20話 新メンバー
少しずつ、肌を撫でる風が冷たくなった。
浅場さんから新メンバーの通知が来た。
「袖羽……キララ?」
名前を検索してみると、既に初配信を終えていた。
見た目は褐色系の金髪ギャルだな。
陽キャの塊みたいなキャラだ。
ふと、PCを開くとメールが届いていた。
死神先輩ちっす!
コラボ配信してくんね?
お返事まってまーす!
袖羽キララ♡
短い文章にこの子の色が強く出ていた。
正直、苦手なタイプかもしれん。
それでも、後輩だ。無下にはできない。
§
流れるように初コラボが決まった。
「ヤッホー! オタクくんたちこんばんわ!
袖羽キララだよー!」
どうやら、彼女はオタクに優しいギャルをコンセプトにしているらしい。
「今日もあなたに安寧を――霧雨レイです……」
だめだ、キララのテンションに気圧されている。
「あんねい?
レイ先輩ってば、難しい言葉知ってんね」
「ははは……」
ギャルきたー
明るくて可愛い
よしよしして
キララちゃん、かわいい!
キララちゃんに乗り換えようかな
最近、リスナーにドMの男が増えている気がする。
霧雨レイのキャラ的に仕方ないのか?
コメ欄が袖羽キララ、一色で盛り上がっている。
「レイ先輩、今日の配信、企画とか考えてんの?」
「特には……」
「先輩、テンション低いっすね!
昨日、ちゃんと寝ました?」
正直、俺が話さなくても会話が回るぐらい、よく喋る子だ。
「それなら、シュチュエーションボイス選手権しません?」
「シュチュエーションボイス?」
面白そうではあるけど、男としてなかなかキツい。
「みんな、コメ欄でセリフ募集しているから、言わせたい言葉とか考えてー!」
キララが呼びかけると瞬く間にコメントが流れ出した。
キモいセリフから歯の浮くようなセリフがズラッと書き綴られる。
「二本先取でいくっすね!まずはアタシから」
会話回しが、ずいぶん手慣れている。
この子、初めてじゃないな。
「普段は接点のないクラスのギャルが、同じクラスのオタクくんの部屋にやってきた」
なにそれ、シュチュエーション設定から話すの?
結構、ガチでやるんだな。
「オタクー、遊びに来たぞ! “路上戦闘”の新作でたんだろ?
アタシにもやらせろよ!」
「オタク、強いな!
アンタってこんなにゲーム上手かったんだ。すごいよ!
って、もうこんな時間か――これからバイトなんだよね。
その……また、来てもいいか?
……迷惑じゃなければ」
「はい、終了――!」
キララは自分で盛大な拍手を叩く。
「思ってた方向性とは違うけど、よかった。
普通に刺さったぞ……」
ギャルに褒められるって、なんか嬉しいよね
自己肯定感爆上がり
こんなギャル、クラスにほしい!
どうして、俺の人生はこんな子がそばにいなかったんだ。
「レイ先輩、上からだねぇ。強者の余裕かな?
次はレイ先輩の番だかんね」
「俺は、ある日、リスナーの一人を公園に呼び出した。おもむろにポケットから、不格好なクッキーを手渡した」
「いつも、応援してくれてありがと……。
これは、たまたま作りすぎただけだから。
なにニヤニヤしてんのよ、
あんまり、調子に乗んないでよね?
……それと、このことはみんなには内緒ね……こんなことするの……あんただけなんだから」
うぉぉぉ!
破壊力パネェ
やばすぎる
裏で実際やってんだろ
普段とのギャップがエグい
過去一でコメ欄が沸いている。
正直、自分で言ってて恥ずかしい。
「レイ先輩……なかなかやるわね……
それじゃ、みんな、アンケート貼るから投票してよ!」
キララが手際よく、アンケートを貼り出す。
俺とキララの配信で投票して、ひとまとめにする。
「それでは――ダララララララララ――」
キララが口でロラムロールを奏でる。
「じゃん!」
霧雨レイ――78%
袖羽キララ――22%
「レイ先輩の勝利でーす!
なかなかに強敵ね……」
「やった……」
よろこでいいのか微妙だけど、男心なら誰でもわかる。
俺たちのリスナーの7割は男だからな。
「第二回戦は俺からするか」
「バレンタイン当日、部活の後輩の女の子から呼び出された――」
「えっ、チョコレート?
俺にくれんの、ありがと――あっ、でも俺、チョコとか作ってないわ」
「そうだな、これで勘弁してくれるか?
――チュッ」
俺はV体で、画面越しのキスを演出した。
百合展開アツい
レイ様――濡れました♡
こんな先輩いたらメロつきます♡
きゃー!
「レイせんぱーい! ヤバい! えぐすぎ!」
なんか、キララまで興奮している。
「路線を変えて、女の子にもファンサービスをしてみたんだけど……」
「これは、アタシも負けられないね!」
キララが変に燃え上がっている。
「行くわよ!」
彼女は設定の前置きはせず、いきなりシチュエーションボイスから入った。
「あっ……オタクのおっきい♡
……アタシ、こんなの無理……あっ、あっ、おかしくなりゅ〜!」
キララが吐息混じりに喘ぎした。
「おいおいおい、やめろやめろ!
お前は何を言ってんだ!」
危ないって、マジでバンされるぞ。
ルミナスイリアのコンプラ研修、どうなってんだよ!
俺は、慌ててキララの言葉を遮る。
「何って、オタクに作ってもらった恵方巻きを、食べてるだけだけど……」
「そんなシチュエーションに誰も聞こえてねえよ!
恵方巻きに謝れ!」
「レイ様先輩ってば、エッチだね〜」
レイちゃんの心が穢れている
これは、健全な恵方巻きシチュだ
キララちゃん最高にいい
リスナーはなぜかキララの擁護に回っている。
「これは、俺がおかしいのか?
それに、恵方巻きシュチュってなんだよ。
初めて聞いたワードだよ」
アンケート結果に移る。
霧雨レイ――44%
袖羽キララ――56%
思ったより接戦だった。
「意外と危なかった。
レイ先輩、やるねぇ〜」
「まったく、危ない新人が入ってきたもんだよ」
初回配信は、引き分けにて終わった。
まったく、この子の取り扱いには注意が必要だな。
――この配信動画は、
もれなく収益停止を食らった。




