43、 部屋割りとルームメイト
部屋の振り分けが行われた。担任の先生に部屋の番号と階数を聞いて、俺たちは男子寮と女子寮にそれぞれ分かれる。
部屋はすべて二人部屋で、基本は同クラスの人とは同じにならないように振り分けられているそうだ。理由は、他クラスの人とも交流を持つこと、そして、情報の輪を広めるということ。
要するに、生徒同士で情報交換をしろということである。
学校内に関するものでも、国内に関するものでも、世界中に関するものでもなんでもいい。とにかく情報の収集の練習をしろということでもあるそうだ。
この世界において、冒険者には劣るが情報とは大切なものである。それによっては自分たちはどう行動すべきか、どう見定めるべきなのかを自分たちで決めなければならない。
そういうわけで、最初に他クラスの情報を集める者がほとんどらしい。
しかし、Sクラスの場合は違った。教室の場所が変に他のクラスと離れているし、外からは中が覗くことができないよう結界魔法が張ってあった。
先生が言うに、どうやらSクラスの授業や内装については外部には情報を漏らしてはいけないらしい。
授業の内容もそうだし、生徒の個人情報、そして教室内部のことについても他クラスは知る術がない。
二年生になれば専門分野に分かれるのだが、SクラスはSクラスだけで分かれて授業を受ける。つまり、他クラスは同クラスの仲間と分かれ他クラスと同じ授業を受けることになるのだが、Sクラスはクラス内で分かれるので、四年間ずっと一緒に授業を受けることとなるのだ。
他クラスでも、Sクラスの人と同じ部屋になっても詮索してはならないということを厳しく言われるそうだ。
俺たちも、Sクラスのことについての内容は言わないようにしろとまで言われていた。
ちなみにそれらを破って、Sクラスは情報を漏らし、他クラスの生徒がSクラスの情報を聞き出して更にそれを広めてしまった場合、クラス移動になってしまう。その場合は別室で授業となる。
他の生徒との交流も一切できなくなるし、部屋も分かれる。
そんなこんなで俺は男子寮の五階、『五九七』号室の前に立った。先生によれば他クラスのホームルームは既に終わっており、全員寮に入っているはずだとのことだ。
まあ例外がいるとすれば、学校に入学してすぐにギルドに冒険者登録しに行っている『阿呆』くらいだそうだ。
冒険者登録は、基本高等部に入学できれば登録許可が降りる。ただそれは初等部、中等部に通っていた生徒のみで、通っていなかった生徒は高等部卒業後にそれが認められる。
例外なのは、シノンのように闘士登録をしている者だ。ある程度冒険者としてやっていけるほどの実力があるので、それに関しては年齢制限はない。
だから例えば、今のカルナでもここを卒業するか、闘士登録をするかしないと冒険者登録はできない。
部屋番号を再度確認して扉を開ける。
中には誰もいなかった。すでに魔力探知で確認済みである。
中は随分と広かった。やはり王立というだけあってどこまでも豪華である。
入り口から入ると白い大理石で作られた壁と床の幅広い廊下、その両脇にはいくつかの扉があった。
奥の扉を開けると、広いリビングがあった。右側には綺麗に整理されたキッチン、そしてその奥には冷蔵庫。左側は壁一面に取り付けられた大きな窓に囲まれた場所だ。大きな白いL字型のソファの前にはテーブルがあり、その下に素材の高そうな絨毯。キッチンの前には四人座れる食卓があった。
おそらく四人用なのは、ここに誰かを招いても良いという配慮なのだろう。
そして、窓にはやはり結界魔法が施されていた。いや、窓だけではない。この寮全体に、だ。おそらくは強盗や覗き見防止なのだろうが、かなりの魔力を消費しているはずだ。
相当な魔法なの使い手が張っているらしい。
寝室に向かってみると、どうやらリビングに一番近い扉の両脇にある扉の先がそうらしい。
リビングから見て右側は、おそらくもう一人の住人が使用中らしく、誰かの荷物が置かれていた。左側には寝台と机と椅子、そしてクローゼットしかなかったので、そこを使わせてもらうことにする。
しばらく部屋を散策すると、俺の部屋の隣が便所、向かいが風呂と洗面所らしい。
一応学校内にも風呂はあるらしいのだが、どうせ混雑するだろうから俺は行かない。風呂も便所もなんだか無駄に豪華だし広かったから、良いだろ。
キッチンの方は、学校内の食堂で食事を取れないこともないが、時々好き好んで自分で料理をして食べたいという生徒がいるらしい。
だから、食料費は学校で負担してくれるらしいので、そういった生徒はさっそく買い出しに行くという。
ちなみに、街では学校の生徒の証である『生徒票』を出せば、食糧は無料で提供してくれる。あとは学校側が料金を負担してくれるので、生徒たちは積極的に使っている。
