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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第4章、魔物の暴走
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48、 固有種族と異世界

 誘拐事件が発生してから二年が経った。男たちは、軍隊の聴取を受けるなり自害したそうだ。奥歯に仕込まれていた毒を噛まれて。


 なんとも原始的なものだなあ、と思いつつ、シノンはこの件についてはもう無視することにした。


 現在、シノンとカルナは三年生。シノンは十八、カルナは十九になった。今では学科も分かれ、シノンは一人、カルナはコルディアスと二人で授業を受けている。


 Sクラスは本当にSクラスの人の中でしか分かれないので、どうしてもほぼ個人授業となってしまう。


 優秀な人材で将来を期待されているから分けられているのだが、Sクラスのメンバーは人との交流が少なくなる。そこで決められているのが、部屋割りの制度だったのだ。


 他のクラスのメンバーと同じ部屋なので、人との交流は毎日できると言えばできる。


 しかし、Sクラスは皆向上心が高いため、ほとんどが放課後も残って補習だ。シノンとカルナも例外ではなく、二人で図書室に残って本を模索していた。


 シノンは、盗賊を捕らえた報酬として、王宮の書庫を模索する許可をもらった。未だ空の使い(クヤイ)の調査は進んでいるためだ。


 去年王宮の書庫を制覇し、今では学校の図書室をも制覇しようとしていた。


 今までの調査でわかったことは、二十人の英雄たちについてと、空の使いたちの『能力』についてだ。

 一万年前から残っていた日記らしきものを発見し、読んでみたところ。


『二十人の英雄たちは、今後いっさい人との関わりを絶つと申した。理由は定かではない。ただ、彼らは表情に苦痛の色を浮かべてそう言った。私は止めた。今後も、是非冒険者として活躍してほしい。そう言った。だが、彼らは決して首を縦に振らなかった。何か深い事情があるのかと聞いてみたが、またしても首を横に振った。間もなくして、彼らはどこかへ去っていった。所在は、私が年老いてもわからなかった。』


 他にも、空の使いに関することも書かれていた。だが、日記らしきものと違って保護魔法が使われていなかったため、ところどころ霞んでいて読めない部分もあった。


『空の使い。彼らは………だ。世界の………を保つために…………ら来た。本来獣人には魔法が……ない。魔力源の能力は魔法が……るようになるだけでなく、彼らの能力を………するために存在する。彼らの能力は魔法とは違い、………ではない威力の攻撃系………や、普段の生……に役立つ生活魔法にも似た………など、幅広い効果を持つ………であった。』


 わからないところだらけじゃんか、と、シノンはこれを読んでからつい愚痴をこぼした。

 いくつかだいたい予想はつく場所はあるが、特に一番最初の方は重要な部分が欠けすぎていた。


 その事に不満を抱いたシノンであったが、王宮では紙を蘇らせられる『蘇生《リステーション》』ができるとのことで、この本の内容を読めるようにしてくれた。


 直すのに数年はかかると言うから、シノン達はしばらく待つことにした。



「シノン、何やってるの?」


 夏の長期休み。一度レラン王国に帰ってきたシノンとカルナは、ギルドの自室にいた。

 本来はシノンの部屋であるが、カルナの部屋は用意ができないために共用している。


 シノンは机の上に白い玉のような形をした何かに魔力を込めていた。これは付与魔法で、シノンはとある付与を施している。


「ああ、まあ、地図を作ってる」

「………地図?」


 シノンはうなずくと、そのまま付与を続ける。


 地図の機能だけでなく、他にも様々な付与をかけているためかなりの集中力と魔力が必要だった。それでも話しながらできるのは、シノンが授業や本で魔法陣や付与魔法について学んで更に腕を磨いていたからである。


 その後数十分のあいだ付与を続け、やっと終わった頃にはシノンは椅子にため息を吐きながらもたれかかった。


 カルナはそのあいだ、シノンの付与を脇から覗き込んで興味深そうに眺めていた。

 完成品は、直径十センチほどの真っ白な球体で、ほのかに光を帯びていた。


「…………これ、どうやって使うの?」

「むぅ…………今は疲れたから話しかけないでく、れ……………」

「もう、だらしないぞシノン…………あ」


 カルナが気がついた時には、シノンは静かに寝息を立てて眠っていた。だらしないなどと言って、ちょっと悪かったかなと感じたカルナだった。

 カルナは、椅子を少し倒して毛布をかけてやった。


 それでも気づいた様子はなく、シノンは無防備に寝ている。

 そんなシノンの寝顔が可愛くて、カルナはしばらく彼の寝顔を見つめてしまった。


 やがて今度は、先ほどシノンが付与を施していた玉に興味を持ち、近くで見つめる。こういうのは、たいてい勝手に触ると怒られるので、見つめるだけに留めた。


 カルナはしばらく眺めていたが、この道具の使い方が全く分からなかった。やはり触ってみなければ無理っぽいな、と判断したカルナはシノンの机から離れ、自分の宿題を開始した。



