41、 四大公爵家と合否
「それでは、始めてください!」
カルナが一気に前へ出る。いつもの半分くらいの速さだが、それでもそれなりのスピードで走っている。
基本カルナは素早さ重視の動きをしているから、一つ一つの攻撃力は大したことはないのだが。
しかしそれはあくまで一撃の攻撃に過ぎず、素早さ重視の動きをするカルナにとって、相手に一気にそして何度もダメージを負わせるには容易かった。
相手は人形。それでも成人男性くらいの力の強さと一般の新米冒険者くらいの強さはある。
土魔法と命魔法の合成で、人型人形を動かして戦わせているようだ。
わざわざ人型人形が相手をするのは、相手からのダメージは受けるが傷を作らず、逆に、受験生が気兼ねなく戦闘できるようにとの配慮らしい。
相手が先生で、攻撃を躊躇したら意味がないからだ。
あくまで試すのは受験者の技量。対人戦など授業で経験をいくらでも積めるだろう。
今回の試験で本物の武器を使っている意図は、おそらく実践を想定してのことだろう。木剣だけでは満足に振るえないのも事実。
まあ、実践慣れしていない人はわざわざ木剣を選ぶ人もいるが、別に試験の合否に関係するわけではないので受験生たちも本当に気兼ねなく武器を振るえる。
連続で突きをかましたカルナの攻撃を最後に、白い人型人形は事切れたように倒れた。
その体には刺し傷や擦り傷が多く見られた。
うん、やりすぎだ。
次は俺の番だ。カルナばっかり悪目立ちしたらまずいので、俺もカルナと同じくらいの力で当たるとしよう。
新しい人形が用意され、俺は双剣を構えた。
そして、正面から長剣を構えて走ってくる人形の攻撃を最低限の動きで躱しつつ、すれ違いざまに人形の脇腹に剣を食いこませ、同時に剣に魔力を込めた。
すると人形は一瞬で倒れ、魔力が外に漏れだした。倒れた証拠である。
「あ………ああ、こ、これでお前達の試験は終わりだ。結果は明日の昼に掲示されるから、確認しに来るように」
記録をしていた監督が、かけていた眼鏡を指で直すと、そう言った。
そうして俺達は解散となり、コルドと一緒に学校の食堂で食事をすることになった。
「なあ、観客席から見てたぜ。すげえな、双剣流の使い手ってだけでもすごいのに、あんな一瞬で……」
「そうでもないさ。すれ違いざまに剣に魔力を込めてやると、そんなに力がなくても相手の身を削ってくれるから、それを利用しただけさ」
「なるほどなぁ。剣には詳しくないが、お前たちは相当な使い手だって言うのはわかるよ」
「そりゃどうも」
それにしても、近くに貴族がいなかっただけマシだ。まあ、他の集団に注目されないように影属性魔法の視線逸らしで周囲の注意を逸らしていたから、目立つ行動は最小限に抑えられたと思う。
実技試験は、任意とはいえそれなりの技量が必要となる。この調子なら、俺もカルナもたぶんBクラス以下には決してならないはずだ。
「それにしても………試験は結構難しかったなぁ。やっぱり世界一の学校なだけあるよな」
「そりゃそうさ。生半可な頭じゃ入学すら無理だろ」
「ちなみに、シノンとカルナは大学に行く予定はあるのか?」
王立総合大学院は、高等部と同じ学校長が連ねる学校で、いわば系属校である。高等部に通っていた生徒なら、卒業試験にさえ受かれば入試を受けなくても進級という形で大学に行ける。
しかし高等部に行かず、別の学校から入学を希望しようものならば、かなり難易度の高い試験を受けることになり、毎年大学への入学者は進級してきた王立学校の生徒が多い。
とはいえあくまで王立の高等部からの入学者が他校から来た入学者より多いのであって、別の学校から集まってくる生徒だって少なからずいる。
そこで大学院は、人数問わずに他校からの入学者には得点の基準を設けた。ある得点基準を定め、その得点に達していれば合格、否ならば不合格という形だ。
人数に関係ないので、勉強さえすれば普通に入れるのである。
「今のところはない。高等部を卒業して、それでも足りないようなら行くつもりだけどさ」
「ふうん。で、さ。話変わるんだけど聞いたか?最近噂になってるアレ」
「アレ?」
「ほら、『ダグリス家』が、リリーズ原産の鉱石の『ログスタント・イヤー』の密輸をしていた犯人を捕らえたって話。結構前から話題になってたじゃないか」
ふーむ、知らんな。そもそも『ダグリス家』とやらのこと自体知らないな。ちょっと今はそう言う世間の情報に疎いから、ちゃんと調べないとまずい。
冒険者にとって、情報は命である。一時的とはいえそれの収集を怠ってしまったことは反省しなけれならないな。
