乱心
皇后が逝去し、宮殿内は忙しくなった。なんでも自死だったそうで、慌ただしく葬儀が行われた。
3ヶ月後、勝負に勝ってからは嘘みたいな幸せが続いた。母上もいて、アイリスもいる。そしていずれアイリスを娶ることもできる。
しかしその幸せは当たり前では無い。当たり前でないからこそ幸せだと実感できるのだ。幸せは思った以上に脆かった。迫っていたのだ。不吉な何かが。
皇后の立て続けに母上が死んだ。原因は毒だったそうだ。だか、政治的に友好関係を築かなければいけない家の妃の仕業だそうで、その女が処刑されることは無かった。あんなに穏やかに笑っていた母上が、いとも簡単に死んでしまった。俺は皇帝である父を憎んだ。政治的な友好関係など関係ない。妻が殺されたのだ。なぜ見て見ぬふりをする?
母上は、俺に優しさや暖かさを与えてくれていた。そう、こんなクソみたいな国で幼い頃から母親だけが光だった。
幼い頃から母上にはずっと言われてきた。
「いい?レオン。誰になんと言われようと、剣術を磨き続けるのよ。貴方にはその才能がある。」
「どうして?」
「いずれ大切にしたいと思う子ができた時、その子を守れるように、強くなるのよ。そして、今まで悪口を言ってきた奴を実力で見返してやりなさい。」
母上。大切にしたい思う人が出来たから。だから一生かけて、守るよ。
この国はクソだ。皇帝になったらアイリス以外全員殺してやろうか?俺はいずれ皇帝になる。やろうと思えばできる。国を破滅させる暴君になってやろうか。そんな黒い感情が渦巻いていた。
アイリスはそんな俺を癒してくれた。
「裁かれないなんて、なんて酷いことなのでしょう。」
「権力のある妃の仕業だったから、父上も庇うしかないんだろう。権力は嫌いだ」
権力は嫌いだ。それがあれば何でも揉み消せるしやりたい放題。人になんでも命令できる。横暴で、傲慢なもの。
「レオン。私はずっと傍にいますから」
「ありがとう。お前がいてくれれば、それでいい。」
アイリスの膝の上に頭を預ける。アイリスは頭を梳くように撫でてくれていた。しばらくすると、その心地良さに眠ってしまった。
しかし壊れた心は簡単には戻らなかった。
1年後の夏。ついに、皇帝である父が逝去し、俺がこの国の皇帝となった。もちろん批判は絶えず、謀反も多々起きた。しかし、俺はそれを武力で全て制圧してきた。今日も、宮廷会議が執われる。俺は、全ての臣下の意見を無視し、母上を殺した妃を処刑した。そして、それに関わっていた使用人、権力に目が眩み隠蔽に関わった人間も、全て処刑した。
それから俺は、殺戮を繰り返した。
戦場に赴いては、人を斬り、斬り、斬りまくり、宮廷会議では使えない人間を片っ端から処刑した。俺が1番嫌いだったはずの権力を、俺が1番行使している。
やがて俺は、血染めの帝王と呼ばれるようになっていた。
そんな俺を、アイリスは不安げに見ていた。
「レオン、この国が憎い気持ちはよく分かります。でも、悪い事をしてない人まで処刑してしまうのは、違うのではないですか?」
「使えない人間はこの世に要らん。」
「レオン……!」
アイリスは悲しそうな声で俺の名前を呼んだ。
「何だ?」
「貴方の母上を思い出してください。」
思い出す以前に、あの日から母上を忘れたことはない。
「忘れてなどいない。」
あの日から、忘れた事などなかった。
「母上は、貴方が無闇に人を殺す事を望んでいるでしょうか?」
「……」
望んでいるわけがない。母上はきっと、俺が平和な国を築く事を望んでいたはずだ。
「貴方の母上は、貴方にどんな思いで国を託したでしょう。」
「……そうだな。きっと母上は平和で穏やかな国にしてほしいという願いを込めて俺に国を託したんだろう。」
「そうでしょう。厳しい規則を作っても構いません。貴方が暴君と呼ばれても私は何も気にせず貴方の傍にいます。でも、無闇に人を処すのは駄目です。冷静になってください。」
「冷静になれ、なんて貴方にとって酷な言葉なのは充分わかっています。しかしその上で言っているのです。」
アイリスはいつも正しかった。俺が乱心しても、落ち込んでもいつも導いてくれる。そんな光のような存在だった。
「……分かった。」
俺はそう返事をした。




