47、 救出と保護
※今回より三人称で本文を書きます。が、たまに主人公目線に戻ります。
数ヶ月前から妙に体が重いと感じていたシノンは、捕えられていた生徒達に手を出そうとしていた二人の男に飛びかかり彼らをその場から退けると、頭巾で周りには見えていないが顔に苦痛の色を浮かべる。
ガサガサと大胆に音をたてて出てきた二十人以上の男たちに気づいた時には、遅かった。しかしシノンには無詠唱がある。それのお陰で、一瞬で結界を張ることができ彼らの攻撃を防いだ。
相手が自分を殺す気は無いと分かっていた。だが、彼らの持つ武器には毒が塗られている。それも、命を奪うものではなく麻痺毒や眠り薬と言ったところだ。
少しでも掠れば何をされるかわかったもんじゃない。そう、シノンは理解していた。
だが、男たちは連携をしてきた。後衛が詠唱をし、一箇所に集中して攻撃をしてきた。そして、威力が数倍にも上がった攻撃魔法でシノンの結界に罅が入り、間発入れずに男たちが物理攻撃をしてきたので結界を破られてしまった。
結界を破られた衝撃で、シノンの被っていた頭巾は外れ、男たちに顔を見られてしまう。
男たちはほくそ笑むと、再びシノンに向かって斬りかかった。顔にこそ苦痛の色を浮かべてはいるが、魔力の量にはまだ余裕がある。
シノンが顔に苦痛の色を浮かべているのは、なぜか魔法を使う度に魔力をごっそり持っていかれるために頭がふらつくからであった。だが、男たちはシノンに余裕がないと取ったか、余裕の表情を浮かべて隙ができる。
シノンは男たちに遠慮せず、金属の武器には同じ金属で対応した。
『金属』。放たれた物理属性の魔法は、金属タイプの中でも序の口の魔法だった。効果は魔力で作り出した金属を放つだけの魔法なのだが、少しの魔力でもかなりの威力がある。
それは、この属性が厄介なのだと言われる理由の一つである。少ない魔力でかなりの威力を持つ魔法、そして極めれば攻撃系魔法の中では頂点に立つ魔法、全てのタイプを極めれば『賢者』の称号を得られるかもしれないという魔法。
しかし最後の賢者の称号を得るための修行は、ほぼ不可能である。物理属性は適性がなければ使えないし、幼い頃に初めて使ったタイプのみしか完全に極めることは出来ない。
他のタイプも使えるのだが、極められるタイプの魔法には到底及ばず。
シノンの場合、物理属性を極めてはいないが魔術師というだけあって全てのタイプをそれなりの威力で使いこなす。魔法師が極めた物理属性の魔法となんら変わらないものであった。
金属同士がぶつかる音が複数響いたが、シノンは波属性魔法、『防音』を発動し、自分と後ろにいる学校の生徒に施すことで鼓膜を揺らすことを防ぐ。
鼓膜が切れるのではないかと思われるほどの大きなその音は、耳栓をしているにも関わらず男たちの鼓膜を大きく揺らした。
魔法師たちは結界を張ってなんとか音を防いだもの、前衛の男たちはシノンから距離を取って耳鳴りが落ち着くのを待つ。
シノンはその間に、後ろで縄で縛られている生徒の縄を解いた。
「あ………あの、ありがとう」
「助かったよ」
シノンは目でうなずいてみせると、男たちを振り返る。すると、後ろにいる男子生徒が騒いだ。
「なあ、あんた、さっさと逃げようぜ。さすがにこの人数は無茶だって」
「そうだよ、早く街に戻って、警備員に知らせれば助けてくれるって!」
しかしシノンは返事をせずに、戦闘態勢に入る。
「…………俺の仕事はお前らの救出と、………………だ。その辺に隠れてろ」
「へ?し、仕事?」
「てか、なんて言った?」
シノンはわざわざ敵がいる場所で、しかも大声で目的を話すような阿呆ではない。目的を話して敵に逃げられればほぼ高確率で依頼は失敗。全王の期待に答えられなくなる。
シノンは基本人見知りだが、完全に心を許している人の数は少なく、その中でも全王であるリュアンとはすぐに打ち解けたのだ。彼女の人柄は周りの人を安心させ、シノンも忠実に従いたいと思ったのだ。
この場合、シノンが心を許すというのは、信頼ではない。相手と打ち解けた会話をするかしないか、である。
信頼なら特殊能力で相手の本質、そして嘘を見抜くことで得られる。だが、あまり多くの人とは馴染みたくないシノンであった。そのため、完全に心を許した者でなければ、シノンとは長く会話が続くことはないし、シノンも深くまでは興味を持たない。
そういった用心深い性格から、あまり捕らわれていた生徒とは会話をしたくはなかったのだが、何も言わないと生徒は不貞腐れてどこかへ行ってしまうだろう。そう考えたシノンは、隠れていることを推薦する。