「え?知らないのか?」
「ああ、悪い。リリーズには一週間前に来たばかりだったし、最近はずっとカルナと一緒に訓練してたもんだから、あまり情報に関することは耳に挟んでなくてさ」
実際のところ、冒険者として森に出かけて金を稼いでいたものだから街の人の声を聞くことがなかっただけなんだよな。
まあどっちにしろ、情報収集を怠ったことには変わりない。
「ああなるほど、わかった。仕方ない、教えてやるよ。四大公爵家ってのは、『ダグリス家』、『ミンローズ家』、『ムガリウス家』、『グローム家』の四つの公爵家で構成されているんだ。別名『女王の番犬』だとか『法の番人』とか言われてる。簡単に言えば全王さまの『腕』だな。世界中の王族や貴族が法を犯すようなことをすれば徹底的に調べあげて証拠を掴み、他がありそうならばそれも全て調べて罰する。それが公爵家の仕事なんだよ」
「へえ」
ってことは、貴族がこの国で無闇やたらとに平民を苦しめたりすることはできないってことか。
「他にも、迷宮入りの難事件の解決や、強力な殺人犯みたいな奴らとか、それから大規模な討伐隊を組んでも倒せないような魔物の退治。そんなふうに影の仕事をこなすいわば『裏貴族』だ。俺みたいなこの国の貴族しか、存在すら知らないんだけどな」
「それじゃあ俺たちも知らないよ。まあ、情報提供感謝する」
「………ねえ、四大公爵家って………」
「うん。わかってる」
「ん?どうかしたか?」
「いや、なんでもない。それより、ログスタント・イヤーの密輸を解決したって話だけど?」
ああ、と呟き、コルドは続ける。
「リリーズ王国にしかない貴重な資源であるログスタント・イヤーが、ラトス皇国のどっかの貴族に密輸していたリリーズ王国の貴族がいてな、それが、主にログスタント・イヤーの発掘と国内流通の担当をしていた子爵なんだよ。それを、『大会議』の席を設けてまで炙り出したとさ」
「すごいな」
「ねえ、大会議って?」
「ん?ああ、それは………」
大会議のことは知ってる。一応養父のロウも貴族の端くれだったらしいから、大会議のことは多少聞いていた。
大会議とは世界中から代表の貴族が定期的に集まり、話し合う席のことだ。
話す内容はその場で発表されるのだが、情報の流出は総出で阻止されるため、詳しくはよくわかっていない。
呼び出しを食らえば、よほどの用事がなければ断ることは許されない。全員の都合に合うように日付まで調節される。
主に呼び出されるのは国の代表だが、時折例外として、犯罪者となった貴族や王族を呼びつけることもある。
いくら王族と言えど、リリーズ王国の公爵家の呼び出しには逆らえない。公爵家は正当な理由でなければ呼びつけることはないし、卑怯な真似をすることはないのだ。
だから素直に受けなければその時点で捕縛、などということもある。呼びつける例外の貴族のほとんどが犯罪者だったりするからだ。
四大公爵家は『全王の名代』でもあるので、全王からの呼び出しをくらってるも同然である。呼び出された貴族にとって、逆らうどころか呼び出されることに怪しみもしないだろう。
と、コルド曰く。
「とまあ、よほど巧妙な犯罪や不正でもしない限り呼ばれることはないってこと。まあ、俺はしないけどね」
そう言ってコルドは乾いた笑を浮かべる。
「それでも貴族だけだろ。平民の俺たちが大罪を犯したとしても、呼び出されるどころか警備隊に捕まるか公爵に倒されるだけだよ」
まあしないけど、などと俺も冗談を言った
隣でなんとなくカルナがニヤニヤと笑ってる気がするが気にしないでおこう。
「まあ、そんなわけでさ、四大公爵家はもう完全に影の存在なわけな。噂じゃベテラン冒険者が十人以上集まったところで、一人でも苦もなく倒せるらしい」
「へえ、すごいな」
……………かなりの手練だった。
合否発表当日。
私とシノンは再び学校に来ていた。
掲示板には人がごった返していたので、しばらく校庭の端でしばらく待機することにした。
掲示板の前では、貴族が多かった。平民はやはり少し離れて、貴族が離れるのを待っているようだった。
悔しがるような声を出して頭を抱える者、手を叩いて喜び合う者、こんなはずじゃなかったとばかりにつまらなそうな顔で頭を搔く者と反応は様々である。
しばらくすると貴族もいなくなり、ぞろぞろと平民が集まってきた。平民でも同じような反応をする者がほとんどであった。
自分の合否を確認するとほとんどがすぐに離れていった。いつまでもだらだらと見ている貴族よりは早く掲示板の前が空いた。
