レ・アブラゼミ。
ありがとう
エピローグを語ろう。
「ここに住みたい」
ビリド氏はウッドランドのすぐ近くの『キャベ老』が住んでいた廃屋に住みたいと言い出した。
ニャームズは『尊敬するキャベ老の住んでいた特別な場所』に新しく猫が住み着くのは少し抵抗がある様に見えたが、私はビリド氏がこの町に住んでくれるというなら大賛成である。
「蝉川の『ハカモリ』もしたいし、キャベツも気に入った」
ビリドはキャベ老のお供え物のキャベツをムシャムシャと食べている。
お供え物を捨てるのも腐らせるのも勿体ないが食べたくもないと思っていたら
「俺。キャベツ好きだよ」と食べ始めた。
廃屋に住むキャベツが好きな老猫。
『二代目キャベ老』
の誕生の瞬間である。
「……キャベ『老』って。7才はまだ若いだろ!」
とビリド氏は笑ったが、ヤングキャットから見たら私はおじさん猫だし、ビリドは立派な老猫だ。
「これはここに飾ろう」
「……それは?」
「俺の宝物さ」
蝉の脱け殻だった。
ビリド氏が宝物と言うならばきっと蝉川氏の物だろう。
「蝉にも文化ってのはあるんだよ。『友がいる蝉は脱け殻をその友にあげる』そして『その友が死ぬ時は脱け殻を一番世話になった奴に渡す』ってな。蝉が生きた証のリレー……『レ・アブラゼミ』ってヤツさ。大体の蝉はそんな友なんて出来ないし、渡しても蝉の脱け殻なんて誰も取っておかねぇよなぁ……」
私とニャームズを稲妻の様な衝撃が襲った。
私たちの家にも『蝉の脱け殻』はある。
初代『キャベ老』から貰った脱け殻……。
私たちはいつの間にか『レ・アブラゼミ』という物語の登場猫物になっていたのか。
「あなたはここに住むにふさわしい猫だ。『キャベ老』」
ニャームズは今度こそ心から新しいキャベ老の誕生を喜んでいるように見えた。
「僕は運命って言葉を簡単には使いたくないが……これは間違いなく運命だな」
……
夜中。
ニャームズは『記憶石』を一つ一つ額に当てていた。
何を思い出しているのだろうか?
なんとなく話しかけづらいなーと彼の背中を見ていたら彼は一猫語なのか私に話しかけているのか分からないトーンでボソボソと
「麻薬とは恐ろしいね。今回の事件は『大麻』という麻薬が多くの動物と人間に『悪い影響』を与えた。僕も好んでタマネギなんぞをかじっていた頃もあったが、あれはよくなかった。僕が麻薬をやることで不幸になった動物もいたかも知れない。本気で止めてくれた友がいた僕は実に幸運だった。僕は二度とタマネギを食べないだろう」
と言った。
なので私は
「そうしろ」
と言った。
ニャームズはこの夜。
眠らずに朝が来るまで記憶石を額に当て続けた。
ニャーロック・ニャームズ
『セミ殺蝉事件』
……完。
ございました




