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夏の終わり。

 翌朝。

『ハインとセミィ嬢と再会してくるよ』

 とニャームズは雲丹伊倉に向かって旅だった。

 彼には鰹が丘に『マーク』している車が何台もあり


「『雲丹伊倉』ナンバーの車に忍び込んで昼寝をしていればすぐ東京だ」と 言っていた。


 彼は『人間文字学』にも肉球を出していた様だ。

 いつか彼が二本足で立って人語を話し出しても私は驚かない気がする。

 しかし二匹から場所の特徴を聞いていたとしてもそんな簡単にたどり着けるのだろうか?


 ハインはともかく『セミィ嬢』と再会する……ね。

 セミィ嬢はビリドによって『お菓子の袋』に包まれ『マイソウ』されたと聞いたが……掘り起こすつもりだろうか? 

『遺体の確認をしない訳にはいかない』とニャームズは言ったが、何となく私は眉が八の字になってしまう。


 ……まぁ蝉川氏は余命わずかだし、その友であるビリド氏も置いてはいけない。

 慣れない土地で二匹きりにしておくのも酷だ。

 適材適所。

 私は彼に言われたとおり二匹を観光案内した。

 犬車に乗って回る『鰹が丘観光ツアー』を彼らは大変気に入ってくれた。



 事件の終わりは突然に訪れた。



 この日は肉球を延ばし、東京とは比べ物にならないが、『少しだけ都会』に来た我々が『街頭テレビ』を見ていた時である。

 テレビから


『雲丹伊倉大学の学生大麻栽培で逮捕』


のニュースが流れてきた。


『逮捕されたのは⚪⚪容疑者。⚪⚪容疑者……串田ナツキ容疑者……』


 なんというタイミングだろう。

 蝉川氏は街頭テレビをジジジっと鳴きながら見ていた。


「……センパイにナツキ。終わったのか……?」


「オイッ!」


 蝉川氏は腹を向けて倒れた。

 私とビリド氏は慌てて人通りのない場所へ彼を運んだ。


「……ありがとう。ビリド。それだけだ」


 蝉川氏はそう言った。

 これが氏の最期の言葉となった。


「……おう。こちらこそありがとう」


 ビリド氏に見送られ、蝉川氏は眠るように息絶えた。


 ビリド氏は死骸になってしまった蝉川氏を何時間もジッと見ていた。

 私も彼の気が済むまで隣にいた。

 日が沈む頃。

 ようやくビリド氏は口を開いた。


「何年もかけて覚悟したんだけどね。やっぱり本番は全然違うな。ショックってやつがさ……」

 

 ビリド氏はそれから30分。

 静かに静かに泣いた。

 

……


 その後の話をしよう。


 ニャームズは夜に帰ってきた。

 マッチのから箱を半分だけ開け、蝉川氏の安らかな死に顔を見ると肉球を合わせてニャムニャムと祈った。


「……さて。ハインには会えた。彼に大麻の事を伝えるとひどく動揺したよ。心が痛んだね。でも彼は決断した。『正義を背負う』事をね。彼が大麻畑に警察を連れていき、全員が逮捕となった。正義を背負い、彼は立派な警察犬になった。だが立ち直るにはきっと時間がかかるだろう」


 ナツキが逮捕された時期も良かったとニャームズは言う。


「『ナツキ』とは夏に生まれたという意味らしい。彼は大学二年生。19才の可能性があったが……20を迎えていたようだ。人間の世界では19を子供。20を大人とするらしい。どうせなら僕は彼に『大人として責任を取ってほしい』と思っていたんだ」


 ニャームズが『8月に事件を解決する』のを悩んだ理由の一つが分かった。

 8月は夏だ。

『9月まで事件を引き延ばしたい気持ちもある』というのもそういうことだろう。


「『センパイ』についてはなんの心配もしていなかった。19の彼のセンパイなら大人だろうからね。ハルキは『善意のプレゼントを大人達に利用された子供』となるだろう」


 その夜は三匹で飲めもしない樹液の固まりを舐めながら蝉川氏を囲み、ビリド氏が語る蝉川氏との思い出を聞いた。




 翌日の昼。私たちは蝉川氏の『マイソウ』をしていた所だった。

 遺体はウッドランドに埋める事にした。

 私のアイデアだ。


「セミィ嬢の故郷に埋めるってのはナイスアイデアだ」


 そう言ってニャームズはハンカチに包まれた『何か』を蝉川氏の隣に埋めた。


「セミィ嬢だ。彼女を掘り起こして埋め直すってのは抵抗があるかい?」


「いや。それもまたナイスアイデアだ」


 お菓子の袋には乾燥剤が入っており、腐敗が進んでいなかったとニャームズは言った。


「どうしても蝉川氏には言えないことがあった。それは『セミィ嬢がオス』だということだ」


「えっ?」


「はっ?」


「蝉が鳴くのはオスだけだなんだよ」


「ええっ!?」


 蝉川氏は『オスに求愛していた』事になるのか……。


「……蝉川に言わないでくれてありがとよ。恋した蝉がオスだと知らずに死ねたんだか……」


「どっこいビリドさん。セミィ嬢はメスだったんです」


「いやいや。今あんたが蝉はオスしか鳴かないって……」


「僕が検死したところ。セミィ嬢には『腹弁』と『産卵菅』が『両方あった』んです」


『?』


 私とビリド氏は顔を合わせて首をかしげた。

 『ふくべん?』『さんらんかん?』


「彼女は『鳴くことの出来るメス』だったって事さ」


「……奇跡だ」


「奇跡さ」


 ニャームズは二匹の墓にケナフの種を埋めた。


「代用さ。大麻を植えるわけにはいかないからね。……どうか安らかに……」 


 




 


 

 

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