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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第5章、学校卒業
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66、 火山とSS級の魔物

「うわっ………暑っ……」

「仕方ない。ほら」

「あっ、いい感じ。ありがとう」

「おう」


『冷房《クーリング》』。シノンが使った魔法はこれである。『暖房《ウォーミング》』の対照魔法で、暑いところで使うものだ。

 名前の通り、暑い感覚をなくす生活魔法のひとつである。


「じゃ、走るぞ」

「了解っ!」


 二人は同時に地面を蹴り、斜面を登った。魔法のお陰で暑さを感じないため、汗はかかない。

 かなりの高さがあり歩いて登れば数日かかりそうだが、二人のスピードを以てすればほんの数時間だった。


 シノンが常に『状態異常回復《リカバリー》』をかけていたためカルナでも比較的楽に登ることができた。


 走っている途中に何体か魔物に遭遇したが、みんなB級からA級で、シノンが前に出て一瞬で屠っていた。時々カルナも負けじと前へ出るが、シノンのように一発とはいかず、少し遅れをとっていた。


 だがシノンもカルナを置いていく気はなかったので、彼女が魔物を討伐し追いついてくるまでスピードを緩めていたので、到着は一緒だった。


「………さて、と。ここからは歩こうか」

「うん」


 二人とも、妙な魔力を感じていた。それはこの山の天辺にいて、じっと動かないのである。


「一応戦闘準備しとけよ」

「うん、わかった」


 シノンとカルナは魔剣の柄に手を添えて鯉口を切り、いつでも抜刀できるよう構え、辺りを警戒しながら進む。

 だがその妙な魔力の持ち主は相変わらず動かない。周囲に魔物の気配もないのである。


 しかしここは強力な魔力や魔物が屯《たむろ》しており、調査もできずにほとんど放置された島だ。油断禁物というものである。


 やがて頂点が見えてきた頃、二人はいよいよ警戒を強めた。

 頂点に動かず留まっていた魔力の持ち主が、少しだけ動き出したからである。


「……こりゃ、SS級になる奴かもな」

「……ちょっと、それやばくないか?」

「……ああ、やばい。逃げる準備もしとけ。怖かったらここに残っててもいいぞ」


 そうは言うものの、シノンは諦める様子はない。だがカルナも、震えそうになる体を無理矢理落ち着かせて頭を横に振る。


「いや、私も行く。どんなに危険な場所でも、シノンについて行くって決めたからね」

「そうか。けど無理はするなよ」

「わかってる」


 シノンは満足気にうなずくと、その後は表情を引き締めて彼らは無言のまま歩き出す。

 シノンが様子見で頂上を先に見に行ったが、石畳の中に盛り上がった祭壇のようなものとその奥に聳える建造物しか見当たらず、カルナにこちらへ来るよう合図を送る。


「とりあえずは誰もいないようだな………」

「うん。でも、魔力の反応がおかしくない………?」

「ああ」


 カルナが言うように、二人は妙な魔力を感じはするものの、それがどこから発せられているのか曖昧なのだ。確かにここから感じるのは間違いないのだが、場所が特定できなくては相手の姿の確認のしようがないのだ。


