30、図書館と情報屋
明けましておめでとうございます。
今年度も頑張ります!
それから俺たちは、図書館の本を物色した。
ここは街の端っこにあって、大きいくせに客が少ない。だから席も多く空いていて、読むことに集中ができそうだった。
とりあえず必要そうな物を本棚から持ってきて、調べたいものに関係しそうな題材を取り出していく。
今俺たちが調べようとしているのは、『一万年前の空の使い』と、神話について。
一万年前の空の使いについて調べるのは、旅に出た目的の一つだからだ。
当時の空の使いは十八人で、魔術の十八属性の魔法を使う、黒髪の獣人だった。
だが、空の使い達は常に何かに狙われていた。その何かがなんなのかはわかっていないが、少なくとも弱い相手ではなかった。
当時の記述には、『黒い影』と書かれており、それらは特殊な能力や魔法を使っていたそうだ。
中には魔族も混じってたとか。
今は魔族と人間はそんなに敵対心はなく、普通に世に出てきている者もいる。実際、サニーズにも魔族の団員は数人いるしな。
ただ、人間と馴れ合う気がない者は魔族の国に引きこもったままで、未だ魔王は健在だそうだ。
ただ魔族の国はどこにあるのか分かっていない。少なくとも地上にはないようだ。
地上には人間の国しかないからだ。
エルフや獣人、竜人などの亜人だけの国もあるようだが、いずれも場所は知られていない。ちなみに俺も、才を持つ子だけの国もあるのではないかと思っている。
ただ話には出てこないし、ほとんどの才を持つ子もその国の在り処は知らないだろう。
もしもそんな国があるのなら、ぜひ行ってみたいものだ。
一万年前の人類は、起こった出来事をあまり紙に残そうとはしなかった時代なので、歴史書も物語も、ほとんど残っていない。だから、当時のことについては色々と謎が多い。
それに、一万年前の記述はすべて古代秀亀語で書かれており、文字の解明は進んでいない。
百年ほど前からずっと研究してきたらしいこの文字は、翻訳魔法を用いても読めないとのこと。
だが、研修者が使っている翻訳魔法は念属性のもの。結属性の翻訳魔法を使えば、どんな文字だろうと読むことができる。
………まあ、翻訳魔法なんて使わなくとも、前に来た時に古代秀亀語の文字を全部読み書きできるようになったから俺には必要ないが。
図書館にも、『複写』を使われた古代秀亀語の本がそのまま置かれていたので早速読んでみることにした。
内容は、とある人物が書いた空の使い達の謎と正体についての考察と、空の使い達を狙っていた影たちの正体などについてが詳しく書かれていた。
読んでいくにつれて、俺の表情は少し険しくなっていった。こんなことがあり得るのかと、そんなことを思いながら。
辺りは暗くなってきて、そろそろ閉館の時間に近づいてきた頃、本を返却台に載せ、図書館から出ていった。
あの返却台は魔道具で、本を置くと自動的に元の場所に戻されるという『付与』がされている。
魔道具とは基本、付与がついている。その付与は魔力を使って文字を打ち、その効果を引き出す。文字数が多ければ多いほど難しく、しかし安値になる。
文字数や付与数は多ければ多いほど付与の効果が薄まるからだ。
魔力で文字を打って付与をつけるので、その文字には魔力がこもり半永久的に使うことができる。
魔力の量は少なくても、魔道具を使う時の魔力の消費量はわりと少ないので、魔法が使えない人でも使いこなせる。
俺も付与魔法はできるので、付与魔法師に頼まなくても済む。魔道具は高いからな。
ちなみに俺が持っている武器もすべて自分で付与をした魔道具だ。
文字数は少ない方が効果が出やすいので、古代秀亀語の『漢字』や『仮名文字』を使っている。
その方が、俺達が使っている共通語文字よりもかなり省略できるし、よく効果が出るからだ。
だからよく武器や道具を売ってくれなどと言ってくる輩もいるが、俺は即切り落とす。
あ、殺してるとかじゃないから。断るってことだからそこ勘違いしないように。
まあ、面倒なのでほとんど付与なんて使わないが。
宿に戻り、俺たちは食事をして風呂に入り、互いに図書館で調べたことの情報交換をしてからそれぞれ部屋に戻った。しかし、俺はもう一度宿の酒場に戻り、端っこに座っているある人物の、向かいの席に座った。
「酒好きは相変わらずだな」
