31、 双剣と魔剣付与
俺たちは今、再びギルドを訪れていた。
俺が依頼した双剣の修理が終わったと連絡が入ったからである。
ギルドマスターの部屋に入ると、早速クラードさんが出迎えてくれた。
「おう、約束通り、できたぜ。相手が魔剣なだけに結構苦労したがな………」
「ありがとうございます」
そうして俺はクラードさんから剣を受け取って、それぞれの刃の根元を確認した。
ふむ、やはりしっかりと直されている。むしろ剣身が少し綺麗に研かれてるか?
お陰で手触りが良く、滑らかになってる。
俺は剣を抜いたまま、笑顔でクラードさんに言った。
「しっかりと研かれていて………すごいです。綺麗になってます。ありがとうございます」
「………ふふっ」
隣で、なぜかカルナが笑いを堪えてる。なんだ?
まあそれはあとで聞くとして、本当にすごいな。剣身が滑らかだから、魔力が通りやすくなってる。
刃こぼれのあった根元も、何の違和感なく直っていた。
「それにしても、すごい付与がされてんな、それ。やっぱり元から魔剣だったってだけあって、いくら付与したって耐えられるくらいの素晴らしい剣だな」
「そりゃそうですよ。父さんがこれを手に入れた時に倒した魔物、災害級以上らしいですし」
「い……以上って………まあ、あいつなら有り得なくもないな」
クラードさんは感心したような呆れたような顔で、やれやれと言った。
「………そういや、あとで気がついたんだがよ、刃こぼれがあったのは白いのだけで、黒い方には刃こぼれ一つなかったぞ?なんで二つとも預けたりしたんだ?………まあ、ついでだと思って、一緒に黒いのも研いてやったんだが」
そうだ。実際に刃こぼれがあったのは白刃の方だけで、黒刃は特に何もなかった。
今クラードさんが言ったようについでではない。もちろん、ちゃんとした理由はあった。
「これは双剣ですからね。ただの双剣ならば、別に片方を預けるだけでもよかったんですが………なんせ魔剣ですから。二つを引き離してしまうと、互いが互いを求めるものですから、引き合うんです。結果、周囲の建物を壊す危険もあります。人の体を貫いてしまうこともあるから危険なんですよ。まっしぐらに俺の元に飛んできてしまいます」
「そりゃまた大変なもんだな。まあ、二つ預けた理由はわかった。だが……お前の元に飛んでいくのは、『持ち主』だからだろ?ならばなぜ、俺に預けた時はお前のところに戻らなかったんだ?二つ揃ってたって、戻ることは戻るだろ」
「魔剣が、あなたは俺から自分たちを『奪わない』とわかっていたから、大人しくしていたんですよ。意思はありませんが、人を人以上に理解しているのが魔道具なんです」
「……………………」
クラードさんは、口をあんぐりと開けて呆然としている。まあ、そりゃそうか。
魔道具が人を理解している。そんなことは世間一般には知られていない。
そもそも持ち主の元へ戻る魔道具なんて滅多にない。クラードさんは鍛治職人だからそれを知っていたが、やはり魔道具が人を理解しているなど、信じられないのだろう。
しかし事実だ。実際、俺は付与魔法による魔道具との会話に成功している。まあ、一度だけだけれど。
なんとなく『会話』の付与をかけたら、喋った。本当にただの偶然だったらしく、次の日には付与の効果が切れていた。
それだけ魔力を使うということなのだろう。その魔道具は元の付与すら使い物にならなくなっていた。
何となしに仲良くなったので、俺は今でもその魔道具は持っている。その時に聞いた魔道具のことについては、ロウには黙っていろと言われていたので、これを話すのはここにいるカルナとクラードさんが初めてだ。
もちろん信頼しているというのもあるが、クラードさんにはこういうことは話さなければ今後どう聞き出してくるのかわからないから話した。
疑問に思うことは答えがはっきりするまで追求する質だからな、この人。
それが面倒臭かったというのもあったのだ。
「………なるほど。お前…………相変わらずとんでもないことするな」
「本当に。私も初めて知ったぞ、それ」
「当たり前じゃないか。誰にも話したことないんだから」
魔道具と会話したことがあるという話をしたら、二人にはこんな反応をされた。半分呆れ顔で。
クラードさんは、もう半分は興味津々といった顔だったが。
「………まあ、成功したのも一回だけですし、使用効率をどうにかして他の魔道具と同じくらいの時間、使用できるようにしてみたいなと思ってたんですが………」
「ああ、今回の調査が入ってしまったと」
「まあ、そうです」
「………はあ、どうやったらそんな事ができるのか私にはわからない」
「別にわからなくてもいいよ。もしも俺がそれに成功したら、魔道具と会話ができる。その時はカルナも話してみろよ。意外と楽しいぞ?」
「私は結構だ!」
そう言って、カルナは頬をぷくっと膨らませてそっぽ向いてしまった。
…………本当になんなんだ?
