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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第4章、魔物の暴走
53/138

53、 雑談と火竜

※今回は少々残酷な表現があります。ご了承ください。

「へえ、そんなことがあったのか………っていうか、ラブラブって………」

「あはは…………」


 シノンは片腕を机につき、その手に顔を伏せて呆れたような声を出し、カルナは苦笑する。

 ルクはそんな二人を見て、やっぱり、と呟く。


「シノンさん、もしかして彼女さんってのは………?」

「ああ、カルナのことだろ。てか、カルナ以外にいない」

「団長さん、私たちをそんなふうに見てたんだね」

「いいじゃないですか。リリーズ王国にいた時もすごく仲が良かったですし、今でも仲が良さそうでなんだかほっとしましたよ」

「いや、お前が気にすることじゃないだろ?」

「そ、そうですか?」


 苦笑いを浮かべる勇奈に、ルクが言う。


「まあ、シノンさんを心配してたんだろ?いいじゃないですか、シノンさん」

「はあ………まあ、いいよ。ああそう言えば、勇希は?」

「勇希は遠征に行ってます。今、二人は第二段階クラスになってますから」

「へえ。お前は?」

「ふっふっふっ、驚かないでくださいよ?俺は第四段階クラスの四十七番ですよ!」

「はあっ!?」


 勇希と勇奈のランクには興味無さそうに答えたシノンだが、ルクのランクを聞いて驚愕の色を浮かべる。ルクは現在十五歳である。シノンが十五歳の頃にはすでに第七段階クラス以(・)上(・)の実力は持っていたが、シノンはあくまで戦闘民族。誰が聞いても驚愕するだろう。


 シノンはレイヴァであるため戦闘能力は高いので、特におかしい所はない。だが、通常の十五歳の冒険者のランクは第二段階がせいぜいである。


 それを踏まえると、ルクは相当な努力を積んだということになる。おそらく毎日、欠かさずに迷宮区へ潜っていたのだろう。


 それでも六年でこれはすごい。出会った当時には、ルクはすでに第二段階クラスの実力を持っていた。それは、リアナに指南してもらっていたからだろう。

 そのためか、彼は成長速度が異常に早かったのだ。それにしたって、第二段階から第三段階までの壁はかなり高い。それからは第三段階から第四段階、第四段階から第五段階まで、それぞれレベルの差が大きすぎる。


