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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第2章、調査開始
33/138

33、 夢見の里と少年?

「……………そんなの、よく見つけたな」

「えへへ。日付も一万年くらい前だったから、シノンが知りたがってたことかもしれないと思ってね。読んでみたら当たりだったみたい」

「助かるよ。それにしてもそんな本があったとはなぁ。残ってたんだ」

「世界的にも規模が大きいだけあるよね、この街の図書館」

「とりあえずここは調べ終わった。あとは検証、本格的な調査だ」

「うん!」


 カルナは笑顔でうなずいた。


 調査をしながらの旅をし始めておよそ四ヶ月。だいぶ時間が経ったが、ようやく本格的に調査ができそうだ。


 まだ全員の空の使いには会っていないが、それでもだいたい半数の空の使いに会っていれば共通点は言われなくてもわかる。


 今回の図書館の本の物色でわかったことや情報屋に聞いたこと、それから自らの目で確かめたことなどをすべて考慮しながら、これから訪れてみる場所を絞る。


 …………今のところの俺の頭の中にある地図の中で、行ってみて損はなさそうな場所は全部で三つ。


 一つ目は海上のとある島火山だ。しかしここからだと方向はまったく反対の方向で、かなり時間がかかるだろう。


 二つ目は夢見諸島。ここからずっと南の方に向かった横長の大陸で、王国は二つ、そして国として成り立ってはいないが人族以外の種族が暮らす『里』が二つで構成された場所である。


 三つ目は………あまり行きたくはないがリリーズ王国の王都ルミ。そこで、とある貴族を訪ねてみることにする。


 ここからだと距離的に一番近いのはリリーズ王国の方だが、俺はあえて南の夢見諸島を目指すことにする。この中で一番時間がかかりそうだからだ。


 一応人族であるカルナがあそこに行くのは難しいが、そんなもの俺の魔法でどうとでもなる。


 まあ、虹目なら何とかなるか?


『夢見の里』と呼ばれる、人族以外の人類が暮らすいわばの楽園。そこで生まれ育った民のことを、『夢の民』と呼ぶ。

 夢の民は純系でしか子を孕まない。彼らしか持たない特殊な能力を持っているとか。


 愚かな人族はおらず、差別もない。しかしその代わり、罪人には敏感で掟も厳しく、完全な楽園の地かと言われればそうではない。


 罪を犯しそれがはっきりすれば厳しい処罰がくだり、死刑はないが死刑よりも厳しい罰があったりする。


 例えば、『終身刑』。一見普通に、一生牢屋に閉じ込められるかのように思われるが、実は違う。

 終身刑は牢屋に閉じこもっているのではなく、奴隷も同然のように扱われる。


 しかし夢の民のほとんどは心優しい者達の集まりなので、さすがに状態的に厳しくなればほんの数時間程度だけではあるが休ませたりもする。


 ………まあ、少しでも長生きさせて、苦しむ時間を延ばしてやるためという意図もあるらしいが。

 すぐに死んでは罪を償いきれないかららしい。だから死刑がないんだとか。


 里には追放や流刑なんてのもある。そうすると、特殊な魔道具に魔力の放出パターンを覚えさせ、入国(国じゃないが)審査の時に検査を行うので、追放された記録があるならば警報が鳴り、中には入れない。


 いくら変装しようが魔力の放出パターンまでは誤魔化せないからな。人によって細かい癖があるから。

 俺たちは夢見の里には行ったことがないので、検査はすぐに終わるだろうな。


 と、そういったことをカルナに話してみると、目をキラキラと輝かせて、行こう!と言っていた。


 今まで人族として生きていたから、楽園とも言われる夢見の里には行けなかったんだもんな。そりゃそうなるか。


 里はほとんど人の手を加えられていない自然が多く、とても美しいと評判である。

 人族以外の種族は、そこを旅行先として選択することがあるらしい。


 人族も里には憧れの念を持つが、人族である以上中に入ることは許されない。どれだけ誤魔化そうと人族特有の魔力の放出パターンですぐバレる。


 ちなみにカルナの場合、虹目の魔力波(放出パターン)であるため見た目を少し誤魔化せば大丈夫だ。


「検問の時に虹目を見せれば何とかならないのか?」


 こんな質問をされたが、無理だ。むしろ魔力波を記録されて二度と入れなくなる。


「無理だよ。そんなことしたら二度と入れなくなる」

「………なんで?」

「虹目だなんて知られてみろ、即殺されるかも知れんぞ」

「どういうこと?虹目は人族じゃ………あっ」


 カルナも気がついたようだな。そう、虹目は人族よりも傲慢で強欲なことが多い。しかもそのほとんどが戦闘狂で、殺戮を繰り返す極悪非道である。殺人集団なんかも稀じゃない。


