↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第2章、調査開始
28/138

28、 二人の空の使いと暗闇の神の話

「つれないねえ、良いじゃないか。やろうよ、これ」

「お断りします」


 やはり面倒になってきたので、私はシノンのもとへと早足で歩き始めた。が、腕を掴まれてすぐに止まる。


「なんでそんなに頑固かなぁ。君さ、まだ冒険者になりたてでしょ?俺たちが教えてあげるからさ、ね?」

「あなたこそなんでそんなに一人の冒険者にこだわるんですか。他にも沢山いるんだから、他を回っていただけるとありがたいんですが」

「今ここに新人がいないからだよ。新人の方が誘いやすいし。これ、人数制限あと一人足りないんだ」


 仕方なく私は、手に持たれている依頼書を見た。内容は、東の洞窟での素材採取だった。しかし、結構深いところにあるみたいだ。人数は、七人。あと一人ってことは、六人揃ってるのか。


 さすがに新人でもこれ、警戒する人はいるんじゃないか?まあ、私は依頼の内容を見なくても怪しいと思ってたけれど。


「とにかく」


 言いながら、私は男の腕に軽く電気を流して強引に離れる。

 数歩あと退って、男は腕をさすりながら私を見た。


「あなたと一緒に行く気はありません。では」


 今度は有無を言わせず走った。時間帯的に、そろそろカウンターの人数が減ってくる頃だ。


 シノンと目を合わせ、うなずくと、彼は再び頭巾を被って中に入った。


『今の男、ギルドで会ったアイツだな』


 ?今、頭にシノンの声が………?


『わるい、そのまま歩け。怪しまれる。これは『念話《テレパシー》』だ。お前にしかこの声は聞こえてないから、心の中で呟くような感覚で返事してくれ』

『わかった。それで、ギルドで会ったアイツって?』


 その前にカウンターにたどり着いたので、シノンはここの団長との面会を頼んだ。


 案内が始まると、再びシノンは言った。


『お前に、いきなり告白をしてきたアイツだよ。偽装装備なんかつけてやがった』

『偽装装備………?』

『籠手や胸当てがそうだ。偽装装備ってのは、俺たちシャラストが持つような能力を、道具が持ってるんだ。つまり、装備すれば変装できる』

『………なるほど』


 じゃあ、やっぱり私だときづいていたんだ。厄介だな。でも、男だと思ったようだけど、なんであんなにしつこかったんだろうか?


 まあ、それもあとで聞いてみるか。


『………カルナ、まだ念話は繋げてるから、呟きが俺に全部聞こえてるぞ』

『あっ、そ、そっか』


 まずい、少し声に出てしまった。隣でシノンは唇に指を当てていた。私はとっさに口を手で塞いでいたその姿勢のまま、うんうんとうなずいた。

 しかし、案内役の人には聞こえなかったのか気にしてないのかわからないが、こちらを振り向かなかった。


『詳しいことはまたあとで話そう。とにかくアイツは厄介だ。ここまで追ってきたとなると、確実にアイツはお前になにかする気だ』


 私は黙ってうなずく。


 やがて団長室の前に来ると、案内をしてくれた受付嬢は扉をノックし、訪《おとな》いを告げた。


「ん、入れ」

「失礼致します。団長、お客様です」


 奥の執務机で何かを書いていた青年はペンを置き、机に手をついて立ち上がった。

 そしてこちらを向くと、笑顔を向けて言った。


「こんにちは、サニーズの団員さん。どうぞ、入ってください。君はお茶を持ってきてくれるかい?」

「了解しました」


 受付嬢にそう言うと頭を下げて去っていった。青年はソファの前に立ち、私たちを中に入るよう促した。


 シノンの後に続いて中に入ると、今度は座るよう促されたので、そのまま座る。団長も向かいのソファに座り、改めて言った。


「では、初めまして、ギルドPlough(北斗星)団長、ルエルです。よろしくお願いします」


 銀色の髪で短髪、そして黒い目を携えた青年は頭を下げた。太くもなく細くもない、ほどよい筋肉を携えた青年だった。

 シノンは頭巾を外すと、自己紹介をした。


「初めまして、ギルドサニーズより参りました、シノンと申します。こちらはカルナ、団員ではありませんが付き添いのようなものです」


 私は頭を下げ、よろしくお願いします、とだけ言った。ルエルはシノンがレイヴァだったことに少しぎょっとしたような表情になるが、すぐに取り直して言った。


「ふむふむ、よろしくお願いします。えーっと、空の使い(クヤイ)でしたね。すぐに来ますので、少々雑談でも致しましょうか。これまで、どんなことが分かっているのか、是非、情報交換をしてみたい」