 そう考えると、ルクはシノンと別れてからまた急激な成長を遂げたのだろう。


「ねえねえ、シノンさんは?」

「……………第六段階クラス五十番」

「ええっ!?」


 ルクが驚くのも当然であった。シノンは学校生活をしている最中でも昇格試験を受けていたので、第七段階一歩手前で止めておいた。


 段階ごとに番号は一から五十で、あと一つあげれば第七段階クラス一番である。それでもその壁は当たり前のように高く、超えられるものは今までに一人もいなかった。


 昇格試験は検定試験と同じで、このレベルに挑戦する、というのを自分で選べる。実力が足りなければ不合格だし、足りていればそのレベルの資格を得る。


 これ以上は気が向かない限りシノンも昇格試験は受けないことにしていた。試験監督も、余計なトラブルを防ぐためにこういったことは内密にしてくれる。


 だからシノンも、世界初の第六段階クラス五十番を取っても特に世界では騒がれていない。


「いいか、絶っっ対に、他言無用だぞ。お前らだから教えるんだからな」


 ルクは冷や汗をかきながら、何度も首を縦に振った。それこそ、もげてしまいそうなんじゃないかというくらい。

 勇奈はランクにはまだ詳しくないのでそのすごさがよくわかっていなかったが、大変なことだというのは理解していたのでうなずいた。


「…………シノンさん、もしかして、第七段階いけるんじゃないですか?」

「お前まで言うか。行かない。今(・)は(・)、絶対に嫌だ」

「そ、そうっすか」


 静かになった食堂で、シノンたちは雑談をし続ける。


「シノンさん、今は何してるんですか?」

「学校に行ってる。ほとんど仕事のためなんだけど」

「え、学校?」

「今は夏季休暇中なんだ」

「ああ、なるほど」

「カルナさんも通ってるんですか?」

「私はついで。シノンについて行っただけだよ。まあ、楽しそうだったからってのもあるのは否定しない」


 笑顔を向けるカルナにルクが更に問うた。


「どんな感じですか、学校って?」

「そうだなー、まず授業が新鮮、実技は楽しいし、友達もいていいし、寮は毎日がお泊まり会みたいで良い」

「俺も行ってみたいなー」

「行けばいいじゃないか。試験は半年後だし、お前も入学できる歳だぞ?」

「いや、でも仕事が…………」

「その歳ですでに冒険者やってる方が少ないんだ。普通はそういうのは、学校生活を優先するもんだ。行きたいなら素直に行きたいって団長に言えばいい」


 ルクはしばし考え込んだ。

 やがて顔を上げると、決心したように言った。


「やっぱり、俺、行きません。ここに残って勇希や勇奈と一緒に依頼こなしてる方が楽しい気がします」

「相変わらず人見知りが抜けないんだな」

「お互い様でしょっ!?」

「ははっ、まあ、それが自分の判断なら俺は別に反対なんかしねえよ」

「そ、そうですね、へへっ。ちなみに、お二人はどこの学校に?」

「王立総合高等学校」

「………………………はあっ!?」


 今度はルクが驚愕する番だった。

 シノンは軽く吹き出し、カルナもクスッと笑った。釣られたのか、勇奈も微笑み、体をプルプル震わせた。


「ちょっ、え、ええ、ええええええ!?お、おおお、王立ぅぅぅ!?」

「うるさいな。他にも人がいるんだから迷惑だろうが」

「いたっ!?」


 シノンはルクの頭にチョップを食らわせる。軽く打ったつもりだったが、ルクには相当効いていた。

 頭を抑えて蹲るが、やがて涙目でシノンを見ると、落ち着きを取り戻し、言った。


「い、いや、すいません。あまりに驚いたもんで」

「冒険者が王立学校ご(・)と(・)き(・)のレベル突破できなくてどうする?」

「ごとき…………」


 がっくりと首を曲げてうつむくルク。シノンとの格の差を見せつけられたルクは、この先目標であり憧れであるシノンに追いつけるのだろうかと不安になった。


「焦ることもないだろ。俺は一応戦闘民族の末裔だからこんなレベルになっちまったけど、ルクだって二十年くらい修行すれば俺に追いつけるって」

「本当ですか?」

「まあ、それもルク次第だけどな。それよりも早いかもしれないし、遅いかもしれない。何も、俺に追いつこうとしなくてもいい。まずはとりあえずの目標を立てろ。何のために力を手に入れたかったのか、思い出すんだ。あ、復讐なしでな」

