17. 三吉
ぼくの右手に飛びついてきた天狗は、伊藤さんの担当だった山木さんだった。すでに口から血を出していた。着物もやぶれて、腕からもどっと血があふれている。
「何も知らない子をたぶらかしやがって……」
山木さんはぼくの腕に思い切り噛みついた。
「ぐあああああーー」。痛みに怒りが煮えたぎり、左手で山木さんの頭を押さえつけ、髪を思い切りちぎった。ごっそり髪がぬけたが、それでも山木さんは必死に噛み続ける。
山木さんの家はお父さんが小さい頃に病気で亡くなって、お母さん一人で山木さんと妹と弟の3人を育てているんだ。生活が苦しいから、山木さんは高校に行くのをやめて、運送会社で働き始めたんだよ。
山木さん――。伊藤さんが話してくれた山木さんの話が、頭の中にわいてきた。
「いやだああああああー」
ぼくは全力で山木さんを引きはがした。その勢いで山木さんは数十メートル先へとふっ飛んだ。
今のは、ぼくの意思だった。まだ完全に乗っ取られたわけじゃない!
しかし、ぼくはまたおじいさんの力にねじふせられた。
追いすがる天狗たちを突き飛ばしながら、練成所の中へ突入する。四方八方から飛びかかるぼくくらいの子どもも、女の子もかたっぱしから投げ飛ばし、蹴散らし、すさまじいうなり声をあげて、廊下を爆走する。うめき声、叫び声、すすり泣く声、声、声。
やめてくれ! ぼくは必死で止めようとしたけど、もう止まらなかった。だめか……。
その時。奥の闇からものすごい「気」が襲ってきて、ぼくは正面からぶつかった。もんどりうって何回転もし続けてから、壁に激突してやっと止まった。
「青の天狗、三吉よ」
鼓膜が破れるかと思うほど大きく、威圧的な声に、建物が揺れた。
「これから先へは行くことはできぬ。わかっておるだろう」
「なにおっ!」
立ちあがろうとしたが、いくらあばれても、両手両足がぴくりとも動かなかった。見えない鎖につながれているみたいだ。
「お前の力はしょせんそこどまり。同盟を裏切ったのを忘れたか」
きいいーん。声が骨にまで響いた。これは――これは天狗の神様の声か? うむをいわせぬ、圧倒的な力を感じる。怖い、姿は見えないのに、こんなに怖いと感じたのは生まれて初めてだった。
クソッ。三吉は歯ぎしりをした。




