強い者が頂点に立つ
———————レオン・ドナート 19 冬
「俺が、皇帝になって、お前を娶る。」
なんの根拠もなかった。ただ、絶対に皇帝になってやるという意思は固かった。皇帝になって、今まで見下してきた奴らを見返し、好きな女を娶る。アイリスが泣くのは、もう見たくなかった。
「……お待ちしております、レオン様。」
涙を拭って、しばらく見つめ合った。そして目線が唇に移り、また目が合う。アイリスが目を閉じたのを合図に、そっと触れるようなキスをした。
待っていろ。必ずお前を幸せにしてやるから。
それからは、ずっと剣術の鍛錬に勤しんでいた。自分には権力がない。それならば実力で権力を勝ち取るしかない。
毎日毎日、鍛錬を繰り返していた。
辛くて心が折れそうな時もあった。そんな日は、アイリスに助けられた。「頑張れ」とガッツポーズをしながら口パクで真剣に伝えてくるアイリス。なんだかそれが面白くて、笑ってしまった。不思議な事にそれだけで辛さが吹き飛んだのだ。思えばいつも、そんなアイリスの健気さに助けられていた。
そしてついに今日は、運命が決まる日。皇帝、つまり父親は持病を患っていた。先が長くない。そのため、次期皇帝を決めようと王族全員を招集した。
息子であるのは、嫡男であるルシアンと側室の子である俺だけ。
父は言った。どちらか強い者を皇帝とする、と。
辺りがざわついた。
「跡継ぎは正室の子のルシアンでは?」
「歴代そうだったはずだ。」
「忌み子が皇帝になるかもしれないだと?そんなの許されるか!」
「まあまあ、どうせ勝つのはルシアンだ。大人しく見ていよう」
ルシアンが前に出てくる。剣を構えて。
「手加減はしないからな」
俺はルシアンに向けて宣戦布告をした。
「上等です」
そして戦いが始まった。張り詰めた空気が漂う。
先に動いたのはルシアンだった。地面を蹴り、一気に間合いを詰める。
そして、剣が振り下ろされる。俺は身体を横へ滑らせ、その刃を紙一重でかわした。
速い。幼い頃から何度も手合わせしてきたが、今日のルシアンは今までとは違った。
息をつく暇もなく剣が迫ってくる。
「どうしました!」
ルシアンが叫ぶ。
「避けてばかりでは、勝てませんよ!」
「ずいぶん余裕だな!」
剣を弾く。甲高い音が響いた。
様子を見ようと、互いに一歩退く。
そして、ほとんど同時に踏み込んだ。剣と剣が激しくぶつかる。
腕に痺れが走った。重い。一つ一つの攻撃が重かった。
「……強くなったな」
「あなたに勝つためです」
ルシアンは即答した。その目には、負けたくないという意志が宿っていた。
「なら、俺も負けるわけにはいかないな」
再び剣を交える。今度は俺から攻めた。
ルシアンはそれを必死に受けている。今は俺が優勢だ。
————————俺が皇帝になって、お前を娶る
そう、言った。約束した。絶対に負けるわけにはいかない。
ルシアンは一撃ごとに後ろへ追いやられていく。それでも倒れない。それでも退かない。
「……!」
ルシアンが剣を振り抜く。俺はそれを受け止めた。
互いの剣が激しく押し合う。額から汗が落ちる。
俺は力を込めた。剣が弾かれる。ルシアンの身体が僅かに揺らいだ。
その一瞬を、俺は見逃さなかった。一気に踏み込む。
剣先を翻し、ルシアンの剣を弾き飛ばす。乾いた音を立てて、剣が地面へ落ちた。気づけば、俺の剣先はルシアンの喉元で止まっていた。
静寂が落ちる。
「……俺の勝ちだ」
ルシアンはしばらく黙っていた。やがて、ゆっくりと息を吐く。
「……完敗ですね」
俺は、剣を振い、ルシアンに告げた。
「強い者が頂点に立つ。」
そのときの俺は、知らなかった。この勝敗が、俺たちの人生を大きく変えることになるなど。




