15. 力がほしい
「そうじゃ、力があれば最強じゃ」
え? あたりには、誰もいない。
「力がほしいじゃろ」
今度は耳元ではっきりとささやかれた。
びくっとして後ろを振り向くと、おじいさんがぼくの背中にぴたりとくっついていた! 高下駄をはいた背の低い、ガリガリに痩せたおじいさんが、後ろで手を組んで。顔はしわだらけだ。
気配はまったくなかった――。背筋が寒くなる。
「わしも天狗なんじゃよ。お前さんと同じ」
おじいさんは不気味に笑った。歯が何本か、抜けている。妖怪みたいで、ぞっときた。
「わしはもう歳じゃから、そろそろ自分の力を誰かに譲りたいと思ってな」
「譲る?」
「そう。将来有望な者に」
「……」
おじいさんの目をじっと見ると、おじいさんもぼくを見返してきた。その目がみるみる大きくなり、鋭くなり…。
痛い! ぼくは強い力で後ろに飛ばされ、もんどり打った。一瞬の出来事で、地面にぶつかった自分が理解できなかった。
「こういう力もある。まだ序の口じゃがな」
ぼくの肩や手の激痛は、たしかに現実だ。遠くに立っていたはずのおじいさんは、瞬間、もう目の前にいて、ぼくを抱き起した。
「いじめられてるんじゃろ? 悔しくはないか」
山田の顔が浮かんできた。もちろん、悔しい。やっつけてやりたいさ。さっきの伊藤さんの、情けない姿。ぼくの中の怒りが燃え上がった。
「お前はわしが見込んだ有望な者じゃ。お前にならこの力をやろう」
ほしい! あの力が、あれよりもっと強い力が。
でも一方で、簡単に力が手に入るわけはないという理性も残っていた。練成所で見たじゃないか……。伊藤さんは2年も鍛えてて、まだまだだって言ってた。
「心配することはない。なにごとにも、例外、というものがあるじゃろう? お前は例外、そう、特別なんじゃ」
特別、という言葉を聞いて、気分がよくなる。体操教室でも、特別うまい生徒は目をかけられて特別練習をしてもらえる。うらやましかった。
「もらった力であいつらをやっつけろ。それだけのことを、あいつらはしてきたじゃろ?」
おじいさんはやさしくささやく。「我慢してきたんじゃろ。もう我慢することはない。怒れ、思い切り怒れ。それが力になるんじゃ」。




