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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第3章、学校生活
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38、 帰宅と受験勉強

 それから数日後、私たちはようやくアグリム山麓のツリーハウスに到着した。ゆうきは大きな木を見てかなり驚いていたが、すぐに切り替えて私たちに続き梯子を昇っていた。


 シノンが扉を叩き、中から声が聞こえる。


『赤の獅子は炎の中を駆け抜け……』

「緑の獅子は草原を駆ける」

『ふむ、シノンか。入りなさい』


 言われてシノンは扉を開き、続いてゆうき、私が入っていった。


 中にはマガネス師と、相変わらず癖毛の多いライズが食卓に座っていた。


「やあ、久しぶりだね、シノン、カルナ」

「久しぶり」

「お久しぶりです」

「おや、その子は?」

「ゆうきといいます。しばらくここに置いてやってほしいんですが」

「ふむ?事情はアンタらの口から聞こうかね」


 相変わらずだなぁ。わかってるくせに、ちゃんと自分たちの口で事情は説明させるんだから。まあ、それがマガネス師だし、仕方ないか。


 それから私とシノンは、ゆうきが夢の民だということは除き、これまでのできごととこれからの予定を話した。

 すると、マガネス師は反対の言葉をいっさい発さず、ゆうきをここに置いてくれると言った。


 学校を卒業してからの予定はまだ未定だが、とりあえずここに帰ってくれば良いだろう。


 エジルやロウさんはそれぞれ旅に出てしまっていていないらしく、会えるかとも思ったが案の定無理だった。


 それからさらに数日間、私たちは受験に向けて実技も忘れずに勉強を開始した。


 試験内容の分野は全部で七つ。


 文学、数学、歴史、地理、魔法術学、基礎闘術実技(選択)、魔法術実技だ。


 基礎闘術というのは、剣術と槍術、棒術のことで、ギルドサニーズでも採用試験を行う際に使われる試験内容だ。

 王立高等学園でも同じで、実技に関しては魔法か闘術のどちらかでも良いらしい。


 それから、二年生になってからは専門分野に分かれ、シノンは魔法術学専門部に進むと言っていた。私はとりあえずシノンについていくだけなので、特に決めてはいない。

 私は魔法を極めたいから魔法実技分野に進んでもいいかも知れない。


 とにかく今はシノンに勉強を教えてもらいながらも、剣術と魔法も一緒にやってもらっている。


 私が一人で座学の勉強をしていると、シノンは一人でぶつぶつと何かを呟きながら一所懸命に考えていたが、真剣なようなので放っておいた。



 そして、入学試験まであと三ヶ月と言うところで、ある日私は、実技の特訓を終えて休憩していた。


 その時、シノンが魔法を使った。



 ――――無詠唱で、だ。



 それは炎の魔法で、掌から空に向かって火炎放射が放たれた。その後も、全ての属性の魔法を初級から上級に至るまで、たくさんの魔法が無詠唱で放たれた。


 しかも、詠唱をする時よりも威力が段違いだった。何度も見ているからわかる。威力はかなり押さえ込んでいる、と。

 シノンも魔力消費による負担はほとんどないようだし、涼しい顔でどんどん魔法を放っていく。


 その時私は思った。



 ―――シノンが一人で何かを考えていたのは、無詠唱で魔法を使う方法だったのだ、と。



 しばらく呆然と眺めていると、シノンは私の方を見た。慌てて私は立ち上がり、シノンのもとへと走った。


「ちょっ、ちょっと!なんだ今の!?無詠唱だった!?」

「ああ。頑張ってみたらできた」

「頑張ってみたらできた、じゃなあい!!どうやったら無詠唱なんてできるのさ!?」

「わかった、わかったから落ち着け」


 私は深呼吸をして一度落ち着くと、再びシノンに問うた。


「……で?どうやったの?」

「うん。魔法ってさ、そもそも大事なのはなんだと思う?」

「えっ?それは………詠唱?魔力操作?」

「うん。それは当たり前で、常識だな。じゃあ、詠唱をしなかったら普通はどうなる?」

「………何も起こらない?」

「そうだ。けど、一万年前に存在した英雄は、全員無詠唱だった。なんでかずっと考えてたんだけど、過去の人物のことを考えてたって仕方がない。なら、自分で実験も兼ねて繰り返せば、頭で『イメージ』できれば使えるんじゃないかって思ったんだ」

「『イメージ?』」

「そう。詠唱をしている間、頭の中にあるのはなんだと思う?」

「発動する魔法の効果……とか?」

「そうだな。大半はそうだろ。イメージが中途半端だと魔法は上手く発動しない。だから初級者は魔法を見る経験が少ないからイメージが中途半端で、ショボイものしか使えない。例えばほら、お前が風魔法で飛翔《フライ》を初めて使えた時、集中が途切れたせいでバランスを崩したろ?」

