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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第3章、学校生活
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37、 夢の民の知識と学校?

「夢の……民………」

「はい………ご存知でしょうが、ボクは今まで里で育ち、外の世界について知らないまま育ったのです。すいません、今まで黙っいてて………」


 ゆうきはうつむいて震えているが、そんなことは関係ない、と思った。シノンも同じだろう。

 私たちはうなずきあって、シノンがゆうきの肩に手を載せる。


「よく打ち明けてくれたな。不安だっただろ?」

「は……はい………」

「大丈夫だよ。そんなに怖がらなくても、俺たちはお前を差別したり、売ったりするようなことはしないよ。な?」

「もちろん。教えてくれてありがとう、ゆうき。それだけ信用されてるんだなって、私たちは嬉しいんだ」

「う………嬉しい……?本当に……?」


 私とシノンは同時にうなずく。


 ゆうきは、自身が夢の民だと打ち明けた時は平然を装っていたが内心はとても不安で、私たちにどんな反応をされるのか覚悟の上で打ち明けてくれたんだろうな。


 夢の民は外の世界では差別されることがあるということは知っていたのだろうな。

 だから、もしも私たちがそういう立場だったらどうしようと、もしも打ち明けて拒絶されたらどうしようと、そんな不安があったんだろう。


 やはりまだ子供だからだろうか、夢の民は見知らぬ者を信頼し始めるまでに時間がかかるが、ゆうきはわずか数日で懐いてくれた。


 それだけでも結構勇気がいると思う。


「名前の通り、勇気のある子だ。俺たちは夢見の里に向かってたんだけど、一緒に里に帰ろう」

「っ!!」


 その瞬間ゆうきは首を思いっきり横に振り、シノンの手を取った。


「お願いします!里にだけは……里にだけは帰りたくない!父さんと母さんを殺してボクを追い出したあの場所には、絶対に帰りたくない!」


 私とシノンは呆然と、懇願するゆうきを見つめた。



 親を………殺された。



 ゆうきはそんな過去があったのか。それにしては打ち解けるまで時間はかからなかったな。聞いてみると、


「それは、あなた達が『レイヴァ』という人だからです。レイヴァの人たちはみんな優しいって、母さんが言ってたんです」


 と答えた。


「まあ………たしかにレイヴァの中には悪人はいないけどさ……」

「ん?でも、夢の民って外には出ないんでしょ?なんでレイヴァには悪人がいないって知ってたの?」

「そっ、それ、は…………」


 ゆうきは掴んでいたシノンの手を放し、ぶらんと下げた。


「それは、母さんは………夢の民じゃないからです」

「「っ!?」」

「シノン、夢の民って純系でしか子供を産めないんじゃ……!?」

「いや、産まないだけで産めないわけじゃない。ギルドにあった資料によれば、夢の民と外の世界の住人の間で子を産むことは掟で固く禁止されていたはずだ。もし懐妊してしまった場合は、即刻処分……ってな」

「そんな………」

「それを知った時、ボクは嬉しかった。厳しい掟を破ってまでボクを守ってくれたんだって、心の底から父さんと母さんに感謝したんです。けれど、ボクの魔力波がおかしいと怪しんだ長老が、ボクを検査して………人族の魔力がわずかに発せられていたことから、ボクは追放、両親は殺されました」


 するとゆうきは両手の拳を握り、だんだん啜り泣き始めたので、シノンがゆうきの頭をそっと抱いてやっていた。



 少し落ち着いて、ゆうきはシノンから体を離すと、またぽつぽつと話し始めた。


「………調子に乗るわけじゃないんですが、あなた達には、隠し事をしたくありません。ですから、全部話します」

「ああ、いいよ。好きなだけ話せ。話すことで、気持ちの整理もつくしな」


 シノンの意見に、私も何度かうなずく。


「じゃあ、まずは親のことから話します。えっと……僕から人族の魔力波が感知されたと言いましたが、母さんは人族ではありません」

「?普通の人間じゃないってこと?」


 ゆうきはうなずいて、さらに続けた。


「ボクの母さんは………その………ハイ、ヒューマンなんです」

「ハっ!?」

「ハイヒューマン……!?」


 ハイヒューマン。

 人族の上位種で、目撃報告はほとんどない。二十歳くらいで一度成長が止まり、最低でも二百年、長くて数千年生きるという。見た目は人族と変わらないから、滅多にお目にかかれるものじゃない。


 人族………いや、人類の数倍、数十倍、数百倍の身体能力と魔法の技術を持つハイヒューマンは、今も生きているか否かがはっきりしておらず、言ってしまえば架空の存在だった。


