18話 廃棄パーティー
大量に積まれたコンビニ弁当、サンドイッチ、デザート。
厳選された売れ残りたちが、俺を包囲している。
桃先輩のピンク一色のメルヘンな部屋に気圧されながらも、もふもふのカーペットの上に腰を下ろす。
「泉くん……私の下着とか漁ってないでしょうね?」
桃先輩が紅茶を淹れ、部屋に戻ってきた。
「頼まれても、漁りませんよ」
「いや、せっかくチャンスをあげたんだから、そこは漁れよ!」
食い気味に桃先輩は、発狂する。
「お腹減ったんで、食べましょうよ」
「てか、泉くん。女性慣れしてるのね。
私の部屋に入っても緊張一つしてないから」
「女性?」
「えっ、なにそのリアクション。
私は、女性に見えないっていうの?」
「生物学的には女性に見えますよ」
「まてまて、すごく含みのある言い方ね。
そんなこと言うなら、電子レンジを使わせてあげないわよ」
「桃先輩、今日も綺麗ですね。生物学的に」
「むぅー、なかなか手ごわいわね」
桃先輩は相変わらずだ。
彼女といると、どこか和む自分がいる。
――一瞬、舞ちゃんの去り際の顔がよぎる。
「泉くん。もしかして、何か用事があった?」
桃先輩は少し顔を伏せる。
「いえ、桃先輩と過ごせて幸せですよ。
さ、食べましょうよ」
「9/12 泉くんが私の魅力に落ちる」
彼女はおもむろに、手帳にペンを走らせる。
「なんで、今、日記を書いてるんですか!
それに、落ちてないですよ。桃先輩の魅力は人間には図れませんから」
「やっぱり、君は他のどの男とも違うわね」
「バカ言ってないで、弁当温めてください」
「ほほう、女性は黙って、男に従えと……君は意外にも亭主関白なんだね」
「変な要約しないでください」
前言撤回だ。この人といると疲れる……。
「お弁当どれ食べたい?」
「のり弁かな……」
「なるほどね。なら、私は銀鮭弁当かな。
温めてくるね!
ちなみに下着漁りチャンスよ」
そう言って彼女は再びキッチンに向かった。
本当に漁ってたらどんなリアクションをするのか、逆に気になってきた。
ま、漁らないけど。
「おまたせ……」
少しして、桃先輩がお弁当を抱え戻ってきた。
「ありがとうございます」
箸を受け取り、蓋を開ける。
「……で、どうだった?」
「桃先輩の下着ですか?
可愛いの履いてますね」
「……えっ、本当に見たの?」
なぜか彼女は両手で顔を覆い頬を赤らめる。
「しかも、意外といい匂いでしたね」
「ちょ、匂いまで嗅いだの!?」
彼女は突然、叫び、慌てふためく。
そんなことは断じてしていないが、
桃先輩の反応が面白かったので、誤解は解かないことにした。
§
「ふぅ〜食べましたね」
「私もお腹いっぱい」
「桃先輩、意外と食べるんですね」
それでも弁当二つにサンドイッチとデザートは、食べ過ぎだと思うけど。
「もしかして、引いた?」
「そんなことないですよ。
よく食べる女性って、見てて気持ちいいですから」
「泉くん……」
桃先輩の表情にわずかに影が落ちる。
「桃先輩?」
「私ね、よく周りからとか付き合った男の人から、ガサツとか女っ気が足りないって言われるんだ……自分でも、わかっているんだけど……どうしようもなくて」
桃先輩の気持ちは痛いほどわかる。
周囲の期待と自分が乖離していく――境遇は違えど、根っこの部分では同じことだ。
周りの期待に合わせようと自分をどんどん追い詰めてしまう。
こんな、弱々しい桃先輩は初めて見た。
ありのままの自分を受け入れてくれたら、
どんなにいいか。
「桃先輩は、今のままが素敵なんです。
品がなくて、変なボケが多くて……それでいて愛嬌がある。そんな桃先輩が僕は好きですよ」
「ズキュン!」
「なんですか、その効果音は……」
「恋に落ちた音よ……」
「また、小ボケですか」
§
互いの近況を話して、気づけば深い時間になっていた。
「それでは、そろそろお暇させていただきます。
今日は、ありがとうございました」
「こっちこそ、手伝ってくれてありがとう」
「……また、遊びに来て」
桃先輩の口元がかすかに動く。
「えっ、なんて言いました?」
「……ううん。なにでない。それじゃあまたね!」
桃先輩が、笑顔で手を振る。
少しばかり、憂いを帯びていたのは、
――たぶん気のせいだろう。