「そりゃあ楽しみだな。その時は俺にも見せてくれな」
「ははっ、わかりました。これで断ったら何がなんでも頼み込むつもりだったんでしょ?」
「まあな」
そう言って、クラードさんは薄く笑った。
その後俺たちはギルドを後にし、一度宿に戻った。双剣に新たな付与を施すためだ。
今この魔剣に施されているのは、『魔法術・物理衝撃吸収』『魔力放出』『金属強化』『耐久力強化』『鋭化』『耐熱・耐寒』『撥水』の七つだ。
文字数が多くて普通なら効果が出にくくなるのだが、これは初めから魔道具なので、いくら付与をしても効果が薄まることはない。むしろ普通よりも効果が格段に上がり、常に最大の力を発揮する。
『物理衝撃吸収』の付与があったが、これはあくまで向こう側からの衝撃に耐えるものであって、自分から攻撃する時はこの効果が発揮されないという何ともおかしな物だ。
そのため、俺が自らこの剣で他の物に攻撃をすれば、剣は欠けることもあるのだ。
付与してある文字は、なぜか古代秀亀語だ。そのお陰で他の者が見ても何が書かれているのかわからない。
今回俺が付与をしようとしているのは、『魔力修復』。今回の刃こぼれはたまたま材料があったから直ったが、また欠けてしまっては今度は直せるかわからない。
そこで、俺が更に魔力を込めることで、散ってしまった剣身を再生させるという全く新しい付与をすることにした。
少ない魔力量でも済むように、付与に使う魔力を少し多めにすることにした。
付与というのは、最初に込める魔力量が多ければ多いほど、使用時に使う魔力の量が少なくなる。そして精度が上がる。
俺が行う魔力修復の付与は、今のような完璧な状態を記憶させ、魔力修復を行った際に、剣をすべて今の完璧な状態に戻す。
普通なら考えられない技術で、カルナになんの付与をしたか聞かれたので答えたら、目を丸くしていた。まあ、当然といえば当然な反応なのだが。
早速試すために、一旦裏庭に出た。もちろん宿主にも許可済みである。
まずは物理属性で物質形成を行い、頑丈な物質を作り出した。竜石以上の硬さがある。
まずは、収納魔法でしまっておいた鉄の剣を取り出した。これもドロップした当時から魔剣の要素を持っていたので、実験には丁度いい。
これには『鋭化』と『耐久力強化』の付与がかけられており、いたって普通の魔剣である。
ただこれは古代秀亀語ではなく共通語なので、やはり文字数が多いから少し効果が薄いというのは欠点である。だが今回は実験。魔力修復に効果もクソもない。時間が少し長くなるかそうでないかの差だけだ。
今は時間に余裕があるし、最大の効果が出る場合は一瞬だ。本番は付与効果が普通よりも格段に高まる物を使うのだ。そんなのは今は関係ない。
というわけで、早速鉄の剣に『魔力修復』の付与をかけた。
耐久強化があるとはいえ、魔法で作り出したこの金属よりも硬い物質を打ち続ければ、いつか折れる。
耐久強化だって、別に壊れないというわけではない。あくまで強化なのだから、ちょっと壊れにくくなるだけである。
付与をし終えると、今の剣の状態を念入りに調べ、自分で状態を記憶する。
そして剣を振り上げて、思いっきり物質を叩いた。
ゴッ!
鈍い音が出たな。
まあ、叩いてる物質自体、金属とはほど遠い謎の物質だからな。
さてさて、剣身はどうなってるかな、おっ、いい感じに欠けてるな。
それで魔力を流すと………おお、直る直る!
