SNS『蝉の鳴き声ソーシャライズ』
「彼女との出会いはSNSでした」
「SNS?」
「……SNSとは」
『S (蝉の) N (鳴き声の) S (ソーシャライズ)』
の略らしい。
まぁ『ミーンミンミンミーン』と鳴いたら『ミーンミンミンミーン』と返してくれたみたいなものだと蝉川氏は言った。
蝉独特の鳴き声での交流って事か。
初めてのSNSで緊張していた蝉川氏に初めて『いいね』と言ってくれたのがセミィ嬢だった。
初の『いいね』をくれたセミィ嬢に蝉川氏は好意を持ち、その後SNSで交流を続ける内にその好意はどんどん強くなっていったと言う。
「俺は毎日ミンミンミン五月蝿くて堪らなかったけどね」
それでもどこへも行かず、毎日木の下で聞いていたのだから、ビリド氏はやはり蝉川氏の良き友なのであろう。
「私と彼女には一つの共通点がありました。それは「土の中にいた時に猫の話し相手がいた」事です」
そんな珍しい境遇の蝉が同じ東京雲丹伊倉で出会った(?)のだ。
運命を感じるのも仕方がない事であろう。
「彼女はニャームズさんの事を。私はビリドの事をよく話しました」
「SNSで?」
「はい。SNSで」
ニャームズ目を閉じて額に肉球を当てて搾り出すような声で「……そうですか」と言った。
何かに気がついたような。
何かを諦めたようななんとも切ない顔をしている。
……前にもどこかで見たことがある顔だな。
「充分に仲良くなったなと思った私は思いきってDMをしました」
『DM』……『ダイレクト・ミンミン』。
「意味は?」と聞くと蝉川はあっさりと「交尾のお誘いですね」と言った。
私の顔が少し赤くなった。
『子供を作るために交尾する』……そんなことは動物だろうと昆虫だろうと当たり前の事なのに、私はなんだか照れてしまう。
……いやー、しかし最近の若者はなんだかなー。
SNSで知り合った顔も知らない蝉と交尾かー。
そうかー。若いなー。
……いや、蝉川氏は私より大分年上な訳なんだが。
「でも交尾は出来なかったと?」
「その通りです! ニャームズさん。私は怖くなってきましたよ。あなたはもしかして東京にいたんじゃないですか? 私が会いに行くその日に彼女は殺されたのです。しかも『右腕が網』の人間に!無傷で!」
「はぁっ?」
右手が網? 右手から網が生えてくる人間もいる……のか?
私はとある事件を思い出した。
その事件で私たちは『義手』という機械の手を人間が作れると知った。
「それは義手かな?」
私がニャームズに小声で訊いてみると彼からは
「右手を網にする人間はいないだろ」
という至極当然な答えが帰ってきた。
「あと殺されて無傷ってのは……」
「いよいよ会えると楽しみにしていたのに……彼女はSNSで最期まで私に助けを求めていました」
『助けて! 蝉川さん! 怖い! 顔が! 唇が捻れた男。 女が……とにかく人間が私を殺そうとしている!』
唇の捻れた男? 男か女か分からない……? 右手から網の生えた?
男か女かわからない人間がいるのもある事件で知っているが……。
「……忘れられない。日向にいても少し涼しい爽やかなあの日の事を……でもね? 彼女はかなり変な事を言っていました。『ここは夜だから太陽の方へ逃げるわ』って。あっ。その前にも変なことを言っていたな……そこから話さないと。ねぇニャームズさん。私。少し興奮していますよね?」
「いえいえ」
ニャームズはそう言ったが、私も蝉川氏は少し興奮気味だと思う。
愛する者が殺された日の事を語るのだから仕方ないだろう。
先程までと比べると少ししどろもどろというか、時系列が分かりにくいが、ニャームズはどんな話でも理解しているだろうし、後で私にも事件について分かりやすく説明してくれるだろうから問題はない。
「……」
ニャームズはまだあの切ない顔をしながら時折天井を見上げて目を閉じる。
何を考えているのかわからないなと思う私に彼は猫耳打ちをした。
「憂鬱だぜ。ニャトソン。僕は今、ほとんど事件の真相について分かってしまっているのだが、彼の話を聞き始めてから逃げ出したいほどの『問題』が何個か増えた。さあて。どういう順番でどの様にするのがベストなのか……僕は正義をどう背負うかな?」
「えっ?」
ニャームズは既に事件の真相に肉球をかけているらしい。
一体このオスの頭のなかはどうなっているのか。
私はまだ事件の全容さえ見えていないのに、彼はこの事件どころか『次の問題をどう解決するか?』について考えていたのだった。




