52話 幕間
実況席の騒音も――コメントの熱も――
すべてが遠ざかっていく。
私たちは勝てなかった。
結局、1ー6で敗北した。
「ぐっ……ぐすっ……充先輩……」
アストラの事務所の片隅で、声を押し殺していた。
「ひゃっ!」
頬に冷たいものが当たる。
涙を拭い、慌てて振り向く。
「み、充先輩……」
彼が缶コーヒーを差し出していた。
「私、ブラック飲めませんよ……」
「よく見ろ……微糖だ」
「あ、ありがとうございます……」
彼が差し出した缶コーヒーをいただく。
「どうしたんですか?
敗北者への同情なら、やめてください!」
「別に同情しに来たんじゃない。
いい試合だった……それを伝えたかっただけだ」
彼はそう言って踵を返す。
「充先輩……私……このチームを辞めます!」
彼の足が止まった。
「……そうか」
彼は引き止めてはくれない。
そういう人だと分かっていた……分かっていたけど……。
「戦うのが、楽しみだな」
「えっ……?」
「……と、そう言えば……これを渡し忘れていた」
充先輩がラッピングされた小包を手渡してきた。
「なんですか……これ?」
「お前、明日誕生日だろ?
欲しがっていたチークだ。渡しとこうと思ってな」
「えっ、私の誕生日……覚えててくれたんですか? それに欲しい物まで……」
「会う度に毎回言われたら嫌でも覚えるだろ」
「嫌なんですか?」
「……」
彼は肝心なところで押し黙る。
でも、そんな彼が大好きだ。
「充先輩! ありがとうございます!」
「お、おい! 抱きつくな……離れろ」
「充先輩……誕生日プレゼントは、当日に渡してくださいよ!
できれば、日付が変わった0時0分0秒に!」
「そんなの無理だろ、お互い家も離れているし……」
「それなら、今夜は0時過ぎるまで帰しませんから!ちゃんと時間になって、渡してくださいね♡」
「イヤだ……帰ってNFをしたいんだ」
「ダメですよ!
NFと私、どっちが大事なんですか?」
「NF」
「……即答とかヒドくないですか。
やっぱり、私のこと嫌いだったんですね……」
「やっぱり?」
「私が近づくのと嫌がるじゃないですか……」
「別に詩音のことは好きだよ……でもな……」
「えっ……♡」
充先輩の胸に頬ずりをする。
「充先輩、今のもう一回言ってください♡
録音して、言質取りますから!」
「……おい、やめてくれ」
「君たち、いったいなに騒いでいるんだね?」
アストラのCEO――浅場邦仁さんが部屋の扉を開ける。
「あ、浅場さん……こいつをなんとかしてください……」
「ま、うちは恋愛オッケーだが、節度は守ってくれたまえよ」
浅場さんは、グッと親指を立てたあと――そのまま部屋から出ていった。
「って、おい!
……ったく、どいつもこいつも話を聞かないやつばかりだ」
「充先輩……私を見てください……」
「はぁぁ……嫌でも目につくだろ……
詩音……本当に辞めるのか?」
彼のため息が、私の髪に触れる。
「辞めません……」
「……なんだ」
「やっぱり私のこと嫌いでしょ?」
「何度も言わせるな。俺はNFが上手いやつは好きだ。
だから、お前のことも白雪ユキノの次ぐらいには好きだよ」
「カッチーン!
本当に怒りました!
告白する時に他の女と比べるなんて!」
「告白? お前は何を言っている?
さっきの試合で頭を撃たれた時の後遺症か?」
「ちょっと、真顔で変なこと言わないでくださいよ。ともかく、今日は帰しませんから……」
抱きしめている間は、充先輩は私を見てくれる。
そう思い込むように、彼の体を全身で抱きしめた。