そうしてほぼ一瞬で、剣の修復が終わった。もう一度念入りに剣身を見てみたが、確かにさっきの状態に戻ってる。
それを見ていたカルナが、呆れた顔をしていた。
「………シノン、それで狙われたりでもしたら………」
「大丈夫だよ。とりあえず人避けの結界は張ってあるんだから、これを見てる人なんてお前以外にはいないさ。実際、他の魔力はすぐ近くには感じないしな。試す前に用心をするのは基本だぞ?」
なんかまたため息つかれた。なんだよ。
まあいいや。とりあえず実験は成功だな。普通の剣が大丈夫だったんだ、双剣も平気だろ。
謎の物質の方は…………売るか。要らんし。必要なら作り出せるし。適当に、魔物や魔獣からドロップしたとでも言えばギルドで買い取ってもらえるだろうしな。
「……………………」
「?どうした?」
なんかカルナに見つめられてた。なんだ?
「………シノン、その………私もそういう武器が欲しいんだけど、良いかな?」
「なんだ、そんなことか。もちろん良いよ。今度作るか」
「うん!」
そう言うと、カルナは上機嫌な様子で俺に抱きついてきた。
「じゃ、じゃあ、図書館に行こう。…………できれば早めにこの国を出たいから………」
「うん、わかった」
そうしてカルナは俺から離れ、俺は結界を解いた。そして調べ物を進めるべく図書館に向かった。
「ふぅー。あと一日くらいかかるかと思ったけど、なんか終わったな、早く」
「うん。疲れたぁー。明日はもうこの街を発つんでしょ?」
「ああ。早朝には発とうと思ってる。でないと夜には次の街にたどり着けないからな」
「そ、そんなに遠いの………?」
「もちろん、休憩を挟むと、ってことさ。じゃなきゃさすがに疲れるって」
「あそ、そう、だよね。うん…………」
さすがに街までもうすぐって所で野宿なんて俺も嫌だ。多分カルナもそうなんだろう。
図書館で調べ物をし終わった俺たちは、宿に向かい、食事と入浴を済ませた。
そして、一旦俺の部屋に集まって、それぞれ手に入れた情報を交換した。
「空の使いに関する物語を見つけなんだけど、まあ、冒険者たちが必死に彼らを守ってた………みたいな話だった。だけど、やっぱりみんなし……死ん、じゃってね………結局空の使いが何なのかはわからなかったって…………」
「なるほど………他には何かあるか?」
「うん。魔力源について」
「…………………………魔力源?」
「うん。空の使いたちが持ってるあのペンダント、一万年前にもあったんだって。あのペンダントこそが、魔力源。それのお陰で、空の使いたちは魔法が使えるらしいよ」
びっくりしたぁ。まさか書物に魔力源のことが載ってるなんて。
じゃあ、人類にも魔力源のことを知ってる人はいるのか…………まあ、俺も知ってたわけだし、不思議ではないか。
「で、その魔力はどこかにある『遺跡』から調達して、持ち主に力を分けるんだって書いてあったよ」
「なるほどな、それで………」
「…………何かわかった?」
「いや、そうじゃなくて………だな………」
「?」
カルナが不思議そうな目で俺を見てる。………正直に話すか。
「あ………あのな、魔力源のことは知ってた。今までは、これは誰にも話しちゃいけないと思ってたけど………大丈夫そうだから話すよ」
「ん?知ってたの?」
「ああ。魔力源ってのは、確かにお前の言った通り、持ち主に魔力を分け与える。一つの属性の魔力を、な」
「一つの?ってことは、空の使いたちは一つの属性魔法しか使えないのか?」
俺は無言でうなずく。
「まあ、カルナにはいつか話そうと思ってたんだけどな、魔力源の遺跡の場所、俺は大体の場所がわかる。だからそこも訪れてみようと思ってな………」
「そ、そうか………やっぱシノンには勝てないなぁ」
そうやって悔しいみたいなこと言ってるけど実際は結構嬉しそうだ。
「なんだよ、その割には結構嬉しそうじゃん」
「そりゃあ嬉しいよ…………けどね、私が見つけた情報、これだけじゃないんだよ」
「ん?まだある?」
俺は期待を込めた目でカルナを見た。
「あっ………そんなに期待されてもさ………」
「大丈夫だよ。どんなに細かくても、今はそれが大きいし、例え俺がその情報を知ってたとしても、今まで見落としていた何かに、今気づくかもしれない。ポジティブにいこうよ」
「あはは、わかったよ。で………これは、神話なんだけど………」
「ちょっと待った」
カルナの言葉を遮るように待ったを出して、俺は防音結界を張った。
「えっ?なんで防音結界?」
「神話ともなると重要だからな。俺にとっては」
「ああ………そうなのか?」
「まあいいから、話して」
「わかったよ。まず…………」
こうして、カルナは図書館で調べたという神話について語り始めた。