「ふむ、例えばどのような?」

「ふふっ、ならばわたしからお教えしましょう。世界で空の使いが十八人になったそうです」


 シノンは特に無反応………少なくとも驚くような仕草はしなかった。私は少し驚いて、口をわずかに開けた。


「ふふっ、カルナさんの反応からして、知らないようですね。はい、ここ数日の情報です。たしか全員が魔術の、それぞれの属性に関する彫刻が彫られたペンダントを持っているということでしたが、本当ですか?」

「はい、本当です。魔術の属性な(・)ら(・)ば(・)全部で十八ですから、恐らくはこれで全員だと思います」


 ふむ、と呟いてから、ルエルはまた話し始めた。


「それともう一つ、どこかからか空の使いの情報が漏れたようです」

「漏れた?それは、ギルド外ということですか?」


 ルエルはうなずいた。


「どうやら一般団員に空の使いのことを教えたのが間違いだったようです。ギルドの方でも警戒せねば、空の使いたちが狙われるかも知れません」

「……………貴族、か」


 シノンはしばらく何かを考え込んでいた。扉がノックされ、二人の少年少女が入ってきたことにすら気づいていない様子だった。


「…………あ、そうか、いや、それだと団員の中に…………てしまうから…………しても………し、人数が多いところなんかは………」

「あー、シノン?二人、来てるんだけど?」

「…………いや、ダメだな。そうすると今度は……………なくなってしまう。となると………………」

「はあ、すみません、この人、考え始めるといつもこうで………」

「はははっ、構いません。こういうことは、気が済むまでやらせていた方が良い結果になることがありますからね」


 私はもう一度すみません、と謝って、頭を下げた。


 もうしばらく考え込んでから、ようやく我に返り、シノンもルエルに謝ってから、自己紹介をした。


「えっ、ええと、ひ、柊花《ひな》といいます。よろしくお願いしますっ」

「冬星《ゆき》です。よろしくお願いします!」





 ペンダントを見る限り、これは、柊花の方は精霊だな。『精の魔力源』。

 透明な球《きゅう》の中には自然が細かく描かれており、それを大精霊らしき女性が包み込むように抱いているものだった。


 そして冬星の方は、物理属性だ。あらゆる物理物質が七つ、円になって、中心にある渦巻き状の何かを囲んでいる。


 …………中心のこれも物理属性魔法の一つなんだろうな。全部で七つのはずだけど、見たことも聞いたこともないがもしかするとあと一つある可能性があるな。それについても調べてみよう。


 俺がそう思ったのは、もちろんここに八個の物理効果魔法が描かれていた、ということもある。それ以外に、この魔力源は特別で、触るとその物理効果の物体が現れるという不思議なことが起こったからだ。


 それで、試しに中心の渦に触れてみたら、空気がその渦の中に吸い込まれていくようだったのですぐに手を離した。


 顎に手を当てて考えていると、あのー、という躊躇いがちな声が聞こえてきた。


「…………ん?」

「あのー、僕、金色の髪を持った女の人から、伝言をもらってるんです。シノンさんに」

「ん?ああ、例の女性か」


 話しかけてきたのは、冬星だった。冬星はうなずいて、再び口を開けた。


「“情報を手に入れたいのなら、リリーズ王国の四大公爵家を訪ねなさい”………だったかな?たしか、こんなメッセージだったと思います」

「だったと思います、ってことは、やっぱり夢の中だからか」

「すみません…………」


 冬星は少しうつむきながら言うが、俺は首を横に振る。


「いや、いいよ。それだけでも充分だ。ありがとう」


 うーむ、それにしても公爵家か。…………できれば行きたくないな、今は。色々と面倒ごとに巻き込まれて時間を食いたくないし。


 まあ必要ならば行ってみないこともないか。とりあえず礼は言っておく。公爵家を訪ねるのは、あくまで最終手段としよう。


「…………さて、もう本格的に、情報収集だけじゃどうにもならなくなってきたな」

「えっ、どういうこと?」

「ふむ、まず、空の使い(クヤイ)が多すぎる。一万年前にも同じことが起こったらしいけど、それらの文献にもたしかに十八人いた。けれど、当時の人間たちは彼らを守りきれずに空の使いは死んだらしいし、今回もそうならない可能性は極めて低い。だからこそ、ギルドをまわる上でそういった注意は呼びかけるつもりだ。…………俺の体がいつまで持つかもかわからないしな………」

