表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元プロゲーマー、VRで銃が当たらないので投げナイフだけで無双します。  作者: 那須 儒一
二章 フルパ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/79

37話 別れ

元旦――人混みの中で冷えた手に息を吹きかける。

神社は、初詣に来た人々で賑わっていた。


年末の交流戦――結局2ゲーム目も最初の1ラウンドしか取れなかった。


まだまだプロは遠い――。


いずみ……」


年明けの澄んだ空気が、懐かしい香りを運んでくる。


由里ゆり……」

声のする方へ顔を向けると、赤毛の女性が息を切らしながら、立っていた。


「……久しぶりだな」

彼女は乱れた髪を整えながら、こちらに近づく。


「どうして、ここに?」


「泉なら、ここに来ると思って……」


「そっか、大会の前日——よく二人でここに来てたっけ……まずったな」


「泉……私とは会いたくなかったんだな。

……なら、なぜ……昨日……私を抱きしめた」


「やっぱり、俺が霧雨レイだと気づいてたか……」

そうだよな……昨日の試合、不自然に止まっていた。

思わず、泣き虫だった頃の由里を思い出し、抱きしめてしまった。


「泉……銃、当てられるようになったのか。

また、アストラに戻ってこないか?」


俺は、首を横に振った。


「せっかくのお誘いだけど、悪い……昨日は、零距離だったから、当てれただけだ。

正直、ルクスを使ったのは、お前らに勝つため……一回限りの騙し手だ」


俺は振り返り、由里に背を向けた。


ふっと彼女の手が、背後から伸びる。


「泉……私を置いていかないでくれ……」


由里の声は震えていた。


本当は、今すぐにでも彼女を抱きしめたかった。


でも……俺の今の居場所は、アストラじゃない。

過去にも——由里への気持ちも……すべて踏ん切りをつけた。


「由里……」


薄い手袋越しに、彼女の手を握った。


「今までありがとう……大好きだったよ」


それだけ伝え、彼女の手を優しく引き剥がした。


「待って——」


「泉くん、おまたせ!」

由里の言葉に重なるように、舞ちゃんの声が響く。


「って……あれ……」


舞ちゃんは、泣いている由里を見ていた。


「泉……その子が今の居場所か?

私は、待ってるから……」


由里はそれだけ言い残し、人混みの中へ消えていった。


「泉くん……大丈夫?

もしかして、元カノ?」


「いいや、そんなんじゃないよ……彼女は……」

喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。


「彼女は……?」

舞ちゃんが白いマフラーを揺らし、眉をしかめる。


「さ、お参りしようか!」


「あっ、誤魔化した!」

舞ちゃんの手が、俺の体を揺さぶる。


「ちょっと、やめてくれ」


「言うまで、やめないんだから!

教えてー!」


賑やかな初詣の雰囲気とともに、俺は舞ちゃんの頭を軽く撫でた。


§


——翌日。


別れは唐突に訪れる。

どれだけ、心の準備をしてもツラいものはツラい。


あかねちゃん……大丈夫か?」


「うん……大丈夫……」


茜ちゃんに……喪服は似合わないな。


茜ちゃんの執事——いや、保護者の五十嵐いがらしさんの遺影の前で、そんなことを考えながら、手を合わせる。


柴田茜——彼女が県内でも有数の令嬢だったとは、知らなかった。


初めて彼女の家を見た時は驚いた。

日本庭園に囲まれた巨大な屋敷——田舎のショッピングモールぐらいの広さはある。


海外に住んでたって言ってたから……もっと、西洋風の屋敷を想像していた。


柴田家で一通り、葬儀を終え、俺は中庭に出た。


「泉……落ち着かない?」


背後から茜ちゃんの声が響く。


「少しな……自分が場違いな気がして……」


「私は……泉がいてくれてよかった……」


彼女は流れるような黒髪を耳にかける。

その表情が少し大人びたように感じた。


「茜お嬢様……少しよろしいですかな?」

床板がたゆみ、大柄な男が彼女に近づく。


「山村様……本日は、お越しいただき、ありがとうございました」


「いえいえ……この度はご愁傷様でした。

ところで、ご相談なんですが……」

大柄の男は俺を横目で見る。


「俺、少し、外しますね」


二人から距離を取る。

部外者には聞かせられない話なんだろう。


——しばらくして、茜ちゃんが戻ってきた。


彼女は、何も言わずに遠くを見ている。


「聞かないんですか?」


「聞いたら、俺を遠ざけた意味がなくなるだろ」


「確かに……でも……」

茜ちゃんは何かを言いかけて、言葉を飲み込んだ。


「わかったよ……差し支えのない範囲で教えてくれ」


「泉……私が、結婚したらどう思う?」


どうって……そんなこと言われても困る。


「もしかして、さっきのは縁談の話か?」


「うん……柴田家を守るためにも山村さんとことの息子さんと……婚姻しないか……って」


「葬儀でするような話ではないな」


「そうだよね……今までは……五十嵐があしらってくれてたけど……」


本当に彼女の保護者代わりだったんだな。


「茜ちゃんが結婚したら、素直に嬉しいよ!」


「嬉しい……他の人でも?」


「他の人? 別に誰と結婚してもめでたいことじゃないか」


「泉……バカ……」

茜ちゃんは、俺の横腹を軽く小突いた。


「えっ、なんで?」


「もういい……泉は……女性にこまってないもんね……」


なんか、すごく棘のある言い方だな。

相変わらず、不思議な子だよ。 


「泉……今日は来てくれて……ありがと……私……もう、一人でも……大丈夫だから」


今日の茜ちゃんは普段より、饒舌だ。


「もう、帰ったほうがいい?」


「いてくれるの?」


「うーん。部外者の俺は、これ以上はやめとくよ」


「部外者……そうか……」


「茜ちゃん?」


「ううん……またね……」


「おう……またな!」


互いに別れを交わし、出口へと向かう。


振り返ると、茜ちゃんはまだ中庭に立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