「わかってますよ。今じゃもう吹っ切れました。顔も知らない両親の仇なんて取っても意味がないって今じゃ思えますし」

「ふむふむ、ならば良し」


 シノンにとっての満面の笑みでうなずきながら答える。シノンの満面の笑みとは、微笑みよりも少しレベルが高いほどのものである。

 カルナはそれを微笑ましい顔で眺めたが、ルクはそれがシノンの満面の笑だとは気づかなかった。


「さて、と。カルナ、仕事に行こう」

「うん」


 シノンとカルナが立ち上がると、ルクはシノンに尋ねた。


「迷宮に行くんですか?久しぶりに一緒に行きません?」

「いや、今日は『警利《けいりつ》の森』だから、さすがにお前でも行かない方がいい。それに用は竜(・)の(・)討(・)伐(・)だからな」

「りゅ、竜、ですか?」

「ああ。警利の森の街道のど真ん中に居座ってるって依頼でな。と(・)り(・)あ(・)え(・)ず(・)今日はそいつを倒してくる」

「とりあえずって…………」

「あの、カルナさんも?」

「うん。最近ではシノンとよく行くんだ。特に今日は竜なんて依頼で行くのは初めてだよ。けど、シノンがこれも特訓だってね」


 笑顔でカルナは返事をした。食器を持って、これから竜の討伐をするのに特に緊張感もなく去っていく二人を見て、ルクと勇奈は、自分たちとは実力の差を実感するのだった。




「さて、プエルにフィーユ、竜はどこだ?」

『『ここから真っ直ぐの約三キロメートル先』』

「三キロか。カルナ、走るぞ」

「よーっし!」


 カルナは気合を入れて、外套を脱いで収納魔法でそれをしまう。腰のベルトの武器を確認し、シノンにうなずきかける。


「じゃ、行くぞっ!」


 同時に地面を蹴って走り出す。シノンはカルナの足の速さに合わせて、本気の約五分の一ほどのスピードで走っていた。

 一方のカルナは置いていかれまいと必死で走る。だがシノンには余裕がありすぎることに気づいており、自分も負けじと地面を蹴り続ける。


 やがて、シノンは竜の気配を感じ始める。どうも街道のど真ん中に今もいるようだ。

 カルナに警告して、シノンは奇襲をかけることにした。


 移動していても、シノンには常に気配を消しているという癖(・)があるため、竜がこの時点で存在に気づいていたのはカルナだけだった。


 シノンは走りながら両手を合わせ、瞼を閉じる。魔力がシノンの体に集中し、周りには水の精霊が集まってきた。シノンが使おうとしている魔法は、水の精霊魔法である。


 シノンは魔法の中でも水を得意としており、しかも相手の攻撃は効かずむしろ吸収することから、水の攻撃を受ける度に彼の攻撃力は他の属性より突出して高かった。


 竜には通常水属性は通用しないのだが、今回の相手は火竜だった。だから水属性が適任だと、シノンは判断したのだった。


 竜が見えてくると、シノンは瞼を開き、水の精霊魔法を放った。


『水精霊の投槍《アクアガイスト・ピック》』。精霊魔法の槍系攻撃魔法の中で最高のもの。水を魔力で固め、相手に突き刺さった瞬間に液体化。

 火竜では血の中にある火属性の魔力が刺激され、ダメージは大きい。通常では考えられないほどの数の槍をシノンは作り出した。


 数十個の槍が作られ、半分ほどの槍を放った。それと同時に、シノンはカルナに『加速』と『体力上昇』、そして『魔力上昇』を付与し、彼女は更に加速する。そして、魔剣を取り出して魔力を込めてから竜に斬りかかり、腕を切断。


 魔力で強化され補助をされた魔剣は、竜の細(・)い(・)腕をいとも容易く切断した。


「グォアアァァァァァァァ!!!」


 竜の腕からは大量の血が流れ出たが、竜にとってそれはほんの僅かである。続いてカルナは、尻尾を攻撃する。切断までとはいかないが、三分の一ほど剣がめり込むと、更に竜は叫び声をあげる。


 間髪入れずに、カルナは竜の翼の根元をめがけて剣を振るうが、それはシノンの言葉によって止められる。


「待て!後ろ!!」

「っ!?」


 後ろからは、取り巻きの火属性のリザードマンがいた。赤い鱗に人が装着するような鎧と剣に盾。体調は二メートルほどで、今から飛び上がろうとしていたカルナの背中を狙っていた。


 だがそれも叶わず、シノンの『水精霊の槍』によって防がれる。


 十体ほどのリザードマンもシノンの魔法にはなす術がなく、全員切り伏せられた。


「グオオオオオオオン!!!」


 カルナは竜から一旦距離を取って、その間にシノンは残りの槍を放つ。顔面から腹にかけて十以上の数の槍が竜の体に突き刺さる。


 カルナがシノンの脇に来て、言った。


「取り巻きはまだいそう?」

「うん。こいつ、もう少しで第三段階の『中竜《ジュニアドラゴン》』になるところだ。取り巻きは今確認できるだけでも数十はいる。弱いとはいえ、俺でも油断はできないぞ」

「『中竜《ジュニア》』か………」


 カルナは竜から視線と警戒を逸らさずに呟く。ここで集中をとぎらせば、シノンと言えど傷を負うだろう。カルナに至っては決して油断などできない。


 相手は下のレベルとはいえ竜種だ。弱い方でも、ベテラン冒険者と言えど油断すれば死亡するのだ。


 しかも相手は火属性を持つ火竜。最悪、火を放たれればこの森は焼け落ち被害が出る。だからそうなる前に、シノンは水属性の結界を張った。竜の移動範囲を制限できる上に、火事を防ぐことができるからだ。


 早速竜は炎の『息吹《ブレス》』を繰り出そうとするが、結界内で湿気が多いため小さな炎しか出せなかった。


 カルナはそれを躱しながら竜に近づき、もう一度翼の根本に傷をつけようと迫る。だが、また取り巻きに防がれてしまった。


 竜は飛び上がろうと翼を羽ばたかせたが、それはシノンが許さなかった。


『重力・重化(デュプレックス)』。結属性の重力制御(コントロール)魔法である。重力をコントロールして重さを調節する魔法で、これの場合、重くする、である。これとは対照的な魔法が、『重力・軽化(ライトリー)』。軽くする魔法である。

