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元プロゲーマー、VRで銃が当たらないので投げナイフだけで無双します。  作者: 那須 儒一
二章 フルパ編

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31話 本音

霜が降りる部屋――毛布の中は温もりで満たされていた。


目を開けると、右脇からあかねちゃんが俺の寝顔をまじまじと見ていた。


「茜ちゃん、おはよう……」


「泉……気持ちよさそうに寝てたね」

そう言って茜ちゃんは、頬が緩む。


なんか、付き合いたてのカップルみたいだな。

……女性と付き合ったことなんてないけど。


体を起こそうとするが、左腕がやけに重い……というか、何かが乗っている。


「えっ!?」


慌てて左を向くと……かえで


「海人くぅん……とうとう、一線を越えちゃったねぇ」


「えっ、超えちゃったの?」


まさか、どうして覚えていないんだ。

俺……。


「楓……超えた時を再現してみてもいいか?」


「な、なんか……想像してたリアクションと違うんだけど……ちょっとキモい」


楓が突然素に戻る。


「泉……キモい」

なぜか茜ちゃんも便乗する。


「てか、キモいのはどっちだよ。

楓――いつの間に俺の隣に寝てたんだ?」


「ええっと……深夜3時頃?

配信終わったら、海人くんの部屋から女性の声がしたから……」


「茜ちゃん、その時間寝てたよな?」


「あっ……お手洗いに行くとき……転んで叫んだ……」


「壁が薄すぎるのも問題だな。

害虫が寄ってくるし――」

俺は楓の方をチラッと見る。


「海人くん……楓のこと、そんな風におもってたんだ」

楓が肩を揺らし、えづき出す。


「おい、ウソ泣きなのバレバレ……」

俺の腕が涙で湿る。


えっ!?

本当に泣いている……。


「楓、ごめん!

傷つけるつもりはなかったんだ」


彼女の体は震えていた。


「隣に寝ててびっくりしたけど、嬉しかった。

さっきのは照れ隠しっていうか……、

楓みたいな素敵な女性、他にはいないよ!」


「本当……?」


「ああ、男に二言はない!」


「……なら、私のこと好き?」


「うっ……」


「言い淀んだぁ! うわぁぁぁぁん!」

楓は、大声をあげて泣き出した。


「楓……好きだって、大好きだ」


「投げやり感が強い――うわぁぁぁぁん!」


「めんどくさ……いや、お前を本気で愛しているんだ」


「今、めんどくさいって言ったぁ!」


あまりのうるささに、茜ちゃんは耳を塞いでいる。


……ったく、仕方ねえ。


「楓っ!」


俺の声に楓の体がビクッと跳ねる。


「……はい」


「お前のことを――世界中の誰よりも愛している!」


「……う、うん」

楓は頬を赤らめ、うつむいた。


「エンダァァァーイヤァァァ」


「今度はなんなんだよ」

すぐそばで、いつの間にか部屋に入ってきていたみさきが、聴き馴染みのある曲を歌い出す。


「なんなんだよはこっちのセリフっす。

朝っぱらから大声で――愛しているって、聞いているこっちが恥ずかしいっすよ」



「これには事情があってだな……ってそんなにうるさかった?」


「うるさかったっすよ。さっきの言葉、まい先輩が聞いてたら大変なことに……はっ!?」


岬が、玄関から放たれる殺気に振り向く。


そこには、買い物袋を持った、舞ちゃんが立っていた。


「海人くん……説明してくれるんだよね?」


「楓っ! お前のことを――世界中の誰よりも愛している!」

突然、俺の耳元で雑音混じりに、先ほどのイタいセリフが流される。


楓……こいつ、まさか……録音していたのか?

となると、ここまでが全てこいつの思惑通り……。


「ふぅーん。海人くん……楓ちゃんのことが好きなんだ? ふぅーん」


怖い……静かなのが逆に怖い。


「私はそんなこと、言われたことないのになー」


「う、ウチ、これから用事があったっす!」

岬が危険を察知して、俺の部屋から逃げ出す。


「楓……これ、お前もヤバくないか?」


「海人くん……奇遇ね。私もそう思ってたとこなんだ」


覚悟を決めたその時、あかねが起き上がり、舞ちゃんの前に立ち塞がる。


「泉……悪くない……」


「茜ちゃん、のいてください……」

舞ちゃんが少し押されている。


「泉をイジメないで……」

茜ちゃんが語気を強める。


「私が……海人くんをイジメてる?

そうか、私……悪者だったんだ……海人くんを守るはずだったのに……」


舞ちゃんは、目元を抑えながら、部屋から出ていった。


「楓……後で、お仕置きな?」


「えっ、なんで私? 私、悪くない……」


「はぁ……ったく、どうしてこうトラブメーカーが多いんだよ。

茜ちゃん、ありがとな」


俺は茜の頭を軽く撫で、舞ちゃんの後を追った。


§


彼女の部屋のインターホンを押す――返事はない。


ドアノブを回すと――開いていた。


「ごめん、勝手に入るよ」


そういえば、舞ちゃんの部屋に入るのは初めてだった。


芳香剤の甘い香りと、整理整頓された部屋が視界に広がる。


ピンク色のベッドの上で舞ちゃんが、うつ伏せに寝て、全身がかすかに震えていた。


「舞ちゃん……」


「……」

声を掛けるが、彼女は泣き声を押し殺しているだけだった。


「俺……舞ちゃんに救われた。

俺が、こうして毎日笑ってられるのは……君のおかげなんだ。

だから、いじめられたなんて思ったことは、一度もないよ。……ときどき怖いけど」


「……やっぱり、怖い?」


「可愛いさ9の怖さ1ってとこかな」


「ふふ……海人くんらしい言い方だね」


ようやく、泣き止んでくれた。


「私、海人くんが好き……でも、押し付けてた……」


「俺だって……」

喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。


俺……舞ちゃんのこと……どう思っているんだ?

彼女は恩人だ……でも、その先は?


「ごめん……俺、まだ自分の気持ちの整理すらできていないんだ……だからっ……んっ」


俺の言葉は、彼女の唇で遮られた。

――かすかに濡れていた。


一つになった温度が、ゆっくりと解ける。


「海人くん……これで、押し付けるのは最後にするね……」


それ以来、彼女は俺の部屋に来なくなった。

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