29、 魔素製造機と魔剣
※竜石、魔道具等はオリジナルです。
ザン王国を出てロクシム王国を回ってから、今度は東大陸のトカラ共和国に出た。
トカラ共和国のギルドの名称はspring。ここにも二人の空の使いがおり、それぞれ薫美、頼飛という名前だった。
頼飛は男の子の名前ではあるが実は女の子だった。身なりも男の子っぽくて俺も危うく間違えるところであったが、匂いが女だと告げていた。
薫美の持っていたペンダントは、どうやら結属性らしい。
刻まれていたのは、星や小惑星などといった物だ。それに、感じる魔力も結属性の物で、他よりも込められた魔力の量が格段に多かった。その中央には、天之御中主神と呼ばれる宇宙の神が一人、そこに佇んでいた。
頼飛の持っていたペンダントは、光属性だ。天照大御神。
神々しいオーラのような光を放った女性が、足元より下の世界を眺めるようなものであり、世界に光を与えるような、そんな優しい光景だった。
ここで俺が疑問に思うのは、結属性があったというところだ。前にも言ったが、結属性は魔術の十八属性の中にはない。俺が使う強術の一つだ。
ということは、もしかしたら空の使いは十九人いるのかもしれないということが考えられる。
まだ増えるのか…………。
この調子で、ラスカ帝国、そして秀亀王国に来ていた。
ダンジル王国を出て以来見ていなかった異様な生き物たちがたくさんいて気持ち悪くなってきた…………妖怪ってやつか。
ここには以前ロウと来たことがあり、近くの街のギルドマスターとも知り合いだが、やはりこの光景には慣れない。まあ、まだ二度目だけどな。
とりあえず見えないふりで通しているが、どうも気になってしまう。早くこの国から出たいが、そうもいかない。
ここでは調べなければならないものがあるため、何日か滞在する予定である。
まずは国境付近の街、滞街へ。主に冒険者などの旅人が宿泊する、いわゆる宿場町だ。
宿屋や酒場が多く、情報が集まりやすいところでもある。
そこに到着したのは昼頃だったので、まずは昼食を済ませ、そして近くのギルドへ行ってみる。
この国には空の使いはいないらしいので、ギルドマスターから本部の団長に色々と知らせてもらうことにする。
あらかじめうちの団長には連絡を取ってもらっており、すんなりとギルドマスターのところへ通された。
ちなみにギルドマスターと団長の違いは、治めているギルドの規模だ。
ギルドマスターはその街のギルドのみの長だが、団長はその街のギルドも含めて、国のギルドの長なのである。
団長は国でも発言力のある、地位の高い存在だった。
ギルドマスターはそんな団長を支え、助言などをすることもあるのだ。
「おう、よく来たな、白の魔術師。久しぶりだな」
「その呼び方はやめてくださいよ、クラードさん」
執務室にいたのは、壮年の男だ。赤みのかかった黒い髪に髭を携え、青い目を持つ。黒い肌のところどころに皺が見え始め、筋肉のついた体は服越しでもよく分かる。
そして何より目に入るであろう彼の特徴は、低身長で先の尖った耳。
ドワーフ族である。
あまりこういった街には出てこないドワーフ族ではあるが、クラードはこの街で生まれ育ったらしい。
両親ともにドワーフだが、すでに事故で亡くしており、十の頃から冒険者になって今に至ると前に聞いた。
年齢は不詳だ。
「はははっ、まあ、そんなところで突っ立ってねえで、入れ。そいつ、紹介してくれよ」
未だ頭巾をかぶって顔を隠したままのカルナを示して、クラードは言った。
「ああ、はい」
部屋に入って扉を閉めてから、俺はカルナに頭巾をとるよう促し、紹介をした。
「クラードさん、こちらはカルナ。まあ、今は付き添いみたいなもので、同時に婚約をしています」
「初めまして」
俺が紹介をし、カルナは頭を下げた。
クラードは口をわずかに開けて、呆然としている。
「………クラードさん」
「えっ、お、おう、わるい。そ、そうか、お前ももうそんな歳か。おめでとう、頑張れよ!」
そう言って、クラードはにっと笑った。切り替え早っ。
「………は、はあ、ありがとうございます。で、カルナ。こちらはクラード=シャンデルトさん。父さんの知り合いで前にここへ来た時に知り合った。信頼のできる人だ」
「よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
「それにしても驚いたな。レイヴァのカップルなんて初めて見たぞ?」
