43話 お花見
VTuber、ストリーマー界隈の大規模なNFの大会が開かれることとなった。
――これまでとは違い、
運営が指定したチームで参加しなければならない。
いつも、仲間だったメンバーが今回は敵になる可能性が高い。
――プロゲーマー枠として、アストラも参加予定だ。
§
本日、4月1日――事務所の庭で、ルミナスイリアとアストラの合同お花見が開催された。
大型イベント前の決起集会といったところかな。
オフイベントなのが、少しもったいない気もする。
せっかくなら配信したいと思うのは、
根っからの配信者気質だからだろうか。
「皆さん、本日は――」
浅場さんの挨拶が右から左に抜けていく。
花より団子――浅場さんの挨拶より、花だろ。
ふと――彼女と目が合った。
アストラのメンバーが少し離れたシートの上に座っていた。
由里……会うのは初詣以来か。
そんなに、睨まなくてもいいのにな。
でも……悪いのは俺だ。
「――これから、ルミナスイリアの諸君にも、マネージャーを付けようと思う。後で、紹介するからよろしく頼むよ。それでは、今後もアストラとルミナスイリアの発展を願って……乾杯!」
「「乾杯!」」
浅場さんの音頭に合わせ、プラコップを掲げる。
こうしてみると、見慣れない人が十名ほどいるな……裏方のスタッフかな?
「ここに座っているのが、担当するルミナスイリアのメンバーだよ――」
盛り上がっていると、背後から声が響く。
「みなさん、お楽しみのところ申し訳ございません……皆さんを担当するマネージャーをご紹介させていただいてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ……えっ!?」
男性スタッフの横に、見慣れた女性が頭を下げていた。
「始めまして……わたくし、桃園水葉と申しま……って海人くん!?」
「えっ……お二人は、知り合いなんですか!?」
「はい、一応……」
まさか、桃先輩がルミナスイリアのマネージャーになるなんて……。
「海人くんって……VTuberだったんだ……しかも、女性の……どういうこと?」
「あっ、桃っち先輩!」
「あなたは……岬ちゃん!」
そうか……岬だけは、バーガーメテオで桃先輩と一緒にハンバーガーを食べたんだ。
「始めまして……加藤舞と申します。
マネージャーとメンバーの恋愛は禁止されていますので、よろしくお願いします」
舞ちゃん……なんか、桃先輩に、変な牽制を入れていないか?
「は、はい。入社時に説明は受けております」
桃先輩は、年下の舞ちゃんに気圧される。
「桃園さんもぉ、一緒に飲みましょうよ! 歓迎会ってことでぇ!」
楓がシートのスペースを空け、座るよう促す。
「あっ、はい! ぜひ、よろしくお願い致します」
なんか、かしこまった桃先輩を見るのは新鮮だ。
「泉……ジュース……」
茜ちゃんが、空のコップを差し出す。
「注いで欲しいのか? 何、飲むんだ?」
「りんごジュース!」
この子は相変わらず、マイペースだな。
§
酒が進み徐々に話が下の方に進んでいく。
「てか、元カレが最悪な奴だったんすよ。
駅前のラブホで、入浴中の私の裸を盗撮してたんっす!」
岬は、酒の勢いも相まって、鼻息荒く怒っている。
駅前のラブホって、この前、桃先輩と入ったところか……。
「そっか、あそこのラブホ――お風呂場がガラス張りだもんな……」
「あれぇ? 海人くん……誰と行ったのかしらぁ?
もしかして、メンバーの誰かですかぁ?」
「い、いや……昔、後学のために下見に行っただけなんだよ……ど、どんなとこかなって」
「ふ〜ん。怪しいわねぇ~。ね、舞ちゃん」
楓が舞ちゃんに目配せする。
「私――行ってない。
……海人くん……誰と行ったの?
