65、 卒業式と誕生日
春。高校生活最後で最大の行事、卒業式。
出会いと別れの季節と云われる春の、桜の花びらと香りが晴れた空を舞う穏やかな日だった。
暖かな春の風を感じながら、シノンとカルナは連れ立って門の前に立っている。
他の生徒達も保護者とともに次々に学校の敷地内に入って行く。
「……いよいよ、だね」
「ああ。やっと終わったよ」
「なんか寂しい気もするけど、仕方ないか……」
「俺はもう充分なんだけど、大学行くか?」
「いや、いいよ、そこまでは。それに、ゆうきに会いに行かなきゃ。みんなには、旅をしていればもしかしたら会えるかもしれないし」
そう言って、カルナはシノンを見上げる。
「そうだな。住所でも聞いときゃ会いに行けるな」
「うん!」
「よし、行くぞ」
カルナはうなずいて、二人で並んで歩き始めた。
まず最初に、学科ごとに成績の良かった生徒が優秀賞をもらうため、名前が順番に呼ばれていった。
その中にはシノンとカルナの名前もあり、壇上に上がる。
『魔法術学専門部、Sクラス、シノン=レスティアス。あなたは大変優秀な成績を収め、そして我が国を救ってくださり、大変尽くしてくださいました。よってこれを称し、あなたに『全王賞』を授けます』
「ありがとうございます」
周りがざわつく。何故なのか答えは簡単だ。シノンが国を救ったなどという話を聞いたことがなかったからだ。そもそも国が危機に陥ったことすら聞かされていない。
だが、全王であるリュアン本人がそう称しているのだから、嘘ではないのだろうというのが生徒たちの判断だった。
ただ、リュアン自身も、シノンの功績について詳しいことを言うつもりはなかった。それはシノンの希望であるからだ。ここで賞を授与させてしまった方が噂程度で済むからだということである。
全王としては、国を救ってくれた英雄として讃えたかったが、彼がそこまで大袈裟に目立つのは嫌だと言ったのだった。それに、よく考えてみれば、そこまで目立ってしまっては彼が今後行動しにくくなる。
本来の姿であるレイヴァの状態ならばともかく、例えば卒業後に友人と話すだけでもかなり目立つため、本人にとって面倒なことになってしまう。
ならば内容は公開せず、国を救ったとだけ言っておけば良いのだ。
ちなみにこの国の危機、というのは、一年前の竜の件である。あの竜は更に量産されており、国が滅んでもおかしくない危険な状態だったそうだ。
生成された竜は空気中の魔素や生き物の魔力を少しずつ吸収しそして少しずつ大きくなりながら強くなっていくので、早めに倒すことのできたシノンを讃えた、というわけだ。
『魔法術実技専門部、Sクラス、コルディアス=マラザーンド、そしてカルナ=レスティアス。あなた方は、よく努力し、大変優秀な成績と実力の持ち主です。あなた方の力が更に磨かれることを望みます。よってこれを称し、『学年実技最優秀賞』を授けます』
「「ありがとうございます」」
授与式も終わり、校歌と国家を歌ってから、最後に校長サンリートからの挨拶だ。
『みなさん、まずは、ご卒業おめでとうございます。四年間、あっという間でした。とてもとても優秀な生徒であるあなた方を見ていて、僕はとても楽しかったですよ。明るい雰囲気を持つあなた方は、少々の争いごとはありましたが、互いに許し合い、最終的には仲直りができましたね。今回優秀な成績を収めた二十三人の生徒の方々は、今後、世界のために活躍することができるのを期待しています。賞が取れなかった生徒たちも、今後、自分の道を自分の足でしっかりと踏みしめて、歩んで行ってくださいね。それでは、ありがとうございました』
笑顔の表情のまま、サンリートは頭を下げる。なんとも簡単な話だった。しかし校長を慕う生徒は多く、大きな拍手が送られた。
学校の卒業式が終わったあと、Sクラスの生徒だけで宴会をやろうという話があったが、シノンとカルナは断った。ニーナという先客がいたからである。
約束は早い者勝ちだからな、仕方ないよ。というのはコルディアス曰くである。
みんなもそこは納得してくれたので、シノンたちはニーナとの約束を守るため、『春風亭』、ニーナの飯屋へと向かっていった。
「やっほー!二人ともー!」
「お、おう」
「ニーナ、やっほー!」
「おおーう!ルミナー!来てくれてありがとうねー!」
そう。今日はニーナの誕生日である。ここの主人や女将ともすでに仲が良くなっており、ニーナの誕生日祝いとして奥の部屋に呼ばれていた。
