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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第4章、魔物の暴走
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49、 次元と時空間

『さて、えーと?一万年前のことだって?』

「ああ。当時現れたという黒い影についてと、二十人の英雄。それから、空の使いたちについて。俺はその二十人の英雄ってのが、空の使いなんじゃないかと思ってるんだが」

『違うわよ?二十人の英雄も確かに異(・)世(・)界(・)人(・)だけど、空の使いとはなんら違うわ。むしろこの世界に呼んだ張本人たちってところよ』

「は?この世界に呼んだ?」


 カルナの問に二人はうなずく。


『よーく聞くのよ。これは私たちでもあまりよくわからないのよ。なんでか、記憶が曖昧というか………』

「それでも構わない。断片的でもいいから、教えてくれ」

『わかってるよ。その二十人の英雄は全員兄弟姉妹、強力な魔術を無詠唱で使い、やがて世界の脅威となった『影』を倒した………ここまではシノン達も知ってるでしょ?』


 プエルの問いに、シノンとカルナはうなずいた。


『彼らは人ならざる存在。とは言っても、ちゃんと人のことを人以上に理解している『聖族』よ』

「「『聖族』?」」

『ええ、聞いたことある?昨日言った『聖族魔法術』の使い手、そして開発者。人には使えない強力な魔術を無詠唱で使うの。彼らは異世界を渡る手段を持っているの。それで当時も、この世界に迫る危(・)機(・)を察して、駆けつけたのよ。それで呼び出したのが、空の使い』

『空の使いの役目は、世界のバ(・)ラ(・)ン(・)ス(・)を保つこと。例えば、この世界を一つの箱だとするよ?』


 プエルは両手の上に、箱らしき物を作り出した。


『それは一本の細い棒で支えられている』


 次に、箱の下に棒を一本付け足した。


『これは、下に落ちれば世界は崩落、消滅する。つまりは不安定なわけだ。少しでも衝撃が加われば、この世界は滅ぶ。けれど、空の使いたちがこの世界に来ることで、新たに棒が足される』


 今度は、箱の端っこの当たりに何本もの棒が追加された。


『この棒は長い間保たれる。そのうちに、真ん中の棒を残して消えてしまうのだけれど、今は空の使いがいるからいわゆるこの状態に、世界はなってるってことだね』

「世界の………バランス………」


 シノンはまたひとり言を呟いた。プエルは箱と棒を消すと、シノンとカルナを見る。


「でも、世界のバランスって、どういうこと?空の使いたちがいなかったら何もしなくても崩落する、と?」


 カルナの問に、フィーユが答えた。


『ええ。なにせこの世界は特殊だからね。聖族が必死になるのも無理はないわ』

「聖族がこの世界に空の使いを呼んだって言ってたけど?」

『ああ、うん。聖族ってのは世界の『管理人』でね、いわゆる神様み(・)た(・)い(・)な(・)存在なんだけど、不確定なんだよねぇ、存在自体さ』

「不確定?いないかもしれないってことか?」

『こればっかりは私たちにもわからないのよ。彼らはまだ生きてるはずなんだけど、情報を仕入れようとするとどうしても阻害されちゃってね』


 要するに、彼らでも英雄のことを知ることは出来ない、と。でも、相手がこの世界の者ではないことはわかった。空の使いと同じで別の世界から来て、そして空の使いをこの世界に呼んだ。


 そういうことだろうとシノンは思ったが、ここでふと疑問が浮かんだ。


「まだ生きてる?」

『反応遅いよ〜。そうさ。聖族には寿命がないからね』

「「寿命がない!?」」

『彼らを人種として見ない方がいいわよ。神様だから』

『聖族ってのは人間みたいにたくさんいるんだけど、その中でも英雄と詠われている二十人の兄弟姉妹たちは、『聖者』と呼ばれる存在だよ。例えばそうだなー………『宇宙神サイチェス』、とか』