……うっ、うっ……」
舞ちゃんが、涙目で俺を睨む。
「ほ、本当に一人で行ったんだよ……」
ダメだ、苦しい言い訳だ。
楓は舐め回すように他のメンバーの反応を順番に観察している。
桃先輩が頬を赤らめ、下を向いていた。
「ふーん。そうなんだぁ。
海人くんってば、やっぱりいろんな女の子をキープしているんだね……」
「泉先輩も、なかなかプレイボーイっすね!」
「俺の印象、最悪すぎないか?」
「泉……ラブホって楽しい?」
「茜ちゃん……楽しいは楽しいけど……」
「なら、私も行きたい! 泉……連れてって」
「ぶっ! あ、茜ちゃんにはまだ早いんじゃないかな?」
「早くないっすよ。茜ちゃんは成人してますよ……」
岬が謎のフォローに入る。
「いやいや、法が許しても、世間が許してくれないだろ」
白雪ユキノのリスナーにバレたら……殺される。
「海人くーん、桃園さんが静かだと思わない?」
楓はたぶん気づいている。
こいつ、わざとだな……。
「き、緊張してまして……」
桃園先輩は露骨に目を逸らす。
楓がこちらにすり寄り、こっそり俺に耳打ちをする。
「私も連れて行ってくれたら、
桃園さんと、行ったこと、黙っててあげますよ?」
「こ、こいつ……弱みにつけ込んで……」
いや、本音を言うと喜んでお供したい。
だが、こういうのは段階を踏んで――正式にお付き合いしてからじゃないと……。
「い、泉さん! お取り込み中、すんません。
少し、お時間いいですか?」
ふと、背後に、過去に会った青年が立っていた。
「須藤くん……」
舞ちゃんが反応する。
そっか、舞ちゃんは、須藤と充とは、面識があったんだっけ。
コンビニに来た時も一緒にいたもんな。
――どういう関係なんだろう。
「わかった。向こうで話そう……」
須藤のおかげで助かった。
俺たちは、人気が少ない、桜の木下まで移動する。
「それで……なんの用だよ?」
また、悪態でもつきにきたのか?
「その……コンビニで会った時、失礼をはたらいて……すんませんでした!」
須藤が深々と頭を下げる。
「どういう風の吹き回しだ?」
「泉さんの――ルクスを目の当たりにして、やっぱりすげえ人だったんだって……」
「いや、あの時は意表をつけただけであって、銃の腕前も勘定すれば……お前の方が強いよ……」
悔しいけど、それが事実だ。
「そう言っていただけて、恐縮っす!
……俺、今度の大会……負けませんから!」
須藤はそれだけ言い残し、去っていった。
――こいつ、根は真面目なんだろうな。
「……須藤は、悪いやつじゃないんだ。
誰よりも力に貪欲で、誰よりも実力主義なだけなんだ」
背後から静かに声が響く。
「充……」
「戻って来たんだな……海人」
充は目元にかかる髪を掻き上げる。
「戻らされたというべきか……」
「ま、なんにせよ人生は長い――楽しめよ」
「なんだそれ……相変わらずキザなやつだ……」
こいつはいつもブレないな。
「もう少し、話したいところだが……譲ってやるよ」
充は背後に目配せだけして、去っていった。
§
「泉……久しぶり……」
彼女の長い赤毛が桜吹雪に揺れる。
「由里……少し痩せたんじゃないか?」
「ふふ、確認してみるか?」
ライダースを羽織り、ボディーラインがくっきり出る黒のレザーパンツを履いていた。
「……いいのか?」
「ふふっ、泉は変わらないな」
「――俺は俺さ」
「泉……私にやり直す機会をくれないか?」
「やり直すも何も、始まってすらなかっただろ」
「それもそうだな……」
「由里……元気でな……」
「うん……じゃあね……」
由里は元メンバーの輪に戻っていった。
俺がVRについていけなかったのも、
炎上したのも……落ちぶれたのも、由里は一つも悪くない。
……俺に引け目をかんじることなんてないのに。
それでも、彼女と話せたことが――少しだけ嬉しかった。