シノンもニーナを祝うことになんの惜しみもなく彼女の大好物であるモンブランというケーキを三個も買ってきていた。
カルナからは、前にニーナが欲していた赤い魔石のついたネックレスをプレゼントした。
「えっ!?こ、ここ、これ、る、ルミナっ!?いいのかい!?」
「いいよ。お金には余裕あったし、前に欲しがってたでしょ?」
「うわあ!ありがとー!チョー嬉しいよ!ユウもありがとう!すっごい嬉しい!」
ニーナはニコニコと心底嬉しそうな顔をする。
魔石は貴重で値段も高いので、ニーナは少しずつ小遣いを貯めてそのうち買おうとしていたのだが、このままではなかなか買うことができないだろうということでカルナが誕生日祝として買ってきてしまったのだ。
「二人とも、本当に国を出るのかい?」
「ああ。ここでもやることは終わったし、待たせてるやつもいるからな」
「そうか。まあ、いつでも帰っておいでよ!そしたら絶対ここに寄るんだよ!」
「わかってるよ。ニーナも、元気でね」
「ああ、私はここでずっと看板娘やってるからさっ!」
その後三人でわいわいやりながら、世間話に花を咲かせる。互いに情報交換も兼ねて、だ。
ニーナはそんな二人と話をするのが楽しいのか、嬉しそうに、そして幸せそうな顔で彼らと会話をする。
彼女は中等部まで学校に通っていたのだが、ヘルガ皇国へ留学したため、この街にはあまり友人はいない。そのため、同年代であるシノンやカルナと話をするのが楽しくてたまらないのである。
「おっと、もうこんな時間だ。夕飯、食べていきなよ」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
「なら今晩は俺の奢りでどうだ?」
そこで登場したのはニーナの父親、ガレットだった。
料理人にしては引き締まった筋肉、そして日焼けした黒っぽい肌。ニーナと同じ赤い短髪はツンツンで、太い眉の下に輝く黒い目は強い生気を感じるほどに光って見える。
「いえ、さすがにそれはいいですよ」
「遠慮するな。娘の誕生日プレゼントまで貰っちまったんだ、奢らせろ。それに、二人には感謝してんだ。一回ぐらい良いだろ」
がははと笑いながら、シノンたちの返事を待たずに行ってしまった。仕方がないので、今回だけは彼の言葉に甘えさせてもらうことにする。
「そうだ、ルミナってそろそろ冒険者登録するのかい?」
「ああ、うん。明日の朝、出発前にね」
「へえ、やっと冒険者登録か。頑張りなよ!」
「ありがとう」
その後、シノンとカルナはガレットの料理を堪能した。
今夜の夕食は、柔らかく仕上げられたパンにクリーミーなシチュー、そしてコーンの入ったスープに野菜たっぷりのサラダだった。
シチューの肉は柔らかいので噛み砕きやすく、パンをシチューに浸けて食べれば自然と頬が緩む。
コーンスープはとろみがまた絶妙で、サラダはシャキシャキとしていて、生野菜の美味しさを最大限に引き出していた。
閉店時間が近づき、食事をし終わった二人は店を出ようとした。
「ご馳走さま。美味かったよ」
「じゃあ、またね、ニーナ」
「うん。今日は本当にありがとう。絶対、また会おう」
「おう」
「うん!」
「二人とも、気をつけるんだよ」
「「はい!」」
奥から女将の声が聞こえ、シノンたちは返事をした。ニーナたち家族は後片付けがあるので、おそらく顔を出せないのだろう。
シノンとカルナは宿へ向かい、その日はもう眠った。
「振り込み式?」
「ああ。一時的にだが、ギルドの方がギルドカードに金を振り込んでおいてくれるんだ。火山に行ったら、多分魔物が多くいるだろ。この国にはもう戻らないから、ギルドに素材を送って、ここに振り込んでもらおう。金は、あとで取り出せるようになってる」
「へえ、すごい」
カルナは先ほどもらったばかりのギルドカードを見る。
彼女のギルドカードは青銅色で、先ほどの試験でB級の資格を取った。
まずは、ザガイアス火山に一番近いリリーズ王国の北西の島、ナナリ島。そこからシノンたちは、自分たちで海を渡っていくことにする。
たち、と言っても、シノンがカルナを抱えて走る形になる。
シノンは、水を自由自在に操ることが出来るため、海の上を走るなど造作もないのである。
「さ、行くぞ」
「あっ、う、うん」
カルナはシノンに抱えられるという初の体験に少々緊張しているが、少し嬉しいのか素直にシノンの言うことを聞いたのだった。
その後シノンがカルナを横抱きにして、海の上を走り出した。
