75、武闘祭りと貴族
遅れました。すいません。
活動報告を二つほど挙げてあります。
詳しくはそちらで。
「なんだよお前ら」
「………お前こそ、そこで何をして――……」
「質問してんのはこっちだよ。こんな時間に裏口に回る奴がいたら明らかに怪しいだろっつってんだよ」
「ガルルルルルル………」
水狼が威嚇すると、黒ずくめの男たちは怯むように体に力が入った。
「ま、まさか、あなたがこの宿に泊まっているという、ギルドサニーズの団員か?」
「………俺は……護衛、かな」
「……護衛に用はない。この人数を見れば、いくらそのような立派な狼がいようとお前に勝ち目がないのは明らかだ。言っておくが、ここにいるのは上級冒険者にも遅れを取らない者ばかり――……」
「おしゃべりはそこまでだ。お前らの目的は俺の護衛対象でいいんだな?」
「…………っ!?」
ここに泊まっているのはシノン達しかいないので、正面から堂々と入ってこないということはシノンにとっては明らかに敵であった。
ここにいる男達の狙いはおそらく子供であるゆうきやアリュスフィアだろう。二人を人質に取ろうという考えなのだろうが、それはシノンとアルファが許さない。
場合によっては女性であるカルナを捕らえても良いのだろうが、彼女は街ではシノンと同じように頭巾を被っていたため、性別はわからなかっただろう。
それと、シノンとアルファは女性陣を守るために外へ出てきているのだから、護衛だというのはあながち間違いではない。
シノンは容赦なく水の槍を生み出し、七人全員の胸を貫いた。出血はすべて刺さっている水の槍に吸収されているので、地面が赤く染まることはなかった。
しばらくしてから魔力を霧散させて水の槍を消すと、シノンは表から用事を済ませてきたアルファと合流した。
「お、おい。まさかお前………殺したのか?」
「当たり前だ。こっちに戦力を注いでたってことは、こっちが本命なんだろう。人質でも取ろうとしたんだろうな。特に、ゆうきやアリュスフィア」
「………ああ。だとしても、仕方がないこととはいえ、命まで奪わなくても……」
「敵は敵。それがはっきりと分けられないようなら、弱肉強食のこの世界で生き残れるはずもないだろうが。………甘さを捨てろ」
「………………………ああ、そうだったな」
シノンの短い説教が終わると、アルファが気絶させた残りの三人を縛り上げて、二人で中に入った。水狼は外で見張りである。
「……俺は来るなと忠告したはずなんだが?」
「「「………………」」」
男たちはうつむいたまま沈黙する。その様子を見てため息を吐きながら、シタルはシノンを見る。
「どうする?」
「あ?報告に決まってんだろ?」
「それだけでいいのか?こいつらたぶん……てかほぼ確実にモルティアンの使いだぜ?仕返しなりなんなりしたって、お前に非はないだろうが」
「………面倒なんだよー………」
心底嫌そうにため息をつくシノンは、片手を腰に当てながら頭を掻いた。その脇でアルファは自らの武器である長剣を持ったままそれを苦笑しながら見ていた。
「けどよ、このままじゃ延々と絡んできそうだぜ?どちらにしてもギルドにでも報告はしなきゃならないんだろうけどさ、貴族は実力差でわからせないと駄目だと思うんだが」
「そんなことは身に染みて知ってるさ。けど問題は、そいつらが口を揃えてこいつらとは関係ないとか言うことだよ。今のところ、まだ証拠がないんだから」
「まあな。ほれ、誰に指示されたんだよ」
当たり前だが、こんな所でそんな会話をしていれば男たちは尚更正直に発言するかどうか本格的に怪しくなってくる。しかし、対策もなしにそんな迂闊なことをするようなシタルではなかった。
今まで、伊達に貴族達を相手にしてきた訳じゃない。
そして今のところ手段の一つとして、闇属性魔法『白状』がある。
名前の通り、犯した罪や秘密などを聞けばすべて正直に吐き出すという魔法である。ただ、これを使ってしまうと対象者に精神的なダメージを大いに与えてしまうため、しばらくは自我が保てなくなることがある。
シタルとしてもあまりこの魔法は積極的に使いたいとは思わないが、親友だと思っているシノンとその仲間を狙うとなれば話は別だった。
「さて、洗脳魔法を使ってみようか」
「………おい、まさか……」
「ああ、そのまさかだ」
シタルがやろうとしているであろう事を想像したシノンは、頬を引き攣らせながらシタルに言う。何か策でもあるんだろうと予想して彼との会話に応じていたのだが、まさか洗脳系の魔法を使おうとしているとは思ってもみなかったのだ。
何もわかっていないのは魔法とは無縁であるアルファのみであった。