「………おう、ロウんとこの坊主か。久しぶりだな」
そう小声で返してきたのは、情報屋のザークだ。
黒い髪に黒い目を持つ中年の男で、その鋭い目つきは武人でもないのに威圧さえ感じる。
今話しかけた言葉は、さり気なくかけたように思えるがそうではない。彼から情報を聞き出すための最低条件として、この言葉は知らなくてはならないのだ。
いわば合言葉である。
最初にかける言葉がこれでなくては、彼は情報屋としてではなく、ザーク個人としての対応となってしまう。
ここに座っているのがほとんどで、ほぼ一日中ここにいる。彼の持つ情報量はかなり豊富で、その量は世界中の情報屋の中でも上から数えた方が早いくらいの位置にいる。
彼は情報屋という職業上、誰にでも情報を分けるという対応をしなくてはならない。
つまり、誰の味方にもならない。
どんな極悪人でも、善人でも、常に自分の持つ情報を引き出す。それだけで儲かるからである。
そして彼は、裏では世界中の人が知っている。
冒険者、盗賊、護衛士、傭兵、貴族………幅広い人たちの信頼も寄せている、大物の人物であった。
「…………で?順調なのかい?世界中回ってるらしいじゃねえか」
「………ああ、その事についてと、もう一つあってな」
俺は身を乗り出し、口もとを手で隠して防音結界を張り、彼に問うた。
「…………最近ギルド間で問題になってる、空の使いについてなんだがな、どうやら十八人だけじゃ収まりそうになくてな。何かわからないか?」
「………ほう、なるほど、あと何人か増える、と?」
「………何人か、ってのはわからない。一人だけかもしれない。もしかしたら増えないってこともありえるんだ。そこで、あなたの意見が聞きたい」
ザークは情報量が豊富なだけでなく、頭の回転も速い。だから、こうして本人の意見を聞くことも、また彼の『情報』という認識である。
「………ふーむ、なるほどな。結属性ってのはあんま聞かねえが知ってるぜ。で?その結属性について知りてえのか?」
「………いや、結属性についてはだいたい知ってるから、あくまであなたの意見を述べてくれ。魔術の属性の種類は十八だが、結属性が入るとなると枠がひとつ足らない。ということは、人数が十九人になるのではないかと思ってな」
「……なるほど、お前の言いたいことはわかった。だがな、結属性と言ったら忘れちゃいけねえのは………」
ザークが言葉を切ったので、俺は銀貨を一枚出し、机に置いた。ザークは銀貨を受け取り、ポケットに突っ込んだ。
「ふむ、そうだな、結属性と言ったら忘れちゃいけねえのはな、『聖族魔法術』であることだ」
俺は目を細めた。
『聖族魔法術』。伝説に語られた、人類には使いこなすことの出来ない複雑な魔法術。
しかしこれは、記述によればとても強力な魔法らしい。人類が使う魔法とは比べ物にならないほど強力な威力を持つ聖族魔法術は、魔法とも呼べず、魔術とも呼べなかった。
なぜなら、魔法術学には必須の詠唱がないからである。そのために、魔法でもなく魔術でもなく魔『法術』と呼ばれているらしい。
聖族魔法術は全部で二十属性。かなり細かく分類されている。
一万年前から聖族魔法術についての記述は全くと言ってもいいほど残っていないが、一万年前の記述だけでも、結構詳しく書かれていたという。
俺もその本は一度読んだことがある。
詠唱をいっさい使わず、強力な魔法を放つ人たちが存在した時代があり、しかしそれは人類には使いこなすことの出来ないものだった。
使っていた人たちこそ人類ではあったが、他の人たちから見れば規格外とも言えるその力で人類を圧倒した。
それこそ、世界を征服できるのではないかと思うほどの力である。
その魔法を使えたのは二十人。驚くことに、全員が兄弟姉妹だという伝説も残っていた。
一万年前は大気中の魔素が今よりも濃く、魔物が発生しやすかった。特に災害級などは、世界中の人類から恐れられていた。
彼らは世界に貢献し、災害級の魔物が大量に発生した時は、被害をゼロに留め、すべて討伐してしまったそうだ。
それぞれがそれぞれの個性を持つ、心優しい者達だったそうだ。だが、そんな力を持っていれば当然のように、不安を持つ者は出てくるわけだ。彼らを大人数で倒してしまおうと考えた者もいたらしい。
世界征服などという恐ろしいことをされないように。
