員正面にいるよ!」
鳴神さんが叫ぶ。
「見えてるっすよ!」
ウルト︰アースクエイク
羽袖キララがスキャンだよりに、正面に詰め寄り、
トールハンマーで敵陣につっこむ。
「キララちゃん、危ない!」
私の声と同時に、敵のスキャンが通る
――直後、ドンッ!
飛びかかるキララの頭が撃ち抜かれる。
3VS5
パッシブ︰ヘビースモーカー
私は漂う煙を吸い、機動力を底上げする。
「私が横から押さえる!
アカリちゃんと鳴神さんも挟んで!
どのみちここで退避したら、ボム作動まで通されて負けるから!」
「一人落ちても、充先輩は確実に仕留めて!
彼は、至近距離でも当ててくるスナイパーだから!」
「「了解!」」
「フラッシュ!」
鳴神さんの警告が飛ぶが、視界が真っ白に染まる。
視界が戻る頃には全滅していた。
0ー1
さっそく1ラウンド取られた。
「私が……私が倒さなきゃ!
充先輩を……私が勝つんだ!」
そう思えば思うほど――空回りして勝てなくなった。
§
0ー5
昨晩、あれだけ意気込んでいたのに、バカみたい。
私は途中から、指示を飛ばすことをやめ、
誰も喋らなくなった。
「みんな……ごめん……」
「謝るのはまだ早いよ!」
鳴神さんの声が響く。
「そうっすよ。一発ぐらいぶん殴りたいっす!」
「ふふ、キララちゃん。そういうゲームじゃないから」
キララちゃんとアカリちゃんの笑い声が響く。
「やっぱり、ムラサキちゃんも強いね……さすがだよ」
アカリちゃんが、ため息を漏らす。
「まだ、諦めるな、同志たちよ。我々5人のドリームマッチも負けたらここで終わりだ。私はまだ皆と共に戦いたいぞ!」
「ふふ、コマゾウさんって、顔に似合わずいいこと言うじゃない」
「こら、詩音殿……一言余計だ!」
「ああ、でもまだこのチームで戦いたいってのは同感だ。勝ってキララちゃんとデートに行くんだ!」
「鳴神さん……私がいつそんな約束したんすか?
それに、負けフラグ立てないでくださいっす!」
「ダメですよ鳴神さん。
キララちゃんはレイちゃんの愛人なんですから……ま、私は正妻ですけど!」
「アカリちゃんって、意外と強かなんだね。
てか、君たち……互いを炎上させるのはやめたまえ」
コマゾウさんが間に入る。
「私も……このチームのこと……」
喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。
第6ラウンド――全員で再び走り出す。
敵は攻撃でも防衛でも、二階を一直線に攻めてくる。
正面からねじ伏せる……充先輩らしい、作戦だ。
自分の方が圧倒的強者だということを分からせにきている。
「みんな、スナイパーだけど、ヘッドショットは確実に死ぬけど、胸から上も100ダメージ出されて、ワンショットキルだから!」
「「了解!」」
負けたら最後のラウンド、1秒でも長くみんなと一緒にいたいから……ここで勝つ!
開幕スナイパーで毎ラウンド一人落とされている。
スモークを二つ張る。
「ウチに任せろっす!」
アビリティ︰ショルダータックル
キララちゃんが真っ先に突っ切る。
ドンッ!
充先輩のスナイパーを無敵のタックルでキララちゃんが弾き飛ばす。
キララちゃんの1秒間の硬直と
充先輩のコッキング――
わずかに充先輩の技術が上回り、再びスナイパーの弾丸が直線を走る。
「えいっす!」
キララちゃんがぴょんっと飛び跳ねる。
充先輩の弾丸がキララちゃんの胸を貫いた。
「うげぇ、危ねえっす!
ヘッドショットは免れたっす!」
「そっか、ブレイカーって耐久値が120あるのか、アカリちゃん回復させて!」
「はい!」
アビリティ︰ニューイヤーギフト
アカリちゃんの回復で、
キララちゃんの耐久値が20から70まで回復する。
その間に、私とコマゾウで敵に向かって弾幕を撃ち込む。
「うがっ! 相打ちだ!」
「私も一人やった!」
互いに、赤い光が二つと、青い光が一つ昇る。
4VS3
「充先輩のコッキングが終わった!
みんな、いったん身を隠して!」
私はかがんだが、視界が真っ赤に染まる。
これは――充先輩……いや、ホークのウルト!
まずい――そう思った時には遅かった。
一直線に伸びる赤い光線が、遮蔽ごと私の体を貫いた。
くそっ……。
3VS3
やられた……結局、充先輩には届かなかった。
観戦画面で銃撃が鳴り響く――
2VS2
1VS1
接戦を繰り広げているが、私にはどうでもよかった。
充先輩のホークとアカリちゃんのセラの一騎打ち。
……もう、私にはどうでもよかった。
「私が勝たなきゃ……私が勝たなきゃ……」
同じ言葉がこぼれ落ちる。
「詩音ちゃん……違うよ……私たちで勝たなきゃ!でしょ!」
ウルト︰リインカーネーション
アカリちゃんが私の死体に触れ、体が蘇る。
しかし、充先輩はそれを読んでいたかのように、
蘇ったばかりの私にスナイパーの銃口を向けていた。
2VS1
「危ないっ!」
アカリちゃんに突き飛ばされた。
「アカリちゃん……」
私の代わりにアカリちゃんが青い光に包まれる。
1VS1
「行って……」
彼女はそれだけ言い残して消えた。
アビリティのリキャストが終わった。
スキル︰サイドストリーム
煙草を投げ、充先輩に直接スモークを被せる。
このまま、接近戦にもつれ込んでやる!
