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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第2章、調査開始
32/138

32、 神話と伝説

※7、 迷惑野郎と空の使い

一部修正しました。

 その昔、とある人は言った。


 ――人族とは寿命が短い。愚かな種族である。悪人もいれば善人もいる、白黒はっきりと分かれた種族である。しかし、他の種族は持たないものを、彼らは持っている。それは、他人を信じることができることと、短い寿命の中で何をなし得るのか考えることが出来ることである。


 またある人は、こう言った。


 ――人など信ずるに足らない。争い、憎しみあい、そして奪い合う。何とも愚かな種族だ。彼らを認めることは、私にはできない。


 そしてまたある人は、こう言った。


 ――人とは、時代によっては、争い、または良い関係を築いたり、様々である。しかし、やはり信頼とまではいかぬ。私も、人と関わるのは控えた方が良いと考える。



 ―――――――――――――――――――――



「甘いっス!」

「うわっ!?」

「へっへーん。またボクの勝ちっスね」

「酷いなあ。まったく、少しは弟に勝たせてくれたって………」

「そんなことしたって君のためにはならないっスよ」

「ははっ、わかってる。冗談だよ」


 薄い水色の髪を持つ少年が、白髪を持つ少年に手を差し伸べ、立ち上がるのを助けた。


 薄い水色の短い髪を持つ少年は白に近いほど薄く透き通った青い目を携えており、大きな丸い目は、どこか子供らしいところがあった。頭には犬のような耳と、ふさふさな短い尻尾がある。

 白髪を持つ少年は、長い前髪で左目が隠れている。兄よりも少し小さい目は透き通るような青く美しい目だ。その目を見れば、誰もが見入ってしまうだろう。頭には狼の耳があり、長めのふさふさな尻尾があった。


 彼らは木剣を携えており、打ち合いをしていたらしい。


「おいおい、お前ら、相変わらず好きだなあ。ここで打ち合うの」

「あ、兄さんっスか。みんなは?」

「ああ、もうすぐ春だからな、花見の準備してる」


 そこに現れた、彼らの兄である若い男。黒い髪に黒い瞳、どこか女性のように思われるその容姿は、どちらかと言えば可愛いと言われる方が多い。彼にもハスキー犬のように立派に立った耳があり、黒くシンプルな形の尻尾は常に垂れている。


 癖のある髪は少しだけ長めで、彼が男だと気づかない男はおそらく彼に惚れてしまうだろう。


「ほら、みんなが呼んでるぞ。手伝え」

「「はーい」」



 ―――――――――――――――――――――



『グオォォォォォォォォォ!!!』


「ううっ、何なのよ、この声。お父様だなんて思いたくないわ」

「でもやるしかないよ。沈めてあげないと、父さんも可哀想だ」

「………では、全員、総攻撃!」

『了解!』


 そうして、前衛、中衛、後衛の三組に分かれて、二十人の少年少女(兄弟姉妹)は黒く巨大な影に向かって総攻撃を仕掛けた。


 空は黒い闇のような黒に覆われ、辺りもろくに見えないほぼ暗闇の世界だった。


 近接戦闘型の十人は剣や槍などを使い、魔力を纏わせて影に直接攻撃を仕掛ける。中衛は、中距離から魔法を放ち影に攻撃。後衛は弓や魔法を行使し、近接戦闘の十人と中距離型の三人の護衛、フォローをしながら時々チャンスを狙い、影に攻撃を仕掛けた。


