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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第4章、魔物の暴走
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56、 会議と怒り

 とある大部屋の一室。


 ここには、国家の中で有力な権力者たちが集まっていた。その中には、レラン王国のギルド団長リアナの姿もあった。


「今回、警利の森に向かった討伐隊が全滅した」


 とたんに、部屋中の権力者達がざわめきだした。

 しかしそれを気にせず、司会者は続ける。


「全員、首を刎ねられており、傷口は周りの草木のように黒く、炭化しておりました。一部抵抗した様子がありましたが、魔物は討伐されていない模様です」


 すると、机が一度強く叩かれる。


「どういうことだね、ギルド団長?報告によればそれほどレベルが高いわけではないとの報告だったが?」

「あれあれ〜?王都警備隊長、いつ、ボクが『化身』は弱い、だなんて言ったっけ?」

「私は君に聞いてるんだぞ!」

「ボクは化身が弱い魔物だなんて言った覚えはないよ」


 リアナは、自身を責める文官の言葉にかぶせるように、真顔で言った。文官は押し黙り、再び椅子に座る。


「どういうことですかね、警備隊長?」

「そ、それは…………わかりませぬ。わたしも、相手の攻撃には注意するよう伝えたのですが…………」

「本当ですか?」

「このような場で偽りを申しているようでは警備隊の長など務められませぬ」

「………………ふむ、そうですか。では、今後の化身の討伐隊について話し合うとしましょう」


 司会者である文官が警備隊長アーレストから目を逸らし、続きを促した。


「国王陛下、此度は警備隊の勇猛な戦士達が全滅させられました。恐れながら、現在は国家直属の騎士団の方には、猶予はおありですか?」

「ほう、騎士団を動かすか。そうだのう………」


 レラン王国現国王リチャルド五世は、おっとりした性格である。マイペースではあるものの決断は早く正しくできるため、国民からの信頼も部下からの信頼も厚かった。


「猶予はある。騎士団長、動けるかね?」

「はい、もちろんです。ですが、相手の姿も攻撃パターンもわからなければ、作戦の立てようがないのですが」

「そうか。ならば、ギルド団長」

「はーい?なんでしょーか?」


 緊張感のある会議の場でも緩い雰囲気を崩さないリアナは、大臣たちにはあまり良い印象を持たれていなかった。だが、おっとりした国王は、そんなリアナと話していると緊張感が薄れて楽だということで、本人の印象はいい。

 それに、ギルドの団長として色々と国に尽くしてくれるその姿勢を買い、若くして団長を務めているリアナを信頼していた。


 国王は微笑むと、リアナに言う。


「そちらの方で調査をお願いしたい。もちろん、報酬は払おう。もしも、すでに情報があるようならばこの場で渡していただきたいのだが、できるかね?」

「ふーむ…………」


 リアナは、持ってきた化身についての資料を眺める。


「ウチの団員の予測では、物理的な攻撃はないはずなのですが、今回、討伐隊はすべて首を切られていますね。調査をしてきた団員はかなり優秀で信頼できるコです。その団員によれば、化身が触れた物は警備隊員達が倒れていた辺りの草木のように、炭化するようです。彼らの死体の傷口も同じように黒く染まっていたので、化身が触れたものと思われます。ということは、物理系の攻撃もするようですね。ですから、できるだけ接近は避けた方が良いかと」

「今、その調査をしたという団員を呼び出せぬか?」

「無理ですね」

「貴様っ!国王陛下が貴様にその団員を呼び出せと仰っておられるのだぞ!?陛下のご要望も聞けぬか!」


 リアナは、先ほども彼女を責めた大臣に対して面倒臭そうな視線を向ける。


「これこれ、別に無理にとは言わぬのだ。あくまで意見を聞きたかっただけなのだが………今、中継はできぬか?」

「…………本人がわたしの『呼び鈴(コール)』に応答してくれれば、ですね。それと、冒険者の情報はいっさい漏らしたくありませんので、ボクを通して本人の話を聞きましょうか?」