「宇宙神………ねえ………」


 そう言えば、彼らにはそれぞれ二つ名がある。それも聞いてみたくなり、シノンは二人に問うた。


『『水の魔術剣士』?ああ、『水神アルスレンド』のことかい?』

「す、水神………アルスレンド………?」

「?どうした、シノン?」


 シノンは宙を見つめたまま、じっと動かなくなってしまった。そのまま顎に手を当てて、考え込む。こうなってしまえば、シノンはしばらく戻ってこない。


 それを知っていたカルナは、シノンを放ってプエルとフィーユに問う。


「他の十八人の名前もわかる?」

『うーん、あと三人しかわからないんだよなぁ。『光神フルエリラン』、『竜神カルリーナ』、『氷神サラアオ』。いずれも聖族魔法術の属性の名前なんだけど、あとはわからないなぁ』

「結局、聖族は謎ってことか………」

『そうね。さすがに異世界の事情まではわからないわ。ただ、私たちがここまでわかるのは、彼らが『夢見の里』に滞在していた時に夢の民に名乗りを上げていたからなのだけれど、もともと夢の民とも関わりが少なかったからかしら、それに関する情報はないわ』


 それをフィーユが言った時、シノンが自分の世界から戻ってきた。


「それだけで充分だ。ただ、このことは団長にも全王さまにも言わないでおこう。聖族に関しては、また別件だ。異世界に渡る方法とか、わかるか?」

『ああ、それならわかるよ。『時空魔法』、『空間魔法』、それから『物(・)理(・)属(・)性(・)魔(・)法(・)』、だね』

「「……………………は?」」


 シノンとカルナが間の抜けた声を出す。しばらくは二人とも固まっていたが、我に返ったシノンが問うた。


「待て待て待て待て、物理属性魔法?どういうことだ?」

『ん?ああ、そうか、知らないのか。ほら、昨日も、『時空間魔法を君はま(・)だ(・)使えないでしょ?』って言ったじゃない?』


 シノンとカルナは同時にうなずく。


『物理属性魔法のタイプは基本、全部で七(・)つ(・)って言われてるけど、実際は八(・)つ(・)』

「八つ?あと一つは?」

『『次元タイプ』』

「……………次元?」


 今度声を上げたのはカルナだった。そう言うのも当たり前である。シノンですら知らないのだから。


『そうそう、次元タイプは空間魔法に似ているけれど、ちょっと違うんだよね。空間魔法は同(・)じ(・)世(・)界(・)の(・)中(・)を(・)移動するいわゆる瞬間移動《テレポート》とかだね。時空魔法は同(・)じ(・)世(・)界(・)の(・)中(・)の(・)時間の間を移動する魔法でいわゆる時間移動《タイムスリップ》とか。でも物理属性魔法の場合、次元タイプは別(・)の(・)世(・)界(・)の(・)空間や時間を移動する、特殊な魔法なのさ』

『異世界転移もこれを用いられているのよ。もともと物理属性は聖族が作ったものだから』


 シノンは更に唸る。その顔はわからないと言うより、どうしたものかと悩んでいるようだった。


「とにかく、他に何かわかることとかあるか?」

『『ないね(わ)』』


 二人で同時にそう言った。しかしここまでわかれば充分だとばかりにシノンは彼らに別れを告げて魔道具に流す魔力を切り、ため息を吐く。


「ふう…………魔力を流しながら話すのもなかなかキツイな」


 言いながら、シノンは部屋に張っていた『防音《サイレント》』の結界を解く。


「そう言えば、シノン。これ、なんの付与がかかってるの?ていうか、これの素材は何?」

「ああ、素材は白い魔石。依頼をこなしてたら魔物からまた出てきた。普通の魔石よりも魔力が高いようだったから、削って使ったんだよ。付与は、『世界地図』、『案内』、『情報収集』、『連絡』、『通達』、『転移』。たぶん、『案内』と『情報収集』が合わさってプエルとフィーユが生まれたんだろうな。『連絡』と『通達』については、まあ念話みたいなもので、これの場合は遠くにいる人と会話ができる」

「白い魔石………白刃の素材の一つだったっけ。見つかったんだ?」

「………ああ、白い魔石についてプエルとフィーユにも聞いてみたんだが、異世界の素材、だということしか知らないらしい。魔物から出てくるのは、たまたま持っていたから。黒い魔石についても同じだ」

「そうか…………」


 転移は唱えれば持ち主と持ち主に触れている人物を別の場所に移動させる作用の他、盗難防止のため、持ち主の許可なく百メートル以上離れると自動的に持ち主のもとへ戻ってくるという仕組みになっている。


