79、風呂と接吻
制限とかがちょっとよくわかんないんですけども、一応口付けシーンあるので気をつけてくださいな。
それから今回は一人称で書いてます。
先に謝っておきます。申し訳ございませんでした。
入団試験まであと三日となったギルドの中で、俺は自室に向かって歩いている。
もうすぐ夏とはいえ、この辺りは比較的気温が低い。だから、廊下には誰もいないためかかなり冷え込んでいるのだ。
早く風呂で温まって、布団に潜って眠りたい。
そんなふうに思いながら、俺は自分の部屋の扉を開け、中に入った。
「あっ、し、シノン………っ」
妙に顔を赤くしているカルナを見ながら。
「………ん?どうした?」
「…………………………」
うつむいたまま耳まで赤くしている彼女の返事を待つことたっぷり一分間ほど。カルナはやがて意を決したかのように表情を引き締めて、俺の目の前まで歩いてくる。
「い、一緒に………お風呂に入らないか?」
「………………………………………」
一瞬、いや、数秒ほどか?
俺はカルナが何を言っているのか理解ができなかった。おそらく俺の顔は普段の俺ではない呆然としたものだっただろう。
いきなりの彼女の申し出に戸惑いが隠せず、思わず聞き返してしまった。
「…………えっと、俺の聞き間違いじゃなきゃ、風呂に入ろう……と言ったか?」
「そっ、そうだ」
「えっと…………」
片手を自分の首筋に当てて視線を逸らしつつ、俺は再び口を開く。
「なぜか、聞いても?」
「あっ………いや、その………そう!私たちはもう結婚したも同然なんだから、た、たまには良いじゃないか!」
「っ…………!?」
確かにそうだ。俺達はまず友人から始まり、恋人となり、すぐに婚約者となった。カルナの父親であるジュミネスと母親であるキリカもああ言ってたし、結婚したも同然だ。
ロウにはまだ恋人になったことすらまだ話していないが、カルナのことは気に入ってたようだし、問題はないと判断している。
しかし、いきなり言われても………と言う自分と、何がしたいのか分からない、という自分がいる。
別にカルナが嫌いなわけでは決してない。むしろこれ以上ないほどに愛してる。けれど、それとこれとでは話が別だ。
女と接する男には大まかには五種類ほどの者が存在する。女の素肌―――即ち裸を積極的に見たいという者、逆に見ては女性に失礼だと言う者。そして、どこの誰でも可愛ければいいから自分に戯れてほしいと願う者と、一途に相手を愛し、愛されたいと願う者。最後に、女自体に特に興味を示さない者。
俺の場合はカルナに一途に接し、それから同時に彼女に愛されていたい。彼女が前に、自分を周りに自慢して回りたいと言っていたように、俺もできるものならば彼女を周りの男に自慢してやりたい。
少なくとも俺はカルナをそう思っているわけで、だからこそ彼女の頼みや望みを拒むという選択肢がない。はずだった。
妙に挙動不審になっているところからして、カルナも相当な覚悟を決めたに違いない。
数日前は俺がいる部屋の中で堂々と着替えていたが、下着と裸では訳が違うのは俺にだってわかる。少し意味が違うかもしれないが、俺にも他人にはあまり見せたくないものが自分の身体にはあるからな。けど………。
「カルナなら…………」
「え?」
「……いや、お前がどうしても、って、言うようなら………いい、けど」
「本当に!?あっ……」
慌てて両手で口を抑えるカルナ。その仕草が可愛らしくて、俺は思わず頬を緩めた。その様子に安心したのか、カルナも肩の力を抜いて微笑を浮かべる。
「本当に、いいの……?」
「……いや、それはこっちのセリフだ。お前はこれから異性と風呂に入ろうとしてるんだぞ?恥ずかしいとは思わ――……」
「前にも言ったけど、私はシノンなら見られても良い」
顔はまだ赤いが、それでも真剣な表情で俺を見据えながら言った。
その笑みを見ながら俺はため息を吐き、しかし笑顔で、彼女の頼みを聞いてやることにした。
「………ああ。わかったよ。だけどその代わりにタオル、体に巻いてくれ。俺も男なんだからさ」
「わっ、わかってる!」
部屋の中に用意された風呂へと、俺はそのまま直行する。その後にカルナが慌ててついてきて、脱衣室に入る。
互いに無言のまま、背を向けて服を脱ぐ。恋人となって数年経つというのに、未だに互いの目の前で裸になったことなどなく、いざとなるとやはり無言になってしまうのだろう。
「先、行ってる」
「うん……」
先に着替え終わった俺は、その無駄に広い風呂の中へと入っていった。
腰にタオルを巻いて体を洗っていると、カルナも中へと入ってくる。