「………それもそうですね」
俺は短く返した。俺自身がレイヴァなので、そこまで珍しいというのは今まで実感できなかったからだ。
でも、改めて言われるとそうなんだよな。俺とカルナの出会い自体、奇跡のようなものなんだし。
今となってはあの当時襲撃してきた海賊に感謝したいくらいだ。あの襲撃がなければ、俺たちはもしかしたら関係すら持てなかったかもしれないからな。
いや、どっちにしてもロウとエジルは幼馴染みだったし、関係くらいは持ってたかもしれないけれど、多分お互いの第一印象が違っただろうしな。
俺だってカルナとの今の生活の方が断然良い。もちろんロウと旅をしていてもよかったが、護衛ばかりだと正直疲れるからな。争いごととかに巻き込まれるの本当に面倒だし。
「ところで、団長に伝えてほしいことがあると聞いたが?」
「ああ、はい、それが、ここに来る途中少し気になったことがありまして。まずはそれから」
「ほう、気になったこと?」
「実は、ここに来る途中のある森の中で、妙なものを見つけましてね」
「妙なもの?」
「はい、これです」
そうして俺は、収納魔法にしまっておいたものを取り出し、クラードに渡す。
透明なガラスのケースに入った、お香のような魔道具だ。ガラスのケースの上には穴が空いており、そこから大量の魔素が吹き出していたのだ。
おかげで森の中は魔素だらけ、魔物は発生し放題、そして迷宮区になる直前だった。
森の中にいた魔物はある程度討伐しておいたので、森の中の魔素が薄まればあとは問題は無いはずだ。
これはどう見ても人造のものだし、誰かが意図的に置いたとしか考えようがないだろうな。
『魔素製造機』とでも呼ぼうか。今は俺の魔力を込めているから魔力の放出を防いでいるが、完全に壊してしまわなければ込めた魔力も尽きて再び魔素を放出するだろう。
多分、こうして自身の魔力で魔素の放出を止めていられるほどの力は魔術師にしかないだろう。
魔術師なんて滅多にいるものじゃないけどな。特に冒険者には。
完全に壊そうと思ったのだが、一応ギルドマスターに見せて、調査するなら見せてみようとも考えたのだ。
迷宮区の増加に関わる重要なことかもしれなかったからな。
未だ迷宮区の増加は絶えず、冒険者にとっては喜ばしいことであることもある。が、商人や戦闘能力のない旅人などにとってはいい迷惑だ。
そんな人たちには護衛を雇う人もいるので、冒険者や闘士にはいいことばかりなのである。
だがそれは本人達の気持ちの問題で、実際には死者も少なくはない。迷宮区とは死亡率が高い上に、魔素中毒にもなりやすいため、立ち入りできる回数や時間にも制限がある。
なぜなら魔素を体に取り込みすぎると、体にもいい影響はないからだ。魔素は最悪、人間をも魔物化させるしな。
「こりゃあ、なんだ?見たところ魔道具のようだが、俺はこんなもの見たことねえ」
道具に詳しいはずのドワーフでさえ、これが何なのかわかってないのか。まあ、魔素が外に漏れないようにしてるから無理もないか。
「魔素を作り出す物みたいですよ。今は俺が魔力を込めて抑えていますが。俺はとりあえず魔素製造機と呼んでいます」
「魔素製造機………なぁ。なるほど、これは気になるな。迷宮区の増加の原因かもしれん。団長に言っておこう」
「お願いします。それと………」
俺はクラードに頼みたいことを告げる。
「武器を修復してもらいたいんです。今使ってる俺の剣、父さんが昔倒した魔物からの戦利品を貰ったものなんです。これなんですけど………」
そうして俺は、腰に差していた二本の剣を鞘ごと外してクラードに渡す。
クラードは魔道具を机の上に置き、俺の剣を受け取った。
「………抜いても?」
「どうぞ」
そうしてクラードさんは、黒と白の剣を抜き、目を見開いた。
「こりゃ………激稀少アイテムじゃねえか…………」
ん?『激』稀少?父さんは偶然倒した魔物からって言ってたけど、そんな稀少な物を俺は貰ってしまったのか………。
まあ父さんは短槍使いだし、剣は滅多に使わんしな。価値観が違うか。なんかそれでも売るつもりはなかったみたいだし。もったいないとか言って。
「ロウのやつ、こんなもんどこで………聞いてねえか?」
「聞いてません。偶然倒した魔物からドロップしたって言ってましたし。そんなに凄いんですか?」
「すごいも何も、万年に一度と言われる伝説の剣だぞ。お前、そんなことも知らんのか?」
