39、 入学試験受付と出会い
入学試験まであと一週間。
私たちは王立総合高等学園の目の前にやって来ていた。
王立なだけあって施設の規模は他の建物と比べ物にならないくらい巨大であった。
見上げるほどの高さのその建物は、白を基調としていて眩しいほどに光って見えた。
さすがに冒険者の格好だとまずいので、今の私たちはコペルで買っておいた私服を着ている。
………冒険者が学校に行くってあまり聞かないんだけどね。
私は、膝まである茶色いローブ、その下に白いシャツを着込み、赤いチェック模様の膝上までのスカート、そして踝より少し上の辺りまでのブーツ茶色いを履いている。シンプルな方が目立たないしな。
そしてシノンも膝まである茶色いローブに黒いシャツを着込み、膝下まである短パンに脛の中間あたりまでの黒い靴下に、それよりも少し下までの茶色いブーツを履いていた。
「さて、早い方が貴族は少ないし、行くか」
「うん」
私は笑顔でうなずき、受付へと向かった。
「おはようございます。受験の受付ですか?」
「はい、二人でお願いします」
「かしこまりました。ではこちらに記入をお願いします」
受付の女性は用紙を取り出して、私たちの前に置いた。
内容はまず、貴族か平民かのどちらかに丸をつけ、名前、得意な武器や使える魔法の属性、そして出身国。
これは事前に話し合っていて、今の私には家名がないのでシノンと同じ『レスティアス』にした。表面上では双子である。
シノンは一つ歳下だが、私が年齢を誤魔化せばどうとでもなる。年齢なんて本人に確認をとる以外確かめようがないのだから問題はない。
私が姉で、シノンは弟という設定だ。
今までシノンに家名があったなんて知らなかったが、まあ、この世界は家名を名乗る習慣がない人がほとんどだから仕方ないといえば仕方ない。
記入内容は、
『氏名:カルナ=レスティアス 平民
武器:長剣 魔法属性:炎、水、光、風
出身国:ラトス皇国』
『氏名:シノン=レスティアス 平民
武器:双剣 魔法属性:水、光、風、炎、地、氷、波、命
出身国:ラトス皇国』
となった。
記入は簡単に済んだ。今日からが受付開始で今の時間が朝というだけあって、受験番号は早い方だった。
私は十三番で、シノンは十四番だ。
受験料は一人金貨十枚で、まずは金がなければ入れない学校であることがよく分かる。
授業料については、Sクラスに行けば全て無料である。
この学校は、入学試験の合格者の順位でクラスを決める。上からS、A、B、C、Dの五クラスで、合格者人数は百三十人である。
Sクラスに十人、その他は三十人というクラス分けらしい。
入学試験は一週間後だから、まずは街をぶらぶらすることにした。
しばらく歩いて、シノンが前に見つけたという食事店に入り、昼食をとった。
ここは主にラトス皇国の料理が出ており、シノンは懐かしみながら食べ物を口に入れていた。
「ふぅー………やっぱりここは美味い」
「本当に。美味しかったよ」
私は笑顔でシノンに言った。
「………うーむ、なんか違和感しかないな………」
「すぐ慣れるさ」
「うん………」
シノンは今まで偽装系の道具を使ったことがないらしく、今は狼の耳と尻尾は隠れていて、彼にも人間の耳がある。しかし見た目だけでなくちゃんと人間の耳がついているので、彼には違和感しかないのだろう。
「尻尾がなくて体のバランスは大丈夫かと思ったけど意外と大丈夫だったし、慣れるしかない、よなぁ……」
「頑張れ、すぐに慣れるって」
その後、私たちは店を出て冒険者ギルドに向かった。他にやることがなくて暇だからだ。
シノンはS級ランクなので、私が依頼について行っても特に問題はないらしい。
誰にも見られていないのを確認してから陰に隠れて、私たちは変装を解いた。
少々目立ってざわついたが、シノンが殺気を飛ばしたらとたんに静かになったので問題あるまい。
変装を解いたのは冒険者としてのシノンと学校の生徒としてのシノンとの切り替えをするためだそうだ。
入学してからまたギルドに登録する気は私もシノンもないが、入学してからも依頼は受けるつもりらしい。変装したままだと色々と面倒だし。
あの竜の一件があってから、時給生活はまずいとのことで、いつでも試験を受けられるようになった。ちなみに試験内容は試験管と戦うだけである。
