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元プロゲーマー、VRで銃が当たらないので投げナイフだけで無双します。  作者: 那須 儒一
一章 再起編

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3話 勧誘

厳かな雰囲気の和室。

壁には水墨画で描かれた掛け軸。


市内でも、有数の老舗割烹料理店。

俺はメールの相手と向かい合い、正座していた。


「泉くん……久しぶりだね」

後退した頭部の中年男性は、うつむく俺を真っ直ぐ見つめていた。


「ご無沙汰しています……浅場さん」


浅場あさば邦仁くにひとさん。

俺の所属していたプロゲーマーチームのCEOだ。


ゲームしか取り柄のなかった俺を――拾ってくれた。

……ただ、俺を見限ったのも……この人だ。


「突然、呼び出してすまない。

元気そうで、よかったよ」


――社交辞令なんて聞きたくなかった。


「呼び出したのは、世間話をするためですか?」


浅場さんは湯飲みのお茶を飲み干し、ニカッと笑った。


「君の目には――まだ、闘志の火種が残っている。どうだい、VTuberとして活動してみないか?」


「――はっ!?」


突然の提案に、机に足がぶつかる。


「……っつ」


「順を追って話そうか。

私は、プロゲーマーチームだけではなく、新たにVTuberの箱を立ち上げた。

……といっても、まだメンバーは一人だけなんだけどね」


「どうして俺なんですか?

NFネオンフラグはできないって知ってますよね?」


「別にNFネオンフラグである必要はないさ。配信者として好きなゲームをすればいい……」


好きなゲーム……NFネオンフラグ以外にそんなゲーム、今の俺には存在しない。


好きなのにできない……その辛さが、あんたに分かるっていうのか?


浅場さんは全てを見透かしたように、続けて話す。


「私が、NFネオンフラグを愛してるのは……君も知っているね?」


俺は、返事の代わりに頷いた。


浅場さん自身も重度のNFネオンフラグプレイヤーだ。

好きをこじらせて、プロゲーマーチームを立ち上げるなんて、彼ぐらいのものだろう。


「先日――いつものようにNFネオンフラグをしていたんだけどね……フリーダムモードで変わったプレイヤーに出会ったんだよ」


顔を上げ、彼の目を見た。


「変わった……プレイヤー?」


「ああ……フロッグを使用していてね。

メインのハンドガンは使用せず、ひたすら投げナイフを放っていたよ……」


「投げナイフ縛りですか……変わり者もいたもんですね」

偶然の可能性もある。

たまたま、同じプレイスタイルの人がいても、おかしくはない。


「そのプレイヤーは投擲精度こそ荒いが……背後を取る立ち回り、敵の行動を読む力――タイミング、反応速度、どれを取ってもプロゲーマーと遜色はなかった。

あの投げナイフが当たっていたら……と、何度も肝を冷やされたよ」


「その話が、俺と何の関係あるんですか?」

どうしたら、俺がVTuberになるなんて話になるんだよ。


「なに……そのプレイヤーと対峙した時に、君を思い出してね。後にも先にも、対戦相手に恐怖したのは、君が初めてだったから」


浅場さんの真意がわからない。

「――今さら俺にどうしろっていうんだ」


「プロゲーマーになれとは言わない。

君のプレイには、人を惹きつける何かがある

既に、顔を知られているなら……」


「VTuberになれと……」


俺の答えは決まっていた。


「すみませんが、お断りさせていただきます」


「どうしてだい?」


「今さら……NFネオンフラグに俺の居場所なんてない……。

それに、声も知られているから、すぐに身バレして、また、炎上させられますよ」


「今すぐに決断しなくてもいい。

ルミナスイリアはいつでも君を待っているよ」


所属VTuberが1人しかいないくせに……。

VTuber事務所まで立ち上げて、所属VにNFネオンフラグをさせているなんて、一つのゲームにしがみつきだろ。


俺は食事のお礼だけ告げて、その場をあとにした。


§


はぁ、NFネオンフラグにしがみついているのは俺の方だ。

銃も撃てないのに、今さらなにやってんだよ……。


帰路につく中、

現実に引き戻された気がした。


町のネオンがやけに眩しい……。


都市部の喧騒が――過ぎゆく車の音が、やけに遠く感じられる。


気づけば、郊外にあるアパートの前まで帰り着いていた。


俺の住んでいる二階建てのボロアパートは、

一フロア、二世帯の計四世帯しかない。


しかも、下の二部屋は空室だ。


まさか、その唯一の隣人が……VTuberだったなんて……。


彼女の部屋に自然に目が向く、

窓から見える、部屋の灯りは消えていた。


「あの……すみません……」


おどおどした、静かな声が背後から響く。


「はい?」

振り向くと、そこには黒髪ショートボブの小柄な女性が立っていた。

童顔だけど、さすがに大学生だよな?


「ええっと……すみません」

彼女はいまいち要領を得ない。


「何か御用ですか?」


「……通してください」

彼女は絞り出すように、声を出した。

腰の横で握られた手が震えていた。


そこで、ようやく俺は、自分が二階への階段を塞いでいることに気づいた。


……ということは、この子が犬柴アカリ……。

なんというか、やっぱり、アバターと中の人は違うんだな。


可愛らしい子なんだが……犬柴アカリとのギャップが強すぎる。あの、明るい配信は演技だったのか?


「あの……」

彼女は上目遣いで俺を見ていた。


「……と、すみません」

慌てて、彼女に道を譲った。


彼女はペコリと頭を下げ、フリルのスカートを揺らしながら、階段を上がっていった。


あの子がルミナスイリアの犬柴アカリね……。

――ん、ルミナスイリア?


俺は、この言葉をどこかで聞いた気がした……。


そうだ、浅場さんの立ち上げたV事務所だ。


なんで、昼間の話で気づかなかったんだ!

いや、VTuberに誘われた衝撃でそれどころじゃなかった。


部屋に帰ると、隣から賑やかな声が聞こえてくる。

犬柴アカリの配信時のトーンだ。


……彼女となら、取り戻せる気がした。

楽しかった、あの頃を……俺も配信者、ゲーム活動者に戻れるかもしれない。


縋るように、浅場さんへメールを送った。


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