 付与魔法の『軽化』が、これの応用だ。


 竜は苦痛の声を上げ、地面に縫いつけられるように這いつくばった。


「うるせえな………カルナ、とどめを刺すぞ」

「了解」


 カルナが距離を取ったのを確認して、シノンは強く両手を合わせた。


「仕上げといきますか」


『濁流《マディー》』。濁った大量の水を沼地などから一時的に呼び寄せて適に流しダメージを与える。調節を間違えば相手は命を落とすことさえある危険な魔法だ。

 流した後はすべて元の場所に戻る。しかしその場合、元の場所に特に変化はない。というのは見た目だけで、近くにいる人を驚かせないようにするというシノンの配慮だった。


 これは彼の固有魔法《オリジナル》で、使い手は彼以外にいない。そのため、こうして他に誰もいない所でしか使えないというのが難点だった。


 それは『重力《グラビティ》』も同じで、結属性は竜相手の時にしかほとんど使えないので他のと比べればなかなか上達が遅かったのだ。


 周りに沸いてきた取り巻きもまとめて押し流し、そのほとんどが溺死した。竜は傷に当たる水圧に苦しんで、耳が痛くなるくらいの叫び声をあげていた。


 音に敏感なシノンにはダメージが大きくなるので、自分たちの周りには『防音』結界を張っていた。だが、竜の声はシノンの結界を越え、結界内でも聞こえていた。


「ガアアァァァァァ!!!!」

「うるせえっつってんだろ」


 シノンは苛立たった声を出しながら、濁流の水の中に物理属性の電気を流し込む。普通の電気では、水は電気を通さないため効果はいまひとつなので、敢えて物理属性の雷を使った。


 一気に魔力を流し込んだため、竜は声も出せずに即死した。周りの取り巻きも、もちろん物言わぬ骸と化した。


「……………ふう」


 シノンは結界を解き、額の汗を拭った。一気に魔力を消費したので、少し頭がふらっとしたが、これくらいのことはシノンは慣れていた。


「お疲れ様っ」


 カルナがシノンの肩を軽く叩く。

 タオルと水筒を取り出しシノンに渡してから、自分の分も取り出して水を飲む。


「おう、ありがとう。お前、良かったぞ。尻尾を先に攻撃したのはいい判断だったと思う。竜は飛ぶ時にバランスをとるのが尻尾だからな、傷付けとけば飛びにくくなる」

「へへっ、でしょでしょ?他に何かある?」


 顎に人差し指を当てながら、シノンは天を仰いだ。


「うーん、迷いがなかったのは良い。でも、あれだけ成長していた竜だ、取り巻きがいることくらい予想しとけ。あとは特にない」

「なるほど、わかった。ありがと」


 カルナは満面の笑みで、シノンを見ていた。

〜補足〜


☆属性補足シリーズ

今日の課題:虹属性魔法とは?


カルナ『シノン、虹属性ってどんな魔法なの?』

シノン『うむ、虹属性ってのは、元は『虹目』が使っていた魔法で、戦闘に特化した魔法だ。言うまでもないかも知れないけど、作者のオリジナル属性な』

カルナ『こないだは物理属性が戦闘に特化してるって言ってたけど、実際はどっちの方が強い?』

シノン『物理は遠距離、虹は近距離だな。どちらかと言われると………同じかな。使い手によるけどな。虹は、魔力を操作して身体強化をしたり武器を作ったりできる。『速戦即決型』で一気に勝負を決める。お前も練習すれば戦闘じゃ有利だぞ』

カルナ『ほんと?なら、今度教えてよ』

シノン『もちろん。一応魔術師が使う属性の部類に入ってるけど、虹目ならみんな使えるからお前でも大丈夫だろ。ただし、これは魔力の精密なコントロールが大事だ。もう少し魔法の練習しないとな』

カルナ『わかった。基礎体力を鍛えれば、身体強化でも強化できる限度が上がるんだよね?』

シノン『そりゃそうだ。まあ普通の『身体強化《ブースト》』よりは虹属性の身体強化の方が数倍精度が高いんだが、魔術師なんてほとんどが、いや、みんな後衛だからな。虹属性は、魔術師には使い手がほとんどいない』

カルナ『虹目の人はみんな使ってるのか?』

シノン『全員ってわけでもないようだ。プエル、虹目全体で虹属性の魔法の使い手の割合を検索』

プエル『だいたい82%くらいだよ』

フィーユ『全体の人数が3000人くらいだから、だいたい2460人くらいが使い手ってことね』

カルナ『それでも結構多いんだな………』

シノン『俺もその一人ってことか。使えた方が絶対得だし、虹目が虹属性を使うと特典もあるから良いんじゃないか?』

カルナ『そうだな。じゃあ、虹属性魔法というのは、まとめれば近接戦闘型の、それも速戦即決型の魔法、と言ったところなんだな』

シノン『そうだ』



最後までお付き合い頂きありがとうございます。

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