だからもう一度闘士試験を受けようかとも思ったが、面倒だしわざわざ危険な冒険者になる必要もないだろとシノンに止められた。
とりあえずすぐに終わりそうな依頼を探すが、面倒ごとに巻き込まれた。
「よう、お前達新人だな?」
「俺たちが色々と教えてやろうか?」
………サニーズにいた頃の男達を思い出すな。ガラの悪い男達にシノンは真顔のまま対応する。
「お断りします。面倒なので結構です」
「ああん?わざわざA級の俺たちが教えてやるって言ってんだ、光栄に思うがいいぞ?」
「A級?冗談ですか?俺にはそこらの馬鹿が勝手に若者に絡んでる、ただのC級冒険者にしか見えませんが?武器だって値段だけは高いけど性能の低いものしか持ってないようですし?」
男達の顳顬に血管が浮かび上がった。さらに顔を赤くして、シノンの顔面を殴ろうとした。が、私は冷静でいた。なぜなら………。
「ぐおっ!?」
「中途半端な力で相手の強さも見抜けない奴が簡単に俺たちに絡んでんじゃねえ。ちょっと力が強いからってA級だとか偽りやがって。どうせまだ冒険者登録したてのC級辺りなんだろ」
シノンが男の拳を受け流し、そのまま掴んで引っ張って床に伏せさせた。そのまま腕は後方に持ってきて、シノンは右足で男の背中を抑えた。
「なっ!お、俺がし、C級、だと!?俺はえ――……」
「それがこんなに一瞬で俺に拘束されてるんだ。おかしいだろ」
シノンは冒険者としての自分を目立たせることで、学校の生徒としての自分が少しでも目立たないようにしてるんだ。
冒険者の自分にみんなの目を向けさせれば、多少目立つことをしたって生徒の自分はあまり目を向けられなくなる、ということだろう。
でも自分からS級だとは言わず、まずは明らかに自分よりも大きい男を圧倒することで、誰もシノンや私に絡んでくるようなことはしなくなる。
それを狙ってるんだな。冒険者なら、貴族に勧誘されて断ったところで問題はない。冒険者としての権限は貴族にも、王族さえにも通用しないからな。
個人の冒険者は国に尽くすか否か、もしくは自分のためか否かといったところだろう。
「さて、どうする?みんな見てるけど?」
シノンは苛立ったような声で言い、男を解放する。
「く……くそっ!何なんだてめぇ!何しやがる!」
「はあ………手を出してきたのはそっちだ。それで自分の身を守って何が悪い?俺は正当防衛でどうとでもなるけどさ、冒険者とはいえ子供に暴力振るった時点であんたらは終了なんだよ」
シノンが殺気を放つと、男たちは怯み、何も言えなくなった。
周りからはクスクスと笑う声やひそひそと話をする声が聞こえてきた。
こいつら………シノンが言う通り、冒険者の登録したてなんだな。冒険者ならみんな知ってる『レイヴァの戦闘能力』を知らないんだから。
基本街ではレイヴァは戦闘能力を周りに見せつけたりしないから、私たちの戦闘能力を知らない者が多い。でも、冒険者ともなればレイヴァの高い戦闘能力を嫌でも知ることになる。
それは、レイヴァはほとんどが単独で、時々パーティを組んでいる人がいるが、一時的に一緒になったりすることもある。そんな時に、レイヴァの戦闘能力が高いなどと他の冒険者に教わったりいつの間にか知識として知っていたりすることがある。
たぶん、学校に通っていた人も知ってるんじゃないかと思う。
けれどたぶん、こいつらは他のパーティを組んでないし、学校にも行ってなかったんだな。それに自分たちはいろんな人と戦っても負けたことがないから、調子に乗ってるんだな。
「こおらぁ!!お前ら!」
「ひぃっ!?」
いきなり声がして見てみれば、入口の方で仁王立ちしている赤髪の少女がいた。
歳はシノンや私と同じくらいで、青い目に褐色の肌で引き締まった筋肉を持った体。赤い髪はショートカットで、少し癖毛があるが可愛い子だった。
「おっ、女将の姉ちゃん………」
「あんた達、調子に乗ってんじゃないよ!なんで大人のアンタらが私と同じくらいの子に絡んでんのさ!?」
「あっ、いや、その………」
男は縮こまり、赤髪の女の子が私とシノンの前に立ち、優しく微笑みかけてきた。
「すまないね。家の奴らが迷惑かけて」
「いや、構わない。俺の方もちょっとムキになった」
「こいつらは私が連れて帰るよ。本当に申し訳ない。ほら行くよ」
そう言って、女の子は男達を引きずって行ってしまった。
