16. ぼくじゃない
体中が熱くなってきて、怒りが充満していくのがわかった。おじいさんはぼくの手を取り、「さあ、決めるのじゃ」と問いかける。ぼくはおじいさんの手を強く握り返した。
「ください、力を」
そう言った途端、おじいさんがぼくを強く引き寄せた。空間がぐにゃんとゆがんだ。なんだ、この気持ちの悪い感覚は。おじいさんがすうっとぼくの中に入ってきて、見えなくなった。心臓をぎゅっと握られ、ぼくは、ぼくでなくなった。
「行け、練成所へ!」
ぼくじゃない誰かが、そう叫んで左右の高下駄をカツンと打ち合わせた。ぼくの意思とは関係なしに体が動いていた。
練成所の前にいた。
ファッ、ファッ、ヒィ、ヒィ、ヒヒヒヒヒ、グワッハッハッハッー!! 勝ち誇った恐ろしい笑い声を出した。ぼくの声じゃない、でもぼくの口から出ている。
「ついに来たぞ。お前のおかげで結界を破った。わしの勝利じゃー」
練成所から、天狗たちが飛び出してきた。
「お、お前は……」
「青の天狗……!」
「入れさせるかっ」
一人の天狗が団扇を大きく振ったが、ぼくが取りだした団扇の風のほうが強かった。天狗たちは思い切り吹き飛ばされた。ぼくは空気を蹴って、右へ、左へと体をそらす。
「無駄じゃ、無駄じゃー。蓑を着ていようが、わしには全部お見通しじゃーー」
高下駄でけり上げると、何かに強くぶつかった。めりこむ感触、鈍い音。
「うっ」「ぐわあああ」
蓑が取れて、天狗たちが姿を現す。おなかをおさえる者、顔から血を流している者、ぐったりして動かない者。ぼくが――ぼくがやった?
後ろからはがいじめにされた。ひっくり返る。2、3人の天狗に取り押さえられるが、ぼくは楽々と蹴り飛ばした。腕をふりあげるたび、足をふりまわすたびに、大勢の天狗が倒れ、ぶつかり、血を流していく。
ぼくは雄たけびをあげて狂ったように暴れまくる。いやだ、こんなことをしたかったわけじゃない。ただ、ただ――ちょっとこらしめられればよかったんだ。