 そんな奴らを里の中に入れてしまえば、想像がつくだろう。


 下手をすれば、たった数人で国一つ滅ぼすことだってできる。里のように人口が少ない土地であればなおさらだ。

 魔物化した人間ほどではないが、一人だけでもかなりの戦闘能力を持つため、ほとんどがベテランの冒険者数十人で討伐される。


 子供で発見された場合、虹目の弱点を探るために『保護』という形で研究が進められる。


 いくら凶暴な性格が多いと言っても、良心を持つ虹目もいる。そういった虹目が現れる場合、たいていは両(・)親(・)が(・)嘘をつかない、そして裏表のない優しい人物であることが条件になっている。


 つまりカルナと義兄さんは、親に恵まれているということである。


 余談になるのだが、もともと虹目は素直で嘘はつかない性質であるが、他の種族と結ばれるとしたらそうはいかない。


 例えば人族と虹目の間に生まれた子供が二人いるとする。


 片方は、人族の親は決して嘘をつかず、誰にでも平等に接する心優しい親で、虹目の親の方も同じ性格だとする。

 もう片方は、虹目はとても素直で優しい性格だが、それゆえに傲慢で人を騙すことがほとんどである人族の貴族に嫁入りさせられた親だとする。


 そうすると、二人の子にはかなりの差が出る。


 最初の例に挙げた子は、とても素直で優しく、良心を持つ子に育つ。相手のことをしっかり考え、行動がてきるのだ。


 もう一人は、前例の子と同じように素直ではあるが、良心を持たず、凶暴な性格に育ってしまう。素直故に思ったことをすぐに口にするし積極的に孤立するので、嫌われ者である。


 しかしそれでいて、虹目とは強力な力を保持しながらも自分の力をしっかりと把握している賢い性格でもあるし人族ほど愚かではないので、警戒心が強く、確証がなければ動くことはない。


 そして興味が無いことにはとことん興味がないので、世界中の虹目が世界征服などというものに興味を持ってしまえば、虹目戦争でも起こりそうである。


 同じ虹目であれば良心を持つ虹目たちでも止められないことはないだろう。しかし、良心を持つ虹目とそうでない虹目の比は一対三。


 戦うことになれば誰にも止められなくなる。俺も一応虹目なので、それに参加するとしても敗北は確実。


 世界が滅亡するとしてもおかしくはないな。


 ………と長くなった余談ではあるが、今実際に、そういった懸念も世界中にある。


 特に冒険者については、各ギルドが強者を集めて対策を練っているらしい。


 なにせ虹目が今は増えてるからな。襲撃も稀ではなく、街道のように目立つ場所だろうと大きな街だろうと、ところ構わず気に食わなかったところや気分などで、街を滅ぼしたり、人々を無残に殺し続ける。


 彼らは狂ったように高笑いしながら、また人々の悲鳴を聞きながら、楽しげに襲撃を繰り返しているというとある情報屋から聞き出したこと(情報)である。


 俺自身も虹目の一人ではあるが、他の虹目との交流はカルナ以外にはない。……と思われる。


「うーん……姿を誤魔化すだけで大丈夫なのか?虹目特有の魔力波とか………」

「ああ、それなら心配はいらないよ。あくまで人(・)族(・)特(・)有(・)の(・)、だから」

「あ、そうか。なら良かった」


 ほっと息をつくカルナを見ながら、俺は再び自分の世界に入り込んだ。


 まず問題なのは、彼らと上手く交流ができるかどうかである。いくら人族以外の楽園であるとしても、しばらくは地元の人々と交流をし、信頼を得なければならない。


 でなければ、俺は彼らに尋ねたい内容が聞けない。


 彼らは外界から隔離された場所に自分たちの世界を作り、生活している。外界から来た人たちは、最初はあまり信頼されないという。


 移住したばかりの心の弱い人は、早い人はほんの数ヶ月で出ていってしまうという。

 しかし粘り強い人はいるようで、信頼されなくとも何年も粘り、彼らの信頼を勝ち取った例は両手で数えられるほどしかない。


 つまり、里にいる外界からの移住者はほんの数人しかいないのだ。


 俺たちも、彼らの信頼を勝ち取るため、何ヶ月かあそこに滞在することになるだろう。


 夢の民が何万年もの間語り継いできた伝説や神話が聞ければよし、聞けなくとも粘れば良い。今のところは時間もあるし、焦っても仕方がないしな。


 ………あ、待てよ?俺たちのような白髪に青い目を持つ子《リ・ミ・レイヴァ・クラント》の場合はどうだ?

