32話 仲間
あれから、ルミナスイリア内でのコラボ配信は無くなった。
配信サイトを開くが、
岬以外は、配信を更新していなかった。
茜ちゃんは五十嵐さんのお見舞いにと自宅の往復で忙しい。
一人でタクシーにも乗れるようになったし、成長したな……。
それに比べて俺は……。
声をかければすぐに伝わるほど、壁は薄いのに――。
寝て起きて――それだけ繰り返す毎日。
舞ちゃんも、楓も、俺の部屋には来なかった。
§
「先輩――いるっすか?」
ある日の晩、玄関先から岬の声が響く。
「……」
「入るっすよ」
俺は頭に毛布を被った。
気配が隣に座った。
「先輩……ウチとデートしましょう」
「デート……」
そんな気分なれない。
「ほらっ、行くっすよ!」
岬は強引に毛布を剥がし、俺を引っ張り起こす。
「……行くって……どこに?」
「いいから、いいから」
岬に手を引かれ、なすがままにアパートの前まで降りた。
「先輩、これをどうぞ――」
「これ……ライダース?」
岬が頷くと、
合わせてヘルメットも手渡される。
気づかなかったが、いつの間にかアパートの前に厳ついバイクが停まっていた。
「これ……岬の?」
「そうっすよ。ぎゃん、かっこいいっしょ!」
「ぎゃん……なんだって?」
「ま、いいからそれを着るっすよ!」
外は雪が降りしきっていた。
岬の背中に体を預け、夜道をバイクで駆け抜ける。
振り落とされないように、彼女の腰を掴む。
§
しばらくすると、市内で有名な展望台に到着した。
「っげ……なんか、今日は珍しく人が多いっすね……ってクリスマス!?」
「……クリスマス」
日付なんて見てなかったな。
展望台はカップルで溢れかえっていた。
「先輩、そういうつもりじゃなかったっすからね!」
「わかってるよ。
元気づけようとしてくれたんだろ?」
「はいっす!」
「岬はいつでも元気だな……」
「ウチだって……落ち込む日もあるっすよ」
「そうだな。そん時は俺が慰めてやるよ」
「少し、いつもの先輩に戻ったっすね。
そん時はよろしくっす」
「後輩に慰められてちゃ、世話ないよな」
「ウチは、先輩方のおかげで毎日が楽しかったっすから」
岬は展望台の柵に腕を乗せ、夜景を眺める。
「俺も岬がいてくれてよかったよ……」
「先輩……ウチまで落とそうとしてないっすか?」
「いやいや、さすがにそれはない……」
「そうっすか……」
岬の声が沈む。
「でも、岬みたいな人と結婚したら、毎日楽しいんだろうなとは思う」
「け、結婚っすか……てか、クリスマスにそんな話しないでくださいっす」
「確かに、遠回しのプロポーズみたいだな」
「ホントっすよ。ウチなんかより、もっと気にかける人……いるっしょ」
岬の瞳に、町の灯りが反射し、瞳が輝いて見えた。
「岬……ありがとな」
「そろそろ、寒くなりましたし、帰りましょうか。
泉先輩が変な気を起こしても困るっすから」
「困るのか?」
「はい……泉先輩といると、浮気の心配が絶えなそうっすから」
岬の笑い声が響く。
「彼女いない暦イコール年齢だ。
安心してくれ!」
「それ、自信満々に言うことじゃないっすよ!」
岬といると、こっちも引っ張られて明るくなる。
底抜けの根明なのが、彼女の魅力なんだろう。
「岬……さっきの岬の言葉、少し訂正させてくれ」
「どれっすか?」
「岬より、気にかける人がいるって言ってたが、岬も俺の大事な仲間の一人だ。だから、岬より誰かの方が大切なんてことはないよ。
岬のことも……大切だから」
「泉先輩……変な気を起こしてるっすよ……」
そう言って彼女は停めていたバイクの方へ歩き出す。
「やっぱ、浮気の心配が絶えなさそうっすね……」
彼女の言葉の真意は、俺にはわからなかった。