 暗くなった頃に、カルナは目を覚ました。宿題とは実技で、精霊魔法の初級をマスターすることだったのだが、疲れて寝台に寝転がったらすぐに眠ってしまったのだった。体にはいつの間にか毛布がかかっている。


 部屋は暗かったが、一際明るい部分があった。明るかった場所は、シノンの机だった。


 玉に向かって何か話しかけている。そこからも男の子と女の子の声が聞こえたので、カルナはシノンに近づき、彼の手もとを覗き込む。


 そこには、球体の上にうっすらと映り込む少年と少女がいた。二人とも見た目は子供だ。


 少年の方は空色《スカイブルー》の短髪に深い瑠璃色の目を持った美少年だ。そして少女の方は、桃色の腰まで伸びた長い髪に明るい赤色の目を持った可愛らしい女の子だ。


 二人とも笑顔を浮かべて、シノンに紹介を求めている。


「おお、カルナ、おはよう」

「うん、おはよう。この子達は?」

「男の子の方はプエル。女の子の方はフィーユっていうんだ。二人とも、こいつは俺の婚約者でカルナだ。まあお前らならすぐに仲良くなるだろ」

『よろしくね、カルナ!』

『よろしく』


 二人とも愛想のいい笑顔でカルナに手を小さく振る。


「二人はこの魔道具を作った時に生まれた『案内役《サポーター》』っていう『種族』らしい。世界のどこを探してもいない、『固有種族』だよ」

「『固有種族』?」

「そう。他には、例えばそうだな。有名なのは『大精霊』、とか」

「え、『大精霊』も固有種族ってやつなのか?」

『基本、一(・)人(・)しかいない種族ってのは固有種族だよ。僕らの場合、二人で一人なんだけどさ』

『一応、別々の個体ではあるけれど、私たちは違うようで同じなの。考えていることも共有できるのよ』


 固有種族。なんらかの原因で突然変異のように生まれる特別な存在である。他にも、『魔王』や『勇者』などがその一つだ。

『勇者』は伝説に語られているだけで、正体は不明である。


『大精霊』は『精霊王』とも呼ばれており、精霊の中でも頂点に立つ精霊の王である。


 ちなみに今回シノンが作り出した………いや、偶然できた固有種族、『案内役《サポーター》』は、世界中の様々な知識を携えた完璧な機械のような存在だった。


 これを機に、シノンは一万年前のことについて聞いてみようかと考えたのだが、それは後ほど聞くことにした。なぜなら、彼らと一日にこうして話せる時間が限られているからだ。


 これはあくまで魔道具なので、所有者――シノン――の魔力をある程度注ぎながら使っているため、付与魔法でかなり魔力を消費したシノンが彼らと長話できるほど余裕がなかったのだ。


「そういうわけだから、旅をする際にも彼らが案内してくれる。辺境の村の細かい事情まで常に把握してくれている。これで情報屋が必要なくなった」

「す………凄い………」

「よろしくな、プエル、フィーユ」

「私からも、これからよろしく頼むよ」

『ふふっ、おまかせだよッ!』

『聞きたいことがあったら何でも聞いてね!』

「………というわけで、さっそく聞きたいんだが」


 シノンはさっと切り替えて、真剣な表情になる。


「サンという黒髪で猫耳の青年についての情報が欲しい。目の色は赤、戦闘狂だ」

『サン?』

『あ、もしかして、『絶望のサン』じゃない?』

「ぜ、『絶望のサン』?だれ、それ?」

「あいつだよ、金属タイプの物理属性使い」

「っ!!」


 シノンが『絶望のサン』という言葉に目を細めながらカルナの問に答えると、カルナは目を見開き、顔には怒りの色が見て取れた。


『えーと、サンの情報だよね?シノンの言った特徴は、そいつになら全部あてはまる。あいつは謎が多いんだよなぁ』

「え、わからないか?」

『いやいや、わかるよ。彼は、空(・)の(・)使(・)い(・)だ』

「「っ!?」」

『驚くわよね。空の使いは全部で二十人。『聖族魔法術』っていう魔法術の全二十属性の魔力を持った異(・)世(・)界(・)人(・)で、いわゆる『異世界転移』っていうのをしてきた元(・)人(・)間(・)よ』

「ちょ、ちょっと待て、その前に、異世界が存在すると?」

『うん。一般には知られていない世界の謎だね。世界は一(・)つ(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)。人類、いや、今(・)の(・)こ(・)の(・)世(・)界(・)の(・)住人には超えられない空気中の裂け目から、別の次元へ移動することが出来てね。うーん、なんて言えばいいのかな?』