ただし、食べ物以外を買う時は自己負担なので、生活に必要なものを買う場合はちゃんと金が必要だ。
そうすると、どうやって金を儲けたらいいのか分からなくなる。そんな時に行き着くのが、冒険者である。
冒険者なら依頼をこなすだけで金が貰えるし、毎日できるので儲けになる。ほとんどが初等部と中等部に通っていた生徒だからな。
寝室で荷物の整理を終えた俺は、さっそく腹が減ったので、キッチンで何か作ってみることにする。買出しに行くのは今さら面倒なので、異空間に収納しておいた物を使うことにした。
窓の外を見れば、真昼の空色だった。
キッチンに立って食材の準備を終えたタイミングで、部屋の玄関の扉が開かれた。
「うん。じゃあまた明日、一緒に依頼に行こうぜ」
「おう、また明日な!」
そういった短い会話が途切れたあと、扉が閉まる。
構わず料理を開始すると、今度はリビングの扉が開かれた。
深い緑色の髪と同じ色の目を携えた青年で、その髪は短髪である。太い眉はキリッとしていて見た目は真面目そうな青年だ。
現在は冒険者の格好をしており、おそらくは冒険者登録したてだと俺は察した。
「おお、もしかして同居人の人?すまないね、遅くなっちゃって」
「いや構わないよ。それよりも、昼飯はまだか?」
無愛想な表情で俺は素っ気ない返事をする。
「え、お前料理できるのか?」
「料理くらいできるさ。で、ここで食べるか?」
「ああ、できるなら頼むよ。このあと食堂で食べようと思ったけど、遠いから面倒だったんだよねえ。ありがたいよ」
そう、ここから食堂までは遠い。なぜなら教室まで食べ物の匂いが飛んでいったら授業に集中しない生徒が出てくるからだ。魔法で防ごうにも、匂いまで防ぐ結界魔法は誰も使えないらしい。
そんなわけで、仕方なく食堂を教室から離すしかなかったのだ。寮は教室のある校舎とはほど近いので、同じように食堂からは結構離れている。
「あ、俺はハルデスト=エンベルト。お前は?」
「シノン=レスティアス。よろしく」
「ああ、こちらこそよろしくな!何か手伝うことはあるか?」
「いや、大丈夫だ。あとは煮込むだけだし。席に座っててくれよ」
話をしながら手早く野菜を切ってしまった俺は、用意していた鍋のお湯に材料をすべて入れてしまう。
今作っているのは、シチューだ。暖かくなる季節にそれもどうかと思うが、今の俺の気分だった。俺の作る料理には季節とか関係ない。とりあえず材料があれば適当に、気分で作ってしまう。
そしてハルデストと名乗った青年とともに、俺たちは昼食を食べ始めた。
私が部屋に行ってみると、気の弱そうな顔で青髪の少女がリビングに座っていた。近寄ってみると、さっと立ち上がって、頭を下げてきた。
「ルナティス=マースと申しますっ!よろしくお願いしますっ!あっ、ルナと呼んでいただけると嬉しいですっ!」
「えっ?ああ、カルナ=レスティアスだ………よろしく、ルナちゃん」
いきなり動き出したので少々戸惑ったが、なんとか取り直して私も自己紹介をした。
「あ、あのっ、『ちゃん』はいらないので、ルナと………」
「えっ、そう?じゃあ、私も呼び捨てで呼んでよ。それと敬語はいらないよ」
笑顔で話しかけるが、ルナは首を横に振った。
「い、いえいえ!これは癖なので、お気になさらず!」
「え、あ、う、うん………わかった………」
どうやら普段からこの口調らしい。ていうか………。
「ちょっと落ち着こうか?」
「は、はい…………すぅ………はぁ………」
人見知り。ってところか。あまり人との交流がなかったのか、それとも単に初対面の人に弱いだけなのか、わからない。わからないけれど、シノンが人見知りで、人見知りの対応の仕方は二年以上前に習得している。
「君は、もしかして冒険者をしているのか?」
「は、はい!つい先ほど、友人と一緒に行ってきました!」
ルナは現在、新品の防具を身につけている。ソファには制服が引っかかっているので、おそらく買ったばかりだからさっそく着てみたのだろう。
やはりまだ学生だというだけあって、防具は安い物ばかりのようだ。革でできた胸当てと籠手、腰にはベルトと鞘に収まった短剣があった。
いかにも初心者という感じだし、短剣を持っているあたり近接戦闘系だろう。安いだけあって動きにくそうなのが私にもわかった。
「…………ねえ、もし良かったら、防具を私がチョイスしてあげようか?その感じだと近接戦闘系のようだし、動きにくいと獣にすら勝てないかもしれないよ?」
「えっ!?」
ルナは目を見開いて大声を出した。獣にすら勝てないかもしれないと言われたけれど、まさか即自分から進んでお願いするなど無遠慮過ぎるなどと思われる、と思っているのだろうか?