チラリと俺もそちらに視線を向ける。
白い髪に、白い肌。細くて華奢なその身体は、誰が見ても魅了してしまうだろうというほどに美しく、また魅力的である。
力を込めれば折れてしまいそうなほどに細長い腕は胸のところに置かれ、タオルが落ちないよう支えられている。
全く日焼けをしていない白い肌が、まるで白いタオルと一体化したかのようだった。
胸にある女性特有の双丘が谷間を作っていて、流石に俺でもそちらに視線が向いてしまうのは男の本能というものだろうか。
また体のラインもはっきり見えるので、俺は思わず視線を逸らした。
背中まで伸びた白銀の髪を揺らしながら彼女は俺の隣に座り、湯を出す魔道具である『シャワー』を手に取り、頭から湯を被った。
「シノン」
「ん?」
「………その、身体の、傷痕」
「…………ああ」
妙にカルナの顔が強ばっていると思ったら、そんな事だったのか。他人にはあまり見せたくなかった身体中の傷痕だが、カルナが俺に、は、裸を見られても良いと言ったのと同じように、俺も彼女にこれを見られても一向に構わなかった。
「………もしかして、嫌だったりする?」
「んなわけないだろ。カルナなら、俺は構わない。あ、お前が気に病むような事じゃないから気にすんなよ。俺に回復魔法が効かないのが原因なんだから」
そう。俺には回復魔法がほとんど効かない。それが理由で、少しだけ傷を塞ぐことは出来ても傷痕を消せるほど回復させることは出来ない。
だから、俺は他人より傷痕が多い。
カルナは優しいから、俺の身体中の傷痕を見て気に病んでしまうようなことは避けたいので、さして気にしていないという雰囲気を出しながら釘を刺しておいた。
頭から湯をかぶって前髪を掻き上げると、また、カルナがそっと話しかけてきた。
「ねえ、シノン。その顳顬の黒くて丸いのは?」
「ん?ああ、これか?」
俺は顳顬の左側にあるソレに手を当てて言う。
「さあな。小さい頃から……というか、ロウと出会った時に初めて鏡を見た時からあったよ。洗っても落ちないし……よくわかんない」
「痣………でもなさそうだよね」
「痣ではないと思うけど……まあ、悩んでもしょうがないし特に何も無いから、気にしてない」
俺の顳顬にあるソレ。大小二つの丸い玉のような『印』だ。左上には光沢のようなものがそれぞれ描かれていて、それ以外には何もない。
「ほら、洗ったら湯船に入ろうぜ」
「うん」
体を洗っているうちに慣れたのか、俺達は普通に会話をしていた。湯船も無駄に広くて、例え三人の男が入っても余裕なほどだろう。
俺がその中に入って座ると、カルナも俺の隣に座る。すると、またいつものように体をぴったりとくっつけた。
………考えてみれば、こうして肌と肌が直接触れるなんてのは初めてだったな。
「…………………」
「…………………」
無言の時間が続いた。
どちらかと言えばのぼせやすい俺だが、思っていたほど長く浸かってはいなかったようだ。
「…………シノン」
「どうした?」
「風呂から出たら、ちょっと付き合って」
「……?何に?」
「い、いいからっ!」
少し挙動不審になっている彼女に首を傾げていると、顔が赤くなって暑くなったのか、すぐに出ていってしまった。
ちょっと呆然としていた俺だが、彼女が服を着終わったであろうタイミングを見計らって湯船から出た。
…………が、足元がふらついてうまく立てず、入口の脇にある壁に寄りかかった。
しまった………いつの間にか俺ものぼせてしまったようだ。
その場に座り込み、朦朧とした意識のまま数分。なかなか出てこないのを心配したのか、カルナが脱衣所から俺を覗き込んできた。
「えっ、ちょっ!?シノンっ!?」
「ああー………のぼせただけだ。心配するな……」
「い、いや、いくら風呂の中でもこんな所で座ってたら風邪引くって!ほら、肩を貸すから、すぐに服を着て!」
「……おう………」
のぼせて頭が少しぼーっとしているせいもあってか、他人事のように感じていた俺だった。立ち上がった瞬間にめまいが襲ってきて、耳鳴りがする。更には視界がぼやけて、うまく歩けなかった。
それでも、ただのぼせて座り込んだだけでもこんなにも心配してくれる存在がいてくれるだけで、俺も知らぬ間に微笑んでいた。
めまいが治まってからカルナに手伝ってもらいながら服を着ると、早速とでも言うようにくしゃみが出る。
「っくしゅっ………」
「ちょっとー、本当に風邪引いてるんじゃ………」
風呂から上がって少し落ち着いたのか、カルナもいつも通りに戻っていた。だが俺はそれどころじゃなく、カルナが言った通り湯船から上がってしばらく服を着ていなかったので結構身体が冷えたようだ。