「ああ…………」


 そう言われれば、無意識のうちに風で飛ぶイメージをしていたかも知れない。そして、やっとできた、という喜びから集中が途切れ、頭の中から飛んでいるイメージが消えていたかもしれない。


「魔法を使おうとする人は、どんな魔法を使いたいか、無意識のうちにイメージしてるものなんだよ。たぶん、だからみんな気づけなかったんだ。詠唱なんて普通のこと、無詠唱でやろうとする人なんていないからね。詠唱するなんて、魔力の使用効率が悪い上に時間も食うから近接戦闘には向いてないからバカバカしくなってさ、だから、一万年前の英雄たちが使ってた無詠唱ができないかと思って、詠唱の時に無意識にしているイメージだけでやってみたらできたってこと」

「………イメージだけでできるの?」

「そうだな、イメージだけじゃ本来の魔法の効果がでない。詠唱をする時、体の中を何かが動く気配がするだろ?」

「うん」

「それは魔力の流れだ。それを上手く制御《コントロール》して、さらにイメージを重ねる。イメージは頭の中でするから、それが魔力と同調して魔法という現象が起こる。そうすると…………」


 シノンは掌の上に炎の玉を作り出した。シュッという音を立てて、彼の掌の上で揺れていた。

 シノンは手を握って炎を消すと笑顔で、やってごらん、と言った。


「………なんとなくわかった。よし、じゃあ………」


 私は光属性魔法の初級、照明《ルークス》をイメージしながら右手の掌を上に向けてみた。

 そして、体の中を流れる妙な感覚――魔力――を感じて手に集中させた。


 目を瞑り集中してみると、ゆっくりとだが、自分の手の上に光の玉が現れた。

 ゆっくり目を開けて、私は喜びの顔をシノンに向けた。


 それでも魔法の方に集中は切らさないようにしてなんとか保っていると、シノンは言った。


「………すごい。一度原理を説明してみただけなのに、一発か。やっぱりお前には魔法の素質があるんじゃないか?」

「シノンだって一発なんじゃないのか?それに比べたら私なんて………」

「いや、たしかに俺もほぼ一発でできたけどさ、普通なら何度も挑戦したり、時間をかける方が多いんだぞ?」

「………そういうものか?」


 私は掌の上の照明《ルークス》を消して、シノンに詰め寄った。


「もっと教えてくれ!」

「もちろんだ。ただし、これは守ってくれ」

「なんだ?」


 シノンの顔は真剣になり、普段よりも少し低い声で言った。


「学校では絶対に無詠唱は使わないこと。詠唱を省略してでも使え。そして威力を抑えろ。でないと貴族に狙われかねない。今のお前は平民だからな」

「あっ、そっか。王立学園だから貴族も多いのか」

「その通り」


 力の強い者は、貴族に狙われる。つまり、利用されやすい。

 力を上手く抑えられないと、貴族は私やシノンの力を取り入れようと様々な手段を取ってくるだろう。


 そうすると色々と面倒だし、何より動きにくくなる。私たちは今は調査の途中で、そんな面倒事に構っていられる状況じゃないからな。


「わかった。約束するよ」

「ありがとうな。じゃ、休憩も良いみたいだし、早速やってみるか」

「うん!」




「気をつけるんだよ、二人とも」

「はい。ありがとうございました、マガネス師」

「頑張ってね、応援してる」

「お気をつけて、ボクも応援してます!」

「うん。二人もありがとう。それじゃあ、行ってきます」

「行ってきます」

「「「行ってらっしゃい」」」


 そうして三人に見送られて、俺たちはリリーズ王国に向かった。

 今俺たちは、『偽装の腕輪』で容姿を変えている。


 さすがにレイヴァが二人も入学するとなれば目立つので、これくらいはしないとまずい。


 俺は紺色の髪と赤い目になっており、あとは特に変わらない。カルナは水色の髪に変わらず青い目で、俺と同じくその他は特に変わっていない。


 シャラストである俺は自分で変装はできるが、前にも言ったように変装するにも魔力が必要だ。さすがに一日中変装しっぱなしもどうかと思うので、自分で付与した魔道具を使うことにした。


 最初は指輪とか首飾りにしようと思ったが、指輪だとなんかの拍子に外れそうだし、何より指輪は婚姻の式を挙げた時にしたい。それと首飾りは首を絞める可能性もあるし、風呂に入る時は外さないといけないので、学生寮で一人部屋でない限り無理だ。


 その点、腕輪ならば簡単には外れないし、風呂に入る時も外さなくたって特に不自然ではない。


 腕輪には魔石が埋め込まれてるので自分で魔力を通さなくても常時発動してるから問題はない。


 偽造の腕輪は買うと高価だし、買いに行くのも面倒なので普通の腕輪に魔石を埋め込んで付与しておいた。買うより安価だし、下手な魔法師が付与したものより確実だ。


 それから武器の方だが、カルナには数ヶ月前に魔剣を渡しておいた。


 俺がなんとなくとっておいた魔剣に付与を施し、カルナにあげたら満足そうに振っていた。


 白刃と黒刃ほどではないが質の良い金属で打たれた剣だったので、文字数に関係なく付与ができた。


 彼女の剣に付与したのは、『魔法術・物理衝撃吸収』『魔力放出』『金属強化』『耐久力強化』『鋭化』『耐熱・耐寒』『撥水』『魔力修復』の、俺と同じ物と『軽量化』を追加でつけてやった。