 ちなみに持ち主はシノンで、起動できるのも彼だけである。非常時にはカルナにも起動できるようにしてある。


「あ、わかってると思うけど他言無用だからな。バレたらこれが狙われる」

「わかってるよ。だから防音結界を張ってたんでしょ?」

「お?お前もそろそろわかるようになったか。そうだ」

「えへへ、伊達に魔法を習ってるわけじゃないよ。自己流だけどね」

「いや、それでもすごいよ。魔力を感じ取る技術は、昔からほとんどないからな」


 シノンは立ち上がると、部屋から出る。カルナもそれについて行った。




「遅い」

「いたぁっ!?」


 カルナの脳天に、シノンの振った木剣が当たる。カルナは木剣を手放し、頭を抑える。その体はわずかに震えていた。


 シノンは木剣を肩に載せながらしゃがみ、カルナの頭に回復魔法を放った。


「…………もう、手加減してよ………」

「だいぶ手加減したんだがな…………」


 涙目になって言ってくるカルナに対して、シノンは半目になりながらカルナの頭に回復魔法をかけ続ける。

 回復し終わると、カルナは立ち上がる。


「よし!続きだ続き!」

「切り替え早いな。まあ、いいけ、どっ!」


 カルナからの不意打ちを受け止めたシノンは、再び半目になってカルナを軽く睨む。


「おい。まだ始めの合図はしてないぞ」

「勝負とはこういうもんだろ。シノンだって私が不意打ちすることわかってたんで、しょ!」

「おい!」


 カルナは木剣に風魔法を纏わせて、更に身体強化で一気にシノンを押す。しかしシノンはそれに身体強化だけで対応し、しばらくは押し合いが続く。


 シノンは口の端を軽く釣り上げると、身体強化を左手に集中させてから右手にも木剣を取り出して、カルナの脇腹めがけて振った。


 カルナはとっさに剣を引っ込め、地面を蹴って後ろに飛び退る。


「ははっ、なかなかいい反応だけど、俺が収納魔法を使えるってこと忘れんなよ」

「えー、ちょっと、大人気《おとなげ》ないよ」

「お前の方が歳上だろうが」

「むう………それでも経験で言えばシノンの方が長いだろ!」

「そうだな。じゃあそれは大人気《おとなげ》ないとは言わないな」


 カルナはぷくっと頬を膨らませて拗ねる。その姿を見て、シノンは思わず頬を緩めた。


「次は当てるぞ!」

「おう、来い!」


 カルナはシノンとの下段の構えで距離を詰めた。そのスピードは、五十メートル走で三秒をとる速さだ。しかし…………。


「遅い」


 シノンはそれを右側に軽くステップを踏んで避ける。そして左側から飛んできたカルナの木剣を右手に持った剣で受け流し、左手の剣を彼女の首筋に当てた。


「力任せに振りすぎだと言ってるだろ。あと遅い」

「むう…………シノンはこれでもどれくらいの割合の力を出してる?」

「三割」

「さっ………!?」


 シノンが木剣をカルナから離すと、がくっと首を曲げて頭《こうべ》を垂れた。


「…………焦らなくていいよ。虹目でレイヴァだってだけあって、お前、結構強いんだからな?他の一(・)般(・)団(・)員(・)と(・)戦ってみれば、たぶんほぼ一瞬で勝負がつく」

「へ?」


 カルナは顔を上げて、間の抜けた声を出す。


「……………………だいたい、二年前の入学試験の時、その時点でも結構な腕だったんだからな?自覚がないとちょっとまずいか………うーむ…………あ、ニスー、おーい、ニースー」