 人族であろうとレイヴァは同じ人族を敵視することがある。俺もそうだが、カルナも人族を敵視する素振りさえすれば彼らの信頼を早く獲得できるかもしれない。


 ………いや、やめとこう。カルナは素直な性格の持ち主だし、そんなことは難しいか。



「じゃあ、出発は明日の早朝で。起こしに行くけど、早めに寝とけ」

「うん、おやすみ」

「おやすみ」


 カルナを部屋に帰し、俺も布団に潜り込んで眠った。




 翌朝、私はシノンに起こされて早速旅の支度をし始めた。

 朝食はシノンが収納魔法でしまっておいた軽い食事だった。


 朝なのであまり多くは食べられなかったが、歩くのでそんなに多くはいらなかった。


 チェックアウトして、早速街の外へと向かっていった。


「…………今度馬車でも買うか」

「え?馬車?」

「ああ、歩いてばかりだとさっきみたいに食事が満足に食べられないからな、馬車で移動するのも悪くない」

「確かに……いいね、それ」

「よし、じゃあ次の街で馬車を買おう。向かうのはこの国の王都だから、色々と種類があるだろ」

「そうだな」


 私は上機嫌で答える。


 馬車なんて故国にいた頃も滅多に乗ってはいなかったので正直新鮮な気分だ。


 街を散策することは多かったがその時はいつも徒歩だったし、外国との外交はほとんど兄さんだったから、私が馬車に乗って移動することはなかった。


 それに島国なので、他国の貴族や王族との交流がある時はだいたいこちらが招待していたし、せいぜい私自身が船で移動する際に港へ向かった時くらいに数回、乗っていたくらいだった。


 でも、今はなんとなく馬車での旅も悪くないと思った。シノンとのんびり話しながら旅ができるのが楽しみだったからだ。


 そう考えると、とても気分が良くなってきた。


 ニヤニヤが止まらず、シノンの視線を感じて私は思わず目を逸らす。絶対に彼には悟られているだろうが、あえて黙っておくことにする。


 やがて、街の検問所を抜けて街道の端を歩いていると、道を逸れた先にわりと立派な木が立っていた。


 その根本に、小さな影が横たわっている。


 シノンは耳を隠すために帽子をかぶっているが、耳を立ててピクッと揺らしたのがわかった。


 距離的には約一キロメートルほど。ここからだと青い塊のように見える。


 更に近づくと、それが人だということがわかった。魔力の流れからして、子供のようだ。…………そして、かなり弱っている。


「………シノン」


 私が小声で呼びかけると、シノンは私を見た。

 少しして諦めたように溜息をつき、わかった、と言ってくれた。


「ありがとう」


 そして私とシノンは、その子供の元へと早足で近寄った。


 その子はうつ伏せで倒れており、どう見てもぶかぶかなサイズの頭巾がついた青い上着を着ている。青地に白い棒状のラインがいくつかあるだけのシンプルなデザインだった。


 頭には頭巾がかぶさっていた。私はしゃがみこんで、その子をひっくり返して半身を起こさせる。


 美しい顔立ちの少年だった。七歳くらいだろうか?

 白金の髪を団子状に後ろで束ね、癖毛な髪はそのお団子状の髪の内側から余った髪が出ている。


 しかし、整った顔は疲れ果てて倒れたようで、かなり痩せていた。疲労困憊の中、数日休まずに歩いていたのは確実だ。目元には隈もできている。

 おまけに顔や手足にはいくつもの擦り傷や痣がついていた。


 シノンは私の向かい側に座り、男の子の額に触れてそっと目を閉じた。

 念属性の魔法で、生物や物の内部を調べる特殊魔法の一つだ。


「…………この子は、助かるか?」

「……うん、かなり疲労してるけど、ギリギリ大丈夫だ。無理矢理体の中に栄養分を取り込ませてやれば、あとは休めば大丈夫だろ。あとは、細かい傷もな」


 私はうなずいて、さっそく回復魔法を放つ。


『光よ、この者の傷を癒し給え、回復《ヒール》、プラス、状態回復《リカバリー》』


 私の手もとから緑色の光が放たれ、徐々に男の子の表情が穏やかになっていく。

 顔や手足にについていた傷と痣が消えてゆき、青白かった顔も赤みを帯びてきた。そして、穏やかに寝息を立て始めた。


 シノンなら詠唱は省略してしかも一瞬でできるのだが、まだ完成途中の光属性魔法なので、私にはちゃんとした詠唱が必要だった。


 回復魔法をかけたけれど、男の子は目を覚ますことはなかった。


「うん、大丈夫みたいだな。疲れが取れきれてないけど、直に目を覚ますだろ」

「そっか。良かった………」


 私は心の底から安堵し、微笑んだ。


「さてと、ここでのんびりしてられないし、俺が背負っていくよ。たぶん、王都に着くまでには目を覚ますと思うけど……」


 そう言いながらシノンは私から男の子を受け取ると、背中に背負って立ち上がった。


 なんだかんだ言って、とても優しい彼だった。


 私も立ち上がって、シノンに続いて歩き出した。

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