嫉妬
_______レオン・ドナート 22 秋
俺は怒りに支配され、アイリスの元に赴いた。
「レオン?......会議ではなかったのですか?どうかなさいましたか?」
「アイリス。......今まで何をしていた?」
怒りを抑えようとすると、声が震える。拳を握って、冷静になろうと、頭を落ち着かせた。
「庭園を散歩しておりました。」
散歩?本当か?本当に....散歩だけか?
「それだけか?」
「……ルシアン殿下とお会いしました。庭園でお見かけして、少しお話を。」
それを聞いて少しだけ安堵してしまった。俺にその事を隠さなかった。だからやはり俺の頭を過ぎったような関係では無いのだろうか。しかし2人きりというのが引っかかる。何故侍女を連れていないのか。あんなにも信頼を置いている侍女を。
「少し、話。……2人きりで?」
駄目だ。冷静になれ。決めつけてはいけない。頭では分かっている。けど口からは思った事が溢れ出てしまう。
「俺が会議に追われている間に、お前は庭園であの男と何をしていた?笑っていたそうだな?随分と楽しそうに」
「俺の皇后が、俺以外の男の前で笑う。……それが何を意味するか、分かっているのか?」
認めたくはないが、ただの醜い嫉妬だった。二人が笑いあっていると聞いてその光景を想像してしまった。胸が死ぬほど苦しかった。だから理性を失ってしまった。冷静に考えていれば、何か違ったかもしれないのに。
「……大切な配下を亡くされたルシアン殿下を思案しての事です。他意はございません。どうか、お許しください。」
そうだろうな。お前は優しい。だから、慰めようとしただけなのかもしれない。でもルシアンの方はどうだ?俺に皇位を奪われ、母親までも失った。失ったものを全て奪い返そうとしているに違いない。そう、俺の大切なものを全て奪う気なのだ。アイリスも。全て。
「はっ。大切な配下?そんな訳が無いだろう。あの男が自分の配下を殺すよう命じたに違いない。」
分かってくれ。あの男はそんな紳士な男では無い。皆騙されている。笑顔の裏に隠された闇がある。
「...どうしてそんな事を仰られるのですか...?そんな風には思えません。」
それを聞いて、我慢できず、言葉にしてしまった。
「庇うのか。あの男を」
「俺よりも、あの男を信じるのか?」
アイリスの顎を掴んだ。ただ、俺の言葉を信じないアイリスへの当てつけだった。
「そうではありません。ただ…私は、ルシアン殿下の事をよく存じ上げません。それなのに、悪く言うのは…筋違いだと思っただけです。庇っているのではありません」
「.........そうか。なら何故庭園を歩く時侍女を傍に置かなかった?」
「......1人になりたかったのです。」
何故?何かあったのなら俺を頼ればいいだろう。その言葉が喉まで出かかったが、飲み込んでしまった。
顎を掴む手が震えた。怒りではない。恐怖だ。暴君と呼ばれる俺がたった1つだけ恐れるもの。それは、アイリスを失うこと。
「1人になりたかった?」
「あの男と密会するために侍女を外したんだろう。違うか?」
違うと言ってくれ、頼む。頼むから。お前の口から違うと言ってくれ。
アイリスの顎から手を離し、俺は一歩下がった。嫉妬に毒された男は何をするか分からない。
「なあ、陽愛。俺はお前を信じている。信じているとも」
「だがあの男は信じていない。だから証明してくれ」
指を鳴らした。回廊の奥から、ブレイズ隊の兵士が2人現れた。疑いがあるならアイリスを監禁してしまえばいい。そして、その後のルシアンの動向を見る。
俺はルシアンに対する劣情に支配されてしまった。
「…これは、一体……」
「少し大人しくしていろ。直ぐに分かることだ。」
アイリスはブレイズ隊に連れられ、地下牢へと入れられる。しかし護衛は傍には置かない。ルシアンを誘き寄せるように。食事を置き、すぐに去っていくよう命令した。
ブレイズ隊幹部であるアーサーのここ数週間の報告の内容はこうだ。
皇后アイリスは地下牢にてルシアンと密会を繰り返している。夜になるとルシアンが会いに来て、親密な様子で言葉を交わしている。と俺の前に膝をついて涙ながらに証言した。
「陛下……お二方は……その、ただならぬ関係かと……」
玉座に座ったまま、アーサーの報告を聞いていた。この数週間、まともに眠れていない。鏡を見ると、瞳の下には隈が刻まれ、髪が乱れている。
「……そうか」
呟いた。声は掠れていた。
そしてその日の夜。俺は玉座から立ち上がった。傍らにブレイズ隊を数人連れ、地下牢へと降りていく。その足取りに迷いはなかった。
しかしその場には誰もいなかった。近くにアーサーの姿も見当たらない。アイリスがここから出られるはずがない。まさか。
「アーサーが寝返ったか。」
アーサーがルシアン側に寝返ったのなら、納得が行く。急いで捜索を始めた。
しかし、どこを捜索しても、時間がどれだけ経ってもアイリスの姿は見当たらない。
「どこにいる、アイリス。」