 こうした連携は今までに何度も行っており、一人ひとりが全員を信頼していた。


 そのため滞ることなく、数時間に及ぶ攻防戦が続いた。


 これでは影が圧倒されているように思えるが、実は違った。彼らは、その黒い影の近くにいるだけでダメージを受けていたようだ。


 あまり戦いを長引かせられない、そういった焦りから、彼らはあることに気づくことができなかった。


 その事に一番最初に気づいたのは、末っ子の少年だった。


「っ!?兄さん、姉さん!下がって!!」

『っ!!』


 その声に反応し、それぞれ一度地面に足をついて後退した。

 その瞬間、巨大な影が多いな音を立てて爆発した。


「なっ!」

「な………なんだよ………あれ………」

「い、いつの間に………!」


 そう呟いて彼らが見たのは、黒く巨大な影の後ろに佇んでいた、黒い魔力を纏う人型の魔物だった。


 禍々しい魔力を纏い、肌は黒くなり、目は赤く光っている。そして、頭には黒い角が生え、もはや悪魔になりかけていた。


 人は、魔物化すると『魔人』と呼ばれる。魔人は通常の魔物よりも遥かに高い魔力を持った魔物だ。


 一度魔物化すると、普通ならば二度と元に戻ることはない。そして元から力が強かったり、更に段階を積んだりすると、今度は『悪魔化』が進む。


 今彼らの目の前にいる魔人も頭に角が生えていることから、悪魔化が進んでいることがわかる。


 悪魔になるまでの過程の段階ならばまだマシだ。魔人よりは数倍強いが、完全に悪魔になってしまえば今よりも数十、数百倍の力を持ってしまう。


 そうなる前に、倒さなければならなかった。


「………落ち着け。魔物は光に弱い。それは悪魔も変わらん。後衛、中衛は光属性魔法で援護、前衛は俺に続け。魔道具を持つ者は光属性魔法を起動しろ。再び、総攻撃開始!」

『了解!!』


 そして近接戦闘型の十人は飛び出して行き、再び魔物に対する総攻撃が始まった。


 すると、本来理性の欠けらもないはずの魔人が、ふっと笑った。しかし、魔人は下を向いているため彼らがそれに気づくことはなかった。


『グオアァァァァァァァァァァ!!!』


「うるっせぇよっ!!」


『ギャッ!!?』


 二十人の中で最も光属性に長けた青年が、光属性の魔力を本気で込めた剣を振るった。


 その剣は魔人の腕に当たり、右腕の肘から下が地面に落ちた。


『グルルルルルル……………』


 唸るような声を出し、やがて、何かをブツブツと呟き始めた。


 その魔人の様子に驚愕しながらも、近接戦闘をしている彼らは、決して攻撃の手を緩めなかった。


 魔人は黒い魔力で強力な防御結界を三重で張り、何かを呟き続けた。


 やがて、結界の耐久力ももそろそろ限界かと思われた時、ふっと結界が消えた。


 その隙を逃さんと、全員で一斉に攻撃した………が、周りにいた者全てが同心円状に散らされる。

 皆なんとかバランスを取り直し地面への着地に成功するが、黒い魔力によるダメージは大きく、全員が肩で息をしていた。


『グルルアァァァァァァァァァ!!!』


 間もなくして、魔人は再び咆哮した。生き物とは思えない声で、地響きするほどの声を放つ。


『オノレェ……………オノレエェェェェェェェェ!!!!』


『っ!?』


 そう叫んで真っ先に魔人が向かったのは、二十人の中で一番力の弱い末っ子の少年のもとだった。

 目で追うのがやっとなほどのスピードで、少年に向かって突進していった。


 彼は魔人が喋ったことに驚愕しながらも、隙を見せないよう、冷静に対応する。近接戦闘においては中でも勘が鋭かったので、着地した瞬間に構え直し、こちらへ向かってくると想定しすでに戦闘の準備を済ませていた


 しかし、魔人のスピードにはついていけず、相手の攻撃を防御するだけで精一杯だった。


 弟だけに負担をかけさせまいと、彼の兄や姉たちは再び、そして迅速に魔人へと攻撃を仕掛ける。

 攻撃を防がれるとは思っていなかったのか、魔人は少し驚きながらも自身の防音結界を張った。


 魔人は周りに、更に濃くなった黒い魔力を纏い、攻撃、防御、素早さ、そして反射神経や適応力など全ての能力値《ステータス》が爆的に上がり、更に彼らは黒い魔力によるダメージを受け続けているため、徐々に魔人に押されていった。


 致命傷とまではいかないが皆傷を負っている。素早い動きは封じられ、鋭い攻撃も仕掛けられず、防御にも本気を出さねば確実にダメージを受ける状態だった。


 やがて、彼らには勝ち目がないかと思われた時、最年長である青年が、全員に声をかける。


「一旦散れ!」

『了解!!』


 持ち前の適応力で、彼らはバラバラに、そして一気に距離を取った。号令をかけた青年は空間魔法で全員を自分の後ろに転移させ、そして自身が得意とする頑丈な結界を、幾重にも重ねて張った。


 これは外からの攻撃は受けないが、内側からの攻撃のみを通す特殊な結界だ。特殊故に普通の結界より術式は難易度が高いが、今から彼が挑もうとしていることには大切なことである。


「いいか、あれをやるぞ。この際時間をかけても仕方がない。一か八かだ」


 その言葉に、全員すぐにはうなずけなかった。青年もそれは承知していたようで、結界を強化しつつ、彼らの返事を待つ。


 しかし彼らに沈黙が降りたのはほんの数秒だった。彼らは一斉に顔を上げると同時にうなずいた。


 最年長の青年もうなずき、そして、全員が輪になり魔力を高める。


『我らを守りしものよ、この声に答えよ、我らの意思に答えよ。母なる大地に恵みをもたらす我らが母ルーサークラウスと、父なる天より温もりを与えられる我らが父グリースバールズの名に誓う。そして問う。我らはなぜ存在するのか、そしてなぜ生まれたのか。答えは一つなり。それぞれが生きたいと願い、そして幸せを願うからである。その思いを妨げる存在である影を祓い、そして再び平穏な日々が送れるようにすることを、重ねて誓おう。そして再び命ずる。我らの声に答えよ、『影破り《シャドウ・ブレイク》』!!』


 展開していた結界をすり抜け、いつの間にか展開されていた巨大な魔法陣が輝き始めた。


 輪になった彼らの中央には金色の輝きを放つ巨大な魔法陣があり、その周りには複数の小さな魔法陣がぐるぐると廻っている。


 それはかなり複雑な術式であり、熟練の魔術師でも解くことの出来ない、とてつもなく複雑な術式であった。


 普段詠唱が必要のない彼らでさえこのように長い詠唱をする必要がある。それは、魔力制御さえも複雑で、いかに天才的な能力を持つ彼らでも、詠唱をしなければ制御ができなかった。


 使う魔力量が多すぎるのが、一番の原因だ。


 光の速さで放たれた巨大な魔法は、魔人に直撃した。もともと浄化魔法であり、魔人と化した者を戻すことが可能となる。


 しかし威力が高い代わり、使った彼らにも反動が出る。

 傷を負っている彼らならばなおさらだ。


 体に対する負担が大きく、体力と魔力を大幅に削り、しかし確実に相手を仕留めることに成功した。


『グ…………グルオォォォォォォォォ!!』


 魔人は苦しみながら、体に纏っていた黒い魔力とともに霧散した。


 これは、魔人が絶命したのではない。浄化され、一時的に姿を保てなくなっただけである。




 それから、魔人が倒されたことは世界中に広がった。


 空の黒い雲は消え去り、この世に再び太陽の光が差し込んだ。


 若い少年少女が戦っていたことは世界中の人たちが知っていたため、彼らを英雄・勇者として讃えた。


 しかし、彼らはいつの間にか姿を消しており、現在も所在がわかっていない。






 ―――これは、人々の間で千年ほど語り継がれてきた、二十人の英雄伝である。

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