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「だから、そちらの『白の魔術師』を出せと言っているだろう!」
「そうだ。彼の力で、確実に『化身』を仕留めるよう命ずるのだ!」
「あーあー、うるさいうるさーい。無理ったらむーりー」
「なぜだ!貴様の一言で、あの凶悪な魔物は討伐できるのだぞ!?」
「無理だって。今あのコはこの国にいないし、今は全王さまの依頼を続行中でね、途中で中断とか出来ないのー」
「なっ!ぜ、全王さまだと!?」
「そーそ。悪いけど……ボクらはすべて、全王さまの下で働いてるものでね、君たちみたいに国に仕えてる人の命令は聞けないんだよね」
リアナは、後半は低い声で言った。同時に、軍事会議に参加する者たち全員を睨みつけた。
リアナの威圧に少しだけ怯む将軍たちだが、それでも歴戦を潜り抜けてきた者達である。リアナの殺気に怯みながらも姿勢を崩さなかった。
「な、ならば、最近噂になっている『白の魔剣士』はどうですかな?」
「ああ、たしか、『白の魔術師』と行動を共にしているという……」
リアナの片眉がピクッと動く。
「ああ、リリーズ王国で有名になっているそうですな。しかし、『白の魔剣士』は名前どころか、性別すらわからぬ謎の人物ですぞ?」
「それは調べさせれば良いだろう。では、『白の魔剣士』を呼んで魔物討伐の指名依頼を―――………」
その時、リアナが机を強く叩いた。
「な、何ですかな、ギルド団長?」
「悪いけど、そのコも無理だよ」
「なっ、何故ですか。別にあなたのところの団員ではないでしょう?」
「残念だったね。あのコは、『白の魔術師』の大事な大事なコでね、多分、あのコに頼むのは無理だよ」
「ほう、知り合いなのかね、ギルド団長?」
「さあ、どうでしょうね。とにかく、『白の二人組』に討伐を依頼することはできませんよ」
言って、リアナは再び椅子に腰掛けた。
『白の二人組』。これは、シノンとカルナのことであり、『白の魔術師』と呼ばれるシノンと常に行動を共にしており更にはレイヴァであることから、カルナにも『白の魔剣士』という二つ名がついた。
彼らは二人でしかパーティを組まないので、『白の二人組』という名前までついていた。
シノンたちは特にパーティ名などは決めていないのだが、民衆が勝手にそう呼んでいるので放っておいている。
「ならば、どうしろと?」
「知りませんよ。そもそもボクはあなたたちに情報を与えているのであって、オススメの冒険者を指名しているのではありませんからね。基本的に、ボクは会議の話し合いには参加しません」
「ぐぐっ、き、貴様っ……!」
「まあ待て。ならば、尋ねればあなたの薦める冒険者を指名してくれますか?」
「まあ、冒険者本人の都合が最優先ですけど、できますね」
「………ならば、サニーズで優秀なパーティを四、五組教えてくれ」
すると、途端にリアナは笑顔になる。とは言っても微笑程度だが。
「はい。今のところ特に予定がなくて優秀なパーティは、『竜の手』『疾風迅雷』『希望の木』『春風』『魔剣撃組』ですかね。一応、この五組がサニーズの中で二位から六位のパーティです」
「「「なっ………!?」」」
その場にいた全員が驚きの表情を浮かべた。なぜか。それは、『竜の手』というパーティはS級団員が五人とA級団員が一人の計六人で構成されたチームであり、この国でも有名なパーティであるからだ。
それが候補の中にいたというのに、この五組が二位から六位だとリアナは言った。ということは、『竜の手』を超えるチームがいるということであり、将軍たちは驚愕せざるを得なかった。
「ぎ、ギルド団長、『竜の手』を超えるパーティが他にいるのですか………?」
「いるけど何か?」
「そ、そのパーティは何処に?」
「うるさいなぁ。さっきも言ったでしょ?全王さまの依頼を続行中だって」
「なっ!?」
「まさか、あのたった二人のパーティ―――『白の二人組』か……?」
「そうだよ。………なんか文句ある?」
「い、いえ、滅相もない!」
「そっか」
リアナから再び殺気が放たれるが、否定の言葉を聞いてそれがすっと引っ込む。
リアナに質問をした軍曹がほっと息を吐くと、将軍が続けた。
「と、とにかく、彼らならば薦められると、そういうことだな?」
「はい」
「よし、ならば数日後、彼らに指定依頼を提出する。ギルド団長、よろしく頼むぞ」
「了解でーす」
「では、報酬等については今後また招集をかける。解散!」