 カルナに渡した剣は、性能は非常に良いのだがその分重さがあるため、鍛える時間のなかったカルナには剣を振り回す力が足りていなかった。


 だから、持ち主のみに効果を発揮する『軽量化』をつけることで、攻撃をする際、重さによるメリットはそのまま、力がなくても攻撃力が高い。


 素早さと攻撃重視と言ったところだな。耐久力強化もついてるからついでに防御もか。ある意味完璧な武器である。


 剣術を教えてやった時に、カルナには俺の白刃を貸して俺は黒刃で戦っていたから、使い方も完璧だろう。


 魔法の方もこの数ヶ月でかなり上達した。詠唱を使った練習も欠かさずしていたし、試験や授業でも問題はないだろう。


 知識の方も身についたし、あとは入学試験で受かるだけだ。



 ちなみに学校について説明をしよう。まず王立の学校とはそもそも何なのか。


 王立の学校はリリーズ王国にしか存在しない、いわば世界立と言ったところか。世界で唯一の王立学校なので、レベルも相当高く、受験者が毎年多い。


 何せ世界中から集まるからな。


 カルナにはギリギリで受かって欲しくないので、約九ヶ月でしっかりと叩き込んでやった。


 街で手に入れた過去の入学試験問題も全ての分野で高得点が取れるようになっていたので、緊張で実力が出し切れない限りは問題あるまい。


 まあ、頭の中に全ての分野の内容を叩き込んでやったから自信を持てと言っておいたし、問題は何度も解いているので心配はないだろ。


 それから実技も、俺と何度も模擬戦をやったし、俺がだいたい五割くらいの力で戦えるほどにカルナは強くなった。

 試験官くらい軽く倒せるだろ。


 学校の教育期間は四年で、二年生からそれぞれの専門分野に分かれる。そして四年生になり、卒業が近づくと、今度は卒業試験がある。四年間で学んだことを、専門分野別に受けて受かれば卒業、落ちれば留年だ。


 まあ、そんなのは余程の馬鹿でなければ滅多にいないらしいが。


 専門分野は『文学専門部』『理数学専門部』『地理・歴史専門部』『心理学専門部』『化学技術専門部』『医術学専門部』『政治・経済専門部』『闘術実技専門部』『魔法術学専門部』『魔法術実技専門部』『体術・格闘術専門部』等々、王立なだけあって様々である。


 ちなみに俺は、魔法術に関する知識を学ぶ魔法術学専門部に行くつもりだ。ここでは、魔法付与や魔法陣の作り方、そして実技も少し、更にはまさかの歴史もあった。


 なぜなら、魔法学とは、歴史を知らなければたいていのことはこなせないからだ。特に魔法陣に関しては、なぜこのようになるのかとか、それらの計算なども兼ねて数学も中には入っている。そしてたまに化学や心理学も入ってくるという、専門分野の中で一番勉強内容が多いところでもある。


 別に魔法陣とかに関して知識が疎いわけではなくむしろ魔法陣は得意なのだが、俺が欲しい情報は歴史の方だった。でも魔法陣の計算の方に多く触れるので、俺の色んな謎を解決するのにたぶん役立つ。


 それに、専門分野は関係ないが、王立の学校と言うだけあって図書館がすごいらしい。


 広い部屋いっぱいに本があり、幅広いジャンルの本が管理されているそうだ。

 カルナと一緒に読み漁るのが楽しみだ。


 それから、カルナは実技に行くらしい。

 魔法術実技専門部は、そのまんま、魔法術の実技だ。魔法術学とは違い、魔法陣などの勉強はしない。


 詠唱や魔力に関することなど、とりあえず簡潔な授業である。主な授業は実技なので、大雑把に説明するだけで充分であろう。


 と、ここまで説明したが、その他については特に興味がないので省略する。


 筆記に関しては本気でやっても構わないだろう。むしろそっちは本気でやらないとまずい。落ちる可能性があるから手加減はいっさいなしだ。


 その代わり、実技はかなり抑え込まないとまずいな。まあさすがに抑えすぎは良くないが、俺とカルナは一般の人が使うのはようなレベルの威力に抑えられるように練習したので、なんとかなると思う。



 出発してから数日後、俺たちは二度目のリリーズ王国に到着した。

 宿を取り、夕方なのでもう部屋に入ってしまうことにした。


 それぞれの部屋に荷物を置き、一緒に夕飯を食べてそれぞれ風呂に入り、少し二人で雑談してから部屋に戻って眠ったのだった。

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