…………なんだか、立場的に強い人だったみたいで良かった。
「これ行くか」
いつの間にかシノンが掲示板の紙を剥がしていた。相変わらず切り替えの早い人である。
依頼書を覗くと、どうやら採取の依頼らしい。
このリリーズ王国は、中心にある『本島』、そして、周りに三つの島があることで成り立っている。その内の一つである『リエリ島』の森の中にある洞窟にいる魔物の素材採取を依頼するという内容であった。
受付に持っていき、そして依頼をこなして今日の一日は終わった。
そのようにして三日過ごし、試験まで残り四日となった。
今日は自由に街中をぶらぶらと歩いて、土産などがあれば買ったり美味しそうなものがあったら食べ歩きをしたりと、とりあえず適当に歩いた。
リリーズ王国の街並みは、ほとんどが白だった。地面は大理石となっており、ゴミなどは一切落ちていない。
広場には人の他に鳩などの鳥、そして野生の猫が多く集まり、常に賑やかであった。
その広場のベンチで休んでいると、何やら騒いでいる声が聞こえた。
「ちょっと!何なのよあんた達!」
「いいじゃんいいじゃん、俺たちと遊ぼうぜ?」
「そうだよ、楽しいよぉー?」
「どいてよ!私たち急いでるの!」
何やら女の子がナンパされているみたいだ。私としては許せない行為なので、シノンに助けに行ってもいいか聞いてみた。
今は変装しているので、元の姿の時ほど目立ちはしないかと思ったのだが………。
「できればやめてほしいんだけどなぁ………やっぱり目立つから。まあ、女の立場として許せないのなら、周りには見えないようにしてやることはできるよ」
「本当に?それで頼むよ」
そう言うとシノンは微笑み、指を鳴らした。
すると、さっきまで周りの人の視線を集めていた集団は、まったく注目されなくなった。
「これで周りの人はいっさいあの集団とお前のことを気にしなくなった。恨みを買うことはあっても目立つことはないだろ」
「ありがとう」
「……本当に大丈夫か?」
「うん。あれは見過ごせない」
真剣な顔でシノンに返事をすると、すっと立ち上がって目の前の集団の方へ歩いていった。
シノンには体術も教わっていたので、交渉ですまなかったら容赦なく叩いても大丈夫だろう。正当防衛だ。
「………あのー、すみません」
「ああん?」
「お、なんだ姉ちゃん、君もなかなか可愛いじゃねえか」
「そうだ、君も俺たちと遊ばない?」
男たちはどうやら冒険者らしい。五人で壁際まで女の子たちを追い詰めて、囲んでいたようだ。
「だめよ!あなた逃げて!」
男たちは私を、足もとから頭まで舐めるように眺め、嫌らしい笑みを浮かべていた。
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みをいつまでも浮かべているので、これはもう黒だな。
「………口を閉じろ、変態」
「っ!?」
「なっ、なんだキサマ!」
「俺たちをなんだと思っ――……ぐふぅ!?」
「ただの変態だろうが!!」
目の前の男が台詞を言い終わる前に、私は男の腹を思いっきり殴っていた。
こういう輩が一番気に食わない。嫌がっている女の子に対して、嫌らしい笑みを浮かべながらナンパするヤツ。
そして、次々に襲いかかってくる冒険者を気絶させて、最終的には全員が地面に伏せていた。
挙句の果てには剣なんか抜いてる奴がいた。これでも一応一般人なんだし、武器なんか使わないでほしい。さすがに私でも少しだけ怖いし。
まあ、そういうことを想定して、シノンと訓練くらいしてたけどね。
「あ………あの………」
「大丈夫?剣を抜かれてたけど?」
振り返ると、先ほど男たちに絡まれていた女の子二人が私を心配そうな顔で見ていた。
一人は小柄で腰まで伸びている黒髪を総髪で束ね、金色の目を持つ女の子だった。もう一人は青い髪に紫色の目で、背中くらいまでの長さの髪を降ろしていた。身長は私と同じくらいか。
「ああ、うん。君たちこそ大丈夫?」
「私たちは大丈夫よ。ありがとう、助けてくれて」
「私からも、ありがとう。女の子に助けられるなんて、なんかおかしいね」
そう言って、黒髪の女の子は笑った。
「ああ、あたしはフェルナート。フェルーって呼んでね」
「私はルーネス。ルーって呼んで」
「私はカルナ。よろしくね」
そうして、私は笑顔で握手を求めた。二人は私の手をそれぞれ握った。




