17話 旧友
早朝――スマホの鳴動で目が覚める。
「もしもし……」
起きがけで表示は確認していなかった。
「あ、泉くん。久しぶり……」
「その声、桃先輩?」
「あ、ふーん。もう、過去の女は忘れてるって?」
「誤解を生むような言い方はしないでください」
「私に連絡も残さず、バイトを辞めちゃってさ……夜もあんなに可愛がったのに……」
「夜勤、一緒に入っただけでしょ……で、用件は?」
まったく、この人は昔からこの調子だ。
「はぁ、冷たいなぁ……泉くん。
そんな君にお姉さんからお願いがあります!」
「仕方ない、聞くだけ聞きますよ……」
「今日さ、一人病欠がでてさ、急で申し訳ないんだけど、一緒に働いてくれない?
店長には許可もらったからさ!」
「えぇ~」
正直、面倒くさい。
贅沢はできないけど、普通に食べていけるぐらいは稼げてるしな。
「来てくれたら、お姉さんがデートしてあげるから!この通り!」
「それ聞いて、余計行きたくなくなりました」
「なっ、可愛い先輩ランキング第3位の私の誘いを断るなんて……」
「バ先の先輩って、三人しかいないじゃん。
実質最下位か。てか、他の二人はおっさんだし。
それに負けるってどんだけなんだよ」
「おっ、相変わらず鋭い切り返しだね」
まったく、この人は……。
§
結局、三十分の押し問答の末、
俺はコンビニのレジに立っていた。
薄い茶髪の女性が俺の隣で満面の笑みを浮かべている。
内側にカールした髪と、はっきりとした目鼻立ちをしていて、桃先輩は喋らなければ美人だ。
「なんか、今、失礼なこと思ってない?」
うっ……変に鋭いな。
「いえ、桃先輩って、相変わらず綺麗だなと思って……」
「えっ、ちょっと、なによ……ま、まあ私は綺麗だもんね。そんなの言われなくても、わかってるわよ」
途中まではよかったが、相変わらず可愛くない反応をするのが非常に残念だ。
天は二物を彼女に与えなかったようだ。
桃先輩に品出しを任せて、俺はレジ周りの対応をしていた。
「いらっしゃいませ――!?」
三人組の客が自動ドアをくぐる。
「海人……まさか、こんなところで会うとはな」
「充……」
懐かしい元チームメイトと、その後ろに見慣れない若い短髪の男――そして、隣には……舞ちゃん!?
「えっ、泉くん……ここでバイトしてたんだ」
舞ちゃんは目を見開き、口元に手を当てる。
「なんだ、お前ら知り合いか?」
充は茶色い癖っ毛をイジりながら、俺たちの顔を見合わせる。
「は、はい、お隣さんなんです」
「そうか……」
充は、さして興味がなさそうに軽く息を吐く。
「充さん、こいつが泉海人っすか?」
短髪の男は俺の顔をまじまじと見る。
「あなたは?」
「お前の後任だよ」
充が代わりに答える。
「須藤っす。あんたが、堕ちたプロゲーマーね。VRについていけないとか、どんだけ年寄りなんだよ」
……こいつ!
今は客だ。
俺は、怒りを腹の中に押し込んだ。
「なんだ、何か文句あんのかよ?」
「やめないか、須藤――」
「あなたに何がわかるんですか!」
充の言葉を遮り、舞ちゃんが声を荒げる。
「海人くんは、誰よりも努力してきました。
私や他の人にたくさんの興奮と希望を与えてくれました。それを否定する権利は須藤さんには、ありません!」
……舞ちゃん。
「なんだ、この下手くそが……誰にもの言ってんだよ!」
「だまれ、須藤」
充の静かな声が響く。
「充さん……すみません」
須藤はおずおずと下がり、充に頭を下げた。
「お客様、どうかされましたか?」
桃先輩が、騒ぎを聞きつけ駆けてきた。
「なんでもない。騒いですまなかった」
充は、須藤の代わりに頭を軽く下げる。
「二人とも帰るぞ」
充は買い物もせず踵を返す。
自動ドアの前で、充が足を止めた。
「泉……いつまで燻っているつもりだ。
俺は……上で待っているぞ」
充はそれだけ言い残し、二人を連れて出ていった。
去り際に、舞ちゃんが不安そうにこちらを見ていた。
「泉くん……大丈夫だった?」
桃先輩が心配そうに、俺の顔を覗き込む。
「はい……大丈夫です」
充のやつ、好き勝手言いやがって。
上で待っているか……。
「泉くん。今日、一緒に廃棄パーティーしない?」
「廃棄パーティー?」
「コンビニで出た、廃棄で盛大に盛り上がろうぜ!」
「盛り上がろうぜって、桃先輩と?」
「なんで、嫌そうなのよ」
「別に嫌じゃないですけど……」
「もしかして、さっきの可愛い子、彼女さん?」
「そこまで見てたんですか。
……ただのお隣さんですよ」
「ふーん。なら、よかった!」
何がよかったんだか……。
ため息とともに桃先輩のお誘いを受ける。