 シノンは正確な『探索《サーチ》』を放ってみるが、やはり場所が曖昧で特定ができない。おそらく魔力をこの辺りに蔓延させているのだと思われる。


 それでもシノンの正確な『探索《サーチ》』でもこの魔力の持ち主の位置が特定できないということは、相当魔力を使いこなしているのだとシノンは悟る。


 だが、このままでは祭壇の前に出ても何が起こるかわからないため、まずは状況把握から始めることにした。刹那、シノンはカルナの肩を抱いて自分の元へと引き寄せた。


 その時、今までカルナが立っていた所を炎の弾丸が通り過ぎていった。


 無詠唱、しかも魔力の発動を感じさせないことから、今の魔法を放った相手は魔術師以上の存在であることを確信した。


 そして、同時に相手は敵であるということも理解した。


 カルナはいきなりシノンに抱かれて少々顔を赤くしているが、あまり良い状況でないことをわかっているので声を出すのを堪えていた。


「な、なに……?」

「………落ち着いて聞け、カルナ。相手は敵意を持っている。SS級の魔物の可能性があるから、お前はここで待ってろ。いいな?」

「シノンは?」

「俺は戦う。どちらにしろ、逃げることはできないだろうから」


 カルナは少し恐怖の表情を浮かべるが、自分が出ても足で纏いになると思った彼女は素直にうなずくことしかできなかった。

 幸い相手は一人のようで、シノンは敵に意識を集中させれば良いようだった。


 双剣は一度収納魔法でしまって隠し、体に魔力を纏わせた。

 相手の場所を特定できない今、勘と気配と経験を頼りに動くしかない。


 シノンやカルナの身長ほどあった台を跳んで越え、上に登る。綺麗に整備された石畳に謎の模様が描かれた建造物。その正面には炎のような形を模した石像のようなものが置かれている。シノンは、あれからも少し魔力を感じた。


 襲撃者はどうやら建造物の上に立っているようで、シノンが姿を捉えると同時に下へ降りてきた。

 音もなく着地した人物は、黒い外套を着ていてフードを深く被っているので、顔は見えない。


 しかしそこから感じる魔力は、シノンたちがここより少し下にいた時から感じていた妙な魔力であった。


「…………人よ、ここに何の用だ」

「何って。あんた、その前に何者だよ?」

「ふっ………簡単に目的を話さないのは少しだけ褒めてやる。たいていの人間はこの時点で自分がここへ来た目的をあっさりと話してしまっていたのでな」

「そりゃどーも」


 だが相手が敵意をこちらへ向けていることから、シノンは長く会話するつもりはなかった。

 声からして若い男のようだが、『人よ』と言った時点でもしかすると人族ではないかもしれない。


 だが冷たい感じはない。むしろ声こそ友好的ではあった。しかしシノンの経験と勘から、相手は密かに敵意を持っていることに気づいていた。


 おそらく、今までここを訪れた者があっさり目的を吐いたのは、声に敵意が感じられなかったからだろう。

 ここへ来るにはそれなりの実力と経験が必要そうだが、ベテランの冒険者でも、彼の敵意は気づけないほど静かなものだった。


「用心深いんだな」

「そりゃあ種族の特性ってもんだろ。気づいてんだろ?」

「ははっ、まあな。だが………生憎と君たちを生きて帰すつもりはないのでね」

「ならば殺られる前に殺るだけだ」


 言いながら、シノンは無詠唱で自分の周りに水の玉を数十個浮かべる。上級精霊魔法、『水風船《ヴァッサーバロン》』。


 水魔法最大の爆発系魔法である。水素爆発を利用した魔法で、まともに喰らえば人など簡単に塵と化してしまうほどの威力を持つ。


 ただ、その威力故に反動もあり、場合によっては腕や足、そして筋肉などを痛めることもある。

 しかし最初から本気で行かねばこちらが殺られるので、シノンも余裕を持っていられないのである。


 これには目の前の男も驚いているようで、通常とは違う大きさの水の塊を見て呆然としている――……ように見えた。


 だがシノンも相手が呆然としているふりをしていることくらい気づいていたが、敢えて三発ほどタイミングをずらして放った。

 一発でも地面を半径百メートルにわたって抉ることくらい容易いのだが、彼にとってこれくらいは小手調べのようなもので、挨拶替わりに攻撃してやったという感じである。


 しかし男はそれをギリギリのタイミングで避ける。かなりのスピードだったが、男はおそらく、内心は余裕なのであろう。

 だがシノンが放ったのは一つではない。


 タイミングと方向をずらして放たれた『水風船』は、男が躱した方向にも飛んで行き、彼を襲おうとしていた。

 だが、シノンもこれが当たるとは思っていなかった。


 なぜなら、彼は再び魔法を展開し、両手を『水風船』へと向けていたからである。


「『蒸発《エヴァポレーション》』」


 男は口元に余裕の笑みを見せながら、水素爆発寸前の水の玉を一瞬で蒸発させてしまった。


『蒸発《エヴァポレーション》』の属性は炎で、対象物――主に液体など――を急激に高温にすることで蒸発させる効果のある魔法だ。


 これは人や動物など、体に水分を含む生き物や水に濡れた布などにも使えるため、物を乾かすことのできる便利な魔法だったり、場合によっては脱水症状を引き起こさせることのできる魔法でもある。


