不吉な予感
————————レオン・ドナート 22秋
なんとなく、不吉な予感がした。
そして、その不吉な予感は当たっていた。回廊の角を曲がった瞬間、足を止める。前方に、一人の侍女が倒れている。宮殿の侍女だ。侍女はぴくりとも動かなかった。
アイリスを背に庇うように、一歩前に出た。
「……アイリス、下がれ」
倒れた侍女の首筋に、小さな針が一本刺さっていた。恐らくそれは毒針。
「随分舐めた真似をしてくれるな」
「毒針…。これは内部の人間の犯行でしょうか…。」
アイリスは亡骸となった侍女に近づき、そっと目を閉ざしてやる。そして額に手を当てて
「......可哀想に。」
と悲しそうな顔で呟いた。
「その者の葬儀は手厚く執り行うとしよう。」
その時、回廊の闇から複数の足音が響いた。松明の光が揺れている。
黒い甲冑に身を包んだ男、皇帝直属の隊、ブレイズ隊隊長のルカだ。
「陛下。異変を察知し参上いたしました。既に、同様の手口の死体が三つ見つかっております。」
三体、同時に。計画的な犯行だ。単なる嫌がらせではない。
「犯人の目星は?」
「未だ割り出せていません。しかし、殺された者達には共通点があります。」
「何だ?」
「それが、全員ルシアン殿下に仕えている者でした。」
「何だと?」
「ルシアン殿下の所の者たちが?」
アイリスも困惑した顔で尋ねる。
訳が分からなかった。ルシアンに対する嫌がらせか?脅しか?あの、ルシアンを恨む者がいるのか?
とても想像がつかない。皆に慕われている男だ。
その後、国民や兵士の間では、ルシアンの命が狙われているのではないかと噂になる。
噂が噂を呼んで、どんどん酷くなっていった。
「皇帝が、ルシアンを暗殺しようとしたのでは」
「正室の子であるルシアン殿下が憎かったのではないか」
ついにその矛先は皇帝である俺に向いたのだ。紳士で穏やかな銀の貴公子とも呼ばれる人間を暗殺しようなど、なんと残酷な者だと。一度浮き出た噂は止まらなかった。




