運命の歯車が狂う
______アイリス・ベアーテ 19 秋
いよいよレオンと結ばれる日が来た。いつか夢見た日が今日、ついに訪れる。司祭がレオンへ問いかける。
「神に選ばれし至高なる皇帝レオンよ、汝はここにいるアイリスを、神と聖なる教会の法、そして帝国の不磨の法に従い、合法的な妃として迎えることを望むか? 汝は彼女を愛し、敬い、守り、帝国の母たる彼女の尊厳を支え、命ある限り添い遂げることを誓うか?」
「神の御名において、これを望む。」
「......!」
その瞬間、レオンの胸に浮かんでいた枯れた花が、血塗られた剣へと変化した。
そんな……どうして?レオンの運命が.....変化した?
頭が真っ白になっていく。どうしたらいいのか。
「アイリス。どうかしたか?」
レオンは、狼狽えている私に気付き、声をかけてくれた。しかし、レオンにこの事を話す事は無かった。
「いえ。何でもありません。」
「顔色が悪いぞ」
「ご心配をかけてすみません。大丈夫です。」
それから何日が経っても、頭の中はその事で一杯だった。彼の胸に浮かんでいるものを変える方法は...?それを考えるだけで1日1日が過ぎていく。
そして冬になって、ついにレオンが戦争に出向くことになってしまった。
「行かないで」
そう口にした。もしかしたらレオンは戦場で……戦場で死んでしまうかもしれない。
けれどレオンはそんな不安を拭き取るように私の頭をわしゃわしゃと撫で、言った。
「大丈夫だ、アイリス。俺は必ず帰ってくる。」
「でも……」
「信じて待っていてくれ。」
そう言われたら、何も言えない。私はレオンの背中を見送った。
戦時中は不安で仕方なかった。なによりレオンと離れている事が、苦しかった。戦報が入る度、肝が冷える。
順調だと聞くと、少し安心するが、油断はできない。戦争は何が起こるかわからないものだから。
しかし、レオンはいつも通り帰ってきた。いつも通り。もしかしたら私が見えている血塗られた剣は、何かの間違いなのではないか?そんな考えが頭をよぎった。
帰ってきたレオンにわたしは思い切り抱きついた。
「ただいま」
レオンの低く、優しい声が耳に響く。
「おかえりなさい。無事でよかった」
「当たり前だろう。俺を誰だと思ってる」
いつものレオンだ。恋しかったレオン。
私たちはまた、庭園を散歩した。今日は冬にしては暖かく、日も出ている日でとってもお散歩日和だ。
わたしはブルーのカーネーションを手に取り、エマとソフィアの髪につけてやる。
「まぁ、2人とも似合うわね」
すると今度はエマが花を取って、私の髪につけた。エマから甘い香りがする。
「王妃様もとてもお似合いですよ。お美しい…」
「ふふっ、ありがとう。なんだか甘い香りがするわね」
「花の香りだと思います。このお花、とってもいい香りがするから」
すると、エマは私をレオンの前に立たせて
「お美しいですよね、陛下?」
と訊いた。
「ああ。当たり前だろ。さすが余の妃といったところだ。」
レオンの目を見て、ふたりで笑いあった。エマの方に目をやる。私はこの時、気付いた。エマの心臓に枯れた花ではなく黒い霧がかかっていることを。