………いや、私からチョイスしようかと聞いているのだからそれはないか。どちらかと言えば疑いの方か。
「ああ、っと………私の知り合いに冒険者がいてね、その人から色々と教わってたんだ。初心者にちょうどいい防具の選び方とか、武器とか………」
「え?し、失礼ながら、その方のランクは………」
「S級だけど?」
「!?」
また固まってしまった。仕方ない。正直に答えなければ、信じてはもらえないだろうが効果はおそらくある。
大袈裟な嘘をついてこの子が実力を発揮できなければ私はこの子から非難を浴びるだけだ。それに、私だってルームメイトに森で怪我されたりでもしたら困る。
「私は、まだ冒険者登録はできないけれどそれなりに戦闘能力はあるつもりだよ。今からでも一緒に行こうか?」
「えっ、あっ、いえ、その、も、申し訳ないっていうか、初対面の方にちょうどいい防具を選んでいただくとか、その………」
「いや、遠慮しなくていいし私がそうしたいんだよ。初対面でもルームメイトに怪我されたら困るからね」
「えっ?」
ルナはぽかんと口を開け、目を見開いてこちらを見ていた。
この学校の生徒はいくら優秀といえどまだ冒険者としては初心者だし、新人という部類に入るので中級あたりの冒険者に絡まれやすい。
それに、まだ授業を受けていない新入生なんかは特に、魔物の中で最弱と言われるゴブリンすら苦戦する。
最初は結構な大人数で森に入って依頼をこなすものだが、基本は森の手前までしか入ってはいけないようになっている。
特に数ヶ月前の竜たちの出現の事件があってからは、王都の近くの森は、ベテラン冒険者を除き奥には進めないようになっている。
どこからともなくやって来た竜たちはシノンによってあっけなく倒されたが、王国としては、国民全員が森から発せられる魔力の光を目撃している。
竜たちの退治は人の手によるものだろうと王国側も考えているようだが、シノンは自ら名乗り出るつもりはないらしい。
なかなか出てこない『王国の救世主』に対し、国では、『竜たちを倒し、国を救った英雄には、王金貨三百枚の報酬と、竜殺しの称号、そして勲章を授ける。』という宣言を出した。
もちろん、竜殺しをしたのは俺・私だ、などと言ってくる冒険者が多かったらしい。
そこで国は、大量の竜を広範囲にわたって一気に討伐できる実力があるかどうか、実際に試したらしい。
森の中に国で管理している成竜を放し、一人ひとり対戦させたそうだ。
しかし、みんな竜の威圧に負けて誰ひとりとして、竜を倒した者はおろか傷一つつける者はいなかったという。
…………と、話はだいぶそれたのだがあの事件以降の情報はこんなものだった。
「あの…………その………よ、よろしくお願いしますっ!」
「よし、じゃあ、さっそく行こっか」
「え!?お、お時間……あるんですか………?」
「もちろん。まだお昼だし、今から行けば間に合うって。ついでに街でご飯食べようよ」
「あっ、はいっ!」
そうして私は荷物をさっさと整理し、ルナとともに街へ出るのだった。