 シノンは訓練場内を見回して見つけた副団長ニスを呼びに歩いていった。

 カルナはその場に残り、未だ固まっていた。


「え?模擬戦?」

「そ。カルナのやつ、自覚がなくて実戦じゃ使えなくなるから、自信を持たせようと思ってさ」

「なるほど。でも、俺でいいのか?」

「お前がいいの。他の奴らはやめた方がいい」

「そ……そうか……まあいい、やってやるよ。で、カルナちゃんは?」

「あっち」


 後ろ指を指しながらシノンはカルナを振り向く。シノンに手招きされ、カルナは小走りでシノンとニスのもとへ向かった。


「そういうわけだから、カルナ、ニスと模擬戦」

「え!?も、模擬戦!?」

「言っただろ。一般団員だと一瞬だから、それなりに実力があるニスが適任なんだよ」

「まだ冒険者にもなってない女の子が現役冒険者に勝てるわけねーだろー?なあ?」

「ああ、ちげえねえや」


 間に入ってきたのは、別のギルドの団員だ。サニーズでは、別のギルドの団員も訓練場は使えるので、それで今は訓練中のようだ。


「はあ………お前ら………相手の強さを見抜けないやつほど弱いって知ってるか?」

「ああ!?てめえ、なんか言ったか?」


 ニスというこのギルドの副団長に対する態度か、とシノンとカルナは心の中で愚痴をこぼす。

 シノンは黙って、話しかけてきた男達を見つめた。その目には哀れみや呆れの色があった。


「ああ?なんだガキ?なんか文句あんのか?」

「いや?別のギルドとはいえ、副団長に対する態度がなってねえなってな」


 興味がなくなったのか、シノンはその後は男達に何を言われようと目を逸らし、耳を貸さなかった。

 今現在シノンとカルナは偽装の腕輪をつけており、学校生活中の姿でギルドにいる。そのため、あまり目立つことはない。


 あまりにも男達がギャーギャーとうるさいので、シノンは一度男たちを睨みつけてやったが…………。


「おう、てめえら、何してる?」

〜補足〜


☆魔法属性補足シリーズ

今日の課題:物理属性魔法について


シノン『こないだ俺が死にかけた時に説明したけど、色々と複雑だしな、もう一度説明しておこう』

カルナ『そもそも物理属性魔法って?魔法なのに物理ってどういうこと?』

シノン『まあその名の通り物理系の魔法だけど、まあ簡単に言えば魔法で『物を操る』魔法だな。これにはそれぞれ『タイプ』があって、『植物性物質』『液体物質』『化学物質』『空気や気体』『ガラス』『金属物質』『電気』それから今回は新たに『次元』が出てきたな。ちなみにこれは作者のオリジナル属性だ』

カルナ『『操る』……か………操るといえば、念属性との違いは?』

シノン『物理は魔力で物を作り出して操る。けれど、念属性はその場にある物だけしか操れない』

カルナ『じゃあ使い手が物理よりも念力の方が多いのは?』

シノン『一つ目の理由は使い勝手が悪いから。というか、使いにくい。前にも言ったように、物理属性で作り出す水は飲めないし、電気は通常電気を通しにくい物までよく通るから戦闘以外では使えない。色々と不便なんだよ。その分他の属性を使えた方が、楽だしな』

カルナ『へえ………じゃあ、逆に使い手はどういう考えで使ってるの?』

シノン『俺の場合は、ちょっと敵が多いからな。いろんな意味で使い勝手が良い』

カルナ『例えば?』

シノン『ネタバレになるから黙っとく。後でわかるさ』

カルナ『ああ………なら仕方ない』

シノン『他には、戦闘狂が使ってたり、戦場で使ってたり、とか』

カルナ『戦場?』

シノン『魔力が続く限り物体を作り出せるからな。『金属』でもばらまけば人間の首なんかひとたまりもないな。昔は戦争で使われることが多かった』

カルナ『こ………こわっ………い……』

シノン『まあそんな戦闘に長けた魔法ではあるけれど、一部、科学者の中では人気もある』

カルナ『科学者?ああ、人数は少ないけどいるよね』

シノン『魔法が発達してるから、あまりいないんだな。『機械』とかいう電気を使う道具を開発したり、化学物質を使ってどうのこうのってやってる奴らだな。物理属性のタイプの中には『化学物質』を操るものもあるから、それを利用して色々とやってるみたいだ』

カルナ『ねえねえ、他にもあるの?』

シノン『もちろんあるさ。『植物性物質』。農業で役に立ってる。まあ、一部だけど。植物性(・)だから、油とか作れるんだ。それを利用する奴もいる』

カルナ『油?でも、水とかと同じで料理じゃ使えないんじゃ?』

シノン『もちろん。料理で使うんじゃないんだ。火を燃やすために使う。例えば、『焼畑農業』に役立ってたりする』

カルナ『戦闘以外でも役に立つのはやっぱり魔法らしいところは魔法らしいね』

シノン『そうだな』



最後までお付き合い頂きありがとうございます。

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