しかし、彼らには敵わなかった。聖族魔法術の使い手たちは、そんな愚かな人類たちにガッカリし、それきり姿を消してしまったという。
この強力な魔法術が聖族魔法術と呼ばれる理由は、今ではよくわかっていない。
「結属性ってのはな、その中の一つなんだが、どうやら、二十属性の中では最も術式が簡単らしい。だから、結属性の存在が知られているらしい」
「…………待て、もしかして、結属性は聖族魔法術なんだったら、まだ二人増えるってことか?」
「そういうこった」
なんてこった。今でさえすこし多すぎでは?と思うのに、更に二人増えるのか。
…………ということは、魔術の属性である虹属性はなく、代わりに残り二つの聖族魔法術の属性が来る、という事か…………。
さすがに俺はあとの二つは知らんな。
ザークに聞いてみたが…………。
「すまんな、それは俺も知らん」
と言って首を横に振った。
まあ、それについては後で調べるとして………。
もう一つ、次は例の魔道具だな。
「………ああ、それなら、魔素を放出する魔道具について聞いてきた奴がいたな………止めをもらってるんだが、どうする?」
『止め』とは、『口止め料』だ。情報屋の隠語のようなもので、ある程度高い料金をもらうことで、自分の情報を隠蔽してもらうことができる。
そして、そのある程度の料金を超える額を払えば、払った本人には無効になり、情報をもらえる。
「………いくらだ?」
「金貨十枚」
俺は躊躇うことなく、金貨十一枚を取り出し、ザークの目の前に置いた。
「………ははっ、相変わらず金には困ってないんだな」
「これくらい痛くも痒くもないさ。…………それより、誰なんだ、そいつは?」
「ああ、名前は知らないんだがな、どうやら付与魔法師らしくてな。魔素を放出する魔道具がどこかにあるかと聞いてきた。そんなものはこの世には存在しねえよって答えたら、そうか、とだけ言って、料金を払ってどっかに行っちまった」
「そいつの特徴は?」
「黒いローブを来てて、頭巾を被ってたから顔はわからん。だが、若い男だった」
「そうか…………」
俺は口止め料として、袋に詰まった金貨百枚を彼に渡した。
「………お、おい、そんなに自分のこと知られたくないのか?」
「当たり前じゃないか。今でも充分目立ってしまってるのに」
「まあ、俺は困らないから構わないけどよ、良いのか、懐は?」
「これくらい、全然平気だ。じゃあ、ありがとう。またな」
「おう、次もまた面白い情報を持ってきてくれよ」
俺は席を立ち、ザークの言葉を背にして、右手をあげることで返事をした。
その後も部屋で色々と考察を立てていた。
今日図書館で調べてわかったこと、カルナから情報交換で聞いたこと、そしてザークに聞いた話、自分の考えなどを元に、色々と可能性を考えてみた。
まず、空の使い。彼らは一体何者なのだろうか、そういった疑問が頭から離れない。
彼らに共通すること。それらをまとめてみると、
黒髪の獣人であること、空から防御結界を張って降ってきたこと、記憶がないこと、人間の匂いを纏っていること、全員が十歳くらいの子供であること、地上に落ちてくる前に夢の中で謎の女性に会っていること、魔力源を所持していること、魔力が普通よりも多いこと、そして、性格は大人しく優しいこと。
となる。
このことから、彼らは同じところから来たということがわかる。しかし、どこから来たのか?なぜこんなにも共通点があるのか?なぜ彼らには魔法が使えるのか?
と、そういった疑問も出てくる。
空、魔力源、黒髪の獣人、人間の匂い、謎の女性…………こりゃ、文献を調べてるだけじゃ何もわかりそうにないな。
もちろん旅をしていく上で自分でいろいろと確かめることを怠るつもりはない。
しかし、疑問が多く残っている今では、とにかく仮説を立ててそれを確証へと導いていくしかない。
それともう一つ、迷宮区の増加について。これは団長に連絡して、ギルドの方で調査してもらおう。クラードには伝えたからすでに連絡が入ってるかもしれないけど、細かい情報については定期報告も兼ねて伝えておこうか。
翌日も、一日中図書館の本に没頭し、調べ物を勧めた。二日で図書館にある半分の本を見、読み終えてしまった。
もちろん、全ての本を読んだわけではない。数にしておよそ数十と言ったところだ。
そして更にその翌日、俺たちは再びギルドを訪れたのであった。