「うむ、それで良い」


 国王が了承したことで、立ち上がってリアナに怒鳴った大臣は渋々座る。


 リアナは『連絡用魔水晶《コーリングクリスタル》』で、シノンを呼び出す。


 この『連絡用魔水晶《コーリングクリスタル》』は、個人の魔力波を検知して遠くでも連絡を取り合うことができる。

 冒険者はみんな登録時にこれを配られるので、顔見知りであれば、魔力を水晶に込めながら相手の顔を思い浮かべることで誰でも呼び出せる。


 連絡を取り合う時、周りの人にも声が聞こえるようにするか否かは、呼び出す時に呼び出す人物が決められる。途中での変更も可能だ。


 だが、シノンは『呼び鈴(コール)』には応答しなかった。おそらく依頼にでも言っているのだろうと思い、それを国王に伝える。


「そうか………ならば仕方があるまい」

「陛下!実際に見た者の話は聞くべきかと存じ上げます!」

「そうですぞ!たかが一団員の都合など気にせず、何度でも呼べば良いのです!」

「ええい黙れ、くどい!」


 国王の脇に座っていたこの国の宰相であるカーミン・ラグレスが一喝する。カーミンは国民の意見を尊重し、国を発展させた優秀な宰相で、先代の国王より使えてきた信頼の厚い重臣の一人だった。


「ギルド団長殿、ご機嫌を損ねないでいただきたい。この者達にはのちにしっかりと言いつけておきますので。団員の都合が悪ければ仕方がありませぬ。もし機会があれば、本人のお話を窺いたいですな」

「先ほども申し上げましたように、冒険者の情報は漏らしたくないのです。性別も、名前も、もちろん本人の身の上話も。これはもう鉄則ですからね。そうでなくてもわたしは冒険者の情報は漏らしたくありません」

「それでも構いません。『変声』を使って本人と話すことは?」

「無理ですね。会話の内容から情報を探られても困るので。まあ、あのコがそんなドジを踏むとは思いませんが」


 ニコニコと愛想のいい笑みは浮かべているものの、リアナはカーミンを警戒していた。もともと、リアナは国王以外の重臣達とは仲が良くなく、あまり信用していなかった。

 そのため、リアナ自身も、周りからの信頼はあまりなかった。


 リアナは気にしていない。周りからは信頼がなくても、事実のみを伝えていれば文句は言われない。もともと国に仕えるという義務はないのだ。


 だが嘘を言うつもりは無い。それがギルドの信頼にも関わるし、何よりも情報を国に与えることが、ギルドの本来の役目なのだから。


 その後も会議が続き、次回は王国騎士団が出ることとなった。




「ああー、面倒臭い」

「仕方ないでしょ?良いじゃないか、団長さんが信頼してくれてるってことなんだし」

「でもさ、なんで俺たちだけ剥ぎ取りやらせるのかわからねーよ」


 文句を言いながらも、シノンは魔物の素材の剥ぎ取りを進めていく。


 本来魔物や獣を冒険者が倒した場合、そのままギルドへと自動的に転送されるはずだった。だが、シノンとカルナの場合はリアナに信頼されてか、それがない。

 お陰で剥ぎ取りは自分たちの作業となってしまった。


 実のところリアナは、ギルドの剥ぎ取り員が素材を取るよりも、シノンとカルナが取った方が綺麗なので高く売れる、という理由で、シノンとカルナにのみ、剥ぎ取りを許可している。


 そして、シノンは素材を自分で生かすことはあまりないので、それを知っていたリアナの判断だ。


 やがて剥ぎ取りが終わった頃、シノンは立ち上がって額の汗を拭った。


「お疲れ〜」

「ああ、お疲れ」


 カルナが歩み寄ってきて、シノンの首に両手を回して体をくっつける。


「帰るか」

「うん」




「お断りだ」

「ははっ、やっぱ即答するよね。もちろんボクも反対だよ」

「で、ミーディー伯爵?誰だそいつ?」

「ほ、本当に貴族にもお構いなしだね。まあ、昨日の会議にも出てきてたんだけど、軍事関係のことをしてる」

「軍事関係、ねえ………まあギルドを敵に回したくなきゃ変な真似はしないだろ」

「そうだといいんだけどねえ…………」


 その時、扉がノックされた。


「団長、指名依頼の報告に来ました、ルクと勇希、勇奈です」

「お、入りな」


 シノンはソファに背を預けて、腕を組んだ。扉が開かれて、ルクたち三人が入ってくる。


「あ、シノンさん!こんにちは」

「あああ、ちょっとシノンは、今機嫌が悪いんだ、ほっといた方がいいよ」

「え?何かあったんすか?」

「うん…………ちょっとね。で、報告でしょ?」

「あっ、はい。幼竜討伐、無事完了しました」

「おお、お疲れ様〜」


 リアナは満足気な笑顔でルクたちを労った。だがシノンは浮かない顔である。ルクたちが三人で弱い方とはいえ竜を倒したというのに、シノンは全く反応しないのだ。


 本人としては、ルクたちがそれくらいに成長していてもおかしくないと思っていたためそんなに驚かなかった――むしろそれが当然だと思っている――のだか、ルクは少し悲しそうな顔をする。