彼は逃げずにスモークの中で待っている。
……充先輩はそういう人だから。
距離――1m。
スモークの中、彼の銃口は真っ直ぐに私の頭を捉えていた。
「うぉりゃっ!」
彼の銃身を掴み、下にずらす。
ドンッ!
わずかに逸らしたが、スナイパーの弾丸が胸を貫く!
「うわっ、惜しい……」
コマゾウの声が響く。
胸へのダメージは100――普通なら一発でもっていかれる。
ウルト︰スモーキングハイ
充先輩に撃たれる前に、私はウルトを発動させていた。
「えっ、シガーのウルトか!」
鳴神さんも気づいたみたいだ。
シガーのウルトは耐久値を100から120まで底上げし、機動力を1.2倍にする。
「コッキングの暇は与えない!」
私は、アサルトライフルで大好きな充先輩の頭を撃ち抜いた。
NF杯での戦闘中――敵チームのボイスチャットは聞こえない。
充先輩は倒される直前、微笑んでいた。
【セラ】 使用者:犬柴アカリ
回復を得意としたヒーラー。
チームのバイタルを支える衛生兵。
パッシブ︰セルアクセラレート
時間経過とともに微量に自身の耐久値を回復していく。1/S(秒)回復。
アビリティ︰ニューイヤーギフト
ボールを投げ、当たったヒーローの耐久値を50回復させる。
ただし、敵に当たった場合、敵を回復する。
リキャスト30秒。
ウルト︰リインカーネーション
仲間のヒーローを蘇生させる。
ただし、死亡した場所に手を置く必要がある。
1ゲームで一度のみ使用可能。
メイン︰サブマシンガン
小回りの利く銃。近〜中距離での戦闘向き。
サブ︰ハンドガン
【シガー】
使用者:神宮寺ムラサキ、二宮詩音
煙幕を使い、場を撹乱する。
射線を潰したり、地点を確保する際の足掛けとなる。
パッシブ︰ヘビースモーカー
サイドストリーム内に入ると、5秒間、
機動力が1.2倍になる。
アビリティ︰サイドストリーム
タバコを投げ、煙幕を貼る。
リキャスト20秒。
ウルト︰スモーキングハイ
機動力1.2倍、パッシブと併用可。
耐久力100→120。
2ラウンド毎に使用可能。
使用した次のラウンドは使用不可となる。
メイン︰アサルトライフル
安定した撃ち合いができる小銃。
これ一本あれば、どんな状況にも対応できる万能武器。
サブ︰ハンドガン
【ブレイカー】 使用者:羽袖キララ
エントリーヒーロー。
継続戦闘に優れており、前線維持や前線突破の役割りを担うことが多い。
パッシブ︰マッスルボディ
耐久値が常時100→120になる。
アビリティ︰ショルダータックル
肩を突き出し突進する。突進中は無敵になるが、一直線にしか、進めない。
ダメージ20
使用後に一秒硬直がある。
毎ラウンド1回使用可能
ウルト︰アースクエイク
地面にトールハンマーを打ち付け、半径10メートルに衝撃波を放つ。
ダメージ100
壁貫通する。1ゲームに一度のみ使用可能。
メイン︰アサルトライフル
サブ︰サブマシンガン
【ホーク】 使用者:片桐充
狙撃に特化したヒーロー。
パッシブ︰ホークアイ
スコープ越しに敵がハイライトされる。
ただし、スモークやカーテン、遮蔽物があった場合は見えない。
アビリティ︰クロー
壁や地面に鈎爪を打ち込み移動する。
ヒーローに打ち込んだ場合、引き寄せることができる。
ウルト︰キラーレッド
ダメージ100
三秒間――壁が透過し、壁貫通する弾丸を一発放つ。ただし、敵には射線が赤い線となって見える。
三秒以内に射撃しなかった場合は、透過は終了して、通常のスナイパー弾に戻る。
1ゲームに1度のみ使用可能。
武器
メイン︰スナイパー
サブ︰ハンドガン
【ストーカー】
使用者:坂本由里、鳴神リュウガ
索敵スキルにより、敵の位置を割り出す。
パッシブ:トレース
敵の足跡が見える。
ただし、10秒前までしか辿れない。
アビリティ︰スキャンボール
電気機器の玉を投げる、半径50m以内の敵を3秒間ハイライトする。
ハイライトは仲間全員に共有される。
1ラウンド一度のみ使用可能。
ウルト︰ショウダウン
敵プレイヤーからランダムに選ばれた一人の位置がハイライトされ、壁越しで位置が見える。
ただし、同様に相手からも自分の位置がハイライトで見える。
毎ラウンド、一度だけ使用可能。
武器
メイン︰サブマシンガン
サブ︰ハンドガン
【グリント】 使用者:コマゾウ
フラッシュで相手の視界を奪う。
パッシブ︰フラッシュがヒットした敵をハイライトする。ただし、位置が把握できるのは自分だけ。
アビリティ︰フラッシュグレネード
目視した対象の視界を3秒奪う。
自分も含めた敵味方に判定あり。
リキャスト20秒。
2個までストック可能。
ウルト︰リフレクション
チームメンバーのウルトを模倣して使用する。
リキャスト時間は模倣したウルトに準ずる。




