22話 トリプルメテオ
「どちらさま?」
玄関先に、金髪褐色ギャルが立っていた。
声からして、まんま羽袖キララだ。
「ちーっす! 宇郷岬でーす!
……って、だれ? レイ先輩の彼ピ?」
俺はそっと、扉を閉めた。
「ちょ、なんで閉めるんっすか!」
宇郷岬と名乗る女性は、強引に手で引っ張り、扉を開けようとする。
「すみません。ギャルはお断りしてます……」
「新聞の勧誘みたく、言わないでください!
差別はよくないっすよ!」
「文句があるなら、ギャル愛護団体にでも訴えてください!」
「そんなのないっすよ」
しばらく押し問答が続き、俺は止むなく部屋に彼女を招き入れた。
「ここって、レイ先輩の部屋っすよね?」
短パンの裾を整えて、彼女はテーブル前に正座する。
「誰から聞いた?」
「浅場さんっす」
「やっぱり、あいつが漏らしたいのか……」
「まあ、硬いことはいいじゃないっすか!
てか、うちの箱って恋愛オッケーなんすね」
「ダメって明言はされてはいない気がする。
それに、俺は彼氏じゃなくて、霧雨レイ本人だよ」
どうせいずれバレる。
なら、早いうちにバラしておこう。
「へぇ~そうなんっすね……って、ええっ!?
レイ先輩が男!?」
「そうだ……男だ。悪いか?」
「い、いや、悪くはないっすけど……逆にメロいかも……」
岬の顔が引きつったままだ。
まだ、驚きを処理しきれていないのだろう。
「それで……今日は、なんの用なんだ?」
「ウチ、住むとこ探してて……浅場さんから、ここを紹介されたっす」
「それで、引っ越しの挨拶に来たのか?
他の二人には会ったのか?」
「会ってないっす。
なんとなく、レイ先輩がリーダーなのかなって……」
「ルミナスイリアのか?
一番の古参は、犬柴アカリ――加藤舞だよ」
「ま、そのうち挨拶するっす!」
§
――翌日、宇郷岬が一階の空き部屋に引っ越してきた。
これで、アパートの四部屋すべてがルミナスイリア所属のVTuberで埋まっていた。
――昼下がり、
今日は配信する気になれず、
背伸びをする。
登録者6万人か……少しずつ増えてきたけど、
まだまだこれからだな。
「そんで……なんで、お前は俺の部屋にいるんだ?」
「楓っちから、泉先輩ん家の合鍵もらったっす」
「あいつ、いつの間に合鍵なんて作ってたんだ?
犯罪だろ……てか、俺はここにいる理由を聞いたんだが?」
「ほら、ウチってば寂しがりやじゃん?」
「知らねえよ、そんなこと」
「まあまあ、実家出てから、人肌が恋しくってさ」
「今日は配信しないから、別にいいけど……。
実家で、配信はできなかったのか?」
「うーん。ママが男を取っ替え引っ替えに連れ込むから、あんま居心地良くなくて」
「そうなのか……」
岬もいろいろ抱えているのか。
「こんなむさ苦しい部屋でよければ、いつでも遊びに来いよ」
「おっ、泉先輩ってば、器が大きいっすね!」
「てか、岬はなんで、制服着てんの?
お前って学生だっけ?」
「ウチは二十歳っすよ。
この方が、泉先輩が喜ぶって、楓っちに聞いたからさ……」
岬は制服のスカートを軽く、めくって太ももを見せる。
まったく、楓のやつ……グッジョブだ。
「そうか、今後、俺の部屋に来る時は制服姿で頼む」
「ぷっ、泉先輩ってば、マジでウケるっすね。
今日は、二人でご飯行かないっすか?」
「今から?」
夕方の四時か……微妙な時間だな。
「俺、車持ってないし、
行けるとこ限られてくるぞ」
「近くに、メテオがあったっしょ」
「バーガーメテオね。いいね。
仕方ない。引っ越し祝いに奢ってやるよ!」
「マジパネェっす! 神っす!」
徒歩、二十分ほどで町中のメテオバーガーに到着した。
「ね、泉先輩は何食べるっすか?」
岬は自然と腕を絡めてくる。
「なら、トリプルメテオバーガーのセットで!」
「なかなかやるっすね。
ウチは、ポテナゲセットで……」
二人でレジで注文をしていると、隣のレジに並ぶ女性と目が合う。
「――え、桃先輩?」
「泉くんじゃん……え、その子は?」
桃先輩は制服姿の岬を、上から下まで眺める。
「も、もしかして……援交?」
「ち、違いますよ! 知人ですってば!」
「知人の女子高生とメテオバーガーに?」
桃先輩は訝しげに俺を見ている。
「あ、ウチは二十歳っすよ。泉先輩が遊びに来る時は制服姿でって、命令されたっす」
「まてまて、誤解を生むような言い方はやめなさい。いや、確かに言ったかもしれないけど……ノリというかなんというか……」
やばい……桃先輩が完全に引いている。
「わ、私も制服着てあげよっか?」
「いや、さすがに……」
「な、なによ! さすがにキツイって言いたいの?
私だって二十四よ、まだまだイケるんだから」
桃先輩はなぜか怒っている。
まったく、感情が忙しい人だ。
「せっかくなんで、一緒にご飯食べましょうよ!」
岬の提案で、俺たち三人はテーブルに腰かけた。
しばらくすると、注文したトリプルメテオバーガーが運ばれる。
肉厚のハンバーグが三枚重ねられ、トマトが挟まっている。
特製ソースと肉汁が混ざり合い、癖になる味だ。
「はぁ〜、ウチもバーガー食べればよかったかも……」
「一口食べるか?」
「えっ、いいんすか!」
岬はトリプルメテオバーガーを受け取ると、
口を大きく空けて、特大ハンバーガーを頬張る。
「ガチうまっす! マジで飛ぶっすよ!」
「口の周りについてるぞ」
紙ナプキンで、岬の口の周りを拭う。
「あ、ありがとうっす……」
岬は気恥ずかしそうに、顔を伏せる。
「い、泉くん……」
桃先輩がなにやら汚れた自分の口周りをアピールしている。
「はい、どうぞ」
俺は、紙ナプキンを取り、手渡した。
「泉くんのバカっ!」
桃先輩は、なぜか苛つきながら、自分で口周りを拭いた。
「泉先輩って実はモテモテなんっすね」
「モテモテ……俺がか?」
確かにストリーマー時代は、女の子にもてはやされた時期もあったけど、ほんの一瞬だったし……なんにでも流行り廃りはある。
「本当の俺なんて、大した人間じゃないよ」
「そんなことないわよ。泉くんは素敵よ……」
「桃先輩……なんか、途中で言い淀んでません?」
「桃っち先輩は恥ずかしがってるだけっすよ!」
「あっ、岬ちゃん、余計なことは言わなくていいの!」
宇郷岬――彼女のおかげで、俺の人生が少し色付いてきた。




