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元プロゲーマー、VRで銃が当たらないので投げナイフだけで無双します。  作者: 那須 儒一


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5話 中と外

ふぁー、ねみぃ。

さすがに深夜配信は疲れた。


可燃物の回収時間が迫る中、ゴミ袋を抱え、玄関の扉を勢いよく開ける。


階段に差しかったところで、隣人の扉が古びた音を奏で開け放たれる。


「あっ……」


互いに目が合う。


彼女もゴミ袋を抱えていて、寝癖なのか、黒いアホ毛がくるんと跳ねていた。


彼女はお先にどうぞと、ハンドサインを出す。


「ありがとう、アカリちゃん」

俺は軽く会釈をして先に階段を降りた。


「えっ……!?」


背後で彼女が小さく悲鳴を上げる。

……しまった!?


思わず、VTuber名で彼女を呼んでしまった。

……日頃から心の中で呼んでいたのが仇となった。


「ほら、今日は……明りい朝だよな……はは」

さすがに苦しいか……。


俺は、振り返らずにゴミ捨て場に急いだ。

自室に戻る際に、彼女とすれ違った。


訝しそうに目を細めて、俺を見ている。


……やばい……やばい。

彼女、家バレしたから引っ越すかな。


いや、そうだよな。

隣人に知られているなんて、女の子からしたら怖いよな。


彼女はゴミ袋を片手で持ち、

不安そうに自分の服の裾を掴み立ち止まる。


「あれ、お隣さん。

……どうかしました?」


できるだけ平静を装い、彼女に尋ねる。


彼女の口元が震えていた。

そこからどんな言葉が飛び出すのか、俺には想像もできなかった。


ごみ収集車の後退音が遠くから聞こえる。


彼女は決心したように、俺の目を真っ直ぐ見つめた。


「あの……もしかして……泉……海人さんですか?」


「えっ!?」


予想だにしない言葉に後ずさる。

……どうして、俺の名を……。


心臓が早鐘を打っている。


「……すみません。

人違いでしたよね……失礼しました」


彼女はそれだけ言い残すと、小柄な体を回し、ゴミ捨て場へと向かった。


このまま彼女を見送ると、永遠に会えないような気がした。


「そうだよ……泉……海人だ」


気づけば、俺は彼女を引き止めていた。


振り返った彼女は――笑っていた。


「ホントですか!

私、大ファンなんです!」


彼女は、ゴミ袋を放り出し、俺に飛びつくように手を握った。


「えっ……えっ……」

勢いに、圧倒される。


もしかして、身バレしたことに気づいてない?


「私が、NFネオンフラグを始めるきっかけになったのも、あなたのおかげなんです!」


子どものように跳ねる彼女が、

VTuberとしての犬柴アカリの姿と重なった。


あの頃の俺を知っている人が、

こんなに身近にいたなんて。


炎上した時、誹謗中傷ばかりに目が向いていた。

彼女のように、俺を擁護したり、応援してくれるファンもたくさんいたのに……。


目先の炎にばかり、目を奪われていた。


視界が潤み、慌てて目頭を抑える。

「ご、ごめん……」


なんとか取り繕おうとしたが、

それだけ絞り出すので精一杯で、あとは嗚咽が漏れるばかりだった。


「泉さん、大変でしたよね……でも、元気そうな姿が見れてよかったです。心配してましたから……」


彼女の言葉、一つ一つが胸に刺さる。


「この前、部屋で雄叫びを上げてましたね。

また、NFネオンフラグを続けているんですか?

泉さんのプレイ、そのうち見せてくださいね!」


彼女はそう言ってゴミ袋を拾いなおした。


そうか、犬柴アカリの声が聞こえるということは、俺の声も隣に聞こえていて当たり前だ。


――朝の住宅街に叫び声が響き渡る。


「ぎゃぁぁ! 間に合わなかった!」


さっき、ごみ収集車の音、してたもんな。


彼女は、この世の絶望の淵にいるかのように、

地面に四つんばいで倒れる。


……初めは引っ込み思案に見えたが、

あれが彼女の本来の姿なんだろう。


「ありがとう……」

届かない感謝だけ残し、俺は自室に戻った。

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