私たちは少なくなった掲示板の前に立って、合否を確認した。早番なので上から確認していくと、五番目くらいに十三、四の番号が書かれていた。
クラス分けは入学式の日に発表らしい。クラス分けは当然、試験の成績順である。
「やったね、シノン」
「ああ。制服をもらいに行こう」
そうして私たちは受付に向かって学校の資料と制服をもらい、貴族などに絡まれないようそそくさと学校を出ていった。
宿に戻った私たちは、さっそく制服に着替えてみる。試着した姿のまま外に出るのもちょっと面倒なので、シノンの部屋を借りて仕切りを作り、それぞれ着替えてみた。
シノンはすぐに着替え終わったようだ。
「カルナ、俺は終わったんだが。まだか?」
「うん、まだ」
やがて着替え終わると、仕切りの布を外してやっとお披露目だ。
制服は魔道具で、サイズは自動で調節される『寸法調節』が付与されている。
だから、人の手で寸法を測らなくても手に取れば服が自然にサイズがぴったりになるのだ。
シノンのは、紺色のローブの下に白いシャツを着ていた。腰に巻かれているベルトには金色の装飾が所々に施されており、貴重な魔石らしき小さな石が複数個埋め込まれていた。
首元には学年章である赤色の、へそ辺りまである長さのネクタイが絞められていた。さらにベルトには三十センチほどの棒?が、鞘のような入れ物に差し込まれており、踝よりも高い場所までの黒い靴下も履いていた。
おそらく棒の方は、魔法の杖かなにかだろう。
私は、シノンと同じ紺色のローブの下に白いシャツ、胸元には短いネクタイ。そして太股の中間あたりまであるグレーと青色のスカートに、膝より少し上まである長い靴下だった。
腰に巻かれているベルトには、シノンと同じ三十センチほどの棒が収められており、また彼と同じように金色の装飾と小さな魔石が複数個ついていた。
そこへさらに、シノンは羊の毛皮を使った戦闘用ブーツに、私は魔法での遠距離用戦闘ブーツで、長さは膝まである。
「へえ、似合ってるじゃん。ブーツ、どうやら試験での結果が関係しているみたいだな」
「え?」
「成績がよかった方に特化してるんだろうよ。ブーツには付与が施されてる。俺のは素早さを強化する付与だな。お前のは、魔力増幅ってところかな。けど、魔力増幅は遠距離用の付与なわけで、そういう長いブーツにしか付与ができないんだな」
「なんで?」
「俺みたいな近接戦闘用の靴だと、効果が薄まるんだよ。もともとこれの素材は、魔物化した羊の毛皮だし、俺とお前のブーツじゃその羊の育った場所も違うから付与したところで効果がうまく出るか否かの問題だし」
「へえ」
シノン曰く、近接戦闘用の付与をするのに効果が出る羊は高いところで育った羊の皮が多いらしい。高所で修行した方が効率的に体力が鍛えられるように、魔力も育つんだそうだ。
羊は魔力を操作する能力はないが、高所の方が大気が薄い分魔素が多い。そのため羊は魔物化しやすい。わざわざ高所で羊を育てて魔物化させ、その毛皮を売る羊飼いもいるらしい。
そして、その魔力は高ければ高いほど敏捷性が高く、その羊の毛皮は体を軽くする効果が自然につくという。原因はよくわかっていないが、その能力に加えて付与を施すと、足が速くなるのだそうだ。
対して私の遠距離用の物はその逆で、魔素の薄い場所でじっくりと魔物化させることで、強い魔物の誕生というわけだ。そこへさらに人間の魔力を加えることで、魔法師の攻撃力をサポートするのだそう。
しかし、魔素が薄い分やはり魔物化する確率はかなり低く、高価な品になる。
ということだ。
要するに高級品である。それを知った途端、背中の筋が凍った気がした。そんな大金、払える自信が無い。
その不安を察したのか、シノンは私の肩に手を置いた。
「大丈夫だよ。たぶんこれを配布されるのは優秀な成績を取った人だけだろ。他の人のも見てみたけど、このブーツと違って付与の魔力を感じなかった。おそらく付与がされてるのはSクラスの人だろうな。そうなると、料金はタダだろ」
「えっ?ってことは?」
「そう。俺たちはSクラスってことさ」
はっとして、よかった、と安堵の息を漏らす。
「それに、他の人たちはその場で制服の料金を求められてたんだけど、俺達にはそれがなかった。すなわち、そういうことだろ」
「おお!すごい!」
シノンは満足げに笑い、頭を撫でてくれた。
「結果としては最高だ。おめでとう、カルナ」
「うん、シノンもおめでとう」
私は満面の笑みを浮かべて、シノンにそう返した。