岩陰に隠れたのを見て、シノンは生徒達に結界を張った。男たちに人質に取られないようにするためと、戦いの最中の攻撃に巻き込まれたり魔物などに襲われたりしないようにするためだ。
シノンは、現在は魔力の消費量が多く使用効率が悪い。しかし、ここで戦うのをやめれば確実に死ぬか、もしくは男たちに何か良からぬことをされるかのどちらかである。だが剣術だけでこれを乗り越えられるとは到底思ってはいなかった。
一人ならばなんとかできたが、ここには生徒がいる。『転送』で街まで送ってもいい。だが、それでは依頼達成の条件が揃えられないことになる。優先事項は、生徒達の安全な姿を全王に直接見せることだ。
勝手に送って勝手にどこかへ行ってしまわれたりでもすれば探しようがないうえに以来は失敗となり、彼女の信頼を失う可能性だってある。
今回の目的は、生徒の救出と盗賊の捕縛。しかし二十人以上とは予想もしていなかった。今回確認されたのは二人だけだったので、シノンは一人で充分だと思っていたのだ。
まさか待ち伏せしていたとは思いもしなかった。そこで、普段は人前でも一人でいるときでも滅多に使わない『強術』を使うことにした。
これも無詠唱で発動できるため、男たちが体制を整える前に魔法を展開させ、発動。
『混乱』。闇属性魔法の、相手を混乱させる魔法だ。相手の脳を刺激し、視界を歪ませる。中には嘔吐する者もいる。強術でしか使うことのできない、人間の脳を惑わせる魔法だ。
男たちはシノンの仕掛けた強術にまんまと引っかかったが、それでも効かぬ相手が一人いた。
シノンにも、そいつにだけは効かないだろうと予測はできていた。頭巾を深く被って顔を隠し、黒い外套を着た若い男。
彼から漂ってくる匂いは、シノンの知っているものだった。
その匂いに、シノンの体は強ばる。そして、一気に緊張感が増した。忘れるはずのない、特徴的な匂いだ。
「あれあれ〜?」
言いながら、男はにやつく。
「どこかで会ッたことがあッたかなァ」
「……………………」
こいつらの仲間だったか、シノンはそう思った。しかし、次の言葉で、シノンは眉をひそめることになった。
「あ、勘違いすんなよ。俺はコイツらとは関係ないから」
シノンは訝しげな表情を浮かべたが、間違いなかった。この声の主は、数ヶ月前にシノンが死にかけた原因だった。
男は頭巾を外し、その黒い髪と燃えるような赤い目を晒す。猫の耳に、冷たく細い目。
「あ〜あ。もッかい戦いたいとこだけど、今はそれどころじゃないんだよねェ〜。あ、自己紹介しとこーか。俺はサン。よろしくなッ。お前は?」
「個人情報をどこの誰とも知らない奴に教えるほど阿呆じゃないんでね」
「へへッ。ま、わかってたさ。まあいいや。お前、生きてて良かッたさ。また再戦できたらヨロシクなッ。じャ、俺行くわ。またな!」
そう言って、サンと名乗った猫耳の男は消えた。気配は完全に消え、その場には何も残らなかった。
サンの目的はなんだったのか、シノンにはわからない。知る術もない。考えても仕方がないと思ったシノンは、未だ混乱している男たちを『拘束』で動きを封じて魔法を解く。
その後生徒に張っていた結界を解いて、全王の方に連絡を入れる。
『通達』。念属性と波属性の合成魔法だ。対象の魔力を感じ取り、頭の中で呟いたことを波属性で空気を振動させて遠くにいる相手の頭の中に直接伝えるものだ。
『念話』の場合は近くにいる相手に伝える魔法なので、波属性と合成させる必要はなく、念力だけで相手の脳に直接話しかけられる。
『通達』はシノンのオリジナル魔法で、身近な人にしかこの魔法のことは伝えていない。全王もその一人で、彼女の身の周りにはこの魔法を知っている人物はいないため、本人に直接伝えるしかなかった。
しかし今回は終わったら連絡を入れることを伝えているので、連絡を入れられた全王が驚くことはなかった。
シノンは捕えられていた生徒二人と合計二十三人の男たちを捕らえたと報告を入れると、二人の男子生徒にはその辺に座っているよう伝える。
シノンは魔物などからの襲撃を警戒しながら、男たちを見張った。
途中で生徒達に話しかけられはしたが、だいたい一言二言で終わった。
彼らもレイヴァとは珍しいと思っているのだろう。そして、彼らは基本人見知りで、初対面の人とは特に馴染みにくいことを知っている。
だからこそ、少しでも仲良くなっておきたいのだろう。レイヴァという珍しい存在と仲良くなれたなら、学校や家でも自慢できる。まだまだ子供のような考えが抜けきらない生徒達であった。