 それが今、目の前にいる。それも夢の民という種族の血を引いている子。


 まあ、同じ人族でも繁殖力は低いので、ゆうきという存在がいる時点で驚きなのだが。


「驚かれて当然ですよね。ハイヒューマンだった母さんは、長年の冒険者修行で自分の魔力を人族とは違うものにして、変装していたんです。それで、父さんと里で暮らして、ボクが生まれた。夢の民の、両親の遺伝子が優劣関係なく見た目や能力に現れるという特性で、ボクは、ハイヒューマンの特性も、夢の民の特性もそのまま受け継いでしまいました」

「つまり、夢の民の能力も使えるし、ハイヒューマンのような優れた身体能力や魔法、そして長い寿命を得た、と?」


 シノンの質問に、ゆうきはまたうなずく。


「すごいな、魔力の癖を完全になくすなんて」

「そんなに凄いの?」

「ああ、もちろん。自分の魔力を完全に制御出来ていた証拠さ。完全に魔力波の調子を変えなきゃ人族だということは隠せなかったはずだし、それができていたということは、相当な魔法の使い手だったんだろうな。俺も少しだけ自分の魔力を誤魔化せるけど、完璧じゃないから探索《サーチ》とかに長けた人の中で俺の魔力を完璧に覚えている人なら、たぶん俺だとばれる」


 ゆうきの母親は自分の魔力を完全に誤魔化したのか。それで姿も一緒に誤魔化した………ということか。


 それと、ゆうきは里にだけは行きたくないと言うから、行けなくなったな。どうしようかとシノンに聞いてみたら、まずはゆうきに話しかけた。


「ゆうき、お前が里に帰りたくないなら、俺達も行かないよ。その代わりと言ったら難だけど、夢の民の知識を俺たちに分けて欲しい。それでもいいか?」

「もちろん。些細なことですが、少しでも恩返しがしたいです。それにボクはもう夢の民ではありませんから、掟を守る義理もないのです」


 シノンはうなずき、私に同意を求める視線を送ってきた。少し惜しい気もしたが、ゆうきのことを思い素直にうなずいた。


「わるいな、期待させておいて」

「いいよ。別に、そんなに拘ってたわけじゃないし」


 私は微笑みながら、素直な答えをシノンに伝えた。


「と、言うわけで、ゆうき、色々と質問するぞ」

「………はいっ!ボクの知っていることなら、何でも!」


 涙を拭い、元気よく返事した。ゆうきは張り切っているようだし、シノンはどんどん質問していった。


 まず纏めると、さすがに夢の民と言えど、一万年前のことについては完璧ではなかった。


 世界を覆い尽くすほどの黒い雲が現れ悪魔になりかけた魔人が登場した時、倒した二十人の英雄のその後の処遇については真っ黒。


 夢の民は彼らと交流があったもの、彼らの正体については聞かされていないらしくゆうきも知らなかった。


 ただ、未だに信じられないが二十人の男女は全て兄弟姉妹らしく、仲睦まじい関係だったそうだ。


 魔法術や体術はほぼ完璧で、一番力の弱かった末っ子の男の子でも、ベテランの冒険者すら足元にも及ばないほどの腕らしい。


 戦闘に長けていた夢の民の巫女の護衛だった闘士も、彼の半分の力だけで充分なくらいの差があり、夢の民は外の世界の人間達よりも彼らを敬っていた。


 戦闘能力だけでなく、みんな知識がとても豊富で、夢の民に様々なことを教えていたそうだ。


 そんな彼らにはそれぞれ二つ名があり、似たようなものだがその中で気になるものがあった。



『水の魔術剣士』



 魔術剣士とは魔法剣士と似たようなものであるが、それの魔術版だと思ってもらっていい。しかしその稀少レベルは高く、いたとしたら貴族など地位の高い者に利用されかねない。


 どうやら水の魔術剣士とは詠唱を使わないらしく、常識とは程遠いほどの威力の魔法術を放っていたという。


 シノンの場合は一瞬だけ詠唱を使うが、一応魔術剣士である。その稀少さから目立つため、自らそれを名乗ることはないが。


 シノンは人前では魔術と剣の両方を使うことはなく、そのほとんどが魔術なので、『白の魔術師』という二つ名がついている。


『水の』ということは、水の魔術が得意だったのだろうか?


「いえ、なんで水ってついているのかはわかりませんが、そういうわけではなかったみたいですよ。たしかに水の魔術は他よりもすごかったらしいですけど、魔術に関しては兄弟姉妹の中でも才能があったらしく………」

「………水の魔術剣士って末っ子だろ?矛盾してないか?」

「ボクも思いました。けれど、あくまで才能があったってだけで、別に一番強かったというわけではなかったそうです。そのうち兄姉たちを抜かすんじゃないかってくらいで」

「あ、なるほど」


 私は思わず呟く。


 二十人も兄弟姉妹がいるなんてことが驚きだが、それよりも戦いに関する技術の高さにも驚くな。全員が若手だったらしいし、長生きも対してしていなさそうだったということだったし。