『ああ、じゃあ、例えばここに風船が二つあるとするでしょ?』

「ああ」

『その風船は、それぞれ一つの世界だと思ってね。それはいくらぶつかっても交わることのない、別の存在なのよ。つまり、これと同じように、他の世界と他の世界が交わることはないってわけ。それを、『異世界』というの』

「なるほど、でも、空気中の裂け目ってのは?」

『時空魔法や空間魔法でなら作り出せる特殊な『扉』だね。さすがのシノンでもま(・)だ(・)使えないでしょ?』


 うーむ、と、声を出しながら唸るシノン。カルナも、異世界の存在に驚いて何も言えなかった。


『んで、空の使いってのは、もともと魔法が存在しない世界から来たものだから、魔力量は少ないわ魔法を使いこなすのに時間がかかるわで、色々大変みたいだよ?』

『『絶望のサン』って言うのは、まあ異世界から来た移住者なのだけれど、もう一人、『希望のレーン』っていう女性がいてね、その人はサンのお姉さんだから、同じ黒髪に猫耳なのよ』

「要するに、サンとレーンって奴らは………?」

『『特別な空の使い(クヤイ)』』


 シノンは腕を組んだ。なら、あの異常な強さや狂ったような性格は一体なんのだろうか。他の空の使いとは明らかに違った点がいくつも見つかる。それが特別だとでも言うのだろうか。


 戦闘能力、性格、魔力量は明らかに違う。ただ同じなのは、黒髪で、獣人だということ。

 ただ、彼らも空から降ってきたのかは定かではない。記憶があるのか否かもわからない。そして彼らの目的も見えない。それも含めて色々と聞いてみたいが、魔力の量がそろそろ持たない。


 話をするなら中途半端で終わりそうなので、シノンはここで彼らとの会話を止めることにする。

 一旦彼らに別れを告げてシノンは席を立ち、カルナを伴ってリアナに報告をしに団長室に向かった。



「えっ!?空の使いについて色々とわかった!?」

「あ、ああ………って近い。近いから離れろっ!」


 リアナを突き放し、シノンはプエルとフィーユに聞いた空の使いについての話をした。異世界の存在、空の使いの出身や正体、それからサンとレーンという姉弟のこと。


 リアナは『真剣モード』になり、シノンの話を最後まで黙って聞いていた。


「…………ふむ、とりあえずはこのことは、全王さまにボクが報告しておくよ。それと、まだ空の使いにもこの情報は教えちゃダメ」

「…………記憶喪失だというのに疑問があるからだろ」

「そう。やっぱ気づいてたよね」

「え?ど、どういうこと?」

「俺は直接、空の使いたちに『記憶がない』と言われたことがないけど、あいつらを見ていればなんとなくわかる。明らかに何か隠してるってな。記憶のない奴らが何か隠してるとしたら………」

「そうか、記憶がないなら隠し事をする理由がわからない」

「そういう事だね。どう見ても彼らは隠し事をするのが上手くないとボクは思うんだ。優しいからね。まあ、悪いことではなさそうだ。急ぎなら、多分彼らが自分から話してくれると思う。もし話してくれるようになったらボクが君たちに伝えるよ。引き続き調査を頼むね」


 そうして、シノンとカルナは団長室を後にする。

 後ろで団長が、


「今回の収穫は凄いから報酬は期待しといた方がいいよ〜!」


 などということを普段のリアナに戻って明るい声で言っていた。


 その後は、シノンはカルナとともに夕飯を食べて、その日はもう眠った。

〜補足〜


☆種族紹介シリーズ

今日の課題:固有種族とは?


シノン『今日の課題は固有種族についてだ。これも作者のオリジナルで、簡単に言えば『幻の存在』、だな。まあ、魔王や大精霊はほぼ確定なんだけどな』

カルナ『他にも固有種族はいるのか?』

シノン『もちろん。例えば今回出てきた『案内役《サポーター》』は、魔道具の種族だ。普段魔道具と会話することは出来ないんだけど、『道案内《ナビゲート》』を付与したら偶然生まれたってとこだ』

カルナ『へえ、すごい。他には?』

シノン『『勇者』、『珀璃金翡《はくりこんひ》』、『妖精王』、『伝説龍《レジェンドドラゴン》』。有名なのはこんなとこだ。他にもいるかもしれないけどな』

カルナ『意外といるんだな』

シノン『ああ、そう言えば、『種族主王《しゅぞくしゅおう》』ってのもいる』

カルナ『な、なんだ、その強そうな感じの名前?』

シノン『種族の主、そして王たる存在だ。それぞれの種族に一人、必ず王がいる。これも、固有種族の一つだ。精霊王や伝説龍、魔王、それから妖精王もそうだな。ほとんどが種族主王だ』

カルナ『その他にも種族主王じゃないのがいるから、『固有種族』って名前が付けられてるんだな?』

シノン『うん、そうらしいよ』



最後までお付き合い頂きありがとうございます。

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