救い
—————アイリス・ベアーテ 19 夏
レオンの母上である、マーガレット様がお亡くなりになられた。最近会った時は、枯れた花が浮かび上がっていたのに。何か運命が変わってしまったのだろうか。
死因は毒殺。だが権力の高い者の介錯により、病死として扱われた。酷い話だ。
それからレオンは様子がおかしくなっていった。
「皇后様、陛下の元へ向いますか?」
「ええ。そうするわ。」
些細な理由で、人を処刑するようになったのだ。ミスをしたから、手を抜いていたから。本来、重罪人が処される処刑を、なんの躊躇もなく、命令していく。
そんな風に変わっていくレオンを見るのは、辛かった。昔のレオンに戻って欲しい。ただ、それはレオンにとって酷な願いだろう。母親を亡くしたのだ。乱心しても仕方がない。ただ、このままの状況が続けば、国が崩壊してしまう。
どうすれば、彼を救えるだろう。私は頭を抱え座るレオンに声をかけた。
「レオン、この国が憎い気持ちはよく分かります。しかし、悪い事をしてない人まで処刑してしまうのは、違うのではないですか?」
「使えない人間はこの世に要らん。」
「レオン……!」
「何だ?」
「貴方の母上を思い出してください。」
「忘れてなどいない。」
「母上は、貴方が無闇に人を殺す事を望んでいるでしょうか?」
「……」
「貴方の母上は、貴方にどんな思いで国を託したでしょう。」
「……そうだな。きっと母上は平和で穏やかな国にしてほしいという願いを込めて俺に国を託したんだろう。」
「そうでしょう。厳しい規則を作っても構いません。貴方が暴君と呼ばれても私は何も気にせず貴方の傍にいます。でも、無闇に人を処すのは駄目です。冷静になってください。」
「冷静になれ、なんて貴方にとって酷な言葉なのは充分わかっています。しかしその上で言っているのです。」
しばらく間が置かれた後、レオンは
「……分かった。」
そう、か細い声で答えた。
今、目の前にいるレオンは、弱々しい子犬にすら見えた。血染めの帝王、怪物と恐れられている人間が、こんなにも支えが必要に見える。私はそっと、レオンを抱きしめた。
「安泰な世の中にしていきましょう。戦争は絶えません。けれど、きっといつか、平和が訪れると、私は信じています。」
「ああ。」
小さく、掠れたような声で返事をする彼を、さらに強く抱き締めた。彼は怪物などではない。人間なのだ。人間だから、ショックを受けるし、泣きたくなる事もある。心がある。
それからレオンは、無闇に人を処刑することは無くなった。勿論、重罪を犯した者は処刑されたが、処刑三昧だった時には比べ物にならない程、処刑される人間は減っていった。民も臣下も暴君が大人しくなった、と騒いでいた。