 部類的には生活魔法だが、こうして炎属性の使い手には相性の悪い水属性の使い手にも使えるというのが強みである。


 水属性にも水分を吸い取るものはあるが、炎属性相手には意味がないし、この魔法を使える者と水属性の使い手では相性が悪いとも言える。


 しかし、生憎とシノンが使えるのは水属性だけではない。


 彼は一度周りに浮かべた水を一斉に放つ。それを予想していたようで、男の反応は早かった。

 もちろん『蒸発《エヴァポレーション》』全て水の塊を消し飛ばす。


 だが、後に遅れてきた物は違った。なぜか、何度魔法をかけても蒸発しないのだ。


「ちっ!」


 舌打ちをしながら仕方なく躱したが、更に追撃は続く。それでも、放ってくる魔法は同じはずなのだが、男がいくら魔法を放っても最初に飛ばしてきた水の玉とは明らかに違った。


 それもそのはずである。なぜなら、シノンが『水風船』を放ったあとに繰り出してきたのは、物理属性で作り出した『水風船』だからだ。


 魔法を放ちつつ双剣を取り出し、シノンは男との距離を一気に詰め、近接戦闘に持ち込んだ。


「近接もできるのかよ!………なんてさっ!」

「くっ!」


 シノンが珍しく声を上げる。男が放ってきたのは、身の丈ほどもある太く頑丈そうな大剣で、シノンの剣の二倍以上はある。


 しかし、『耐久力強化』の付与が施されているシノンの剣だからこそできるもので、他の剣ならばあっさりと折れていただろう。


 現に、シノンが付与したにも関わらず、すでに剣が少し欠けている。しかし魔力を通すことで更に強化しており、剣が折れることはなかった。


「………ん?よく見ればその剣………って、なんでお前が持ってる!?」


 男は驚愕した様子でシノンから距離を取る。その間にシノンは剣の修復を終え、再び構える。


「………お前………あの人に何した?」

「あの人?………誰だそれは?」

「とぼけるな!まさかお前があの人を殺したんじゃないだろうな!?」

「うるさいな。これは貰い物だよ。その人は魔物を倒したら偶然ドロップしてきたって言ってたけど?」

「なっ………!」


 男はしばらく固まっていた。しかしそれでも隙を見せないところがすごいとシノンは素直に感心する。


 もしかすると、この剣には元の持ち主がいたのかもしれない。けれどその人は、おそらくロウに倒された魔物に敗れ、剣は魔物の所有物に………といったところだろうか。


 あくまで推測に過ぎないのだが、この双検は本当に特殊というか気まぐれで、ロウが使おうとしてもシノンが使う時のように力を発揮しないし、自分の意思で動こうとしなかったそうだ。


 だがシノンがこの剣を使うようになってから、剣はまるで意志を持っているかのごとく動き、シノンが無防備になっても剣は寄ってきた敵を容赦なく薙ぎ払う。


 しかしまるで知能があるかのごとく、シノンに敵意を持たない者には攻撃しないし、シノンが念じればその通りに動いてくれる。


 今では相棒のような存在になっている。


「しかし、まさかあの人がやられるはずが………」


 そこで、シノンはあることに気がつく。


 ―――この声、どこかで………。


 どこかで聞いたことがあった……ような気がした。


「お前…………ローラか?」

「あっ、バレちゃいました?」


 急に男の口調が丁寧になったかと思えば、彼は頭巾を外して愛想の良い笑みを浮かべた。


「………なんでここに?」

「せ、先輩こそ、なんでここにいるんですか。先輩なんで、本当に殺すか迷いましたよ。けど、先輩はここで悪さをするような人じゃないって知ってますから、俺は見逃すつもりですよ」