「ん?なんだ?」
「まあ、見てろよ」
悪戯小僧のような笑みを浮かべつつ、シタルは一人の男の頭に触れ、詠唱を開始する。
「闇よ、この者に堅実なる発言のみを語らせよ、『白状』」
シタルの手元に黒い玉のようなものが浮かび上がり、それは目の前に縛られている男へと向かっていく。
やがてその玉は、男の額へと吸い込まれていった。
さすがに超天才魔術師と言われるだけあり、詠唱は最短にまで省略されている。
アルファは魔法と無縁だったとはいえ、今まで見てきたものとは圧倒的に量の少ないシタルの詠唱を見て、当然驚いた顔になった。
「よし、今から俺が質問することに正直に答えろ」
「………はい」
「っ!?やめろッ!何を考えている……………っ!?」
「おしゃべりを辞めるのはお前の方だろうが」
仲間を狙われたことや貴族に絡まれたことに相当苛立っているのか、シノンは男の顔面に剣先を突きつけて低く言った。
その様子にアルファはやはり苦笑いを浮かべるだけで、この場で人を殺めるような真似はしないだろうとわかっていたシタルも彼を止めることはなかった。
もう一人の男も、シノンが剣を二つ持っていることに気づいていたために黙っていた。
「……さて、邪魔は入らないので、尋問を開始するとしよう。まず、お前らの目的は?」
「………この宿に、いる、ギルドサニーズ、の、連れの子供を……」
「「…………………」」
立場を理解したのか、残りの二人の男は黙って俯いている。
「子供を?」
「………攫って、人質にでもしろと、それで、サニーズの団員を、手玉に取ろうと――……」
「もういい、黙れ。次だ」
シタルの目は、その陽気な性格からは想像出来ないほどに冷たかった。怒りとも軽蔑ともとれるその目は、催眠術をかけられた男も、直接向けられていないはずの男たちすらも恐怖を覚えた。
「お前らに指示したのは、誰だ?」
「も……モルティアン、侯爵様………」
「ほーらなっ」
男が決定的な答えを出したその瞬間、シタルはいつもの陽気な雰囲気に戻った。
アルファはシタルの殺気に未だ呆然としていたが、シノンは何でもないかのように返した。
「………まあ、証拠は出た、か。お前が魔法で素直に吐かせたとでも言えば信頼してもらえるわけだ」
「その通りさ。……だいたい想像はつくんだが、シノン、残りの七人は?」
「…………逝った」
「はあ………だろうな。魔力の反応が消えたからなあ……」
呆れたように呟くシタルだが、内心では仕方のないことだと納得している。そうやってすぐに割り切れるからこそ、今まで魔術師として戦場の前線に立てたのだが。
互いに幼い頃から戦場に立っているので、シタルもシノンが他人を殺すことに躊躇しない気持ちがわからないでもなかったというのも、納得した一つの理由だったりする。
シタルが男たちを気絶させると、シノンは頭巾を外す。そしてシタルがさらに続けた。
「まあ、良いだろう。不法侵入しようとしたんだ、文句は言えまい」
「そ、それも、そうだな……」
ようやく我に返ったアルファがシタルにそう返す。だが、すぐに首を傾げてシノンに尋ねた。
「こいつらはギルドにでも報告するんだろう?でも、どうする?シタルの言う通り、仕返しはした方が良いんじゃないか?」
「ギルドに報告するだけで充分だろう。祭りに参加して武闘祭りに優勝したりでもしたら、余計に面倒なんだよ。そこら辺上手く言わないとやばいからな」
「…………ああ、碌なことがないだろうな」
「ん?どういうことだ?」
アルファは相変わらず置いてけぼりのような感覚だが、シタルは彼に説明をしてやる。
「まさかシノンが気づくとは思ってなかったが………武闘祭りは農民と冒険者が戦うものなんだけど、その後で、冒険者だけが戦う『冒険者の部』があって、今回奴らはシノンに、それに参加しろって言ってきたわけだ。シノンが手抜きをすりゃ下位のまま終わるからいいんだけど、モルティアンの護衛にはかなりの手練がいてね。シノンの雰囲気で、明らかに他とは格が違うと気づくだろう。で、祭りに参加した冒険者は、貴族に勧誘されることがほとんどだ。これは、まあ普通っちゃ普通だろう?」
「そうだな、それが普通だろう。シノンもその場で誘われるかもしれないな」
「そうさ。普通なら、人混みの中で対象を探して勧誘するといった形だ。でもモルティアンの場合は違う。目をつけた冒険者の試合が終わったら、舞台に上がり、公の場で勧誘するといった非常識的なものなんだよ」
「っ!?」
アルファは驚愕の色を浮かべた。それも当然だろう。
貴族からの勧誘が人々が見ている中で行われれば、冒険者は権限を使っても断りにくい。民衆の前で貴族の勧誘を断れば、それこそ変な目で見られてもおかしくないからだ。