「よし、なら今日は一緒に寝よう!」
「は?一緒に寝るって、いつも一緒に寝てんじゃ――……」
「そうじゃない。同じ寝台で、だ」
「……………はっ?」
困惑する俺をそのままに、カルナは早速とばかりに俺の手を引っ張って自分の寝台へと導く。なんか、妙に積極的だな。
ぽふりと音を立てて寝台に座ると、強引とでも表現できるような動作でその隣に俺を座らせた。
「ねえ、思ったんだけど、さ」
「………?」
またも顔を真っ赤にして、カルナは言う。
「そ、その……まだ、一度しか、その……く、口付け、をしてないから。今度は、シノンから、やって欲しいなって……思ったんだけど…………」
「ああ………そう言えばそう、だったな」
思い返してみれば、俺はカルナから一度だけ貰った。しかしそれきりであり、その後は一度もしていない。このまま返事を待たせるのは可哀想なので、俺はすぐに答えを出した。
「よし」
短く呟いて、俺はカルナの目の前に立った。
なぜか、どこか不安気な表情で俺を見つめるカルナ。そのつぶらな瞳は、婚約者とまでなったはずの俺の心臓を大きく鳴らした。
「あっ、べ、別に、無理はしなくても――……むぐっ!?」
カルナの言葉を最後まで言わせず、目を瞑ってカルナの唇へ自分の唇を押し付けた。両腕を彼女の後ろに回し、片手で頭の後ろを抑えて逃がさないとばかりに強く抱き締める。
「ん………ぅ………」
カルナの喉の奥からそんな可愛らしい声が聞こえてくる。彼女は抵抗することなく、力を抜いて俺にその身を委ねてきた。カルナも俺の首に両腕を回し、そして何度も何度も、唇を重ね続けた。
カルナの柔らかい唇が、俺にはすごく心地がよかった。彼女は貪るように口を絡めてくる。最終的には、生暖かいものが口の中に入ってきて………。
って、どこでそんなの覚えた!?
内心でそんなことを思っていても、離れるには惜しかった。それほどに、甘くて、少しだけ苦くて、とにかく心地がいい。
ここまでするのは俺も初めてだが、こんなにも感触に敏感になるものなのかと少し驚いた。
「ん………ごめん」
カルナの唇が離れ、名残惜しさを感じながら俺も彼女の唇を解放しつつ目を開く。しかし、腕は離さなかった。
カルナも同じで、頬を紅潮させながら俺の目をじっと覗き込んでいる。
まだ続けたいのだろうか。まるで菓子をねだる子供のような目で俺を見ている。軽くため息を吐き、最後だぞとばかりにもう一度、唇を重ねてやった。
数秒間その体勢のまま固まり、俺は満足してカルナを解放した。
彼女も満足したのか、満面の笑みで強く抱きついてくる。そして、俺の耳元で囁いた。
「ありがとっ」
「ああ」
おそらく妙に積極的だったのは、俺としばらくパーティが組めなくなっている不満やストレスからだと思う。
仕方の無いことだとわかってはいても、俺もカルナとパーティが組めないのは不満以外の何物でもないのは間違いない。
それでカルナは我慢ができなくなり、攻めてやろうと思った。といったところだろうか?
まあ不満やストレスを我慢して抱え込むよりは全然マシだし、俺も悪い気はしない。
「あと三日だ。その後にまた、な」
「え、いいの?」
「もちろん。一度やれば慣れたもんだな」
「ふふっ、どうせなら同じ部屋に二人だけの時は、毎日やろうよ。あ、それとお願いの約束、忘れないでよ?」
「当たり前だろ。何が悲しくてお前との約束を破るんだよ?」
「それもそうか」
カルナは俺の首から離れて、再び寝台へと座った。
「ほら、寝よ?」
「……ああ」
俺も微笑みながら明かりを消し、カルナにそう返事をして一緒に寝台へと潜った。
「ん……ぅ……ぁ?」
寝ぼけたままゆっくりと目を開けた俺の視線の先には、誰かの顔があった。しばらく考え込んで意識が覚醒してくると、それが誰のものなのかを察して一瞬だけ抵抗しようとする。
だが、両手をがっちりと寝台に縫い付けられており、身動きが取れない。よく意識してみれば唇には柔らかいものが当たっている。
それがしばらくして離れ、その深く青い目が開かれた。
「あ、起きた?」
「はぁ………寝起きにそれはだいぶキツイぞ」
「あははー、でも朝から気分がいいから、今日は……いや、あと三日くらいは頑張れる気がする」
カルナは俺の体の上から退き、そして俺は半身を起こした。
「おはよう、シノン」
「ああ。おはよう」
軽く欠伸をし、俺とカルナは朝の挨拶を交わす。その後俺達は着替えて、アルファたちを起こしにそれぞれの部屋へと向かっていくのだった。
はい、すみません。
ちょっとこの二人の口付けのところをやりたかっただけなんです。
ハイ。