 見た目は人族だけれど、魔力波が人族のものではなかったそうだ。完全に魔力を絶つこともできていたそうだし、魔法術は全て無詠唱。


 夢の民が特殊な能力を持っているのは、彼らから授けられたかららしい。仲間を大事にする習慣も彼らに学び、戦闘能力に関しても代々彼らの戦闘方法なのだそうだ。


 これだけ交流関係があったなんて………でも、そうするともう一つ疑問が出てくる。


「なんでそんなに、英雄の彼らと交流があったの?」


 シノンも同じ疑問を持っていたらしく、うなずいてゆうきを見た。


「それは………彼らも、ボクら夢の民と同じで人族が嫌い……というか、信頼できなかったからだそうです」

「信頼できなかった?」

「はい。別に完全に嫌っていたわけじゃないんです。ただ、それぞれが人族には嫌な思いをさせられたという苦い記憶があったとかで………でも、人族のように愚かではないので、ちゃんとした考えを皆さん持っていたそうですよ」

「ちゃんとした考えねぇ………」

「例えば?」

「そう、ですね………『人とは様々な考えを持つものであり、決して皆が同じ考えとは限らない。即ち、全ての人間が悪人とは限らず、全ての人間が善人とは限らない。それが人である。』とか、『人とは様々な感情を持つものである。怒り、喜び、悲しみ、笑い、憎み、そして恨む。波の激しい人の感情は、とても脆く、とても儚いものである。それがなくなれば、人とはどうなるのだろうか。』とかですね」


 後の方はちょっとした疑問のように思えたが、少し考えさせられるな。


「彼らが夢の民に残してくれた言葉の中には、決して恨みとか妬みとか、負の感情に関する言葉や意味が混ざってなかったんです。ボクらはこういう、彼らの言葉を聞いて学んで育っていくんです」


 ちなみにゆうきの歳になれば、全ての教育は終えるそうだ。物心ついてから教育を徹底的に叩き込まれ、掟を破ることがないようにするらしい。


 仲間意識が強いんだから当然か。


 その後、一万年前にも現れたという空の使いのことや魔力源についても聞いてみたが、ゆうきは知らなかった。さすがにあの辺境の土地には空の使いは行かなかったか………。





「シノン、夢見の里に行かなかったら、次はどこに行く?」

「うーん、西の島火山に行っても良いけど、情報屋によると今は火山活動が活発でいつ噴火するかわからないらしいから数年は近づけないとして………やっぱリリーズかな。とある貴族を訪ねるって言ったけど、王立の学校に行こうと思ってる」

「が、学校?」

「ああ、十五歳以上なら入学が可能だ。中等部や初等部に通ってなくても、知識や技術さえあれば入学できる。そこで、歴史とか技術とか、詳しく学べないかなと思ってね」

「それ、私も行っていい?」

「………いいけど?大丈夫か?」

「………いや、シノン、勉強とか教えて。城で色々と教わってたけど、リリーズの王立学校はレベルが高いから今の私の知識で行けるかわからない。けどシノンと一緒に行きたいから」

「あー、俺はいいんだけど、問題はゆうきなんだ。どうする?」

「あっ…………えっと、ボクは気にしなくても良いですよ」

「………それとも、コペルのライズさんの所に行くか?学校の教育機関は四年間だし、休みの時期とかに帰れば問題もないだろ」

「さすがに学校に一緒に行くわけにはいかないからな………」

「あのっ、シノンさん達が信頼する方なら、ボクは平気です。恩返しのチャンスが減りますが、シノンさんとカルナさんには目的があるって知ってますから、邪魔するつもりはありません」


 小さいながらしっかりとした考えをお持ちだ。私がシノンと一緒にいたいのは本音だし、ゆうきには悪いけれどしばらくはお別れか……。


 出会って一ヶ月も経ってないのに、ずいぶんと信頼されるようになったな、私たち。


 やっぱりレイヴァっていうと親近感が湧くのかもしれないな。


「わるいな、ゆうき。長期休みの時とか、できるだけ帰るようにするからさ」

「はい!」

「というわけだから、次の目的地はアグリム山麓のツリーハウスだ。マガネス師も気まぐれだけど、子供の住人が一人や二人増えるくらいじゃ文句言わないだろ」

「ふふ、そうだな。まあ、断られてもライズがなんとかしてくれるよ」

「入学試験は来年の春。それまでに色々とやるぞ、カルナ」


 私は満面の笑顔を浮かべて力強くうなずいた。


「お二人とも、頑張ってください。ボクも応援してます!」

「おう」

「ありがとう、ゆうき」


 私はゆうきの頭をそっと撫でてやった。ゆうきは気持ちよさそうに目を細めていた。

補足


今さらなんですが、この世界においてお金の換算について記述がなかったなぁとか思ったので、ここに書いときます。


※だいたいの目安です。


石貨……1円

鉄貨……10円

銅貨……100円

銀貨……1万円

金貨……10万円

白金貨……1千万円

王金貨……10億円


………とこんな感じです。

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