サニーズ上位の団員ならば期待の目を向けられてもおかしくはないので、それを覆すような真似をすれば確実にいい印象は受けないだろう。
即ち、貴族はほぼ確実にその冒険者を手に入れることができるというわけだ。
冒険者は強ければ強いほどに祭りが盛り上がる。それを口実にして、サニーズ上位の団員であるシノンを勧誘しようと祭りへの参加を勧めてきたのだろう。
しかしシノンは誘いに来た本人に会いもせず即断ったため、相手が強硬手段に出たわけだ。
「つまり、その場でシノンを手玉に取ろうとしているのはほぼ確定で構わんだろう。モルティアンはこの辺ではそれなりに民衆に慕われてるから、余計にな」
「表向きは善人面ってところか」
「そうなのか。裏じゃ何やってんだ?」
「それがさ、よくはわかってないんだよ。王宮……いや、貴族の中でも色々とそれが問題になっててな。だからこそ、今回のこいつらの証言が貴重なわけ」
「……なるほどな」
シタルが言いたいのはつまり、モルティアンのしてきた悪行に関する証拠がないので彼を裁くのが難しいということだ。
王族や平民の知らないモルティアンの裏の顔を貴族達は知っているので、何とかしようと動いているが上手く証拠を隠滅されており、未だ解決に至っていないのである。
王族や民衆には良い顔をしているため信頼が厚く、他の貴族からすれば鬱陶しい以外の何者でもない。
かと言って何もないまま彼を貶めたりでもした場合は罪に問われる。
だから、ほとんどの貴族は黙ってはいないもののモルティアンとは仲が悪いまま仕方がないといったふうに付き合いはあるそうだ。
シタル曰く、今回の件を自分が報告すれば、自宅捜索にて様々な悪行に関する証拠が見つかるだろうとのことだ。
「とりあえず、今回の件については俺が王宮に知らせる。こいつらも連れてくよ。で、シノンとアルファ、お前らはギルドに行け」
「……あー、面倒臭え」
「シノン、お前、そんなに面倒臭がりだったか?」
「貴族が関わってくるとそうなんだよ。な、シノン?」
「うるせえ。貴族貴族言うなよ。それ聞くだけで虫唾が走る」
その言葉には、シタルもアルファも苦笑するしかなかった。しかし不機嫌そうな顔をしながらもシノンは眠そうに欠伸をした。
その様子を見ながら、シタルがアルファに問うた。
「あ、そう言えば今の時間はどれくらいだ?」
「うーむ、あと一時間くらいで日が昇ってくるんじゃないか?」
「そうか。ならシノン、見張りは俺たちがやるから、お前は眠ったらどうだ?」
「いや、別に構わない。慣れてる」
「本当かよ」
「疑うところそこじゃないだろ。平気だ。確かにもう少し寝たい気分ではあるけど、水狼も外で見張ってるし、一人だけ寝るのもどうかと思うからな」
「お前がいいなら俺も別に構わないが、本当に平気か?」
「だから大丈夫だって言ってるだろ」
相変わらずアルファに対する返事は素っ気ないが、軽蔑の視線だったり冷徹な視線だったりは送らなくなっている。
アルファとアリュスフィアにはまだ完全に打ち解けたとは言えないが、これでもかなりのスピードで慣れてきているのだ。
それに気づかないアルファはそこで苦笑いを浮かべるしかないのだが、シタルはカルナと同じようにニヤニヤしながらシノンを見ている。
その視線を鬱陶しそうに見るシノンだが、気にするだけ面倒なので放っておいた。
「さーてと。まあ、お前達は朝イチで報告しに行くとするとして。シノン、早朝に出発するって言ってたが、どうする?」
「はあ……仕方ないだろう。出発は少し見送る。追ってこられても困るのでな」
彼のその言葉に、シタルは満足そうにうなずいた。
「よーし、じゃあ、俺はさっそく報告に行ってくる。こいつらもすぐに連れていかないとだしな。外に奴らの仲間の死体があるんだな?」
シタルのその言葉に、シノンは黙ってうなずいた。
「ただ、出血はさせてないから少し不自然に思われるかもしれないが……」
「ああ、わかってる。うまく誤魔化しとくよ。お前がやったとバレないようにすりゃいいんだろ?」
「助かるよ。ありがとう」
「なに、良いって。気にすんな。と、言うわけで。アルファ、シノンを頼むぜ」
「ああ、わかった。気をつけて」
シタルはうなずき、ペンダントの付与効果の一つ、『転移』を発動させた。
瞬時にその場からはシタルと縛られていた男たちは消え、外に転がっていた男達の死体も同時に消えた。
水狼には内部の会話が聞こえていたので、目の前の男達が消えても全く動じなかった。
その後も彼らは見張りを続け、夜明けを迎えた。