「『伝説級』ですか……鍛冶の知識はありませんからね。で、それ、直せそうですか?」
「ふーむ、まあ、刃こぼれはないし、どこが問題だって?」
「刃の根元ですよ。少し欠けてませんか?」
「おう、本当だ。ほんの少しだが、欠けてる。わかった、いいだろう」
これは一種の魔剣だからな。少しでも刃こぼれがあると魔力を込めても少しずつそこから魔力が漏れ出て、本来の力を発揮できなくなる。
それに刃こぼれしたところからどんどんそれが広がっていきそうだからな。
そうすると、俺もちゃんとした戦いが出来なくなるので、鍛冶の腕も最高のクラードさんのところに来たってわけだ。今のうちに直しておくに越したことはないだろう。
「だが………この剣の金属は特殊だぞ?何が使われてるのか、見ただけじゃ判別できんな………」
「えっ………?」
わからない?それじゃ直しようがないな。ドワーフですらわからないのか。まあ、それじゃしょうがないから、ロウに教えてもらったことをそのまま教えておこう。
「えっとたしか、白刃の方は白竜石とミスリル、それから真っ白な魔石が使われているそうです。それから黒刃は、黒竜石とオリハルコン、最後に真っ黒な魔石が混ぜこまれているそうです」
俺の発言に、カルナとクラードが口を開けて呆然としている。まあ、存在自体珍しいものばかりだからな。無理もないか。
「おっ、おい………竜石とか、真っ白な魔石とか、真っ黒な魔石とか………竜石だけでもかなり凄いのによ、なんだ、真っ白な魔石とか真っ黒な魔石って?聞いたことないぞ?」
「わかりません。でも、父さんがこれを手に入れた時に見た剣のデータによると、材料名はそう書いてあったそうです。手放すのもなんだかもったいない気もしたから持っていたそうですが」
平然と答える俺に、クラードは少し呆れた、というような顔をする。
竜石とは、名前に『石』とはついているが一種の金属だ。竜の特殊な魔力のこもった鉱物で、金属の中でも最上級の硬さと輝きを持っていると言われている。
竜の生息していた、もしくはしている土地でしか手に入らないし、手に入れるにも苦労するし滅多に生成されないため、かなり高価になるのだ。
まあ、たまに山に住んでる魔物が持ってて、倒したら偶然ドロップした、なんて話もある。
「………こんなの、値段なんかつけられねえな。丁寧に扱わなくちゃな。まあ、材料名さえわかりゃ…………高くなるぞ、シノン?」
「構いません。竜石とミスリル、オリハルコンと魔石は、こっちで用意してあります」
「そっ、そうか、本当に相変わらずだな。予想もしねえようなことをサラッとやっちまうんだもん、お前は」
「……………そうですか?」
「そうだよ。んじゃ、預かるな。これくらいなら多分二日くらいでできると思うから、取りに来てくれ」
「あ、はい。それと、これが素材です」
俺は必要だと思われるくらいの白竜石、黒竜石、ミスリル、オリハルコン、白と黒の魔石を取り出し、机に並べた。
「うお………本当に真っ白だ。そして真っ黒だな…………」
「ダンジョンでたまたまドロップしたんですよ。それも同時に。見たことない魔物から出てきました。あ、足りますか?」
「ああ、充分だ。…………なあ、良ければだが、余ったらこれ全部、俺に譲ってくれねえか?代金は全部要らないから」
「いいですよ。どうせ使い道なんてありませんし、中途半端に売って中途半端な金は受け取りたくありませんし」
「ふむ、そうか、ありがとう」
クラードは剣をそれぞれ鞘に収め、俺たちはギルドを出た。
宿を見つけてから、早速情報収集することにした。まずは国立の図書館からだ。
…………あ、そういえば、剣の話題があまり出ないものだからずっと気づいてなかったけれど、あの双剣、ちゃんとした名前つけてなかったな。
白刃と黒刃は道具出現した当時の名前らしく、いわば道具名だ。
それをカルナに相談してみたら…………
「え、私は白刃と黒刃でいいと思うよ?カッコイイし、それに、あれってすっごい稀少な物なら同じものはないんだから、他と被ったりしないんじゃない?」
と言われた…………。
まあ、そのうちつけてみるか。考えとこう。
やがて図書館に到着し、その大きな建物と対峙する。レンガ造りの立派な建物で、図書館と言うよりは博物館と言われる方が納得がいく。階数は三階だ。
さてと、滞在する数日間は、大量の本とにらめっこか。