「え?なんか言った?」

「いや、何も」


 最後のつぶやきは誰にも聞こえないように言ったので、カルナは不思議そうな目で俺を見ていた。


「それから、この魔力源。明らかに持ち主の魔力を削ってる。ほんの少しずつだからまったく回復しないわけじゃないし、むしろ回復は追いついてるくらいだから尽きることはないと思うけど………そのせいで回復速度が格段に小さい。だから、できるだけ魔法での戦闘は避けてほしいな。ただでさえ獣人は魔力が少ないんだ、魔力源を使ったところで、そう長くは持たないだろうしな」

「「わかりました」」

「では、武器を使わせて戦闘の訓練をさせた方がいいですね。参考にさせていただきます」

「そうしてください。できれば、扱いが簡単な剣を使った方がいいと思います」

「そのつもりです」


 そんなやり取りのあと、今度は俺が真剣な顔で質問をする。


「じゃあ、二人とも、“グリース・ダグ”って、聞き覚えはあるか?」

「ぐりーす………?」

「だぐ………ですか?」


 俺はうなずき、そのまま二人の回答を待った。


 だが、柊花と冬星は互いに顔を見合わせ、首を横に振るばかりだった。


 やっぱりか。それとなく聞いてみたけれど、あの有名な話を知らないときた。こうなると、また別の可能性が出てくるな。


 記憶をなくしているとはいえ、常識はあるし、言葉も通じる。ある程度の伝説の話も知っているという報告はあった。でも、世界中回って、この名前を聞いて知らないと答える者はいないだろう。


 もちろん、話を聞かされる前の小さな子は、首を傾げるか、きょとんとしてこちらを見つめ返すという反応をするだけだろうが。


 この話は、夜遅くまで起きているだとか、他人の嫌がることをするだとか、誰かに恨みの念を抱くだとか、そういった“悪いこと”をすると、暗闇の神(グリース・ダグ)に身体も魂も石にされてしまうというものである。


 ずっと昔から語り継がれてきたとても有名な話なのに、それを聞いても小さい子供のような反応をした二人は、明らかに何かある。


 いつの間にか来ていた茶を啜りながら、俺は更に考える。


 空の使い(クヤイ)を初めて見た時から気になってたんだけれど、一緒に混じってる人間の匂いとも関係がありそうだな。


 この世界にいる十八人の空の使い(クヤイ)全員、複雑な事情を持っているようだ。

 もともと嘘をつくのが得意ではないのだろう、記憶がないというのはどこか嘘っぽい。


 しかし特殊能力を使っても微妙に阻害されるし、言ってることが嘘かどうか判断しにくい時がある。それも、空の使い(クヤイ)に限って。


 魔力源の仕業もあるだろうが、判別しにくくできるまでの魔力はないだろうし。彼ら自身に、何かあると見て良いだろう。


 よし、じゃあ、あんまりゆっくりもしてられないな。


「あの………すみません、わかりません。ぐりーすだぐって、なんですか?」


 案の定、冬星が聞いてきた。


「昔から伝わる有名な話だ。悪いけど、俺たちは行かせてもらう。試すようなことをして申し訳なかった。ルエルさん、彼らにグリース・ダグの話をしてあげてもらえますか?」

「いいですけど、もう行かれるんですか?」


 立ち上がって言った俺の言葉に彼は即答し、そして一緒に立ち上がった。


「ええ、どうも、ゆっくりしてられないようなので」

「そうですか、ありがとうございました。また、いつでもお越しくださいね」


 ルエルが優しい笑みを浮かべたので、俺も微笑んでうなずいた。


「では、失礼します」

「失礼します」


 俺とカルナは挨拶をし、ギルドを後にした。

評価、ブクマ、ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。