その後しばらくして、数人の足音が聞こえてくる。シノンは少し身構えたが、リリーズ王国王室直属の軍隊とわかって構えを解く。頭巾を被って髪と顔を隠すと、軍隊の男たち六名が姿を現す。
彼らは台車を引いており、一台に八、九人入れそうな物だった。
先頭の一際目立つ格好をしていた男がシノンに近づく。
「あなたがユウ殿かな?」
「はい。王室直属軍隊の小隊長様ですか?」
「うむ、この度は大変ご苦労であった。まさか、二十人の男を一度に捕らえるとは。あとは任せてくれたまえ。生徒達の保護も任せよ」
「お願いします」
ユウ、とは、冒険者としての偽名だった。サニーズで使っていた瑠璃という名はリアナが勝手につけたもので、シノンは気に入ってはいたが冒険者としての名ではないのでギルド以外でその名を使うことはなかった。
古い記憶の中に残っていた、本名ではないが使っていたと思われる愛称がユウという名だった。それが名前の由来である。
シノン達一行は共に街へと戻ると、生徒達と捕らえた男たちは軍隊の方へと向かっていった。報酬については後ほど話し合うことになっていたので、シノンはそのまま別れた。
「あ、おかえりー」
「ただいま、ハルデスト」
「ん?その格好は………もしかして依頼?」
「そうだよ」
「へえー、どんな?」
「内緒だよ」
「ええー?」
すっかり仲良くなったハルデストとは、いつもこんな調子である。たいていの依頼はハルデストにも内容は伝えていない。
依頼のランクが初心者にしては……いや、中級冒険者でも高いので、言ってしまえば怪しまれる。だからといって仲良くなった友人に嘘をつくのは気が引けるので、内緒という形になった。
「今から夕飯作るけど、着替えてくるからもう少し待ってくれ」
「構わねえよ。その調子だと、結構疲れてるんだろ?なんか手伝おうか?」
「…………いや、大丈夫だ。簡単に済ませる」
「お、そか」
一瞬迷ったが、シノンは夕食は簡単に済ませることにした。簡単にとはいっても、ちゃんと栄養バランスの取れた食事は最低でもするつもりであった。
〜補足〜
☆属性魔法補足シリーズ
今日の課題:影属性と闇属性の違い。
シノン『さて、今日の課題は――……』
カルナ『影と闇の違いでしょ?前から気になってたんだよなぁー』
シノン『………人の言葉を遮るな』
カルナ『おお、それは申し訳ない』
シノン『まあいい。で、本題だけど、まず、そもそも影属性とは何か?だな』
カルナ『魔術師にしか使えないから、あまり多くの人には知られてないんでしょ?』
シノン『その通り。作者のオリジナル属性だ。主に隠密や暗殺といった裏の稼業の者が使っている魔法で、人や物の影の中に隠れて移動したり、自分の意識だけを遠くに飛ばしてその場の出来事を覗いたりすることが出来る。割と厄介な魔法だけど魔力の消費量が半端じゃない。おまけに詠唱もしなきゃいけないわけだから、敵にばれたらお終いだね。はっきり言って戦闘には全くと言っていいほどに向いてない』
カルナ『なるほど。それじゃあ、今もここが覗かれてる可能性とかあるのか?』
シノン『いや、ない。今は魔力を感じないから。影属性はほとんどが隠れるための術だけど、俺みたいに魔力が感じられる奴にはすぐに気づかれる。まあ、魔力を感じられる奴の方が数が少ないからそれも滅多にないけど』
カルナ『へぇ。じゃあ、闇は?』
シノン『闇は主に人間や生物の脳を洗脳する魔法だ。例えば、俺が今回の話で使った魔法、『混乱』。相手の脳に直接刺激することで、視界や脳を惑わす厄介な魔法だな。酔いすぎて中には嘔吐する奴もいる。闇属性はこれ以外でも、加減を間違えば死ぬこともあるんだ』
カルナ『うえ………なんだそれ、嫌だな』
シノン『安心しろ。これでも使い手は少ない』
カルナ『そ………そうか』
シノン『他にも、呪いや使役、それから召喚魔法など、様々な効果をもたらすものだけど、使い手にも負担がかかるからあまりよろしくないね』
カルナ『使い手が魔法を使いすぎたらどうなる?』
シノン『最悪、昏睡状態になる。軽いものでは眩暈がする程度かな。まあそれは使いすぎたらの話だから、問題はないよ。昏睡状態になってもしばらくすればちゃんと目を覚ますし、闇属性の魔法を使ったからって使い手が死ぬことはない』
カルナ『じゃあ、簡単にまとめると、影は『隠れる』ため。闇は相手を『洗脳する』ための魔法なんだね?』
シノン『ふむ、まあそんなとこだ』
最後までお付き合い頂きありがとうございます。