「…………………………」


 シノンは呆れたような顔になり、ため息をつく。ローラは、相変わらず人懐っこい笑みを浮かべてシノンに歩み寄ってきた。


「お前、後衛じゃなかったか?なんで大剣なんか振ってんだ」

「俺の本来の戦闘スタイルなんすよ。あっ、ここに俺がいたことと、この山のこと、それから俺の本来の戦闘スタイルのことは絶対に誰にも言わないでくださいよ」


 あまりに真剣な顔で言ってきたので、シノンは渋々了承することにした。ローラは悪いヤツではないことを知っているからだ。


 そこで、シノンは待たせていたカルナを呼び、ローラを紹介した。


「こいつはローラ。まあ冒険者だ。で、ローラ。こいつはカルナ。最近冒険者登場したばっかりだけど実力はある」

「よ、よろしくお願いします」

「うむ、よろしく」


 ローラは愛想の良い笑みを浮かべているが、カルナは種族特有の性質もあるのか、珍しく少し人見知りをしているようだ。


 ちなみにローラは、ギルドサニーズの団員のひとりである。A級の実力に恥じぬ魔法の威力と技術は、『紅の劫炎』の異名を持つほどの、炎属性の使い手である。


 パーティランクBのパーティのエース的存在―――ギルドサニーズ五位、『春風』に所属する有名な冒険者でもあった。

おまけ





※おまけに出てくる登場人物は、絶対に有り得ない行動を取ります。たぶん。イメージを壊したくない方はご注意を。

※作者の悪ふざけです。重ねて言いますがいたずらに書いたただの悪ふざけです。

※なんとなーく思いついて書きなくなりました。




おまけ1



「お前、あの人に何をした!?」

「あの人が誰だか知らんがこいつを持ってた奴《・》は父さんが殺したさ」

「………………………………」


ローラが押し黙る。


「誰だそいつは!?」

「俺の父さんだって言ってんだろ!!」


しかしローラは信じていません。その理由は後ほど。




シノンの言う奴……剣を持っていた奴=災害級以上?の魔物。

ローラの想像する奴……剣を持っていた奴=あの人





おまけ2



「落ち着いて聞け、カルナ。…………死ぬ気で戦うぞ」

「う、うん!」


▷ 二人は石畳の上へ登りました。

▷ 建造物の上に立つローラを確認しました。


「はっはっはっ!人よ、よくここまで来れたな!だが、なぜお前らはここへ来た?」

「「…………………………」」


▷ シノンがSS級のレベルかもしれないと予想した相手が意外なことを言いました。

▷ 二人は呆然としました。


「どうした!何も言わねばわからないではないか!何も話す気がないなら………話す気にさせてやるっ!」


▷ そしてローラはその場から飛び出しました。

▷ シノンが受け止ます。

▷ しかし踏ん張りきれずに後ろへ飛ばされました。

▷ カルナは剣を抜き、ローラへ斬りかかります。


「やあっ!」

「っと!」


▷ ローラは瞬時に防壁を張りました。


「うひゃっ!やっべえな!」

「このおっ!」


▷ 体制を立て直したシノンがローラへと斬りかかります。

▷ しかしローラはそれを躱します。


「ふう、やばいやばい。ねえ、なんか喋ってくんない?何しに来たの?」


▷ いつの間にか口調が変わっています。

▷ それはまるで親にかまってほしい子供のようでした。


「………ねえ!何か言ってよ!」

「「……………………………」」


▷ シノンは興味をなくしています。

▷ カルナは苦手なタイプなので黙っています。

▷ ローラが寂しそうに騒ぐだけでした。









おまけの書き方なんざ知らない!!









失礼しました。ちょっとだけ楽しかったりしました。

最後までお付き合い頂きありがとうございます。

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