 シノンは基本、機嫌が悪い時は何があっても解決するまで喜ばないし、笑いもしない。本気でイライラしている時に至っては無視、または沈黙である。


 ルクたちがここに来てからは一言も発していないシノンを見て、ルクは意を決してシノンに歩み寄る。


「………シノンさん、何かあったんですか?俺で良ければ相談にのります」

「…………………いや、いいよ。ルクが解決できるような問題じゃねえし」

「えっ!?」


 ルクは目に見えて落ち込む。


「ちょっ、ちょっとシノン?言い方が悪いよ?」

「あ、わるい、ルク。そんなに落ち込まなくていい」


 そう言われて、ルクは顔を上げてシノンを見た。シノンは微笑み、うなずく。


「俺の個人的な怒りだ。ちょっとムカツク相手がいただけだし。お前が気にしなくていいよ」

「で、でも、シノンさんがそんなに起こる相手って誰なんですか?………まさか、カルナさ――………」

「ちっげえよ!」

「ひっ!」


 普段は怒らない、しかも大声すら出さないシノンに怒られ、ルクは体をビクッと震わせた。


「あははっ!シノンがカルナちゃんに対してこんなに怒るわけないじゃん!まあ、カルナちゃん絡みだけどね」

「え?」

「言うな。個人的なことだし。カルナにも言うなよ」

「えー?悩みは共有した方がいいって」

「いいよ。どうせ二日でリリーズに戻るし」

「そしたら今度はボクが大変なことになるじゃん!」

「カルナは団員じゃない。ミーディーは団(・)員(・)の(・)カルナって言ったんだ。違うって言ったって間違いないだろ」

「つ、遂に呼び捨て…………」

「無視したって問題ないだろ。破棄して、しらばっくれればいい」

「でも、せめてカルナちゃんには言った方がいいんじゃ――………」

「ダメ。絶対ダメ。いいか、絶対に言うなよ」

「わっ、わかったよー………」


 シノンがあまりに必死なので、リアナはここだけの秘密にすることにする。

 よし、と言いながらシノンは立ち上がった。


「じゃあ俺はカルナと約束があるから、行くな」

「う、うん。じゃあね」


 その後、シノンは団長室を後にする。




「……………………姉さん、何があったの?」

「ああ………実はね…………」


 リアナは少し言いずらそうに、少しずつ語り始めた。


「実は…………こんなモノが届いたんだよ」


 リアナは、机に置いておいた紙を取り出しルクに見せる。今までずっと黙っていた勇希と勇奈も興味を示し、ルクの両脇からそれを覗き込んだ。


 読むにつれて、三人の表情は驚きの色に染まっていった。


「こっ…………これ………」

「そうそう。シノンが怒る理由ね」


 手紙の内容、それは…………。


『ギルド団長 リアナ殿

 いつも世話になっている。此度の要件は、そちらのギルドの団員、カルナという少女を娶りたいと考えておることに関してだ。以前ギルドを訪れた際に見かけた時、わたしが惚れたのだ。本人にこのことを伝え、是非見合いに来て欲しいことも伝えて欲しい。本日より七日後、屋敷で待っている。

 クリティース・ミーディー』


「至ってシンプルでしょ?でもね、内容が内容なだけに、シノンはもう本気で怒っちゃってねー………」

「シノンさんが怒る理由はわかります。彼女さんですしね………」

「でもまあ、貴族が目をつけてもおかしくない美しさですよ、カルナさん」


 勇奈と勇希が口々に言った。それはシノンとカルナの味方をする意思表示でもあった。ルクはと言うと、黙って、ただ紙面を凝視していた。

 その表情は、真顔とも取れるし怒りとも取れた。


「…………姉さん、これ、無視したらまずいよ」

「そりゃそうっしょ。だからシノンは怒ってるんだよ。あのコ貴族大嫌いだもんね」

「どうするんですか?そのままリリーズに帰っちゃうみたいですけど………」

「ははっ、心配ないよ。ボクが断っとく。彼女にはもう婚(・)約(・)者(・)が(・)い(・)る(・)ってね」

「「「えっ」」」


 三人がリアナを見たまま固まる。


「…………シノンさんとカルナさんって、そんな関係だったの?」

「あれれ?知らなかったの?そだよ。三年くらい前から」

「うわぁ、いいなあ。羨ましいです」


 勇奈は笑顔で、頬を紅潮させながら言う。


「ま、何とかなるっしょ。なんかあってもカルナにはシノンがいるわけだし」

「そうだよね。シノンさんがいれば怖いものなしでしょ!」

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